【別紙】D事件(平成31年不第6号事件)命令書交付について
1 当事者の概要
⑴ 申立人組合は、業種を問わず東京都三多摩地区を中心とする企業に雇用される労働者で構成する個人加入のいわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約200名である。
⑵ 被申立人会社は、テフロン製品の製造加工を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は約40名である。
2 事件の概要
平成30年7月7日、組合と会社とは、組合員?2の29年度冬季一時金について、同年度の夏季一時金17万円及び会社設立30周年記念支給等の3万5千円に加えて、5万円を上乗せするとの協定書を締結した。
8月3日、会社は、X2の30年度夏季一時金の回答において、前回(29年度冬季一時金)と同じ金額という趣旨の回答ではなく、前年度同期(29年度夏季一時金)と同じ金額という回答をした。
8月7日の団体交渉において、組合は、会社では一時金は前回の支給額を算出の基準としており、会社の30年度夏季一時金の回答が前回の29年度冬季一時金の一部として妥結した上乗せ分の支払を避けようとしたものであると述べたが、会社は、上乗せ分は一度限りの解決金であると述べた。
令和元年7月10日の同年度夏季一時金に係る団体交渉において、組合は、30年度夏季一時金から一時金として妥結した上乗せ分がどこかに消えたなどと述べた。会社は、上記協定書には上乗せ分が今後の一時金の支給額を算出する基準となる一時金であるとは書いていない、組合と会社とは認識が違うと述べた。
本件は、?会社が、平成30年度夏季一時金の回答において、前回と同じ金額という趣旨の回答ではなく、前年度同期と同じ金額という回答をするとともに、30年8月7日の団体交渉において、29年度冬季一時金に係る妥結額の上乗せ分を解決金であるとしたことは、組合との妥結の趣旨を事後的に変える支配介入、?2が組合員であることを理由とした不利益取扱い及び不誠実な団体交渉に当たるか否か、?令和元年7月10日の団体交渉における同年度夏季一時金に係る会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。
3 主 文(棄却)
本件申立てを棄却する。
4 判断の要旨
⑴ア 30年7月7日付協定書には、29年度の一時金に5万円を上乗せすることは記載されているが、翌年度以降の一時金の算出については、記載がない。
そうすると、協定書の文言から、上乗せ分が29年度冬季一時金を構成するものであり、以降の一時金の支給額を算出する基準となるとの組合の主張を認めることはできない。
イ 30年7月7日付協定書の締結に至る経緯をみると、組合が、上乗せ分も含めた一時金額を以降の一時金の支給額を算出する基準とすることを求めていたのに対し、会社が、組合の要求内容に理解を示し、持ち帰り検討するとしていたことが認められることから、組合が、上乗せ分も含めた一時金額を以降の一時金の支給額を算出する基準とするとの要求が受け入れられたものと考えたことも理解できなくはない。しかし、会社が、団体交渉において組合の要求内容に合意を示した事実は認められず、30年7月7日付協定書には、翌年度以降の一時金の算出について何らの記載もされていないのであるから、同日付協定書において、上乗せ分が、30年度以降の一時金の支給額を算出する基準となる一時金であることについての合意があったということはできない。
ウ そうすると、会社が、X2の30年度夏季一時金の支給額を算出する基準は、前回(29年度冬季一時金)でも前年度同期(29年度夏季一時金)でも同額の17万円であるとして、X2の30年度夏季一時金について前年度同期(29年度夏季一時金)と同じ17万円と回答したことは、組合との妥結の趣旨を事後的に変更したものとはいえないし、上乗せ分を反映させないために回答を変更したものであったということもできない。
また、上乗せ分が30年度以降の一時金の支給額を算出する基準となるとの合意があったとは認められない一方、上乗せ分が解決金の性格を有することがうかがわれる記載があるのであるから、30年8月7日の団体交渉において、会社が上乗せ分は解決金であると述べたことは、不当なものとはいえず、組合との交渉経過を否定するものであったということもできない。
したがって、X2の30年度夏季一時金についての会社の回答は、組合に対する支配介入及びX2が組合員であることを理由とした不利益取扱いには当たらず、同年8月7日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。
⑵ 組合は、会社が令和元年7月10日の元年度夏季一時金の交渉においても、上乗せ分を含めた金額が一時金の支給額を算出する基準となることを否定したことが不誠実な団体交渉に当たると主張する。
しかし、上記(1)のとおり、上乗せ分について、組合の主張するような合意があったといえない以上、団体交渉における見解の相違は、組合と会社との上乗せ分についての認識の違いにすぎないから、会社が上乗せ分を含めた金額が一時金の支給額を算出する基準となるとの組合の見解を否定したことは、非難されるべきことではなく、組合との妥結の趣旨を事後的に変更したものともいえない。
したがって、7月10日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たらない。
5 命令交付の経過
⑴ 申立年月日 平成31年1月30日
⑵ 公益委員会議の合議 令和3年2月2日
⑶ 命令書交付日 令和3年4月8日