【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人両組合は、全国の港湾の荷役、検定等の港湾事業に従事する労働者を組織する労働組合の連合体で、いわゆる産業別労働組合である。

⑵ 被申立人法人は、全国の港湾運送事業法に基づく許可を受けた港湾運送事業者及び関連事業者を会員とする事業者団体である。

   

2 事件の概要

申立人両組合(以下両組合を併せて「組合」という。)は、毎年度、被申立人法人と産業別最低賃金(最低賃金法に基づく特定最低賃金のことではなく、組合と法人との労働協約に基づき、法人に加盟する使用者と同使用者に雇用される港湾労働者との間に適用される最低賃金のことである。)について、団体交渉を行い、労働協約を締結してきた。

平成28年度以降、法人は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に抵触するおそれがあるとして、団体交渉において産業別最低賃金について回答しなくなった。組合は、公正取引委員会(以下「公取委」という。)事務局との面談や、中央労働委員会(以下「中労委」という。)のあっせんなども経て、産業別最低賃金について団体交渉を行うことは独禁法に抵触しないとして法人に回答を要求したが、法人は、これを拒否し続けた。

本件は、法人が、産業別最低賃金に関する団体交渉について、独禁法に抵触するおそれがあるとして、組合の要求に回答しないことは、正当な理由のない団体交渉の拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文(一部救済)

⑴ 法人は、組合が平成31年2月19日付けで申し入れた産業別最低賃金に関する団体交渉について、独禁法に抵触するおそれがあるとの理由で回答を拒否してはならず、誠実に応じること。

⑵ 文書交付(要旨:産業別最低賃金に関する団体交渉において、法人が独禁法に抵触するおそれがあるとの理由で回答を拒否したことは、不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前項の履行報告

⑷ 平成31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ての却下

 

4 判断の要旨

⑴ 組合は、平成30年2月7日付団体交渉申入れに対し、法人が同月19日に会員に文書を交付したことは本件申立てよりも1年以上前であるが、申立て前1年以内の団体交渉と一連の継続する行為に当たることから、本件審査の対象となると主張する。

しかし、団体交渉の申入れや団体交渉は、その都度別個の行為であり、同様の行為が続いているからといって、全体を一つの継続する行為とみることはできない。

したがって、組合の主張は採用することができず、本件申立てより1年以上前の31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ては、却下せざるを得ない。

 ⑵ア 法人は、産業別最低賃金の団体交渉に応ずることは、公取委が公表している資料に記載されているホームヘルパーの事例と同様に、事業者団体の会員企業の賃金を決めることによって、会員企業のサービス提供料金に目安を与えるおそれがある場合に当たり、独禁法に抵触するから、産業別最低賃金の団体交渉には応じられないと主張する。

    しかし、産業別最低賃金を決めることが、上記事例のサービス提供料金の目安を与えるおそれがある場合に直ちに該当するとはいい難く、実際、同様の見解が官公庁等から指摘されたりした事実は認められない。

  イ 法人は、国交省から指摘があった、また公取委に関係する弁護士に相談したら独禁法に抵触するおそれがあるとの見解が示されたとも述べているが、そもそも国交省の指摘は、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に関するもので、発言者や発言内容も明らかではないし、法人が相談した公取委に関係する弁護士の見解についても、具体的な情報は何ら明らかにされていない。

  ウ 組合は公取委事務局に面談に行き、法人が産業別最低賃金について回答することは一般論では独禁法の問題とはならないとの見解を得ており、組合は、そのことを法人に説明している。

    そして、30年2月15日付けで公取委の競争政策研究センターが公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」には、「労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も、原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。」と記載されており、この記載から、中労委は、あっせん案において、産業別最低賃金の団体交渉が独占禁止法上の問題とはならないと解されることを指摘しているところである。

 エ  組合は、長年にわたり、ほぼ毎年度、産業別最低賃金に係る労働協約を締結してきた経緯があることに加え、公取委事務局の見解や、「人材と競争政策に関する検討会報告書」を踏まえた中労委のあっせん案をも根拠として、法人に対し、産業別最低賃金の要求に係る回答を求めたのであるから、組合の要求には相応の理由があるということができる。

    これに対し、法人が、独禁法に抵触するおそれがあるとして回答を拒否した根拠は、産業別最低賃金の要求に直ちに該当するとはいい難いホームヘルパーの事例に係る公取委の見解や、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に係る発言者や発言内容の明らかでない国交省の指摘、及び立場や氏名が具体的に明らかでない弁護士の見解だけであり、これら以外に独禁法に抵触する可能性について、官公庁から指摘を受けたことも、公取委が調査を開始した等の事情も認められない。

    そうすると、法人が産業別最低賃金の要求に係る回答を拒否し、ひいては、産業別最低賃金に関する団体交渉を拒否したことに、正当な理由があったということはできない。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     令和2年2月10

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年7月20

⑶ 命令書交付日    令和3年8月18