当事者の概要

(1)  申立人 X1(以下「組合」という。)は、○○○○○○○の配達員(以下「配達パートナー」という。)18名が、令和元年103日に結成した労働組合であり、本件申立時の組合員数は30名である。

(2)  被申立人 Y1(以下「Y1」という。)は、平成241130日に設立され、○○○○○○○事業(後記2(2))に関する業務を行う株式会社である。

Y1は、被申立人 Y2(以下「Y2」といい、「Y1」と併せて「会社ら」という。)から委託を受けて、○○○○○○事業における広報・法務・契約業務、配達パートナーの登録手続・教育、アカウントへのアクセス停止措置(以下「アカウント停止措置」という。)の運用、パートナーセンターの運営、サポートセンターの運営などの業務を行っていた。

なお、パートナーセンターは、配達パートナーの登録手続等を行っている。サポートセンターは、配達パートナーをサポートする役割を担っており、アプリに不具合があった場合や、アプリの使い方が分からない場合、トラブルが発生した場合などの対応を行っている。

31月以降は、Y1が受託していた業務の一部を、Y2が所管することになったが、その際、両社間の業務委託契約の内容は変更されていない。

Y1の231日時点の従業員数は115名、311日時点の従業員数は59名、421日時点では125名であった。

(3)  被申立人Y2は、元年1029日にY2´として設立された合同会社であり、日本における○○○○○○事業の運営主体である。261日に商号をY2に変更した。

本件申立時、Y2´は、申立外 B1(以下「B1」という。)と共に配達パートナーや飲食店と契約を締結し、○○○○サービスの提供・あっせん、契約条件、サービス手数料及び推奨配送手数料の決定並びにこれらの代金の決済業務、アピージング費用(後記4⑴エ()(8))の支払、アカウント停止措置の判断基準の決定、アプリの表示に関する決定、「配達パートナーガイド」の作成などの業務を行っていた。

31月以降は、Y1に委託していた登録飲食店拡大のための営業計画とその実施、利用者拡大のための広告戦略の立案とその実施、配達パートナー確保のための広告戦略の立案とその実施、マーケティングの業務を、これに加えて所管するようになった。

Y2の311日時点の従業員数は59名、421日時点では95名であった。

(4)  申立外 B2(以下「B2」という。)は、平成213月に設立され、アメリカ合衆国に本拠を置き、アプリとシステムの技術を開発し、世界各地で事業を展開しており、Y1及びY2の親会社である。

(5)  申立外 B3(以下「B3」という。)及びB1は、オランダに所在しオランダ法に基づき設立された有限責任会社である。

B3は、B1に対し、○○○○○○○のアプリのライセンスを付与している。

本件申立時、B1は、Y2´に対し、○○○○○○○のシステムの一部を再許諾していた。

そして、B1は、Y2´と共に配達パートナーと契約を締結し、配達パートナーにアプリの利用権を付与し、Y2´が、アプリ上で利用者間のマッチングを行っていた。

(6)  以上のとおり、日本の○○○○○○○事業は、Y2を運営主体とするが、親会社であるB2のほか、B1、Y1及びB3が同事業に関わっており、本命令書において、その主体が明確に区分できない場合には、これらの会社を総称して便宜上「B」と呼ぶこととする。

 事件の概要

Y2は、日本において、アプリ上で、飲食店と料理等(以下「飲食物」という。)を注文する人(以下「注文者」という。)と飲食物を注文者に配達する配達パートナー(これら三者を併せて、以下「利用者」という。)とを結び付ける事業(以下、「○○○○○○○事業」というが、単に「○○○○○○○」ということがある。)を運営している。

○○○○○○○事業では、アプリで注文者が飲食店に飲食物を注文し、飲食店がその注文に応ずると、配達パートナーに配達リクエストが送信され、マッチングが行われる。

配達パートナーがアプリ上で配達リクエストに応じると、配達パートナーは飲食店に移動し、飲食物を受け取り、注文者に配達することとなる。

令和元年103日、配達パートナーら18名は、組合を結成し、同月8日、組合は、Y1に対し、組合結成を通知し、事故の際の配達パートナーに対する補償等について団体交渉を申し入れた(以下「108日付団交申入れ」という。)

これに対し、Y1は回答せず、1018日、B1は、組合に対し、配達パートナーはY1ではなくB1と契約を締結している個人事業主であり、労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者ではないので団体交渉には応じられないと回答した。

