【別紙】T事件(令和4年不第39号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

 ⑴ 申立人組合は、業種を問わず東京都の三多摩地区を中心とする企業に雇用される労働者で構成される、いわゆる合同労組であり、本件申立時における組合員数は約200名であった。

なお、X2は、協会における唯一の組合員であり、また、4年3月末日時点で68歳に達していた。

⑵ 被申立人協会は、公園運営、霊園運営等の公益目的事業や売店、スポーツランド等の収益事業を展開する公益財団法人であり、3年4月1日時点における協会全体の職員数は、1,603名(うち臨時職員は1,005名)、Y2の職員数は28名(うち臨時職員は17名)であった。

なお、協会における臨時職員とは、業務運営上の必要に応じて臨時的に期間を定めて雇用された職員を指し、臨時職員就業規則上、契約更新の条件として雇用期間初日における年度末において68歳以下であることが含まれている。

2 事件の概要

X2は、平成30年4月15日付けで被申立人Y1(以下「協会」という。)との間で有期雇用契約を締結し、Y2において、臨時職員として就労を開始した。

以降、X2と協会とは、雇用契約を更新していたところ、令和元年8月23日、協会は、X2に対し、9月末日限りで雇用契約を終了する旨の通知(以下「令和元年雇止め通知」という。)を行った。

8月27日、X2は、申立人X1(以下「組合」という。)に加入し、組合は、同日付けで協会に対して、令和元年雇止め通知の撤回等を議題とする団体交渉を申し入れ、以降、組合と協会とは団体交渉を複数回行った。

12月1日、組合及びX2と協会とは、同人の契約期間が同月末日まで有効であること、雇用契約の更新は臨時職員就業規則にのっとり実施すること等を確認する合意書を締結した。

3年3月下旬、協会は、X2に対し、同人が4年3月末日時点において68歳に達することから、同日限りで雇用契約を終了する旨の通知を行い、4年3月1日にも同人に対して同様の通知(以下、3年3月下旬及び4年3月1日の通知を「本件雇止め通知」という。)を行うとともに退職届の提出を求めた。

その後、組合と協会とは、3月中に、本件雇止め通知を議題として団体交渉を行ったが、協会が本件雇止め通知を撤回するには至らず、X2が雇用延長をされることなく3月31日が経過した。

本件は、協会が、4年4月1日以降、X2の雇用を継続しなかったことが、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

3 主文の要旨 <棄却>

本件申立てを棄却する。

4 判断の要旨

組合は、協会が、4年4月1日以降、X2の雇用を継続しなかったことは、同人が組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に該当する旨を主張するので、以下検討する。

⑴ 組合は、X2が68歳以降の雇用延長について合理的期待を有していたと主張し、その根拠として、公共職業安定所における協会の求人票に「定年制なし」と記載されていたことや、3年9月27日付けの雇用契約書において、契約更新について「更新する場合がある」と記載されていたことを挙げるようである。

しかしながら、上記求人票には、「会社の情報」として「定年制なし」の記載がある一方で、求人の対象である「パート労働者」の「雇用期間」としては「雇用期間の定めあり(2か月)、契約更新の可能性あり(条件あり)」と記載されていたことに加え、X2と協会とは、平成30年4月15日付けで有期雇用契約を締結した後、複数回にわたり雇用契約の更新を行っていたところ、同日付けの雇用契約書にも、令和3年9月27日付けの契約書にも、①契約期間について期間の定めがあり、②雇用契約の更新や雇止めについては、臨時職員就業規則による旨が明記されており、組合及びX2と協会とが元年12月1日に締結した合意書にも、雇用契約の更新は臨時職員就業規則にのっとり実施する旨が記載されていた。

また、臨時職員就業規則では、協会における臨時職員の雇用延長の条件は雇用期間初日が属する年度の年度末において68歳以下であることが明記されていることに加え、協会は、X2に対し、3年3月下旬、同人が68歳に達する4年3月末日をもって雇用契約を終了する旨の本件雇止め通知を行っており、4年3月1日にも改めて本件雇止め通知を行っている。

さらに、Y2における実際の運用においても、これまで協会は、定年者が発生したときには採用活動を行い、その結果欠員を補充することができない場合に、例外的に68歳以降の雇用延長を行っていたが、人員を確保できた場合には、雇用延長をしていないことが認められる。

以上のことから、協会は、定年者が発生したときには、欠員を補充する人員を確保できたか否かにより、雇用延長を行うかどうかを決定する対応をしていたことがうかがわれる。

⑵ 3年度末におけるY2では、X2を含む3名の臨時職員が68歳に達していることから、協会が採用活動を行った結果、欠員を補充する見込みが立ったため、協会は、X2を含む3名のいずれの者にも68歳以降の雇用延長の打診を行わず、雇用を継続しなかったことが認められる。

この協会の対応は、上記の従前の定年者が発生したときの対応と同様であって、格別不自然な点は認められず、協会は、非組合員である2名を含む定年者3名をいずれも雇用延長しなかったのであるから、協会がX2の雇用を継続しなかったことは、定年者が組合員であるか否かにかかわらず、人員が確保されたことを理由に定年者全員を同様に取り扱ったものであり、X2が組合員であることを理由とする不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるということはできない。

なお、組合は、協会がX2の雇用を継続しなかったことは、Y2内におけるハラスメント問題や新型コロナウイルス感染症関連の休業手当問題に関する団体交渉等の同人の組合活動を嫌悪し、同人及び組合を協会から排除するために行ったものである旨主張する。

しかし、上記のとおり、協会は、人員が確保されたことを理由に非組合員を含む定年者全員を雇用延長しなかったものであり、組合及びX2の活動を嫌悪するが故に同人の雇用を継続しなかったと認めるに足りる事情は特にうかがわれないことから、上記組合の主張は、採用することができない。

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日   令和4年7月1日

⑵ 公益委員会議の合議 令和6年3月5日

⑶ 命令書交付日 令和6年4月30

記事ID:044-001-20241018-009438