【別紙】日本交通(労評)事件(令和3年不第57号事件)命令書交付について
1 当事者の概要
⑴ 申立人組合は、一人でも加入できる労働組合であるZ1の分会であり、分会長であるXを中心として令和2年6月14日付けで結成され、同月24日付けで本社に結成通知を送付した。
本件結審時点において、公然化している組合員は、分会長のX及び本社の子会社であるY1に在籍している1名の合計2名である。
⑵ 被申立人日本交通株式会社(本社)は、ハイヤー及びタクシーの一般乗用旅客自動車運送事業を主たる事業とする株式会社であり、三鷹営業所を含む7つの営業所を有しており、それら個々の営業所の運営管理を行う三鷹第一営業所及び三鷹第二営業所といった株式会社(以下「営業所会社」ということがある。)14社や、Y1等の子会社・関連会社を含めて日本交通グループを組織している。
⑶ 被申立人日本交通株式会社(三鷹第一営業所)は、本社による組織再編の一環として本社の三鷹営業所を法人化することで平成18年2月2日に設立された、日本交通株式会社三鷹営業所を前身とする株式会社であり、30年12月26日まで、本社の代表取締役(当時)が代表取締役を兼任していた。
⑷ 被申立人日本交通株式会社(三鷹第二営業所)は、三鷹第一営業所の分社化に伴い、28年9月30日に設立された株式会社であり、三鷹第一営業所と同様に、30年12月26日まで、本社の代表取締役(当時)が代表取締役を兼任していた。
2 事件の概要
被申立人日本交通株式会社(以下「本社」ということがある。)は、平成18年以降会社の組織再編を行い、同年、本社の三鷹営業所を法人化する形で被申立人日本交通株式会社(以下「三鷹第一営業所」ということがある。)を設立し、さらに、28年には、被申立人日本交通株式会社(以下「三鷹第二営業所」ということがあり、三鷹第一営業所と三鷹第二営業所とを併せて「三鷹営業所」ということがある。)を設立した。
Xは、20年8月14日付けで三鷹第一営業所との間で雇用契約を締結した後、Z2、Z3の組合員を経て、令和2年6月14日には自身を分会長とする申立人日本労働評議会日本交通分会(以下「組合」という。)を結成した。
6月24日、組合は、本社に対し、三鷹営業所内における掲示板貸与等を含む要求の申入れ(以下「本件貸与要求」という。)を行い、同日以降、複数回にわたり三鷹営業所との間で団体交渉を行ったが、三鷹営業所は、会社として掲示物を掲示する必要性や他の労働組合からの反対を理由として、本件貸与要求に応ずることはできないとの対応に終始したため、組合は、3年8月13日付けで本件申立てを行った。
10月25日、三鷹営業所は、組合に対し、三鷹営業所2階の男子浴室入口付近の掲示板の一部であれば貸与可能である旨の通知をした。
12月30日、組合が、三鷹営業所に対し、掲示板貸与を希望する場所について第一希望から第三希望までの場所を通知したところ、4年2月1日、三鷹営業所は、組合に対し、掲示板の貸与に当たって「掲示物の利用に関する合意書」(以下「本件合意書案」という。)を締結することを条件に、第三希望の場所に掲示板貸与を認める旨の回答を行った。
以降、組合と三鷹営業所とは、団体交渉等において、主として本件合意書案の検討及び調整を行ったが、妥結には至らなかった。
本件は、⑴三鷹営業所が、?本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったこと、?3年10月25日に、男子浴室入口付近を掲示板のスペースとして提示したこと、?4年2月1日に、掲示板の貸与に当たって本件合意書案を締結することを条件としたことが、それぞれ組合の運営に対する支配介入に当たるか、⑵本社は、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たるか、本社が、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たる場合、本社が本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか、が争われた事案である。
3 主文の要旨 <一部救済>
⑴ 文書交付(要旨:三鷹営業所が、?本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったこと。今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。)
