【別紙】ラトナ事件(令和5年不第27号事件)命令書交付について
1 当事者の概要
⑴ 申立人コミュニティユニオン東京(以下「組合」という。)は、肩書地に事務所を置く個人加盟のいわゆる合同労組であり、本件申立時点の組合員数は約1,700名、会社における組合員はX1名である。
⑵ 被申立人ラトナ株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、IoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)を活用した技術開発などを主な事業とする株式会社であり、令和6年7月時点の従業員数は10名である。
2 事件の概要
Xは、会社に、アルバイト勤務を経て、令和4年10月1日に正社員として入社したが、上司からのハラスメント行為により体調を崩したとして、12月頃から会社を休むようになった。
5年3月23日、Xは、組合に加入し、組合は、同月28日、会社に対し、Xの組合加入通知及び団体交渉の申入れを行ったが、会社からの回答はなかった。
4月3日、組合は、会社に対し、団体交渉の申入れに対する回答期限が過ぎているため、至急返答するよう要求したが、会社からの回答はなく、団体交渉は開催されていない。
本件は、会社が、組合からの3月28日付けの団体交渉の申入れに対して回答を行わず、団体交渉に応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨 <全部救済>
⑴ 会社は、組合が令和5年3月28日付けで申し入れた団体交渉に速やかに応じること。
⑵ 会社による文書交付(要旨:当社が、令和5年3月28日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為と認定されたこと及び今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。)
⑶ 会社による上記⑵の履行報告
4 判断の要旨
⑴ 会社は、団体交渉の申入れに応じなかった理由について、会社の執行役員であるZ(以下「Z執行役員」という。)が組合からの送付書類を所持し、会社が令和5年4月3日の組合からの電子メール受信後に同人に連絡をしたものの、対応は見送られ、その後同人が退職した旨を主張する。
しかし、組合の「労働組合加入通知書」及び「団体交渉申入書」は、会社に対して送付したものであり、3月29日には会社に到達しているのであるから、会社として対応すべきものであって、会社内部におけるZ執行役員との情報共有や意思疎通の不足等は、組合からの団体交渉申入れに応じない正当な理由にはならない。
仮に、Z執行役員が3月29日に会社に到達した書類を所持したままであったとしても、会社は、4月3日にも組合からの電子メールを受信したのであるから、その時点で、同人に対し、組合からの申入内容や組合への回答状況を確認し、同人が回答していない場合、あるいは、同人が回答しているかどうか不明の場合には、会社として速やかに組合に回答するなど、団体交渉の開催に向けて必要な対応を行うべきであったといえる。
結局のところ、会社は、組合からの電子メール受信後も、組合に対して一切連絡をしておらず、その結果、団体交渉にも応じていないのであるから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。
⑵ 上記のほか、会社は、団体交渉に応じなかった経緯について、Xの勤務継続意思が不明であり、コミュニケーションを意図的に拒否していることに不審を抱いたこと、Xの欠勤時の連絡に関する問題や同人が上司の業務指示に従わないことなど勤務態度が悪かったことを主張している。
しかし、会社が、Xの勤務継続の意思を確認したいのであれば、組合からの団体交渉申入れに速やかに応じ、団体交渉の席で、組合に対して確認することもできたのであり、また、会社が主張するXの勤務態度やコミュニケーション拒否などについても、組合との協議を通じて、Xとコミュニケーションを図り、解決していくことも可能であったと考えられる。
したがって、会社の上記各主張は、いずれも組合との団体交渉に応じない正当な理由になり得ないことは明らかであり、前記⑴の判断を左右しない。
5 命令書交付の経過
⑴ 申立年月日 令和5年4月12日
⑵ 公益委員会議の合議 令和6年10月15日
⑶ 命令書交付日 令和6年11月25日