【別紙】フソー化成事件(令和4年不第79号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合(以下「組合」という。)は、肩書地に事務所を置き、首都圏に事業所を有する企業の労働者の個人加盟をもって組織する、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約500名である。

⑵ 申立人X1(以下「X1」といい、組合と併せて「組合ら」という。)は、令和元年7月に会社に正社員として採用され、本件申立時は被申立人会社の東京工場に勤務している。

⑶ 被申立人会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、エアコン関連部材等の製造及び販売を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は8名である。

 なお、会社の登記簿には、目的欄に「プラスチック成型加工及び販売」、「プラスチック材料の販売」等の記録がある。

2 事件の概要

 ⑴ 都労委令和4年不第13号事件での和解に至るまでの経緯

ア 令和元年7月、X1は、会社に、正社員として採用された。

イ 4年1月13日、X1は、組合に加入し、組合は、会社に対し、団体交渉を申し入れた。

ウ 3月4日、組合らは、会社が団体交渉の延期を繰り返しているなどとして、当委員会に対し、不当労働行為救済申立て(都労委令和4年不第13号事件。以下「前件」という。)を行った。

エ 会社では、文書を従業員に回覧することにより、業務上の必要事項を従業員に連絡しており(以下「社内回覧」という。)、4月27日までは、「一般業連(回覧)」という形で、社内回覧を回付していた。しかし、同月28日以降、会社は、X1に対し、社内回覧を行わないようになった。

オ 4月21日、会社は、X1に対し、東京工場の警備・誘導係としての業務を命じたが、6月15日、会社は、X1の上記業務を解き、同人に「東京工場屋内作業(カット作業など)」を命じた。

カ 9月28日、前件について、組合らと会社との間で和解が成立した。

⑵ 1211日、組合らと会社とは、X1の労働条件等を議題とする団体交渉を行ったが、団体交渉において、組合のX2執行委員長(以下「X2委員長」という。)が、会社のY社長(以下「Y社長」という。)に対し、「社長、ちょっと聞いてください。」などと述べると、Y社長は、「何その声を荒げて」、「帰るよ。」などと述べ、団体交渉を打ち切って退出した。

⑶ 1212日、会社は、X1に対し、屋内作業の指示がない場合は所定場所で待機するよう指示した(以下、この待機を指示する業務指示を「4年1212日付け業務指示」という。)。

1220日、会社は、X1に対し、同日付けの「業務指示書」により、同人にできる仕事が少なくなったとして、業務として、主に学習を行うよう指示した(以下、この学習を指示する業務指示を「4年1220日付け業務指示」という。)。

1221日、会社は、X1に対し、同日付けの「業務指示書」により、テストに必ず合格するために、業務として、主に学習を行うよう指示した(以下、この学習を指示する業務指示を「4年1221日付け業務指示」といい、「4年1212日付け業務指示」及び「4年1220日付け業務指示」と併せて「本件業務指示」という。)。

以後、X1は、東京工場入口ドア近くの階段下の資材等が置かれたスペースに丸椅子と机を設置した場所で、業務時間のほとんどの時間において、会社の用意した教材を読む「学習」を行うようになった。

⑷ 会社は4年9月28日の前件の和解成立以後においても、X1に対し、社内回覧を回付していない。

⑸ 会社は、3年12月、4年3月及び4年度中に2回の合計4回、従業員に一時金を支給したが、これらの一時金支給の機会において、X1に対して一時金を支給しなかった。

⑹ 本件は、①4年1211日に開催された団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか(争点1)、②本件業務指示は、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点2)、③会社がX1を社内回覧から除外したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点3)、④会社がX1に対し、3年12月、4年3月、6月から8月までの間に1回及び11月又は12月に1回の合計4回の一時金を不支給としていることは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか(争点4)が、それぞれ争われた事案である。

3 主文の要旨 <一部救済>

 ⑴ 会社は、組合が申し入れた、組合員の労働条件等を議題とする団体交渉について、交渉の途中で打ち切ることなく、誠実に応じること。

⑵ 会社は、X1に対する業務指示をなかったものとして取り扱い、同人を、業務指示を受ける以前に行っていた被申立人の東京工場の場内作業へ復帰させること。

⑶ 会社は、X1に対する業務上の必要事項の連絡について、他の従業員と異なる差別的な取扱いをしないこと。

⑷ 会社は、X1に対し、令和4年度の2回分の一時金として、30万円を支払うこと。

⑸ 会社による文書交付及び掲示(要旨:会社が、①4年1211日に開催した団体交渉を交渉の途中で打ち切ったこと、②X1に対し、業務指示を行ったこと、③X1に対し、業務上の必要事項の連絡を行わなかったこと及び④X1に対し、4年度の2回分の一時金を不支給としたことが、不当労働行為であると認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑹ 会社による上記⑵、⑷及び⑸の履行報告