⑵ 前項の履行報告
⑶ その余の申立てを棄却する。
4 判断の要旨
⑴ 三鷹営業所が、本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるかについて
三鷹営業所内には、3つの労働組合が併存する状況であるところ、昭和47年に結成し、三鷹営業所内における乗務員の約90パーセントを組織するZ2及び昭和21年に結成し、三鷹営業所内における乗務員の約4パーセントを組織するZ3と、本件貸与要求の直前に当たる令和2年6月に結成し、三鷹営業所における乗務員597名中1名のみで組織する組合とは、組織力、交渉力や労使関係の集積状況を大きく異にするものであり、三鷹営業所が上記各労働組合に対して掲示板貸与を行っているとしても、そのことから、直ちに組合に対しても掲示板貸与が認められるべきであるとまではいえない。
また、三鷹営業所は、上記各労働組合に対して掲示板貸与を認めているのであるから、組合に対する掲示板貸与を検討するに当たって、三鷹営業所が、上記各労働組合に対して貸与している掲示板の一部を提供するよう求め、協議を行うこと自体には特段の問題はない。
しかしながら、組合に対する掲示板貸与の方法として上記各労働組合に対して貸与している掲示板の一部の提供を受けること以外の対応が考えられるのであれば、上記各労働組合が反対しているとの一事をもって、他の労働組合と取扱いを異にし、組合に対してのみ掲示板貸与を認めないことについて合理的な理由があると直ちに認めることはできない。
この点、組合が本件貸与要求を行った2年6月24日時点の三鷹営業所内における会社掲示板の利用状況は必ずしも明らかではないが、本件貸与要求から約2か月が経過した8月20日時点において、同営業所2階の会社掲示板には掲示物がほとんど存在していなかったものであり、少なくとも同日時点において、三鷹営業所内には、使用していない掲示板のスペースが存在していたことが認められる。
加えて、8月22日時点で、三鷹営業所2階の会社掲示板には掲示物が多数掲示されていたところ、かかる掲示物は、9月から運用を開始する業務用の新しいアプリに関するものであるものの、掲示した文書自体は掲示に先立って乗務員に配布していたものであり、同時期においてあえて新たに掲示を行う必要性が高いものであったとはいえないこと、同時期に、同掲示板には、平成17年4月1日から18年3月31日にかけて行われた首都高速道路湾岸線における割引実施に関する文書など、既に掲示物を通じて告知するべき必要性の認め難い掲示物も掲示されていたことが認められる。
他方で、上記各労働組合が三鷹営業所内における掲示板貸与を認められるに至った経緯の詳細は明らかではないものの、それぞれ相当程度の労使交渉を経たものであり、かつ、相当程度長期間にわたり継続して認められてきたものであると推認できることに加えて、上記各労働組合も当初から掲示板提供に対して反対意見を述べていたこと、組合の分会長であるXは、上記各労働組合の組合員を経て組合を結成していること、三鷹営業所が上記各労働組合に貸与している掲示板の一部を提供するよう求め、協議を行った時期には、当委員会に不当労働行為救済申立事件が係属しており、少なくともZ3と三鷹営業所との間では労使間の対立状況が相当程度先鋭化していたものと推認できること等の事情を併せて考慮すると、三鷹営業所が、上記各労働組合に対して、貸与している掲示板の一部を提供するよう求めたとしても、上記各労働組合が容易にこれに応じるものではないことは想像に難くないといえ、三鷹営業所としては、組合からの本件貸与要求に対して、上記各労働組合から反対意見を受けた時点において、早急に会社掲示板の一部を組合に提供することや、既存の掲示板が設置されている場所以外における掲示板設置の可否等を検討するべきであったといえる。
それにもかかわらず、三鷹営業所は、組合から本件貸与要求を受けて以降、組合に対して提供可能な掲示板のスペースについて、Z2及びZ3からの反対を理由としていたずらに時間を浪費する一方で、会社掲示板の一部を提供することや、既存の掲示板が設置されている場所以外における掲示板設置の可否等について真摯に検討を行った形跡はみられず、かえって、掲示物がほとんど存在していなかった会社掲示板にあえて新たに掲示を行う必要性が高くない文書の掲示を行うなど、本件貸与要求に応じられない外観を殊更に作出するような行動に出ていたものとみざるを得ない。