1029日、Y2´が設立された。

1125日、組合は、Y2´に対し、事故の補償や報酬引下げ等について団体交渉を申し入れた(以下「1125日付団交申入れ」という。)

124日、Y2´は、組合に対し、配達パートナーは労組法上の労働者ではないとして団体交渉を拒否した。

本件は、@配達パートナーが、労組法上の労働者に当たるか否か、AY1は、配達パートナーである組合員との関係で労組法上の使用者に当たるか否か、B108日付団交申入れに対しY1が応じなかったこと及び1125日付団交申入れに対しY2´(現Y2)が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かがそれぞれ争われた事案である。

 主 文 <全部救済>

(1)  Y1は、組合が令和元年108日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

(2)  Y2は、組合が令和元年1125日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

(3)  文書交付及び掲示

 判断の要旨

(1)  配達パートナーが労組法上の労働者に当たるか否かについて(争点1)

   労働者性の判断枠組み

(ア)   ○○○○○○○事業は、飲食店と、飲食物を注文する注文者と、配達パートナーとをアプリ上で結び付け、飲食店が提供する飲食物を注文者に届けるサービスである。

したがって、飲食物を配達する業務は、○○○○○○○事業において不可欠の業務といえる。

この配達業務のほとんどは、配達パートナーが行っている。

配達パートナーは、面接も試験もなく、簡便な手続により登録された不特定多数の個人であり、必ずしも配達業務を本業としない者が事業に不可欠の業務を担うことになるとともに、当該業務を円滑かつ安定的に遂行することが○○○○○○○事業の維持、展開にとって必要であることから、Bは、配達パートナーに配達の手順を具体的かつ詳細に記載した配達パートナーガイドを交付し、配達パートナーは基本的にこれに従って業務を遂行していることが認められる。

本件では、このようなプラットフォーム(:「シェア事業者」と呼ばれる企業が、個人同士をインターネット上で結び付けるシステム)を利用して業務を遂行する配達パートナーの労働者性が争点となっている。

(イ)   会社らは、配達パートナーは○○○○○○○事業における「顧客」であって、その労働力を会社らが利用しているわけではないとして、配達パートナーの労働者性を判断するに当たり、労組法上の労働者性の判断基準が適用される余地はない旨主張する。

確かに、○○○○○○○事業においては、契約上、Bは、配送サービスやデリバリー等のサービスを提供するものではなく、利用者(注文者、飲食店及び配達パートナー)にプラットフォームを提供するものであり、飲食物の販売については、注文者と飲食店との間で直接取引が行われ、飲食物の販売に配送が伴う場合は、飲食店と配達パートナーとの間で配送に係る直接的な取引関係が生じるとされており、配達パートナーがB1及びY2に対して労務を提供する関係とはなっていない。

しかし、労組法は、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」を目的の一つとしている(1)

この労組法の趣旨及び性格からすれば、同法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(3)に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。

(ウ)   本件において、飲食店と配達パートナーとのマッチングが成立すると、契約上、配達業務については、飲食店と配達パートナーとの間の直接的な取引関係となるところ、実際には、上記()のとおり、Bは配達パートナーに配達パートナーガイドを交付し、一定の禁止行為を定めてこれに反した場合はアカウント停止措置を行うことを示唆ないし警告し、時には実際にアカウント停止措置を行い、配達業務を正しく遂行することが困難と判断した場合には配達パートナーとの○○○○サービス契約を解消することを示唆し、トラブル発生時にはY1が運営するサポートセンターがその対応に当たるなどしている。

こうした事実からすれば、配達パートナーが、○○○○○○○事業の不可欠の業務である配達業務を円滑かつ安定的に遂行できるよう、Bが、当該業務の遂行に様々な形で関与しているとみることができる。

配送料についても、契約上は、飲食店が配達パートナーに支払う形となっているものの、実際は、Y2が代理権限に基づいて注文者から受領し、自らが得るサービス手数料を差し引いて配達パートナーに支払っている。

(エ)   このように、Bは、配達パートナーに対し、プラットフォームを提供するだけにとどまらず、配達業務の遂行に様々な形で関与している実態があり、配達パートナーは、そのようなBの関与の下に配達業務を行っていることからすると、本件において、配達パートナーが純然たる「顧客」(プラットフォームの利用者)にすぎないとみることは困難であり、配達パートナーが、○○○○○○○事業全体の中で、その事業を運営するBに労務を供給していると評価できる可能性のあることが強く推認される。

