【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1は、肩書地に事務所を置き、東京地域、東京圏内の労働者が職種や業種、雇用形態に関わらず加盟し、一般産業及び中小企業の労働者の労働条件向上を目的とする労働組合であり、本件申立時における組合員数は約4,400名である。

⑵ 申立人X2は、肩書地に事務所を置き、東京都及び周辺地域の労働者を対象とし、職種や業種、雇用形態に関わらず加盟する個人加盟組織の労働組合であり、本件申立時における組合員数は約1,400名である。

⑶ 被申立人Y(以下「会社」という。)は、昭和40年に設立され、肩書地に本社を置き、ジェネリック医薬品の製造、販売等を行う株式会社であり、平成24年6月1日、申立外C5会社を吸収合併した。本件申立時における従業員数は約2,000名である。会社には、別組合として、申立外C6組合がある。

 

2 事件の概要

X3は、平成9年に申立外C1会社に入社した。10年、X3は、申立人X1及び同X2(以下、特に区別する場合を除き、併せて「組合」という。)に加入した。

X3の入社以降、C1会社は、1710月、申立外C2会社と合併し、その後、21年6月、C2会社は、申立外C3会社、同C4会社とともに新設合併し、同C5会社が設立された。

24年6月1日、被申立人会社は、C5会社を吸収合併したため、同日以降、X3を含むC5会社に所属していた従業員は、会社に所属することとなったが、退職金制度についてはC5会社の制度が承継されることとなった。

令和2年6月26日、1030日及び1127日、組合と会社とは、X3の退職金等を議題とする団体交渉を開催したが、組合は、会社が資料を提示せず、具体的な回答をしなかったとして、3年1月15日、当委員会に対し、あっせんを申請(3争5)した。あっせんは、3月18日付けで打切りとなった。

本件は、@X3の退職金に関する団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点1)、A3年3月18日のあっせん期日における会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)が争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <棄却命令>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ 争点1について

ア X3に会社の退職金規程が適用されないことの説明について

組合は、会社が、C5会社に所属していたX3に会社の退職金規程が適用されない理由を誠実に説明していないと主張する。

しかし、第2回団体交渉では、C5会社の退職金規程をX3に適用することが不利益であるとの前提に立ち、X3がC1会社に入社した当初から会社で勤務していると仮定した勤続年数を用いて、会社の退職金規程をX3に適用して支払うべきという組合の要求に対し、会社は、C5会社の退職金規程が会社の退職金規程よりも不利益ではないことについて、3社制度統合の経緯に触れるなどして説明したといえるし、組合が要求する遡及適用は退職金制度の性質上困難である旨を、X3の勤続年数を具体的に用いたり、会計処理や年金基金の掛金負担に触れたりするなどして説明し、また、税制面での従業員への配慮にも触れるなどして、C5会社の退職金規程が本件吸収合併後も承継されていることにつき相応の説明をしたといえるから、X3に会社の退職金規程が適用されない理由を説明したといえる。

また、第3回団体交渉でも、会社は、X3に会社の退職金規程が適用されないこと及びその理由を改めて説明しているから、組合の要求に応じた相応の説明をしていると評価することができる。

以上のとおりであるから、X3に会社の退職金規程が適用されないことについて、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

イ 第3回団体交渉における根拠規定の提示要求に係る会社の対応について

組合は、会社が第2回団体交渉から約1か月の期間があり、根拠規定の有無や内容を調査する時間があったにもかかわらず、第3回団体交渉でも、会社は根拠資料を提出せず、誠実に回答しなかったと主張する。

確かに、会社は、第2回団体交渉で根拠規定について組合から要求されながら、その後の第3回団体交渉においても回答や提示をしておらず、このような会社の対応に問題がないとはいえない。

しかし、組合の根拠規定に関する要求は、組合の当初からの要求である、会社の計算根拠に基づくX3の実際の退職金額と組合の要求に応じて会社が行った試算額との間に200万円を超える差額があることをもって不利益と主張し、かかる不利益を是正するために会社の退職金規程を適用せよという要求から派生した要求といえるところ、会社は、不利益ではないことについては、3社制度統合の経緯に触れるなどして十分説明したといえるし、X3の退職金の算出に適用される退職金規程についても、第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、C5会社の退職金規程が本件吸収合併後も消滅することなく会社に承継され、本件吸収合併によって会社に所属することとなったC5会社出身の従業員に適用されることにつき相応の説明をしており、C5会社の退職金規程がX3に適用される根拠を説明しているから、この説明により会社の規程がX3に適用されないことを説明したということができ、X3に会社の退職金規程を適用すべきである旨の組合の要求に対して相応の対応をしたと認められる。

会社は、団体交渉においてこのような対応をした上で、第3回団体交渉後の1225日、組合に対し、本件吸収合併に伴い労働契約は承継されているため、それまでC5会社で適用されてきた退職金規程が現在でも当然に適用されることを記載した「回答書」を送付して、会社の団体交渉における説明を補足しており、事後的とはいえ、組合の理解を得ようとする姿勢を示している。この「回答書」の記載は、組合の根拠規定の要求に対するより直接的な回答といえ、このような説明を団体交渉において行っていれば会社の対応としてはより望ましかったといえようが、上記のとおり会社は組合の要求に対して相応の説明をしていることも併せれば、このことをもって会社の対応が誠実性を欠くとまではいえない。

しかも、第3回団体交渉の経過をみると、C5会社及び会社の退職金規程の成立経緯や内容については、会社が相当程度発言しているものの、根拠規定の開示要求に関しては、組合側が連続してほぼ一方的に発言しており、その発言内容も、根拠規定の開示を要求しつつそれに続けて埼玉工場における従業員過半数代表の選出に関する資料も要求する、という流れの発言が繰り返され、結局、上記過半数代表の選出に関する資料要求の発言が最後になされ、これに対して会社が「確認します。」と回答したものといえる。この発言の流れからすれば、会社が根拠規定の提示要求に対して特に発言しなかったことも不自然とはいえない。

したがって、組合の上記主張は採用することができない。

⑵ 争点2について

組合は、あっせん期日において、会社があっせん員に対して「団体交渉に、この問題で、応じる考えはない」と発言したと主張する。

しかし、組合が、第3回団体交渉終了後から第1回あっせん期日までの間に団体交渉の申入れをした事実は認められないし、あっせん期日において、会社が同手続に係る会社の見解をあっせん員に伝えたとしても、組合の団体交渉申入れに対する直接の意思表示ではなく、そのような会社の言動をもって、同社が正当な理由なく団体交渉を拒否したということはできない。

したがって、3月18日のあっせん期日における会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たらない。

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日            令和3年5月7日

⑵ 公益委員会議の合議     令和5年8月22

⑶ 命令書交付日           令和5年1012