これらの事情からすると、三鷹営業所が、同営業所内において、Z2及びZ3に対しては比較的大きな面積の掲示板の貸与を認めている一方で、組合に対しては、本件貸与要求を受けて以降、本件申立時まで、A4用紙4枚程度という小さな面積の掲示板の貸与すら認めなかったことについて、合理的な理由があったものと認めることはできない。
その他、Xの組合結成前後の活動状況等を踏まえると、三鷹営業所が同人及び組合に対して相応の警戒感を抱いていたものと推認できること等の事情も併せて考慮すると、三鷹営業所が、本件申立時までに組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の活動力を低下させ、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものといわざるをえない。
よって、三鷹営業所が、本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるものといえる。
⑵ 三鷹営業所が、令和3年10月25日に、男子浴室入口付近を掲示板のスペースとして提示したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるかについて
三鷹営業所は、本件貸与要求を受けて以降、継続的にZ2及びZ3との間で、組合に対して掲示板貸与を行うためのスペースの提供を巡り協議を行っていたものと推認できるところ、かかる協議の詳細は不明であるが、結果として、Z2から、男子浴室入口付近の掲示板の一部を組合に提供することにつき同意を得たことから、組合に対し、同掲示板を組合掲示板のスペースとして提示したことが認められる。
組合は、三鷹営業所が、掲示板貸与場所として上記場所を提示した行為は、閲覧者の少ない掲示板を提供することで組合の組織拡大を妨害し、組織を弱体化する意図による支配介入行為である旨を主張するようである。
確かに、男子浴室入口付近の掲示板は、性質上必ずしも多くの従業員が掲示物を閲覧するものであるとはいい難く、Z2も三鷹営業所との協議を踏まえて、同支部が貸与を受けている掲示板のうち、比較的利便性の低いものを提供したものであると考えるのが相当である。
しかしながら、男子浴室入口付近の掲示板は、利便性に多少の問題があるとしても、Z2が長期にわたり利用してきた場所であると推認できるとともに、実際に、上記掲示板には掲示物が掲示されていたことからすれば、掲示板としての機能に顕著な支障があるとまではいえない。
加えて、組合は、後に掲示板貸与場所の希望について、男子浴室入口付近の掲示板に近接する「男子更衣室入口の横」を第一希望、「2階会議室入口の横」を第三希望として三鷹営業所に提案しているところ、三鷹営業所が提示した男子浴室入口付近の掲示板と「男子更衣室入口の横」及び「2階会議室入口の横」の掲示板との機能の比較において顕著な差異があるとまでは認められないこと、組合と三鷹営業所との掲示板貸与を巡る一連の労使交渉の経過をみる限り、三鷹営業所が、掲示板貸与場所として男子浴室入口付近の掲示板を提示して以降、同場所に固執する姿勢を示したことを窺わせる疎明はなく、むしろ、組合は、三鷹営業所が組合に対して掲示板貸与場所として男子浴室入口付近の掲示板を提示した時期と比較的近接した時期に掲示板貸与場所の希望を提示し、以降三鷹営業所との間で掲示板貸与場所について協議を継続していたものであるから、三鷹営業所が掲示板貸与場所として男子浴室付近の掲示板を提示したことは、具体的な掲示板貸与場所を巡る労使交渉の契機にすぎないとみるのが相当であること等の事情を併せて考慮すると、組合の主張を採用することはできず、前記の判断のとおり、三鷹営業所が、本件申立時までに組合の掲示板貸与要求に応じなかったことが、組合の運営に対する支配介入に当たるとしても、三鷹営業所が、3年10月25日に、男子浴室入口付近を掲示板のスペースとして提示したことが、組合の運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。