そうすると、シェアリングエコノミー上のプラットフォームを提供する事業であっても、その実態において、利用者がシェア事業者に対して労務を供給していると評価できる場合もあり得るのであるから、配達パートナーの労働者性を判断するに当たり、会社らは配達パートナーの労働力を利用しているわけではないから労組法上の労働者性の判断基準が適用される余地はないとの会社らの主張は、採用することができない。

したがって、上記の点を踏まえつつ、本件における配達パートナーが労組法上の労働者に当たるか否かについては、労組法の趣旨及び性格に照らし、会社らと配達パートナーとの間の関係において、労務供給関係と評価できる実態があるかという点も含めて検討し、イ)事業組織への組入れ、ウ)契約内容の一方的・定型的決定、エ)報酬の労務対価性、オ)業務の依頼に応ずべき関係、カ)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、キ)顕著な事業者性等の諸事情があるか否かを総合的に考慮して判断すべきである。

   事業組織への組入れ

(ア)  契約の目的

配達パートナーがB1及びY2と締結する○○○○サービス契約の契約書の頭書には、配達パートナーに対し、○○○○サービスの提供をあっせん及び促進するとあり、同契約の目的は、同社らが提供するプラットフォーム上で配達パートナーに○○○○サービスを提供することにあるといえる。

一方で、上記アのとおり、○○○○○○○事業には飲食物を配達する業務が不可欠の業務であり、配達パートナーはBの関与の下に配達業務を行っていること、そして、配達業務のほとんどは配達パートナーが担っていることからすれば、同契約は、プラットフォームでのマッチングを迅速かつ確実に成立させるために配達業務のほとんどを担う配達パートナーを確保するという目的も有しているとみることができる。

(イ)  組織への組入れの状況

○○○○○○○事業において、アプリ上で注文を受けた後、注文者に飲食物を配達することを要しないケースはごく僅かであり、配達パートナーが飲食物を注文者に配達する割合は、注文全体のうち99%を占める。

そして、配達リクエストの件数は、多い時で週当たり270万件に及んでいる。

配達リクエストに対し、配達パートナーが応諾した割合は、本件申立時には約70%、令和3510日に応答時間が60秒間から30秒間に変更されて以降、近時ではおおむね40%で推移しているが、配達リクエストに対してマッチングが成立した割合は、この間を通して、おおむね100%に近い割合で推移している。

○○○○○○○が事業として成立するためには、こうした多くの注文に対し確実にマッチングを成立させる必要があり、さらに飲食物を届けるという事業の性質上、これを迅速に行う必要がある。

このことから、Bが多くの配達パートナーを確保する必要があったことは、容易に推測することができる。

また、Y2は、インセンティブと称する金員を配送基本料に付加して配達パートナーに支払っているが(後記エ()(9))、これは、配達の需要の多い場所、時期及び時間帯に配達パートナーを誘導し、配置させるものといえる。

(ウ)  評価とアカウント停止措置

配達パートナーに対する評価は、注文者と飲食店とが行っており、会社らが直接評価するわけではない。

配達パートナーに対する評価は、利用者が相互に評価することによって、会社らがプラットフォームのシェア事業者としてサービスの適正な運用を図っているとみることができる。

しかし、一方で、会社らは、最低評価平均という基準を設け、これを下回る配達パートナーにはアカウント停止措置を行うことを示唆している。

実際には低評価を理由にアカウント停止措置となる配達パートナーはほとんどいないものの、会社らは、配達パートナーに対する評価制度により、配達パートナーの行動を統制し、最低評価平均を下回る労働力を排除して、一定水準の労働力を維持、確保しようとしているということもできる。

アカウント停止措置は、配達パートナーにとって稼働することができなくなることを意味し、相当強い統制効果があるといえる。

コミュニティガイドラインでは、配達パートナーに限らず、他の利用者(飲食店、注文者)にもアカウント停止措置が適用される行為が規定されており、プラットフォームを利用者が快適に利用するための措置であるともいえる。

しかし、飲食店や注文者についてのアカウント停止措置の事由となる行為は、他の利用者への不適切及び侮辱的な発言や振る舞い、身体的脅迫など、社会通念上当然に許されない行為や、利用者三者に共通する行為であるが、配達パートナーに対しては、配達パートナーガイドにおいて、アカウント停止措置の対象となる行為が数多く規定されており、会社らが、配達パートナーの行動について強く統制し、円滑に配達業務を行うことのできる配達パートナーの確保に努めていることがうかがわれる。

