【別紙】

 

1 当事者の概要

(1) 被申立人協会は、ガス圧接継手、溶接継手、機械式継手等の鉄筋継手の品質確保のために、鉄筋継手の技術に関する調査研究等を行い、その普及を図り、建設技術の向上と合理化に寄与することを目的とする公益社団法人である。

本件申立時の役員数は、22名であり、職員数は7名である。

(2) 申立人組合は、主に東京の中小企業で働く労働者などを中心に組織する、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約900名である。

 

2 事件の概要

令和4年3月28日、被申立人協会内で業務監査が行われ、4月22日、協会事務局の職務の遂行において幾つかの不正行為がみられるとの報告がなされた。同日、協会は、専務理事兼事務局長のX1及び事務局次長のX2に対し自宅待機を命ずるとともに、職員との接触を禁止するなどした。

5月18日、協会は、臨時理事会でX1の専務理事の解職及び事務局長の解任を決議し、同日、同人を解雇した。

7月12日、協会は、X1の専務理事の解任等を総会に諮るため、臨時総会を同月29日に開催することを会員に通知した。

7月12日、申立人組合は、協会に対し、X1及びX2の組合加入を通知するとともに、両名に対する処分の撤回等を議題とする団体交渉を求める要求書(以下「7月12日付団交申入書」という。)を送付し(以下「本件団体交渉申入れ」という。)、回答期限を同月19日としたが、協会は、これに応答しなかった。

7月20日、組合は、通知書を送付して再度団体交渉を求めたが、これに対しても協会は同月27日までに応答せず、同日組合は、本件不当労働行為救済申立てを行った。

その後8月10日、協会は、組合に対し、団体交渉に応ずる旨の回答を行った。

本件は、協会が、本件団体交渉申入れに応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文

   本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ 労働組合法第2条但書第1号該当性について

協会は、X1が労働組合法第2条但書第1号に規定する、いわゆる使用者の利益代表者に当たる旨主張する。

確かに、X1は、理事のうち唯一常勤の専務理事の職に就いており、その責務は、人事、予算・決算、事業計画の作成など、協会の業務執行及び事務局が実施すべき業務のほぼ全般にわたっている。

しかしながら、本件団体交渉申入時において、X1は、形式上役員の地位にとどまってはいたものの、協会から既に解雇されており、自宅待機を命じられるとともに、事務所への立入りと協会職員との接触を禁じられ、さらに、X1の役員解任及び特別会員の除名を近いうちに総会で決議することが会員に通知されていたことからすれば、もはや専務理事としての実態を備えていないといえる。

したがって、X1の参加を許したとしても、このことにつき協会との団体交渉において組合の自主性を損なうものとはいえず、同人を組織する組合が、労働組合法第2条但書第1号に抵触するとはいえない。

⑵ 正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるかについて

ア 協会においては、X1以外に常勤の役員はおらず、また、本件団体交渉申入れ当時、近く臨時総会と理事会の開催が予定されており、総会は700を超える会員を対象としていることや、これまで協会の業務を取り仕切っていたX1及びX2が不在であったことからすれば、協会が臨時総会等の準備に追われていたことは容易に推測され、そのような中で、経験のない労働組合からの申入れを受けた状況を考慮すると、本件団体交渉申入れに対し回答が遅れたことにつき、協会にはやむを得なかった事情が存在したことが推認される。

もっとも、仮に協会が主張する事情があったとしても、その旨組合に伝えればよかったのであって、上記事情の説明や回答が遅れる旨の連絡等を何ら行わなかった協会の対応に非がなかったとはいえない。

イ しかしながら、協会は、上記アのような事情の下で、7月12日付団交申入書により組合が指定した回答期限の7月19日の約20日後には、回答を行っている。しかも、この回答期限は、事前に組合と協会とが調整して設定されたものではなく、組合の一方的な都合による要求にすぎず、回答が8月10日になったことについて協会が意図的に遅延させたと認めるに足りる事情も見当たらない。

ウ そして、協会は、その後組合との団体交渉や事務折衝に応じ、両名の処分について協議しており、また、他の組合員の処分についても協会は、団体交渉に応じ、これについては和解が成立している。こうした経緯をみれば、協会は本件団体交渉申入れに対する回答は遅れたものの、その後は組合との協議には真摯に対応していると評価することができる。

エ 上記アないしウの諸事情を総合的に考慮すると、本件団体交渉申入れに対し、回答が遅れる旨の連絡等も行わず、応答していなかった協会の対応に非がないとはいえないものの、協会が、団体交渉を拒否する意図をもって応答しなかったということはできず、上記対応をもって、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるとまで認めることはできない。

 

5 命令交付の経過

 (1) 申立年月日      令和4年7月27

 (2) 公益委員会議の合議  令和5年1121

 (3) 命令書交付日     令和6年1月11