【別紙】A事件(平成31年不第11号事件)命令書交付について

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【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、メガネの卸売、小売販売等を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は725名である。

令和2年10月現在、首都圏を中心に、店舗名を「Y2」として188店舗を運営している。

⑵ 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成5年12月に設立された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約650名である。

⑶ 申立外X2(以下「支部」という。)は、会社の従業員で結成され、29年9月8日、会社に結成を通知した組合の下部組織であり、対外的に「X2」と称している。

⑷ 申立外労働組合(以下「別組合」という。)は、産業別労働組合の下部組織であり、令和元年7月2日、会社に結成を通知した労働組合である。

 

2 事件の概要

平成29年9月8日、組合は、会社に対し、支部の結成を通知した。31年1月14日、組合は、会社に対し、支部組合員27名を公然化するとともに、労働協約の締結や便宜供与などを要求して団体交渉を申し入れた。

2月14日、組合と会社とは第1回団体交渉を行ったが、会社は、組合の要求は直ちには受け入れられない旨を述べた。

4月10日、組合は、会社に対し、「要求ならびに団体交渉申入書」を送付してユニオン・ショップ協定を含む労働協約の締結や便宜供与などを申し入れたところ、同月26日、会社は、組合に回答書を送付し、ユニオン・ショップ協定について、現時点において、要求に応じることはできないなどとしてこれを拒否した。

令和元年7月2日、別組合は、会社に対し、「労働組合結成通知」を送付して結成を通知した。

8月16日、会社は、別組合との間で、ユニオン・ショップ協定(第1条及び第2条)とチェック・オフ協定(第3条)を主な内容とする「基本労働協約」(以下「本件協約」という。)を締結した。

 

3 主 文 <全部救済>

⑴ 文書の交付及び掲示

要旨:二つの労働組合が併存する状況において、令和元年8月16日、別組合との間でユニオン・ショップ協定を含む本件協約を締結したことは不当労働行為であると認定されたこと。今後このような行為を繰り返さないこと。

⑵ 前項の履行報告

 

4 判断の要旨

同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者には中立保持義務があることから、使用者は、二つの労働組合から労働協約の締結を求められたときは、それぞれの労働組合について平等に尊重して対応する必要がある。

本件では、会社が別組合と締結した本件協約の主な内容が、ユニオン・ショップ協定とチェック・オフ協定であるところ、これらの協定にはそれぞれ特有の事情があることから、以下、その点も踏まえて検討する。

⑴ ユニオン・ショップ協定

ア 組合は、支部の結成後、平成31年1月14日、会社に対し、支部の結成や支部組合員の人数を通知し、一部の組合員について公然化するとともに、今後過半数組合を目指すことなども通知した上で、ユニオン・ショップ協定を含む労働協約の締結を要求したが、会社は、2月14日の第1回団体交渉では、先月組合から加入通知を受けたばかりで直ちにパートナーシップを結んでという話には容易にはならないのではないか、などと述べ、4月26日の「回答書」では、現時点において要求に応じることはできないと拒否の回答をし、その後の4回の団体交渉においても応じる姿勢を見せることはなかった。

一方、会社内に新たに別組合が結成され、令和元年7月2日に別組合がユニオン・ショップ協定を含む基本労働協約の締結を要求すると、会社は、2回の団体交渉を経て別組合の要求から約一か月半弱後の8月16日には、本件協約を締結した。

会社は、別組合に過半数の従業員が加入していることを確認して本件協約の締結に至ったと主張する。しかし、会社は、組合に対しては、加入通知を受けたばかりで直ちにパートナーシップを結ぶことにはならないなどと述べ、団体交渉を重ねてもユニオン・ショップ協定を含む労働協約の締結に応じる姿勢を見せなかった一方で、別組合とは、結成から短期間のうちに2回の団体交渉で本件協約の締結に至っており、このような、組合と別組合に対する会社の対応の違いは不自然であって、組合を疎んじて別組合を優遇する会社の姿勢がうかがわれる。

イ そして、ユニオン・ショップ協定とは、元来、当該使用者に雇用された労働者は必ず協定締結先の労働組合に加入しなければならず、当該労働組合に加入しなかったり、当該労働組合を脱退したり又は除名されたりした労働者について、その労働者を解雇することを使用者に義務付ける労働協約である。本件協約のユニオン・ショップ協定においても、第1条に「会社に雇用された従業員は次に該当する者以外は組合員とする。」と、第2条に「前条各号に定める者を除き、組合に加入しない者並びに組合より除名された者及び組合から脱退した者は、従業員の資格を失う。」と定められている。同一企業内に複数の労働組合が併存する場合に、使用者が特定の労働組合とユニオン・ショップ協定を締結しても、実際には、使用者が、ユニオン・ショップ協定を締結した労働組合とは別の労働組合に加入している従業員を同協定に基づき解雇することはできないという判例が確立しているため、本件協約が締結されることによって、組合の組合員が、会社から本件協約第2条による解雇をされるおそれがあるとはいえない。しかし、従業員は、同協定の文言上は、同協定の締結先の労働組合への加入が義務付けられることになるのであるから、同協定の締結先の労働組合は、組織率の向上を図ることができるものの、それ以外の労働組合は、新規組合員の獲得を妨げられ、組織の維持拡大に深刻な影響を受けることになる。

