【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 被申立人粟野興産株式会社(以下、「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、建築資材の生産及び販売などを行っている株式会社である。昭和41年に創立され、本件申立時の従業員数は156名である。

⑵ 申立人プレカリアートユニオン(以下、「組合」という。)は、雇用形態に関係なく、労働者が企業の枠を越えて個人で加入できるいわゆる合同労組である。平成24年に結成され、本件申立時の組合員数は350名である。

 

2 事件の概要

平成2411月、Xは、営業職を希望して会社に入社した。その後、Xは会社の関連会社への出向を2度経た後、28年1月、関連会社の申立外Y社へ出向となった。

10月、Y社及び会社は、業務懈怠を理由として、Xを解雇した(以下「Y社での解雇」という。)。同月、Xは、宇都宮地方裁判所(以下「宇都宮地裁」という。)に、解雇無効の確認などを求める労働審判を申し立て、29年1月、この労働審判は訴訟へと移行した。

29年2月、Y社及び会社は、XのY社での解雇を撤回し、会社は、同人に対して会社の工場への出勤を命じた。5月22日、Xは、工場へ出勤し、砂利や砕石から異物を除去する作業に従事した。また、5月24日、当時Xが加入していた申立外Z組合と会社とは、Xについて団体交渉を行った。なお、5月25日、Xは作業中に転倒し、翌日以降は出勤しなかった。

6月、Xは、宇都宮地裁に、同人が工場において工場生産業務を行う義務がないことなどを仮に定めることを求めて、賃金仮払等仮処分命令の申立てをしたが、宇都宮地裁は1130日、同申立てを却下し、30年3月30日、東京高等裁判所はXの抗告を棄却した。

30年4月17日、会社は、Xに対し、解雇予告通知書を送付した。この通知書には、10か月以上の欠勤などを理由として、5月31日付けでXを解雇する旨が記載されていた。

4月24日、Xは、Z組合を脱退し、組合に加入した。同日、組合は、会社に対し、Xの解雇撤回等を議題とする団体交渉を申し入れた。

4月26日、Xは、栃木県労働委員会に、解雇撤回などを救済内容とする不当労働行為救済申立てを行った。

5月16日、組合と会社とは、5月31日付解雇の撤回等を議題とした団体交渉を行ったが、5月31日、会社は、4月17日の解雇予告どおり、Xを解雇した。

31年3月4日、組合は会社に対して再び団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉申入れ」という。)が、会社は応諾しなかった。

本件は、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

 会社は、組合が平成31年3月4日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

 

4 判断の要旨

⑴ 会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。

ア 会社は、組合の全ての質問や要求は既に第1回団体交渉や係属中の訴訟等において回答済みであり、また、長期間、数々の訴訟と労働委員会の手続等で争われており、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団体交渉を継続する余地はなくなっていた以上、団体交渉拒否の正当理由があると主張する。

しかしながら、訴訟と不当労働行為審査手続と団体交渉とは、各々その目的や機能を異にするものであり、訴訟や労働委員会の手続の中で説明資料等が提出されたからといって、団体交渉において誠実に説明する労働組合法上の義務が消滅するわけではない。 

また、訴訟等が係属していたとしても、別途、団体交渉において紛争を解決する余地がないとはいえず、団体交渉において双方が説明や主張を尽くした上で交渉が行き詰まりに達したといった事情がない限り、訴訟等における状況のみから、団体交渉を継続する余地がなくなったということはできない。そこで、本件団交申入書の議題に係る第1回団体交渉の状況等を検討する。

イ 本件団交申入書の議題のうち、平成30年5月31日付解雇に係る議題は、Xの雇用契約上の地位の得喪に係るもので特に重要な労働条件であるところ、第1回団体交渉において、組合は直近の大きな問題は雇用に係る重大な問題であると述べ、会社も問題は解雇であると述べていることから、双方ともに議題の中でも解雇が特に重要な議題であると認識していたといえる。

     しかし、会社は、5月31日付解雇について、Xが工場で働く前の勤務態度も解雇に関係していることや、工場で10か月の無断欠勤をした経緯などを全て踏まえた上での解雇であるなどと説明はしているものの、組合が解雇理由の一つである勤務態度について具体的な事実を聞きたいと求めたのに対して、過去の裁判の書面にまとめてあるのでそれを読んでほしいなどと述べるにとどまり、具体的に説明をしていない。特に重要な解雇という議題の中で、基本的な情報である解雇理由に関して、具体的な説明をせずに裁判の書面を確認するように回答するだけでは、会社が組合に対して相応の説明をしていたと評価することはできないといわざるを得ない。

    加えて、第1回団体交渉における5月31日付解雇についての交渉は、解雇理由のやり取りにとどまっており、上記のとおり、双方が重要な議題であるとの認識を共有したものの、具体的な問題の解決に向けた協議に入った形跡はないから、双方が説明や主張を尽くした上で交渉が行き詰まりに達したということはできず、むしろ、まだ実質的な交渉に入る前の段階であって、今後交渉を継続する余地が残されていたとみるのが相当である。

