【別紙】HOPPA三鷹事件(令和2年不第67号事件)命令書交付について
1 当事者の概要
⑴ 申立人総合サポートユニオン(以下「組合」という。)は、教育及び保育等のサービス産業で働く非正規労働者を中心に組織される、いわゆる合同労働組合であり、本件結審時の組合員数は約150名である。
⑵ 被申立人株式会社HOPPA三鷹(以下「HOPPA三鷹」という。)は、同株式会社京進(以下「京進」といい、京進とHOPPA三鷹とを併せて「会社」という場合と、京進とHOPPA三鷹とを区別できない場合に「会社」という場合とがある。)の完全子会社であり、肩書地において認可保育園「HOPPAたかの子」(以下「たかの子園」という。)1施設のみを運営している。たかの子園は認可保育園であるため、東京都三鷹市はたかの子園に対して指導や監督を行う権限がある。たかの子園に勤務する保育士らはHOPPA三鷹に所属しており、従業員数は本件結審時で23名である。
⑶ 被申立人京進は、学習塾を中心として、飲食、介護、保育等の事業を全国で展開する法人であり、京進の保育事業部が子会社所属の保育園を含む全国各地の系列保育園の運営を担当し、マネジメント推進部がたかの子園に勤務する保育士らの労働条件を決定している。京進の連結会社を含むグループ全体の従業員数は、本件結審時で約7,500名である。
2 事件の概要
京進は、完全子会社であるHOPPA三鷹を通じ、平成28年12月から三鷹市内でたかの子園を運営している。
令和2年2月、たかの子園の園長の不適切な勤務態度及び同園の保育士2名への異動内示等を契機に、同園に勤務する保育士ら11名が組合に加入し、同月21日、組合は、HOPPA三鷹に対し、園長の異動、保育士2名の異動内示の撤回等を求めて団体交渉を申し入れ、3月16日、会社との間で団体交渉を実施した。
3月24日、組合は、会社に対し、たかの子園の保育士の人員補充や園長の異動等を要求して、同月26日に全日ストライキ(以下「本件スト」という。)を行うことを通告した。
3月24日、本件ストの予定を把握した三鷹市担当者は、京進のY1保育事業部東日本第2エリア長(以下「Y1エリア長」という。)に対し、たかの子園に行って職員と話をするなどしてくるよう要請した。Y1エリア長は、たかの子園に赴き、退勤直後の保育士の組合員Xに声を掛け、園内の事務室で、1対1で1時間程度面談を行い、ストライキの中止を働き掛けた(以下「本件言動」という。)。
本件は、3月24日にY1エリア長がXに対して行った本件言動が組合運営に対する支配介入の不当労働行為に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨 <一部救済>
⑴ 京進による文書交付(要旨:ストライキの中止を働き掛けたことが不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)
⑵ 京進による前項の履行報告
⑶ HOPPA三鷹に対する申立ての棄却
4 判断の要旨
⑴ 労働組合法上の使用者性について
Xの雇用主はHOPPA三鷹であるが、HOPPA三鷹が雇用する保育士の入退社等の人事、賃金、労働時間等の労務管理については京進のマネジメント推進部が所管し、労働条件を決定していることから、京進はXの労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと認められる。
したがって、京進は、Xとの関係で労働組合法上の使用者に当たる。
⑵ 使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位といえるかについて
Y1エリア長が把握した担当園に必要な人員に関する情報や、採用活動の面接担当者として把握した応募者に関する情報等が、マネジメント推進部と共有され、同情報が同部の保育士らの人事権を行使するに当たり利用されていたところ、Y2部長代行が日常的にたかの子園を視察していなかったことも踏まえれば、現場責任者であるY1エリア長が提供する人事情報や意見が相当程度参考になったものと認められることから、Y1エリア長は、マネジメント推進部の職務を補佐し、たかの子園の保育士らの人事管理について事実上の権限を有していたとみるのが相当である。
したがって、本件言動当時、Y1エリア長は使用者の利益を代表する者に近接する職制上の地位にあったといえる。
⑶ 使用者の意を体した言動といえるかについて
会社のビラには組合のストライキ予告について大変不本意である旨の言及もあり、また、本件言動後に会社が組合に送付した3月25日付「ご連絡」には、組合が本件ストに踏み切ることは保護者の理解を得られず、また団体交渉の促進にもならないことを懸念する旨が記載されていたことなどからすると、会社は、可能な限りストライキの実施を回避するという意向を有していたと判断するのが相当である。
そして、Y1エリア長は、会社における三鷹市への対応及び組合対応の担当者としての裁量に基づき、三鷹市Z6部長からの要請と会社の組合対応の方針とを勘案した上で、可能な限りストライキの実施を回避するという会社の意を体して、本件言動を行ったと認められる。
⑷ 組合運営に対する支配介入に当たるかについて
ア 本件言動がなされた状況
本件言動は、たかの子園の保育士らから、たかの子園に直接関係する会社関係者としては最上位の職位にあると認識されていたY1エリア長が、業務終了後に退園しようとしていたXを呼び止めて、園に戻って話をしたい旨を告げ、話合いに応じなくてもよいとの選択の余地を与えるような発言をすることもなく、園内の個室の事務室において二人きりの状況で行われた、いわば業務上の面談の中で行われ、1対1で、1時間の長時間にわたり行われている。
イ 本件言動の発言内容について
本件ストの実施によりたかの子園が閉園になる可能性や保育士に対する保護者の信頼が失われる可能性を示唆していること等からすれば、Y1エリア長の本件言動における一連の発言は、Xに対して本件ストを中止するよう説得する趣旨から行われたものであると認められる。
ウ 結論
以上のとおり、本件言動は、労使の緊張関係が高まる中で、たかの子園に直接関わる会社関係者としては最上位の職位にあると認識されていたY1エリア長から、本件ストの回避に影響がある人物ではあるものの、組合ではなく一組合員であるXに対し、1対1で、約1時間程度、個室の事務室で面談を行うという精神的圧力の掛かる状況下で本件ストの中止を働き掛けたものであり、本件言動は、本件ストの回避に影響力がある組合員であるXに対して威嚇的効果を与えるものであるとともに、組合をないがしろにし、組合の存在を軽視するものであると認められる。
よって、本件言動は、Xの労働組合法上の使用者の地位にある京進による組合運営に対する支配介入に当たる。
⑸ HOPPA三鷹に対する申立てについて
Y1エリア長の本件言動は、京進が責任を負うべき行為である一方、HOPPA三鷹がY1エリア長に対して具体的な指示や要請を行っていた等の事実は認められず、HOPPA三鷹が本件言動に関与していたとは認められない。
5 命令書交付の経過
⑴ 申立年月日 令和2年7月8日
⑵ 公益委員会議の合議 令和6年6月4日
⑶ 命令書交付日 令和6年7月28日