(エ)  第三者に対する表示

会社らは、配達パートナーがBのロゴ入りの配達用バッグを使用することを義務付けてはおらず、同バッグを使うか否かは、配達パートナーの自由であるということができるが、実態として、「○○○○ ○○○○」の知名度からすればそれを生かして同バッグを使用する配達パートナーが多数存在することは容易に推認され、これらの配達パートナーについては、第三者に対し、Bの組織の一部として取り扱われているとみることもできる。

配達パートナーガイドによれば、配達パートナーが、飲食店や注文者を訪問するときは、「○○○○○○○」と名乗って挨拶することが推奨され、「○○○○○○○」と名乗ることは、Bの組織の一部として取り扱われていることを示す一つの指標とみることもできる。

(オ)  専属性

配達パートナーは、自己の都合の良いときにアプリを稼働すればよく、また、契約上、他社で働くことを禁止されておらず、実際に配達パートナーの中には、複数のマッチングサービスを併用し、類似の配達業務を行っている者がいる。

しかし、「クエスト」と呼ばれるインセンティヴ(後記エ()(9))は、その目標を達成し報酬を獲得するために一定期間事実上拘束されることを促すものといえる。

元年1129日の配送料の改定により、基本料金が引き下げられ、逆にインセンティブが引き上げられたことにより、「クエスト」に従事して事実上拘束される傾向はより強まったものといえる。

また、配達パートナー全体の中での割合は多くはないにしても、アプリの稼働時間が月当たり40時間を超え、○○○○○○○の配達業務に専属的に従事して生計を立てているとみられる配達パートナーが2,000名程度存在するし、Bが行ったアンケート調査によれば、配達パートナーを「本業」としている者が4分の1を占めている。

そうすると、配達パートナーは、必ずしもBへの専属が義務付けられているとはいえないものの、○○○○○○○の配達業務に専属的に従事することを促す制度が設けられ、実際に、同事業に専属しているとみられる配達パートナーが一定数存在しているということができる。

(カ)  小括

以上のとおり、○○○○○○○事業は、利用者をアプリ上で結び付け、飲食店が提供する飲食物を注文者に届けるサービスを行っているところ、配達パートナーが飲食物を注文者に配達する割合は、注文全体のうち99%を占めており、事業を成立させ収益を上げるためには、多くの配達パートナーを確保する必要があり、会社らは、評価制度やアカウント停止措置等により、配達パートナーの行動を統制し、配達業務の円滑かつ安定的な遂行を維持しているとみられる。

このほか、一部の配達パートナーについて、第三者に対し自己の組織の一部として取り扱ったり、インセンティブを設けて事実上専属的に従事する配達パートナーを一定数確保したりもしている。

以上のことからすると、○○○○○○○事業は、配達パートナーの労務提供なしには機能せず、配達パートナーは、会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきである。

   契約内容の一方的・定型的決定

(ア)   配達パートナーが締結している○○○○サービス契約(前記イ()(5))は、会社らが用意した定型的な様式のものであり、契約内容について、配達パートナーが会社らと個別に交渉して決定することはない。

プラットフォームの仕組みや運営ルールは、Bが、一方的、定型的に定めているといえる。

(イ)   配達パートナーに支払われる配送料について、○○○○サービス契約には、配達パートナーがY2に配送料の変更を要請する権利がある旨の条項があるが、実際には個別に交渉を行うことはなく、推奨価格(後記エ()(8))以外の配送料となった事例はない。

○○○○○○○のアプリは、配達が完了すると配送料が画面に表示されるが、Y2が決定する金額以外の選択肢は表示されず、個別に交渉できるような仕様にはなっていない。

インセンティブ(後記エ()(9))の金額も、Y2の裁量により随時決められ、配達パートナーにはその諾否しか選択肢はない。

また、組合員が、サポートセンターに配送料の交渉について問い合わせたところ、全ての金額についてはBが決めている旨の回答がなされた。

さらに、○○○○サービス契約には、Y2が、裁量によりいつでも配送料計算を変更する権利を留保すると規定され、実際に料金改定が数回行われたが、事前の協議などはなく、配達パートナーにお知らせのメール等で通知されるだけであった。

