【別紙】N事件(平成28年不第24号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、企業の枠を越えて組織されるいわゆる合同労組であり、平成22年4月25日に結成された。本件申立時の組合員数は213名である。

⑵ 申立人X2(以下「支部」といい、組合と支部を併せて「組合ら」という。)は、組合の下部組織として結成された労働組合であり、2612月2日に会社に支部結成を通知した。支部の組合員は、会社に勤務する外国人講師であり、本件申立時の組合員数は4名である。

⑶ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、外国語の指導等を主たる目的とする株式会社として12年4月19日に設立され、肩書地において英語の語学学校である学院を運営している。

2 事件の概要

⑴ 平成27年8月31日、組合らは会社と団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)を行い、その席上で非常勤講師就業規則の写しの交付を要求したところ、会社は写しの交付を拒否するなどした。

会社は、会社が運営する〇〇〇〇〇〇〇学院(以下「学院」という。)で英語の非常勤講師として勤務する組合員X4が担当するクラスを、8月15日、1115日及び28年2月29日付けでそれぞれ閉鎖した。

会社は、学院で英語の非常勤講師として勤務する組合員X5が担当するクラスを、271015日及び28年1月15日付けでそれぞれ閉鎖した。

2712月7日、会社はX5に対し、X5宛ての匿名の手紙(以下「本件手紙」という。)を渡した。本件手紙には、X5の授業がひどい授業であった、組合員として活動する時間があるなら自分の生徒のことをもっと考えなくてはいけないなどと記載されていた。

1214日、組合は、団体交渉の席上で、労働紛争状態に入る旨を宣言した。同月16日、会社は組合に対し、今後組合員がストライキを行う場合には少なくとも3日前までにストライキを実施する日時及び組合員を告知するように要求すること、要求が認められなければ正当なストライキではないと判断すること等が記載された要求書(以下「本件要求書」という。)を交付した。

1218日、会社は、学院のホームページに掲載している「講師の厳選、そして毅然たる措置」という表題のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)において、以前から記載されていた文章の「Y1は『教育第一主義』を貫き通します」という一文の前に、「これに伴う(元)講師らの抗議運動にも一切動じることなく」という一行(以下「本件文言」という。)を加筆して掲載した。

1218日頃、会社は、講師らに対し、誓約書(以下「本件誓約書」という。)に署名することを求めた。本件誓約書には、労働組合について悪く言うこと等を絶対に行わないこと、特に生徒に対して行わないように十分注意することなどが記載されていた。

28年1月29日、組合らが学院の前で抗議活動を行ったところ、2月3日、会社は組合に対し、警告という表題の書面(以下「本件警告書」という。)を交付した。本件警告書には、1月29日の抗議活動による騒音について近隣のテナントや学院の生徒から苦情が出ていること、今後このような騒音については組合に対し法的措置を検討せざるを得ないことなどが記載されていた。

2月15日、会社は、学院で英語の非常勤講師として勤務している支部の執行委員長X3を雇止めにした。

2月24日、X4は、自身の携帯電話にメール(以下「本件メール」という。)を受信した。本件メールには、学院の講師が同意書に署名させられたこと、同意書には組合に加入している講師のクラスに参加しないように担当クラスの生徒に依頼することに同意すると記載されていたことなどが書かれていた。

29年8月15日、会社は、X4を雇止めにした。

⑵ 本件の争点は、下記①ないし⑪のとおりである。

① 会社がX3を28年2月15日付けで雇止めしたことが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点1)

② 会社が、X4の担当クラスを27年8月15日、1115日及び28年2月29日付けでそれぞれ閉鎖したこと、並びにX4を2月29日付けでフリーカンバセーションクラスの担当から外したことが、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点2)

③ 会社が、X5の担当クラスを271015日及び28年1月15日付けでそれぞれ閉鎖したことが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点3)

④ 会社が、271218日頃、学院のホームページに掲載している「講師の厳選、そして毅然たる措置」との表題の本件ウェブページに「これに伴う(元)講師らの抗議運動にも一切動じることなく」という本件文言を加筆・掲載したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点4)

