【別紙】J事件(令和元年不第82号事件)命令書交付について

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1は、バスの運転手として会社の白河支店に勤務する従業員である。X1は、本件申立時にはX3(以下「X3」という。)の組合員であり、その下部組織であるX4(以下「X4」という。)に所属するとともに、バス事業に関連する職場に勤務する組合員で構成された横断的な協議会であるX5(以下「X5」という。)に所属していた。
令和2年2月16日、X1は、X3を脱退し、その後、X6(以下「X6」という。)に加入した。

⑵ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、主として高速バス、一般路線バス等の旅客自動車運送事業を営む株式会社であり、Z1に属するY2の完全子会社である。肩書地に本社を置き、関東地方、福島県、長野県及び静岡県に支店を有している。

2 事件の概要

⑴ 会社の白河支店でバスの運転手として勤務するX1は、平成3011月5日、バスを回送運転中に喫煙するとともに携帯電話で通話をした。当時、X1は、X3の組合員であり、その下部組織であるX4に所属していた。
1111日及び12日、当時の白河支店の支店長(以下「白河支店長」という。)は、X1を喫茶店に呼び出し、同人の11月5日の行為を指摘した上で、俺が納得する書類を出したら不祥事を握り潰してやる、X3の脱退届を出すならドライブレコーダーの映像を消すなどと述べた(以下「本件行為」という。)。
令和元年1111日、X4、X4大子支部バス棚倉分会分会長のX2及びX1の3者は、連名で本件不当労働行為救済申立てを行った。
2年2月16日、X1は、X3を脱退し、その後、X6に加入した。
6月30日、X2は、本件申立てを取り下げた。
3年1月29日、当委員会は、X4の申立てとX1の申立てとを分離し、4月9日、X1の申立てについて、審問を経ずに命令を発することとし、調査手続を終結した。

⑵ 本件は、白河支店長のX1に対する平成301111日及び12日における発言が労働組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

3 主文の要旨 <全部救済命令>

⑴ 文書掲示及び交付

要旨: 301111日及び12日に、白河支店長が、当時X3の組合員であったX1に対し、同組合の脱退届を提出するならば不祥事を握り潰すなどと述べた行為は、不当労働行為であると認定されたこと。今後このような行為を繰り返さないこと。

⑵ 履行報告

4 判断の要旨

⑴ X1の申立適格

労働委員会による不当労働行為救済制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労働組合法第7条の規定の実効性を担保するために設けられたものである。この趣旨に照らして、使用者が労働組合法第7条第3号の不当労働行為を行ったことを理由として救済申立てをするについては、当該労働組合のほか、その組合員も申立適格を有すると解されている。
本件は、会社が労働組合法第7条第3号の不当労働行為を行ったとして、X1個人が申し立てた事件であるところ、同人は、白河支店長から組合脱退を勧奨された(本件行為を受けた)本人であり、本件行為があった時点及び本件申立ての時点でX3の組合員であった。そうすると、本件申立時に、X1が申立適格を有していたことは明らかである。
本件申立て後、X1と共に本件申立てを行ったX4の執行委員長代理などの執行委員らが、本件申立てをしたことを理由にX3から執行権を停止され、その結果、同人らがX3を脱退してX7及びX6を結成したことを受けて、X1もX3を脱退しX6に加入するに至った。X1は、自らの意思でX3を脱退しているものの、同人がX3を脱退したのは、本件申立てを巡るX3内での対立により、共に本件申立てをしたX4の執行委員らがX3を脱退したためであり、X1は、本件申立てを維持するために、本件申立てに反対の立場をとっているX3を脱退せざるを得ない状況にあったということもできる。このような状況下において、X1が本件申立て後にX3を脱退し同組合の組合員資格を喪失したとしても、そのことをもって同人の申立適格を否定することはできないというべきである。
したがって、X1が本件申立ての申立適格を喪失したとする会社の主張は採用することはできない。