配達リクエストに対して配達パートナーが応答する時間が60秒間から30秒間へ変更となった時も、事前に配達パートナーに説明はなかった。

(ウ)   以上のとおり、契約内容の決定及び変更のいずれにおいても、対等な関係性は認められず、会社らが一方的・定型的に決定しているといえる。

   報酬の労務対価性

(ア)  配送料の支払者

配達パートナー及び飲食店が、それぞれB1及びY2と締結している契約では、会社らは、技術サービス提供業者であって配送サービスを提供するものではなく、配送に関しては配達パートナーと飲食店との間で直接的な取引関係が生じ、配達パートナーは、配送料を飲食店に請求すると規定されている。

しかし、配送料に係る金銭の流れをみると、Y2が、代理権限に基づき、飲食店に代わって、注文者から受領し、配達パートナーに支払っており、飲食店は、配送料の徴収及び支払に関与していない。

配送料の金額についても、Y2が決定しており、その配送料は推奨価格とされているが、実際には、配達パートナーと同社との間、あるいは配達パートナーと飲食店との間で交渉することはなく、配送料が推奨価格以外の金額に変更となったことはない。

加えて、Y2は、配達パートナーが非効率な配送経路をとった場合など、配送料を調整する権利を留保しており、一定の場合には、配送料を取り消す権利も留保している。

また、Y2は、飲食物等の配達が不履行に終わった場合など状況に応じ、飲食店や注文者に一定の金銭(アピージング費用)を支払っており、逆に、配達先に注文者が不在で飲食物を渡せなかったり、配達パートナーの不注意で飲食物が崩れてしまった場合などでも、配達パートナーに対し、所定の配送料を支払うことがある。

Bがキャンペーンを企画して配送手数料が0円のときは、注文者は配送手数料を支払わないが、その場合も、Y2が配達パートナーに配送料を支払っている。

そして、前記アのとおり、○○○○○○○事業を成立させるため、Bが配達パートナーの行う配達業務の遂行に関与している実態があることからすると、契約上は飲食店が配送料を支払うことになっているとしても、実態としては、Y2が配達パートナーに対し配送料を支払っているとみるのが相当である。

(イ)  配送料(配送基本料)

配達パートナーがアカウントを他人に使用させることは、アカウント停止措置の事由とされており、配達業務は、配達パートナー本人が、自らの労働力を供給して行うものであるといえる。

その配達業務に係る配送料について、配達パートナーガイドでは、配送基本料(基本料金-サービス手数料)にインセンティブ(不定期の追加報酬)を加えたものであるとされ、「基本料金」は、受取料金、受渡料金及び距離料金によって構成されている。

このうち受取料金は、飲食店で飲食物を受領した件数に応じて、受渡料金は、注文者に飲食物を渡した件数に応じて、距離料金は、飲食店から配達先までの距離に応じて、それぞれ計算されており、これらは、いずれも、配達パートナーが注文者に飲食物を配達する業務量に基づいて算出されているとみることができる。

加えて、上記()のとおり、Y2は、注文者の都合で配達ができない場合などには、配達が完了しなくても、配達パートナーに対して所定の配送料を支払うことがあり、配送料が仕事の完成に対する報酬であるということは困難である。

(ウ)  インセンティブ

インセンティブのうち、ブーストは、注文の多い時間や場所において一定の倍率で増額されるもの、クエストは、期間内に配達件数の目標を達成すると支払われるもの、オンライン時間インセンティブは、指定された時間における配送料が一定額に満たなかった場合に、その一定額と実際の配送料との差額が支払われるものである。

ブーストは、注文の多い時間や場所における稼働を促進するものと、クエストは、配達件数の増加を促進するものと、オンライン時間インセンティブは、一定額を保証することにより指定する時間にアプリをオンラインとすることを促進するものということができ、いずれも、繁忙手当や奨励金等に類する性質を有しているとみることができる。

(エ)  小括

以上要するに、Y2が配達パートナーに支払う配送料は、配送基本料とインセンティブと称する追加報酬であり、いずれも、配達パートナーが自ら行う労務の提供に対する対価としての性格を有するものであるということができる。

   業務の依頼に応ずべき関係

配達パートナーは、アプリをオンラインにしたときに、業務の依頼である配達リクエストを受けられるところ、アプリをオンラインにするか否か、どの時間帯に、どの場所で配達業務を行うかは全くの自由である。

配達リクエストに応じた後にキャンセルをすれば、評価が下がったり、アカウント停止措置を受ける可能性もあるが、単に配達リクエストに応じない場合には、具体的な不利益を受ける旨の定めは特に存在しない。