1218日、会社が、全講師に対し、「労働組合について悪く言う(他人に伝える)こと」等を絶対に行わないこと、特に生徒に対して行わないように十分注意することを理解した旨の本件誓約書に署名させたことが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点5)

28年1月頃、会社が非組合員の講師に対し「『組合員が担当している授業を取るな』と生徒に指示せよ」という趣旨の文書に署名させた事実があったか否か。あったとした場合、それが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6)

2712月7日、会社が、X5に本件手紙を渡したことが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点7)

⑧ 会社が、組合に対し、271216日付けの本件要求書を交付したことが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点8)

⑨ 会社が、組合に対し、28年2月3日付けの本件警告書を交付したことが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点9)

27年8月31日の本件団体交渉における会社の組合に対する対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。(争点10

⑪ 会社がX4を29年8月15日付けで雇止めしたことが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点11

3 主 文 <一部救済命令>

⑴ 会社は、ストライキを行う場合には少なくとも3日前までに日時及びストライキを行う組合員を告知しなければ正当なストライキではないと判断するという内容の文書を組合に交付するなどして、組合の運営に支配介入してはならない。

⑵ 文書交付及び履行報告

要旨:会社が組合に対し平成271216日にストライキに関する要求書を交付したことが不当労働行為であると認定されたこと、今後繰り返さないよう留意すること。

⑶ その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

⑴ 争点1について(棄却)

ア 組合らは、会社は従来は行っていなかった手続を後付けで作り、これに応じることができなかったX3を雇止めにしたと主張するが、会社がX3の雇止めに際してかかる手続を後付けで作ったとは認められない。

イ 組合らは、会社はX3を雇止めにするために意図的に契約更新に必要な同人との契約更新会談を実施しなかった旨を主張する。

() 会社は、契約更新前のX3の最後の出社日である2月4日に契約更新会談ができなかったことを受けて、その日のうちにX3に対して会談実施に向けて調整を図るように通知書を送付し、X3から連絡がないと、組合に同人を指導するように連絡し、X3から一文の手書きのメモが出てきただけで日程調整などの具体的な回答が出てこないことが分かると、再度組合に同人を指導するように連絡するなど、その時々の状況に応じてX3や組合に働き掛けをするという対応を取っており、会社はX3との契約更新会談を実施するために相応の努力をしていたといえる。

 () この点について、組合らは、契約更新会談の担当者であるY3は1月にX3と面談をする機会がありながら契約更新会談を実施しておらず、不合理であると主張するが、X3とY3とが1月21日に面談した際に、出勤簿の付け方と研修の日程を話した後に契約更新会談を行うようにとのY2学院長からの指示があった結果、契約更新会談は時間が足りず実施できなかったという一事をもって、会社が当初から会談を実施するつもりがなかったとまではいえない。

() また、組合らは、会社は雇用期間満了間際までX3と契約更新の話をせずに放置し、9日前になって電話ではなく手紙で連絡をしており、不合理であると主張するが、会社がX3の契約更新手続について放置していたとはいえない。また、契約更新会談は契約更新に係る重要な事項であるから、これについて会社が電話ではなく書面で連絡したとしても、その対応が不合理であるとはいえない。

() さらに組合らは、会社はX3が出社できない日時を会談日として意図的に指定したと主張するが、会社がX3の都合が付かない日を会談日として意図的に指定したとは認められない。

() そうすると、21日の面談における会社の対応に疑問が残る面があったことを考慮しても、全体として会社は契約更新会談実施に向けて相応の努力をしていたと評価することができ、会談実施日について双方の都合が付かなかったことには相応の理由がありやむを得なかったといえるのであるから、会社が当初からX3の雇止めを企図して意図的に契約更新会談を実施しなかったとは認められない。

ウ 当時、組合らは労働紛争状態に入ることを271214日に予告し、X3を含む組合員3名が同月21日から断続的にストライキを行い、会社は組合に対して同月16日に本件要求書を交付するなど、労使関係は対立状態にあった。しかし、そのことから直ちに、会社が、X3が支部の執行委員長であることを理由に同人を雇止めにしたと推認することはできない。

