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  5. 【別紙】NHKビジネスクリエイト事件(令和2年不第6号事件)命令書交付について

【別紙】NHKビジネスクリエイト事件(令和2年不第6号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

(1) 申立人組合は、業種を問わず企業に雇用される労働者で構成されるいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員数は約400名であり、会社の従業員である組合員はXのみである。

(2) 被申立人会社は、肩書地に本拠地を置き、申立外日本放送協会(以下「NHK」という。)から受託した業務を行う株式会社であり、平成21年4月、関連会社2社が合併するとともに商号変更して現在の社名となった。本件申立時の従業員数は520名である。

会社の放送車両事業部は、NHKの中継車や会社の営業車とロケバスの運行業務等を行っており、令和2年12月時点で、Xを含む57名程度の自動車運転職(以下「運転職」という。)が在籍している。

2 事件の概要

Xは、会社において、運転職の労働者として、NHKから会社が受託した中継車やロケバスを運行する業務に従事してきたところ、泊まり勤務や時間外労働の割増賃金未払などについて、労働基準監督署長への申告、NHKのガバナンス調査委員会への通報、国土交通省関東運輸局への情報提供を行うなどした。

平成29年6月、Xは、上記労基署への申告以降、会社による同人に対する仕事外し、昇給や賞与の差別があるなどとして、組合に加入し、同月、組合は、会社に対し、Xの加入を通知するとともに団体交渉を申し入れた。

その後、組合と会社とは、令和3年5月までの間に計14回、Xの昇給や賞与に関する団体交渉を行った。

本件は、下記⑴ないし⑶の会社の行為が、Xが組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに、また、下記⑷の会社の対応が、不誠実な団体交渉に、それぞれ当たるか否かが争われた事案である。

⑴ Xに対し、平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないこと。

⑵ 元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与において、運転職の平均を下回る業績加算をXに支給していること。

⑶ 出張(宿泊費及び日当が支給されるもの)及び時間外労働の少ない運行業務をXに担当させていること。

⑷ 第8回団体交渉及び第14回団体交渉における会社の対応

3 主文

⑴ 会社による文書交付及び掲示(要旨:組合員Xに対し、平成29年6月以降、出張(宿泊費及び日当が支給されるもの)の少ない運行業務を担当させていたことが不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑵ 会社による前項の履行報告

⑶ その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

⑴ 昇給、業績加算、出張及び時間外労働について

ア Xが31年度及び令和3年度に昇給していないことについては、①Xが長期間昇給していないのは、組合加入前も加入後も、考課の評価点の合計が規定の点数に達していないためであって、同人の組合加入が直接の原因であるとまではいえないこと、②会社は団体交渉において昇給の制度と運用及びXの考課結果とその具体的根拠について詳細に説明しており、③会社の説明の一部を組合が不合理であると受け止めたとしても、直ちに同人の考課結果を変更すべき重大な誤りがあったとまでは認められないことを併せ考えると、Xが組合員であることや同人の組合活動が、同人の考課結果に影響していたとまではみることができず、同人に対する組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとまではいえない。

イ Xの元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与における業績加算が低額であることについては、①組合加入の前後による特段の変化は認められず、直ちにXが組合員であることや同人の組合活動を理由とするものとみるのは困難であること、②会社が、Xの査定に当たって同人が組合員であることや同人の組合活動を考慮に入れていた形跡は特にうかがわれず、また、査定の要点を団体交渉で明らかにしていないとまではいえないこと、③Xが組合員であることや同人の組合活動を理由として会社が低評価を行ったと認めるに足りる具体的な疎明はなされておらず、Xの組合加入が直接の原因であるとまではいえないこと、④元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与においては、Xと同額又は同人より低額の者が複数名存在していることからすると、同人が組合員であることや同人の組合活動が影響しているとまではみることができない。

ウ Xの出張及び時間外労働が少ないことについて

() Xの出張が少ないことについては、①Xの労基署への申告後と、同人の組合加入後とで、同じように長期間、同人の出張が全くない状態が続いていることを考慮すると、会社は、Xが会社に対して自らの労働条件に関する行動を起こしたときに、長期間、同人に出張を命じない措置を採り、その後一旦は出張を命じるようになっておきながら、同人の組合加入後に再び長期間、全く出張を命じなくなったとみることができること、②遠方に移動して宿泊等を伴う出張業務は、通常よりもやりがいを感じる業務であるとみることができ、出張が少ないことは、業務経験やキャリアアップ、仕事のモチベーションなどの面で、不利益に当たらないとまではいえないことなどから、平成29年6月以降、会社がXに出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入を理由とする不利益取扱いに当たる。

() Xの時間外労働が少ないことについては、本件申立日前1年間のXの時間外労働について組合は具体的な主張をしておらず、31年の運転職の時間外労働をみると、Xの時間外労働は平均よりも少ないことが認められるものの、このことのみをもって、会社が、組合加入後にXに時間外労働の少ない業務を担当させているとまでいうことはできない。

⑵ 第8回及び第14回の団体交渉について

ア 昇給の考課の各項目の評価点が低い理由についての説明

会社は、団体交渉において、単に考課の各項目の点数のみを回答するだけでなく、Xのどの勤務態度をどのように評価したのかについて具体的に説明し、自らの認識する事実に基づいて回答の根拠を具体的に説明しているということができる。

イ 業績加算が低額である理由についての説明

団体交渉において、会社は、Xの査定が低い理由について、上記アのとおり、具体例を挙げて説明しており、事実関係については、労使双方の認識に対立がみられたものの、会社は、自らの認識する事実に基づいて具体的に説明していたということができる。

ウ 会社は、Xの昇給の考課の各項目の評価点が低い理由や、業績加算が低額である理由について、事実関係の認識については組合と議論が対立していたものの、会社の認識する事実に基づいて、一定程度具体的な例を挙げるなどして説明しており、結果として、事実の認識が違う組合の納得を得られなかったとしても、会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるとまでいうことはできない。

⑶ 結論

以上のとおりであるから、会社が、Xに対し、①出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入及び団体交渉出席等の組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるが、②平成31年度及び令和3年度に昇給を行っていないこと、及び③元年夏季及び冬季並びに2年冬季の賞与において、平均を下回る業績加算を支給していることは、同人が組合員であることや同人の組合活動を理由とする不利益取扱いには当たらない。

また、第8回及び第14回の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。

⑷ 救済方法について

上記の判断のとおり、会社が、平成29年6月以降、Xに出張の少ない運行業務を担当させていることは、同人の組合加入及び団体交渉出席等の組合活動を理由とする不利益取扱いに当たるため、会社は、今後、出張を伴う運行業務について、同人が労働組合員であることや、労働組合の正当な活動を考慮した決定をしてはならないが、同時期に会社全体の出張回数が減少していること、出張回数が少ないことによる具体的な経済的不利益の疎明がなく、認定も困難であることなどの諸事情を考慮し、本件の救済方法としては、主文第1項のとおり命ずることとする。

5 命令交付の経過

 (1) 申立年月日 令和2年1月28

 (2) 公益委員会議の合議 令和6年3月5日

 (3) 命令書交付日 令和6年5月23

記事ID:044-001-20241018-009439