⑶ 三鷹営業所が、4年2月1日に、掲示板の貸与に当たって本件合意書案を締結することを条件としたことは、組合の運営に対する支配介入に当たるかについて
三鷹営業所は、Z2及びZ3との間でも、掲示板貸与に当たって労働協約を締結していた旨を主張するようであるが、三鷹営業所は、本件審査手続において上記各労働組合との間で締結していたとする労働協約を提出しておらず、その他、三鷹営業所が上記各労働組合との間で掲示板貸与に当たって労働協約を締結していたことを裏付ける疎明はない。
もっとも、一般に、使用者が労働組合に対して便宜供与を行う場合に、労働組合との間で、便宜供与を行う上でのルールを定めた合意書の締結を求めること自体は格別不自然なものではなく、本件においても、本件合意書案の内容のうち、組合と三鷹営業所との間で懸案となっていた条項は、主に掲示物の撤去を巡るものであるところ、かかる条項を含め、本件合意書案自体には一定の合理性、相当性が認められる。
また、組合は、三鷹営業所から本件合意書案の提示を受けて、掲示板貸与に当たって本件合意書案を締結することにつき反対意見を述べることなく、本件合意書案について三鷹営業所との間で複数の修正案を作成、検討しながら複数回交渉を行っており、労使間において掲示板貸与について合意を模索する中で、三鷹営業所が合意書に反する掲示物を撤去する際の手続に関し、撤去に先立って労使間の協議が行われることなどが明確になりつつあったものと評価できること、結果として組合と三鷹営業所との間では、掲示板貸与に当たって合意書を締結するには至らなかったものの、本件合意書案を巡る労使交渉の経過をみる限り、三鷹営業所は組合からの修正案を受け入れるなどの対応を取っており、本件合意書案に固執していたとまでは認められないこと、組合が、三鷹営業所の関連会社(子会社)であるY1との間で、本件合意書案とほぼ同じ内容の合意書を締結していること、組合と上記各労働組合との間では、組織力、交渉力や労使関係の集積状況が大きく異なること等の事情を考慮すれば、掲示板貸与を巡り、三鷹営業所が、仮に上記各労働組合に対しては労働協約を締結することなく掲示板貸与を認めていたとしても、組合と上記各労働組合との間で取扱いを異にしたことに合理的な理由がないとまではいえない。
その他、三鷹営業所が、同日に、掲示板の貸与に当たって掲示物の利用に関する合意書を締結することを条件としたことが、組合弱体化を企図したものであるとする事情も認められないことからすれば、三鷹営業所が、4年2月1日に、掲示板の貸与に当たって掲示物の利用に関する合意書を締結することを条件としたことは、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。
⑷ 本社は、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たるか、本社が、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者に当たる場合、本社が本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか
本件において、組合は、本社に対し、本件貸与要求を行っていたところ、本社は本件申立時までに、組合の掲示板貸与要求に応じていない。
この点、組合への掲示板貸与に関する組合と三鷹営業所との団体交渉に本社の社員や顧問弁護士が出席していたことが認められるものの、本件合意書案の検討の段階の団体交渉は、組合分会長と三鷹営業所の次長との間で行われていたこと、本件合意書案の締結当事者は組合及び三鷹営業所となっていたことからは、少なくとも三鷹営業所における組合への掲示板貸与の可否については、三鷹営業所が単独で決定できるものであったとみるのが相当であり、本件において、本社は、三鷹営業所内の掲示板貸与について、Xの雇用主である三鷹営業所と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとまでは認められない。
よって、本社は、三鷹営業所内の掲示板貸与について、組合の組合員との関係で労働組合法上の使用者には当たらないことから、その余の争点については判断を要しない。
5 命令書交付の経過
⑴ 申立年月日 令和3年8月13日
⑵ 公益委員会議の合議 令和6年3月19日
⑶ 命令書交付日 令和6年4月30日