エ 以上を総合的に考慮すると、X3の雇止めの理由である契約更新会談ができなかったのは、会社が、会談実施に向けて相応の努力をしたものの、X3が非協力的であったこともあり会談実施に向けた日程調整が遅れ、そして双方の都合が合わなかった結果であり、21日面談における会社の対応や当時の労使関係が対立状態であったことを考慮しても、会社が、X3が組合員であることを嫌悪して会談を実施せず、それを理由に雇止めにしたとまでは認めることはできない。

したがって、会社がX3を28年2月15日付けで雇止めにしたことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらない。

⑵ 争点2及び3について(棄却)

ア 会社が、出席生徒数が定員の3分の1にも満たないX4及びX5の担当クラスを閉鎖したことは、非組合員の場合と異なる対応であったとはいえず、会社が、両人が組合員であることを理由に担当クラスを閉鎖したとまで認めることはできない。

イ 組合らは、クラス編成や学生の割当ては会社の裁量であり、会社は人数操作を行って組合員のクラスの生徒数を減少させたと主張するが、これを認めるに足りる疎明はない。また、会社は生徒受講継続率という基準を持ち出し、これを理由に組合員のコマ数削減を正当化しているとも主張するが、X4及びX5の担当クラス閉鎖の直接の理由は受講生徒数が減少したことであり、会社が生徒受講継続率により組合員のコマ数削減を正当化しているとはいえない。

エ X4のフリーカンバセーションクラスは、正規の授業に併せてその前後の時間に行われる付加的業務と位置付けられており、学院が、正規授業が終了した後にフリーカンバセーションクラスも閉鎖することは特に不合理な対応とはいえない。

オ 以上からすると、会社がX4の担当クラス及びフリーカンバセーションクラスを閉鎖したこと並びにX5の担当クラスを閉鎖したことは、当時の労使関係が対立状態にあったことを考慮しても、両人が組合員であることを理由として行われたとまでは認められない。

したがって、会社が、X4とX5の担当クラスを閉鎖したことは、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらない。

⑶ 争点4について(棄却)

本件文言の加筆・掲載については、教育機関として重要な方針を生徒に対して発信することに主眼が置かれているとみるのが相当であり、当該加筆・掲載が組合員及びその他の学院の教職員に対して威嚇的効果を与えたり、組合加入及び組合活動の意義を殊更に否定したりすることによって組合の運営に影響を及ぼすものであるとまで認めることはできない。

したがって、会社がホームページに本件文言を加筆・掲載したことは支配介入に当たらない。

⑷ 争点5について(棄却)

ア 本件誓約書の内容は、労働組合を悪く言うことや組合員に関する情報を第三者に開示すること等をしないように講師に注意を促す内容であり、組合を非難したり悪く言ったりするものではない。

イ 組合らは、誓約書の真の目的は組合のイメージを悪くすることにあると主張するが、これが組合のイメージ悪化を図るものであると認めるに足りる疎明もないのであるから、誓約書の真の目的が組合のイメージ悪化を図ることであるとまでは認められない。

ウ したがって、会社が講師に対して誓約書に署名させた行為は、組合の運営に対する支配介入には当たらない。

⑸ 争点6について(棄却)

組合らは、X4が非組合員から本件メールを受け取ったことから、会社が「『組合員が担当している授業を取るな』と生徒に指示せよ」という趣旨の文書を非組合員の講師に署名させた事実があったと主張するが、本件メールは送信者が不明であり、同メールに記載されている事実があったと認定することはできない。

したがって、組合らが主張する支配介入行為があったとは認められない。

⑹ 争点7について(棄却)

ア 本件手紙にはX5の授業に対する批判や組合員であることを中傷する内容の記載があり、これを受け取ったX5がショックを受けることは容易に想像できるところである。しかし、本件手紙はX5宛てであることが明記されており、差出人が不明であったとしても、会社が講師宛ての手紙を本人に渡したこと自体から会社に嫌がらせの意図があったと認めることはできない。