また、会社は、組合員以外の、別組合に加入していない非組合員や新規採用の従業員に対しても、本件協約第2条に基づく解雇を実施してはいない。しかし、別組合との間でユニオン・ショップ協定が締結されていれば、それだけで、非組合員や新規採用の従業員は、事実上、同協定により別組合への加入を促されるように受け取り、組合への加入をためらうことになるといわざるを得ないから、組合の新規組合員の獲得を阻害し、組合組織の維持拡大という組合の組織運営に深刻な影響を及ぼすものであることは明らかである。

ウ 会社は、そもそも組合は別組合とは異なり過半数組合に該当しないから締結資格を有しないし、会社が組合と異なり過半数組合である別組合と本件協約を締結したとしても中立保持義務に反しないとも主張する。

しかし、別組合が過半数組合であるか否かにかかわらず、上記イで述べたとおり、会社内に組合と別組合との二つの労働組合が併存する状況下で、会社が、別組合とユニオン・ショップ協定を締結すれば、組合の組織運営に深刻な影響が及ぶものであるといえる。そして、上記アで述べたとおり、組合と別組合に対する会社の対応の違いは不自然であって、組合を疎んじて別組合を優遇する会社の姿勢がうかがわれることも併せ考えれば、会社は、組合と別組合とを等しく尊重する対応をせず、組合を疎んじて別組合を優遇する対応を取った結果、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす別組合とのユニオン・ショップ協定の締結に至ったものとみることができ、このような会社の対応は、中立保持義務に反するとともに、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす支配介入に当たる。

⑵ チェック・オフ協定

ア チェック・オフは、労働基準法第24条第1項ただし書の規定に基づき、当該事業場の過半数で組織する労働組合との労使協定により行うものである。

組合が、会社にチェック・オフ協定の締結を求めた平成31年1月14日、組合は、今後過半数組合を目指すことを会社に通知しており、まだ過半数組合ではなかった。また、会社が別組合と本件協約を締結する日の2日前の令和元年8月14日、組合は会社に「組合加入通知書4」を送付して組合員を公然化しているが、この時も公然化された組合員は81名であり、組合は過半数組合ではなかった。

一方、別組合は、会社と本件協約を締結した時期に、組合員の加入状況が従業員の過半数を超えていると公表していた。この点について、組合は、本件協約締結当時、別組合が過半数組合でなかった可能性が高いと主張するが、本件協約締結時に会社がこのことに疑いを抱くような事情があったとまで認めることはできない。

そうすると、会社が、過半数組合に達していなかった組合とのチェック・オフ協定の締結に応じない一方、過半数組合であると公称していた別組合との間でチェック・オフ協定を締結したことは、労働基準法第24条第1項ただし書の規定に沿った対応であるということができる。

イ しかしながら、上記⑴のとおり、会社内に組合と別組合との二つの労働組合が併存する中で、会社は、ユニオン・ショップ協定を含む本件協約の締結に当たり、組合に対しては、加入通知を受けたばかりで直ちには応じられないとして、その後団体交渉を重ねてもその姿勢を変えなかったが、一方の別組合とは、短期間に2回の団体交渉で本件協約を締結するなど、二つの組合を等しく尊重せず、組合を疎んじて別組合を優遇する対応を取ることにより、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす別組合とのユニオン・ショップ協定の締結に至ったものである。そして、チェック・オフ協定も、ユニオン・ショップ協定と併せて交渉が行われ、同時に、本件協約の一部として締結されている。

したがって、ユニオン・ショップ協定とチェック・オフ協定とを含む本件協約の締結は、一体の行為とみるのが相当であり、チェック・オフ協定についてみれば労働基準法第24条第1項ただし書の規定に沿った対応であったとしても、会社が、組合を疎んじて別組合を優遇する対応により、組合の組織運営に深刻な影響を及ぼす本件協約を締結したことは、チェック・オフ協定の締結も含めて組合の組織運営に対する支配介入に当たるというべきである。

ウ なお、会社は、本件申立て後の9月30日、組合に対し、「貴組合との間でチェック・オフ協定締結に応じる準備がございます。」との申入れを行ったけれども、組合が応じなかったと主張するが、この申入れは、組合が本件を申し立てた後の事実であるから、上記判断を左右しない。

⑶ 結論

以上のとおりであるから、会社内に組合と別組合との二つの労働組合が併存する状況において、会社が、二つの組合を等しく尊重せず、組合を疎んじて別組合を優遇する対応により、令和元年8月16日、別組合との間でユニオン・ショップ協定を含む本件労働協約を締結したことは、組合の組織ないし運営に対する支配介入に当たる。

 

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日 平成31年2月12

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年1019

⑶ 命令書交付日 令和3年12月9日

記事ID:044-001-20241018-009387