  ウ そして、本件団交申入書のその他の議題についてみると、椎間板ヘルニアに罹患しているXに異物除去作業の就労が可能であると判断した根拠について、会社は、第1回団体交渉において、Xが椎間板ヘルニアであるという話を聞いたため、医師の意見を聞いた上で、工場での異物除去作業が可能であるとの判断をしたなどと説明し、3月12日付回答書でも更に具体的な説明をしており、会社は相応の説明をしていると評価することができる。

      また、Xが過積載等を指摘したことにより同人に台貫業務をさせず、5月7日付休職命令を出した理由について、会社は、第1回団体交渉において、Xが会社に過積載の疑いを抱いており、台貫業務をすると現場でトラブルになる可能性があったので、工場に配転したことを説明したが、組合は、それについての議論に入らずに、Xの労働条件と直接の関係はない過積載や名義貸しの有無自体の追及を繰り返しており、本件団交申入書においても、組合は、会社が過積載や名義貸しを行っていないとする理由及び根拠の回答を議題に挙げている。しかし、過積載及び名義貸しの有無それ自体を団体交渉において議論することは、必ずしも適切とはいい難いといわざるを得ない。

    一方、Xの本件転倒以降の休職についての会社の認識を求める議題について、会社は、Xが本件転倒による労災が原因で休んでいたという認識はないことなどを説明しているが、この議題は、5月31日付解雇の解雇理由に関連する議題でもあり、上記説明をもって、今後の交渉の余地がなくなったとはいえない。

     また、5月7日付休職命令に係る議題について、会社は、第1回団体交渉において、@休職期間中の賃金は就業規則第15条に基づき支給しない、A工場への配転が無効であるとのXの主張が同人の出社しない理由であると考え、同人に出社しない理由を聞かなかった、B休職命令を出したのは、Xの健康状態のみが理由ではなく、あらゆる営業の仕事をまともに行わなかったことが一番の理由であるなどと一定の説明を行っている。しかし、5月7日付休職命令については、それまで訴訟等で直接問題になったことはなく、また、この議題も5月31日付解雇の解雇理由に関連するところがあることも考慮すると、第1回団体交渉のやり取りをもって、今後の交渉を継続する余地がなくなったということはできない。

第1回団体交渉における発言等に係る議題は、本件団交申入書において新たに追加された交渉事項であるから、交渉が尽くされているということはできない。

エ 結論

      以上のとおり、本件団体交渉申入書の議題の中には、会社が相応の説明を行っているものや、議題とすることが適切とはいい難いものもあるが、労使双方が重大な議題であるとの認識を共有している5月31日付解雇に係る議題は、第1回団体交渉では実質的な交渉に入っておらず、今後交渉を継続する余地があったということができる。加えて、その他の議題についても、会社が一定の説明を行っていることは認められるものの、今後の交渉の余地がないとまではいえず、また、いずれの議題も5月31日付解雇に係る議題との関連がないとはいえないことなどを考慮すると、本件団体交渉申入書の議題については、全体として、交渉が行き詰まりに達していたとはいえず、団体交渉を継続する余地が残されていたというべきである。

    ところで、組合は、第1回団体交渉の前後に、会社の取引先や取引銀行に対し、会社が過積載や名義貸し等の違法行為及び不当配転や不当解雇等を行っている旨記載した文書を送付する一方、第1回団体交渉から約10か月後の31年3月4日まで、第2回団体交渉の申入れを行っていない。本件において、会社に対してではなく、その取引先や取引銀行に対する働き掛けは、労働組合の情宣活動としてはやや行き過ぎの面もあり、会社が組合の対応に不信感を抱くのも無理からぬところがある。加えて、第1回団体交渉の終了間際にA委員長が「じゃあもう全面的にこのまま、全面紛争ですね。我々の組合とも。」などと述べていたこと、組合が第1回団体交渉から約10か月団体交渉申入れを行っていなかったことなどを考え合わせると、会社が、組合との団体交渉の継続はもはや困難であると考えるのも理解できなくはない。

    しかし、組合の情宣活動に必ずしも適当とはいえないところがあったとしても、団体交渉の開催に支障が生じるような事情であったとまではいえない。また、第1回団体交渉から本件団体交渉の申入れまでに約10か月間の期間があったとしても、その間、訴訟手続等のXをめぐる労使間のやり取りは行われていたのであり、本件交渉申入れが時機に遅れたものであるということはできない。

     したがって、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

  支配介入について

上記のとおり、会社が第2回団体交渉に応じなかったことは正当な理由のない団体交渉拒否に当たるが、第1回団体交渉において会社が一定の説明を行っていたと認められることなども考慮すると、会社が団体交渉に応じなかったことが組合の弱体化を企図した支配介入にも当たるとまではいえない。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成31年3月25

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和3年1月19

 ⑶ 命令書交付日(発送)令和3年3月10