イ 組合らは、本件手紙に記載の「聖職」という言葉はY2学院長やY4が使う言葉であるから、本件手紙は会社関係者が作成したと主張するが、これを認めるに足りる疎明はなく、組合らの主張は採用できない。

ウ したがって、会社がX5に対して本件手紙を渡したことは、組合の運営に対する支配介入に当たらない。

⑺ 争点8について(救済)

会社は、本件要求書はストライキの通告を3日前までに行うように単に要求したものであり、処分の可能性を示唆するものではないから支配介入には当たらないと主張する。

しかし、本件要求書には、単に事前の予告を要請するだけではなく、その要請を受け入れない場合には、「正当なストライキではないと判断します」と記載されている。これは、3日前までに予告のないストライキをした場合には、会社が組合員に対して懲戒処分をするなどの可能性があること示しているといえる。会社の要請を受け入れなければ組合員へ不利益が生じる可能性があることを示しながらストライキの3日前までの事前予告を求める対応は、単なる要請ではなく、会社が一方的に決めたルールを強要してストライキの実施運用に介入する行為であると評価せざるを得ない。

したがって、会社が組合に対し本件要求書を交付したことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。

⑻ 争点9について(棄却)

ア 1月29日の抗議活動によって一定程度の大きな音が出ていたと認められる。

イ 組合らが抗議活動を行った学院の周辺は商業施設や会社が入るビルが密集しており、夜間に拡声器やシュプレヒコールによる大きな音がすれば近隣や生徒から苦情が出るのは容易に想像ができ、会社が組合に対して大きな騒音について抗議することは非難されることではない。また、本件警告書に「今後かかる騒音については、貴組合に対し法的措置を検討せざるを得ませんので予めその旨ご承知置き下さい。」とあるとおり、本件警告書は大きな騒音に対して法的措置を執る可能性を表明するものであり、大きな騒音を問題にすることを超えて組合の抗議活動全般をけん制するものであるとまではいえない。

ウ したがって、会社が本件警告書を交付したことは組合の運営に対する支配介入に当たらない。

⑼ 争点10について(棄却)

ア 就業規則の写しの交付に関する会社の対応について

組合らが就業規則を第三者に見せることはしないと述べても、Y2学院長は、就業規則は中で見てもらうシステムになっており、就業規則は日本語で書かれているから、事前に予約をすれば担当のY3が就業規則を英語に訳すことなど就業規則の写しを交付しない理由を繰り返しており、このような会社の対応は健全な労使関係を構築する上で必ずしも妥当なものとはいい難いが、会社は就業規則の写しを交付しない方針やその理由について一応の説明を行っている。

また、会社の対応により、組合員の労働条件その他の待遇について団体交渉の場で合意の達成を目指すことについて具体的な支障が生じたとは認められない。

イ X4の発言に関する会社の対応について

本件団体交渉において、Y2学院長は、X4に謝罪を求めた上、謝罪をしなければ次の話に進めない旨を述べている。

Y2学院長の発言は、会社が就業規則を見せないかのようなX4の発言に対して、それは事実と異なると抗議する中で一度出たもので、事実と異なる発言に対して謝罪を求めること自体は許されないことではない。

また、Y2学院長の対応によって団体交渉が大きく阻害されたとまではいえず、不誠実な団体交渉であったとまでは評価し難い。

ウ 以上より、27年8月31日の団体交渉における会社の組合らに対する対応は、不誠実な団体交渉に当たらない。

⑽ 争点11について(棄却)

生徒数がゼロとなり担当クラスがなくなったためその担当講師を雇止めにするという判断は、会社経営の観点からはあり得る選択であり、不合理であるとはいえない。また、雇止めに至る手続に不自然な点もないことから、会社が組合員であるX4を嫌悪して同人を排除するために雇止めにしたと認めることはできない。

したがって、会社がX4を29年8月15日付けで雇止めにしたことは組合員であるが故の不利益取扱いに当たらない。

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日 平成28年3月8日

⑵ 公益委員会議の合議 令和2年1月7日及び2月4日

⑶ 命令書交付日 令和2年3月11

記事ID:044-001-20241018-009340