【別紙】K事件(令和4年不第12号事件)命令書交付について
1 当事者の概要
⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、肩書地に事務所を置く個人加盟の労働組合であり、本件申立時における組合員数は約1,600名である。
⑵ 被申立人Y(以下「法人」という。)は、教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことなどを目的とする学校法人であり、○○大学、同短期大学部、○○○○○○高等学校及び同中学校を設置・経営している。本件申立時における法人の教職員数は約400名であり、そのうち○○大学に所属する教職員数は約170名である。
2 事件の概要
平成15年4月、X2は、法人に採用され、法人が設置する○○大学の助教授に任用された。
令和3年1月21日、法人は、X2に対し、懲戒解雇を口頭で告げた。2月16日、X2は、組合に加入し、同月18日、組合は、法人に対し、団体交渉を申し入れた。2月24日、法人は、X2に対し、研究業績を偽ったことなどを理由として3月31日付けで懲戒解雇とすることを文書で通知した。
組合と法人とは、4月26日から11月12日までの間に5回の団体交渉を行ったが、11月12日、法人は、団体交渉の席上で、交渉を打ち切る旨を宣言した。また、11月19日、法人は、組合に対し、同月12日をもって団体交渉が終了したことを通知した。
4年1月25日、組合は、法人に対して団体交渉を申し入れたが、2月1日、法人は、これに応じない旨を通知した。
本件は、3年11月12日の第5回団体交渉以降、法人が団体交渉に応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨 <棄却>
本件申立てを棄却する。
4 判断の要旨
⑴ 組合が、4年1月25日付けで団体交渉を申し入れたところ、法人は、これに応じなかったことが認められる。
この点、法人は、計5回の団体交渉を経て、法人が十分に説明した上で、既に双方の主張は平行線にあり、これ以上の団体交渉を重ねても協議の進展が見込めない行き詰まりの状態に至っており、団体交渉を拒否したことには正当な理由がある旨を主張するので、以下、検討する。
⑵ 組合が協議を求めた事項のうち、①懲戒解雇事由の一つである経歴詐称に係る議論は、第1回及び第2回団体交渉においてなされており、第3回団体交渉以降、組合はそれ以上の追及をしていないから、このことについて法人が更に交渉を尽くすべきだったとはいえない。
また、②もう一つの懲戒解雇事由である脅迫に準ずる行為については、第2回団体交渉以降において、X2が刑事告訴ないし被害届を提出した、B1教授の暴行の有無やそれがハラスメント報告書で検討されたか否か等について議論がなされ、③懲戒解雇事由以外の事項としてのB1教授の本件発言に係る議論は、第3回団体交渉以降において、「お前」、「ばか」以外に本件発言がハラスメント報告書で検討されたか否か等について議論がなされていることから、団体交渉においては主に②及び③について事実関係の有無等をめぐって双方の主張が展開されていたといえる。
そして、第2回以降の団体交渉においては、②及び③について、自らの認識する事実関係を主張する組合に対し、法人は、外部の弁護士3名による第三者委員会のハラスメント報告書等を根拠に事実関係を説明しており、第2回団体交渉におけるZ9弁護士の「虚偽の」という発言を取り消すかどうか、第3回団体交渉における本件発言以外のB1教授の発言、第3回及び第4回団体交渉におけるZ1弁護士がB2理事長の友人かどうかといった本件解雇等の問題解決にとって不可欠とはいい難い議論が繰り返されていたのであるから、労使の事実関係に係る認識及び主張は、双方が相応の説明を尽くした上で平行線に至っていたというべきである。
そうであるところ、法人は、X2の懲戒解雇事由等について繰り返し説明を行っており、また、第4回団体交渉後に送付した回答書⑶において次回で団体交渉を打ち切る旨を予告した上で第5回団体交渉に応じたものの、それでもなおB1教授の暴行や本件発言の有無という従前と同じテーマについて事実認識の相違に関する発言の応酬がなされるにとどまっていたという事情を踏まえると、法人は、双方の事実関係に係る認識が異なる中で、組合が協議を求めた事項について組合の理解を得るべく相応の努力をしていたとみるのが相当である。
⑶ 以上の事情に鑑みれば、少なくとも第5回団体交渉時点では、事実関係の認識について、組合と法人の双方が相応の主張を尽くした上で平行線に至っており、また、団体交渉において、X2が、教組ニュース、アメリカの知人の発言、B1教授の他者からの評価、Z5准教授の自殺、Z6准教授のゼミ生の自殺、ほかの教授の学歴や単独著書、Z8事務局長の他者からの評価、B3教授がZ6准教授のゼミ生に陳述書を書かせたことといった、X2の懲戒解雇事由ともB1教授の言動とも関係のない発言を繰り返したことや、追加した議題に関することであるとはいえ、B3教授の暴行について長々と発言したことにより協議が円滑に進行しなかった事情が認められることも踏まえると、交渉が進展する見込みのない行き詰まりの状態に達していたといえる。
そうすると、法人が団体交渉に応じなかったことに正当な理由がないとはいえないから、3年11月12日の第5回団体交渉以降、法人が団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
5 命令書交付の経過
⑴ 申立年月日 令和4年3月3日
⑵ 公益委員会議の合議 令和6年4月16日
⑶ 命令書交付日 令和6年6月19日