実際に、配達パートナーが応諾する割合は、本件申立時には約70%3510日に応答時間が60秒間から30秒間に変更されて以降、近時では約40%となっており、配達パートナーは配達リクエストに対し一定程度の諾否の自由があったことが実態としてもうかがえる。

しかし、以下のような事情も認められる。

(ア)  不利益取扱いの可能性

アプリは、多くの場合、一定時間内に3回連続して配達リクエストを応諾しないと自動でオフラインになる設定がされており、オフラインにされても再度ログインすることは可能であるが、オフラインにされたことに配達パートナーが気付かずにいると、配達リクエストを受ける機会を逸するおそれがある。

組合は、配達パートナーが配達リクエストに2回ないし3回連続で応諾しなかった場合、しばらく配達依頼が入らなくなるといった「干される」という現象が生じることがある旨主張するところ、そうした事実があったとまでは認定することは証拠上難しいものの、組合員である配達パートナーが、配達リクエストを拒否すれば、配達リクエストの送信件数が減るなどの不利益を受ける可能性があるとの認識を持っていたことは否定できない。

(イ)  業務の依頼拒否の可能性

本件申立時、配達リクエストの際の画面に配達先が表示されず、飲食店で配達先を知らされた段階では配達パートナーは配達リクエストを拒否することが困難な状況にあったといえる。

また、会社らが設定するインセンティブのうち、クエストは、一定期間内に配達件数の目標を達成すると支払われるものであるから、クエストの目標を設定した配達パートナーは、その期間内において目標を達成するまでは、業務の依頼を拒否しづらい状況に置かれているといえる。

さらに、配達パートナーは、一定額の収入が保証されているわけではなく、配達リクエストがどの程度送信されるかも分からないため、アプリをオンラインにしている間に配達リクエストが来れば、応諾しようという意識がはたらくと考えられ、特に、週40時間程度稼働し、○○○○○○○事業に事実上専属的に従事している配達パートナーは、配達リクエストを基本的に拒否しづらい状況にあったとみられる。

(ウ)  小括

配達パートナーは、アプリをオンラインとするか否か、どの時間帯で、どの場所で配達業務を行うかは自由であり、配達リクエストを拒否しても、具体的な不利益を受ける旨の定めは特になく、業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいうことができないが、場合によっては、配達パートナーの認識として、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれるような事情もあったことがうかがわれる。

   広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

(ア)   業務を行う時間帯及び場所

配達パートナーは、業務を希望する時間帯に希望する場所でアプリをオンラインにすることができ、どの時間帯にどの場所で業務を行うかは全くの自由である。

後記()のとおり、配達パートナーが配達リクエストに応諾した後は、配達業務の遂行方法について配達パートナーガイド等により会社らの指示を受け、その時間や場所の面でもそれに従わざるを得ない状況に置かれているが、配達業務終了後に、アプリをオンラインにして次の配達リクエストを待つか、オフラインにして業務を終了するかも自由である。

このことからすると、配達パートナーは、少なくともどの時間帯にどの場所で業務を行うかについて、会社らからの拘束を受けているということはできない。

(イ)   配達業務に係る指示

配達パートナーは、配達リクエストに応諾した後、配達パートナーガイドに基づいて業務を遂行しているところ、配達パートナーガイドは、全134頁に及び、配達開始前の準備、配達の基本的な流れ、特別な出来事が生じた場合の流れ、配達中のトラブル対応などの配達業務の手順に加え、求められるマナーや挨拶の仕方など配達パートナーの心構えや接客態度等についても、詳細な記載がなされている。

また、配達パートナーガイドでは、飲食店が飲食物の準備が完了していない場合や配達先に注文者がいない場合に、配達パートナーに待機や所定の対応を求めている。

さらに、トラブル発生時には、サポートセンターに連絡することとなっているが、サポートセンターの対応は、プラットフォームサービスの一環としてのトラブルへの助言であるだけでなく、トラブルに適切に対処して配達業務を円滑に遂行するための業務指示でもあるとみることができる。

そして、配達パートナーガイドには、配達業務を正しく遂行することが困難と判断された個人事業主とは、契約を解消する可能性があるとの記載があるほか、コミュニティガイドラインや配達パートナーガイドには、評価制度やアカウント停止措置の記載があり、配達パートナーは、飲食店及び注文者から評価を受け、その評価はフィードバックされ、評価が各都市の最低ラインよりも著しく低い場合には、アカウント停止措置となる可能性がある。