支配介入の成否

ア 白河支店長は、301111日、X1を喫茶店に呼び出し、同人がバスを回送運転中に喫煙をし携帯電話で通話したことが発覚したと伝えた上で、脱退届を出せば当該不祥事を握り潰してやるなどと話した。また、12日には、X1が自身のやったことについては処分を受けると伝えたところ、白河支店長は、転勤させられてもかばえない、5年後に組合はないと思う、組合に対して何の義理があるのか、最終的に助けてくれるのは会社であるなどと話した。このように、白河支店長は、X1の行為を会社に報告しないことと引き換えにX3の脱退届を出すようにX1に求め、同人がこれを拒否すると、同人が転勤になる可能性やX3が将来なくなる可能性を示唆するなどして同組合から脱退するよう働き掛けているのであるから、本件行為は、組合の運営に干渉し組合を弱体化させる行為であるといえる。

イ 本件行為を行ったのは、白河支店のトップである支店長である。そして、白河支店長がバスの運転手であるX1と業務上の不祥事に関して話をする中で、X1がX3を脱退しなければいけない理由について、会社がそういう方針だからなどと述べていることからすれば、白河支店長の本件行為は、会社の意を体してなされたものであったということができる。

ウ したがって、白河支店長による本件行為は、会社による組合の運営に対する支配介入に当たる。

救済の利益

ア 会社は、X1が自由意思によりX3を脱退し、X6に加入している以上、会社が同人のX4の組合員としての自主的な組合活動を阻害することなど観念し得ないとか、会社が、白河支店長、代表取締役及び常務取締役に対し処分を行い、それを受けて、X3は、本件行為を既に解決済みと位置付けるに至ったことから、集団的労使関係秩序は正常に回復されたなどとして、本件申立てに救済の利益ないし必要は認められないと主張する。
確かに、会社は、白河支店長を厳重注意とし、会社の代表取締役及び常務取締役は役員報酬を一部自主返納している。そして、X3は、中央執行委員会の見解として、本件行為について解決済みとの認識を示している。
しかし、一方で、会社とX5との団体交渉においては、会社は、白河支店長に不適切な言動が確認されたこと、会社としては適当ではないと判断したことを説明したものの、本件行為が会社による不当労働行為であったと認めていたとまではいえず、X5も団体交渉を対立により終了する旨述べていた。その後も、本件行為を受けた本人であるX1及び同人の所属するX4が本件申立てを行ったところ、会社は、本件申立てをしたX1やX4に対して、白河支店長の不適切な言動について謝罪をしたり、本件行為が会社による不当労働行為であると認めたりはしていない。
以上からすると、会社の対応やX3の中央執行委員会の見解を考慮しても、本件行為について既に解決済みであり、集団的労使関係秩序が正常に回復されたとまで断ずることはできず、そうすると、類似の行為が繰り返されるおそれがなくなったともいえない。したがって、本件申立てに救済の利益ないし必要がないとする会社の主張は採用することができない。

イ 会社は、X1がX3を脱退し任意の意思に基づいてX6に加入した以上、もはや同人は、X3組合員としての本件申立てに係る救済の利益を放棄したものと評価されてしかるべきであると主張する。
しかし、前記⑴のとおり、X1がX3を脱退したのは、本件申立てを巡る同組合内での対立により、共に本件申立てをしたX4の執行委員らが同組合を脱退したためであり、X1は、本件申立てを維持するために、本件申立てに反対の立場をとっている同組合を脱退せざるを得ない状況にあったともいえるのであるから、同人の組合脱退の事実から同人が救済の利益を放棄したと評価することはできない。
また、X1は、X3脱退後も本件申立てを維持し、救済を求めているのであるから、このことからも同人が救済の利益を放棄したとみることはできない。

ウ よって、本件申立てについて救済の利益は認められる。

救済方法

X1は、救済として、X1を含む会社従業員に対しその所属している労働組合から脱退することを働き掛けないこと並び

謝罪文の手交、掲示及び社内報への掲載を求めているが、本件不当労働行為は白河支店長がX1に対してX3からの脱退を求めたものであることから、主文のとおり命ずるのが相当である。

5 命令交付の経過

⑴ 申立年月日 令和元年1111

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年7月6日及び8月17

⑶ 命令書交付日 令和3年9月16

記事ID:044-001-20241018-009378