【別紙】N事件(平成29年不第35号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

  被申立人Y1(以下「会社」という。)は、首都圏を中心に、事業所や病院内における保育所の受託運営、企業向け育児支援コンサルティング、保育士派遣等を行う株式会社であり、平成29年4月1日時点における従業員数は、259名である。

会社、申立外社会福祉法人C1(以下「C1」という。)及び申立外株式会社C2は、「C1グループ」を構成し、保育事業等の一体的管理運営を行っている。29年4月1日時点におけるグループ全体の職員数は、1,808名である。

  申立人X1(以下「組合」という。)は、首都圏を中心として労働者を組織するいわゆる地域合同労組であり、本件申立時における組合員数は、約3,500名である。

2 事件の概要

26年6月、X2は、会社に採用され、開発部に所属し企業内の保育所の新規開設業務等に従事し、29年1月5日、組合に加入した。

2月2日、会社は、X2がC3保育園の建設資金の独立行政法人福祉医療機構(以下「福祉医療機構」という。)からの借入業務を行っていなかったとして、運営部への配置転換(以下「本件配転」という。)を命じ、同人が行った業務についての調査を開始した。

4月26日、組合が、会社に対し本件配転を議題とする団体交渉を申し入れ、翌27日、会社は、X2に対し同月28日からの自宅待機を命じた。

5月18日、X2の自宅待機を議題とする第1回団体交渉が開催され、翌19日、組合は次回の団体交渉を申し入れたが、会社は、X2の借入業務について調査中であることを理由にこれを拒否した。

7月26日、会社は、X2を普通解雇し、翌27日、第2回団体交渉が開催された。

本件は、?会社が29年7月26日付けでXを解雇したことは、同人が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か、?会社が29年5月19日付けで組合が申し入れた団体交渉に対し、同年7月27日まで応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが、それぞれ争われた事件である

3 主文の要旨

⑴ 文書交付

要旨:平29年5月19日付けで組合から申し入れられた団体交渉について、同年7月27日までこれに応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

⑵ 履行報告

その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

  会社が29年7月26日付けでX2を解雇したことは、同人が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か(争点1)(棄却)

会社は、本件解雇に先立って、X2に貸与していたノートパソコン及び携帯電話のデータを確認するとともに、4月中旬以降本件申請業務の本格的な調査を行っており、同人は同業務を実施していたとする文書を提出したものの、会社が同人の業務の相手方から得た回答からすれば同人が本件申請業務を行っていなかったことは明らかであり、同人がなぜ各機関がそういうふうに答えたのか分からない、本件申請業務だけが進行できていないのか訳が分からないといった弁明しかできなかったこと、会社は、福祉医療機構からの借入れができなくなり、他の民間金融機関から急遽建設資金の調達せざるを得なくなったことも考慮すると、本件解雇には、相応の理由があるといわざるを得ない。

X2が組合加入した1月5日以降、組合は会社に対し同人の組合加入を通知しておらず、4月7日に同人が組合の春闘統一行動でC1本部前での情宣活動を行い、同月26日に組合が会社に対し同人が組合員であることを明記して団体交渉を申し入れるまでの間に、会社が同人の組合加入若しくは組合活動を具体的に認識したと認められる事情の疎明はない。

組合がX2の組合加入を通知した翌日の4月27日に、会社が自宅待機命令を出したことは組合加入と自宅待機命令との関連を疑わせるが、会社は、同人の組合加入を認識する以前の2812月頃から本件申請業務の状況を問題視しており、保育園の新規開園業務等が一段落した29年4月中旬に本格的な調査を開始したところであるから、同時期に証拠を保全して調査を徹底するために同人を自宅待機とする必要があったといえる。

そして、会社は、実際、X2の自宅待機中に本件申請業務の本格的な調査を行っているが、その方法は、同人に事実確認を行った上で、同人の業務の相手方に照会を行って同人の説明と照合し、その食い違いについて、更に同人に弁明を聴取するなど、客観的かつ公正なものである。

組合は、会社取締役の発言を捉えて、会社の組合嫌悪は明白であると主張する

が、その発言からは、会社の組合に対する嫌悪の情をうかがうことはできるが、この発言のみをもって、本件解雇が会社の組合嫌悪の情によってなされたものであるということはできない。

以上を総合すると、本件解雇には相応の理由があり、また、会社は、解雇理由となったXの本件申請業務について、同人の組合加入を認識する以前から調査を始め、本格的な調査は、同人の組合加入を認識した後に行われているものの、この調査は客観的かつ公正なものであって、同人が組合員であることを理由とする恣意的ないし不合理な取扱いがなされたという事情も認められない。

そうすると、本件解雇は、X2が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いには当たらない。

⑵ 会社が29年5月19日付けで組合が申し入れた団体交渉に対し、同年7月27日まで応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)(救済)

会社は、5月19日付けでの組合からの団体交渉申入れに対し、7月27日の第2回団体交渉まで、現時点では団体交渉を行うことが適切でないなどとして団体交渉に応じておらず、ほかに日程調整のため時間を要した等の事情も認められないから、団体交渉を拒否したものといえる。

このことについて、会社は、組合の団体交渉申入事項は第1回団体交渉で回答済みであったから、当時の時点で団体交渉の開催は適切でなかったと主張する。

5月18日、X2の自宅待機命令を議題とする第1回団体交渉が行われ、組合は、発令根拠規定や指揮命令系統を明らかにするために、就業規則と組織図等を求め、会社もこれに応じる旨回答した。また、組合は、5月19日付「質問並びに団体交渉申入書」において、団体交渉を申し入れるともに、グループの組織及び指揮命令関係や、調査が終了した後に客観的根拠が示されるかなどを質問した。

この経過をみれば、組合の質問等について、第1回団体交渉において会社が回答済みであったとはいえず、引き続き団体交渉に応じた上で説明を行う必要があったといえる。また、会社は、資料の開示を承諾した就業規則や組織図についてですら、組合に対し、第2回団体交渉までの約2か月間、提供していなかった。

会社は、本件申請業務について調査が進行中であったことから、調査の進捗や今後の調査予定等について、第1回団体交渉において説明した以上の内容の回答をすることは不適切であったと主張する。

確かに、組合は、第1回団体交渉において、どのような調査か質問をしている。しかし、5月19日付けの団体交渉申入れでは、進行中の調査内容そのものについては質問しておらず、「業務上の調査」と「身辺調査」の境界や調査終了時の証拠開示についての質問、組合からの第三者・弁護士等の立会いの要求などを申し入れている。これらは、第1回団体交渉では十分な説明がなされておらず、調査進行中であっても交渉することに支障がない事項であり、むしろ調査終了後に団体交渉を行ったのでは時機を失する事項であるといえる。

したがって、本件申請業務についての調査が進行中であったことは、団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。

会社は、第3回団体交渉及び第4回団体交渉を実施して十分に説明を尽くしていると主張するが、第2回団体交渉の前日に本件解雇を行っており、むしろ、第1回団体交渉以降、本件解雇を行うまでの間は、第2回団体交渉を意図的に避けていたとみられてもやむを得ない対応であったといえる。

以上のとおり、組合の29年5月19日付団体交渉申入れに対し、会社が7月27日までにこれに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

5 命令交付の経過

申立年月日 平成29年5月8日

⑵ 公益委員会議の合議 令和2年2月18

⑶ 命令書交付日 令和2年4月8日

記事ID:044-001-20241018-009344