⑺ 3年12月及び4年3月の一時金に係る申立ての却下

4 判断の要旨

⑴ 争点1について

会社は、令和4年1211日の団体交渉の各議題について、一応の説明をしたところもあるけれども、「ないものに理由はない」、「不払じゃないから不払じゃない。」など、具体的な説明を避けて組合の要求を突き放すような、交渉に消極的な態度も示していた。会社が、団体交渉を交渉の途中で一方的に打ち切って退出したのは、そのような交渉に消極的な態度の下に、X2委員長の「聞いてください。」等の発言を奇貨として行ったものとみざるを得ず、真摯に団体交渉を続ける姿勢に欠けた不誠実な対応であったといわざるを得ない。

したがって、4年1211日に開催された団体交渉を一方的に打ち切った会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。

⑵ 争点2について

会社が、本件業務指示において、X1に対し、最終的に学習を主業務とするよう指示すると共に、それまで行っていた屋内業務から外し、職場スペースとは別の良好とはいえない学習環境を与えるといった不自然な対応をしたのは、対立的な関係にある組合及び組合員X1を嫌悪し、X1に通常の業務や職場スペースを与えないことにより、業務上の不利益や精神的な不利益を与えるとともに、他の従業員に対し、組合に加入すると不利益な取扱いを受けるとの印象を強く与えることにより、組合の弱体化を企図したものであるといわざるを得ない。

  したがって、本件業務指示は、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるとともに、組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。

⑶ 争点3について

会社は、4月28日以降、他の従業員には必要に応じて回覧を行っていたにもかかわらず、X1に対してだけは、本来必要がある事項も含め、回覧を一切しなくなったということができる。そして、このように、会社がX1を回覧から除外したことは、当時の対立的な労使関係や、会社が組合に対し、11月又は12月に支給した一時金について、実態とは異なる回答を行っていたことを併せ考えると、反組合的意図をもって、組合及び組合員X1に対する情報を遮断しようとしたものといわざるを得ない。

  したがって、会社がX1を回覧から除外したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の組織運営に対する支配介入に当たる。

⑷ 争点4について

ア 3年12月及び4年3月の一時金について

組合が、一時金の不支給について本件の追加申立てを行ったのは、5年5月31日であるから、3年12月支給の一時金及び4年3月16日支給の一時金に係る申立てについては、「行為の日から1年」(労働組合法第27条第2項)の申立期間を徒過したものとして、却下を免れない。

イ 4年度の一時金について

会社が、X1に対し、一時金査定結果や「賞与支給明細書」を示していないことからすれば、X1の4年度の一時金不支給が査定の結果によるものとみることは困難である。また、対立的な労使関係の状況も考慮すると、会社は、組合及び組合員X1に対する情報を遮断しようとした行為や団体交渉に至る労使間のやり取りにおいて事実と異なる回答を組合に対して行っていた対応と同様に、組合及び組合員X1を嫌悪し、反組合的意図をもって、X1の4年度の一時金を不支給とするとともに、組合及び組合員X1に対し、一時金に関する情報を遮断して、X1への一時金不支給が問題とされることを避けようとしたものであるといわざるを得ない。

   したがって、会社が、X1に対し、4年6月から8月までの間に1回及び11月又は12月に1回の合計2回の一時金を不支給としていることは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合活動を阻害する支配介入に当たる。

 ウ 一時金不支給に係る救済方法について

   会社における4年度の2回の一時金支給については、支給対象者や支給額、査定の範囲等が一切明らかにされていないが、X1は、組合に加入する前に、一時金として、2年7月に10万円、12月に20万円、3年4月に20万円、7月に10万円の支給を受けたことがあること、会社が、反組合的意図をもって、組合及び組合員X1に対し、一時金に関する情報を遮断していたと認められ、4年度の2回の一時金支給の実態が明らかでないのは、専ら会社に原因があることなど、本件における一切の事情を考慮し、主文第4項のとおり、X1がこれまで支給された一時金の平均額15万円の2回分の支払を命ずるのが相当である。

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日      令和4年1219

⑵ 公益委員会議の合議 令和6年9月17

⑶ 命令書交付日    令和6年1024

記事ID:044-001-20241227-010086