また、配達が遅くなると評価が下がることにもなるし、それが度重なるとアカウント停止措置を受ける可能性もある。

そのほかにも、不正と捉えられる行為があった場合には、アカウント停止措置となる可能性があるとして、幾つかの行為が例示されている。

このような評価制度やアカウント停止措置があることにより、配達パートナーは、配達パートナーガイドに記載された、会社らの求める詳細な業務手順等に従わざるを得ない状況に置かれているといえる。

配達業務は定型的なものである上、配達パートナーガイドにより具体的な業務手順が示されているため、配達パートナーが配達業務において裁量を有するのは、配達経路の選択くらいである。

しかし、これも、アプリで推奨経路が表示され、わざと遠回りした場合にはアカウント停止措置となる可能性もあり、また、実際に選択した距離が推奨経路より距離が長くても、配送基本料 は推奨経路で算出されることがあることから、事実上、推奨経路に従わざるを得ない状況にあることが推認され、配達パートナーの業務における裁量の余地は極めて少ないといえる。

また、Bは、移動中の配達パートナーの位置情報をGPSにより把握しており、配達パートナーは、飲食店からの飲食物の受取を完了したとき及び注文者への配達を完了したときは、アプリの画面をスワイプして、Bに報告している。

(ウ)   以上のことから、配達パートナーは、業務を行う時間帯及び場所について会社らからの拘束を受けているということはできないものの、広い意味で会社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているとみることができる。

   顕著な事業者性

(ア)  自己の才覚で利得する機会

配達パートナーは、会社らが設定したプラットフォームの中で、配達リクエストに応諾して配達業務を行い、収入を得ているところ、上記カ()で判断したとおり、配達業務における配達パートナーの裁量の余地は極めて少なく、また、コミュニティガイドラインにより飲食店や注文者は配達パートナーとの不必要な接触を禁止されており、独自に固有の顧客を獲得することもできないことから、自己の才覚で利得する機会はほとんどないといえる。

(イ)  業務における損益の負担

配達が未完に終わったときや、事故が発生したとときなどは、Y2が、飲食店や注文者や利用者に対してアピージング費用を支払っており、同社は、同費用を配達パートナーに求償することはなく、逆に、配達パートナーに対しても、所定の配送料を支払っている。

また、配達パートナーに支払う配送料が、注文者の負担する配送手数料を超える場合、Y2は、飲食店に対しその差額相当額をディスカウントしているが、この場合にも配達パートナーに所定の配送料を支払っている。

さらに、Bがキャンペーンを企画して注文者が配送手数料を支払わないときも、配達パートナーには所定の配送料をY2が支払っている。

このように、配送事業における損益は、Y2が負担しており、配達パートナーが自らの業務においてリスクを負っているということはできない。

(ウ)  他人労働力

配達業務は、事前に登録した本人が配達することになっており、配達パートナーガイドでは、配達パートナーがアカウントを複数持ったり、他人のアカウントを使ったり、アカウントを他人とシェアしたりすることなどを禁止しており、これに違反すればアカウント停止措置となる可能性がある。

したがって、配達パートナーが、他人を雇用するなどして事業を拡大することはできない。

(エ)  業務に必要な機材等の負担

配達パートナーは、バイクや自転車等の配達手段を自ら保有して配達業務を遂行している。

(オ)  小括

以上要するに、配達パートナーは、バイクや自転車等の配達手段を自ら保有しているものの、独自に固有の顧客を獲得したり、他人労働力を利用することはできず、自己の才覚で利得する機会はほとんどないし、配送事業のリスクを負っているともいえないことから、配達パートナーが顕著な事業者性を有しているということはできない。

   結論

以上のとおり、○○○○○○○事業は、利用者をアプリ上で結び付け、飲食店が提供する飲食物を注文者に届けるサービスを行っているところ、本件における配達パートナーは、イ)会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられており、ウ)会社らが契約内容を一方的・定型的に決定しているということができ、エ)配達パートナーの得る報酬である配送料は、労務の提供に対する対価としての性格を有しているといえる。

一方で、オ)配達パートナーは、アプリを稼働するか否か、どの時間帯に、どの場所で配達業務を行うかについて自由を有しており、会社らの業務の依頼に応ずべき関係にあったとまではいえない。

しかし、場合によっては、配達リクエストを拒否しづらい状況に置かれる事情があったことが認められる。

また、カ)一定の時間的場所的拘束を受けているとはいえないものの、広い意味で会社らの指揮監督下に置かれて、配達業務を遂行しているということができる。

そして、キ)配達パートナーが顕著な事業者性を有していると認めることはできない。

これらの事情を総合的に勘案すれば、本件における配達パートナーは、会社らとの関係において労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。

