【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「X1」という。)は、会社の従業員であったが、会社から解雇通知を受け、令和3年6月に申立外Z1組合(以下「組合」という。)に加入した。なお、組合は、東京都内に事務所を置く、いわゆる合同労組である。

⑵ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、老人ホームの運営等を業とする株式会社である。

 

2 事件の概要

 X1は、同僚への暴力行為等を理由に会社を解雇されたため組合に加入し、令和4年6月21日、組合は、会社に対し、X1の解雇問題等を協議事項として団体交渉を申し入れた。

7月28日に団体交渉が開催された。団体交渉においてX1が、会社の代理人のY2弁護士及びY3弁護士に対し、会社からの委任状の提示を求めたところ、両弁護士は応じなかった。その後、解雇問題の協議は進展せず、組合のZ2書記長とY2弁護士は、改めて、8月10日に組合役員とY2弁護士にて事務折衝を行うことで合意に至り、7月28日の団体交渉は終了した。

7月29日、X1はZ2書記長に対し、8月10日事務折衝にX1及びX1が委任したX2弁護士が出席することを求めた。しかし、Z2書記長はX1の要求に応じず、X1と組合役員らが対立する状態となった。

7月30日、組合の代理人として選任されたZ3弁護士は、X1に対し、組合は、8月10日事務折衝にX1とX2弁護士が出席することは受け入れるが、組合の役員は出席しないこと、また、事務折衝がどのような結果となっても、それ以後は組合として一切関与しないことなどを通知した。

これを受けてX1が、Y2弁護士に対し、8月10日事務折衝にはX1とX2弁護士のみが出席する旨を伝えたところ、Y2弁護士は、X2弁護士に対し、X1らとの事務折衝には応じない旨を通知した。

本件は、以下の点がそれぞれ争われた事案である。

⑴ X1には、下記争点⑵及び争点⑶に係る本件不当労働行為救済申立てにおいて、申立適格が認められるか。

⑵ 令和3年7月28日の団体交渉において、会社は、交渉権限のない弁護士による交渉を行ったか。交渉権限のない弁護士による交渉を行ったといえる場合、そのことは不誠実な団体交渉に当たるか。また、上記団体交渉において、出席した2名の弁護士が会社からの委任状を提示しなかったこと及びその他会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか。

⑶ 上記団体交渉に出席したY2弁護士が、X2弁護士に対し、X1らとの事務折衝には応じない旨を通知したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか。

 

3 主文の要旨 <却下>

  本件申立てを却下する。

 

4 判断の要旨

⑴ 労組法は、第7条第2号において、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁じ、不当労働行為救済制度をもって、団体交渉権の保護を図っている。

  そして、労働者が団結し、その代表者を通じて組合員の労働条件等を交渉し、労使の合意達成と労働協約の締結を目指す団体交渉の性質からすれば、団体交渉の主体となる当事者は労働組合である。

  労組法第7条第2号の不当労働行為については、このように団体交渉権がその性質上は集団的に行使され、団体交渉の主体は労働組合であること、そして団体交渉の機会の喪失という労働組合が受けた被害についての救済がなされるべきことからすれば、不当労働行為救済制度により救済を求めることができる者は、労働組合に限られるというべきである。

この点、X1は、組合から団体交渉における交渉権限の委任を受けているとして、本件の申立適格を有することを主張するようである。しかし、たとえX1が組合から団体交渉における交渉権限を付与されていたと評価できたとしても、そのことは、いわゆる交渉担当者として会社と交渉する権限が与えられたにとどまるものであり、労組法第7条第2号の使用者の行為に係る不当労働行為救済申立てを行う権限が同人に承継されたと解することは困難である。

よって、X1個人によりなされた本件不当労働行為救済申立ては、申立適格を欠く不適法なものであり却下を免れない。

⑵ 上記判断のとおり、X1は本件の申立適格を有せず、本件申立ては却下を免れない。よって、その余の争点については判断を要しない。

 

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和4年4月22

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年3月7日

⑶ 命令書交付日    令和5年4月14