(2)  Y1は、配達パートナーである組合員との関係で労組法上の使用者に当たるか否かについて(争点2)

   Y1は、Y2から業務委託を受け、配達パートナーへのサポート業務を行っており、配達パートナーとの間には直接の契約関係は存在しない。

   組合が、Y1に申し入れた団体交渉事項は、@事故の際の配達パートナーに対する補償、A報酬計算の根拠となる距離計算の誤り、Bアカウント停止措置の基準等、C報酬、Dアプリ、EY1と配達パートナー協同による配達サービスの品質向上、F紹介料についてであり、上記⑴で判断したとおり、配達パートナーがY2との関係において労組法上の労働者に当たることからすれば、いずれも配達パートナーの労働条件その他その経済的地位に関するものであるといえる。

   Y1は、本件申立時において、Y2から受託して、広報・法務・契約業務、配達パートナーの登録手続、教育、アカウント停止措置の運用、パートナーセンター及びサポートセンターの運営等を所管しており、上記イの団体交渉事項のほとんどを取り扱っている。

また、配送料の計算の誤りやアカウント停止措置に関する配達パートナーの問合せにY1が運営するサポートセンターが対応しているほか、アプリに関する問合せにも同センターが応じており、配達パートナーにとって、登録や契約の手続から、運用の説明・サポート、各種問合せまで、○○○○○○○事業について実質的に対応しているのは、Y1であるといえる。

  会社らは、○○○○○○○事業に関わる実質的な決定は、全てB1とY2とが行っており、Y1が行うのは、飽くまで事務的な業務であるから、Y1は、労組法上の使用者に当たらないと主張するが、これを裏付ける証拠はない。

また、令和31月に、Y1とY2との間で大幅な所管業務の変更が行われたが、このときに業務委託契約自体は変更されないままであったことが認められる。

こうしたことからすると、両社間の業務委託契約は、実態を反映せず、形骸化していたことがうかがえる。

さらに、○○○○サービス契約には、B側の主体の表記が「Y2及びその関連会社」となっている記載がみられ、飲食店と締結している契約(アグリーメント)にも「B1及びその関連会社」との記載があり、注文者が同意するBの利用規約には、「B」とは、「B3又はその関連会社、若しくはその他の関係会社」を指すと記載されている。

また、配達パートナーガイドの会社らの主体は、「B」と表記され、○○○○○○○事業に関わるB1、Y2及びY1のうちのどの会社を指しているのか、必ずしも明確に区分されているわけではない。

そうすると、○○○○○○○事業ついては、同事業に携わる関連会社各社の役割分担が明確に区別されているとはいえず、実質的には、関連各社が事実上一体となって、同事業を展開し、運営していたとみるのが相当である。

  したがって、○○○○○○○事業について、登録や契約の手続から、運用の説明・サポート、各種問合せまで、実質的に配達パートナーへの対応を行っているY1は、配達パートナーの労働条件等に関する上記イの団体交渉事項について、配達パートナーとの契約の当事者であるY2と共に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとみるのが相当であり、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるというべきである。

(3)  108日付団交申入れに対しY1が応じなかったこと及び1125日付団交申入れに対しY2´が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点3)

   108日付団交申入れに応じなかったこと

Y1は、上記⑵で判断したとおり、配達パートナーの労働条件等について、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるところ、同社は、配達パートナーの労働条件等に関するものを団体交渉事項とする組合の108日付団交申入れに対し、回答をせず、団体交渉に応じていないのであるから、このようなY1の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

   1125日付団交申入れに応じなかったこと

○○○○○○○事業における配達パートナーが、労組法上の労働者に当たることは前記⑴で判断したとおりであるところ、Y2は、日本における○○○○○○○事業の運営主体であり、配達パートナーとの○○○○サービス契約の当事者でもあることから、Y2及びその前身であるY2´は、配達パートナーの労働条件等について、組合との団体交渉に応ずべき地位にあるということができる。

ところが、Y2´は、配達パートナーの労働条件等に関するものを団体交渉事項とする組合の1125日付団交申入れに対し、これを拒否する旨回答し、団体交渉に応じていないのであるから、このようなY2´の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

 命令書交付の経過

(1)  申立年月日         令和2316

(2)  公益委員会議の合議 令和4104

(3)  命令書交付日       令和41125