当事者の概要

⑴ 申立人組合は、平成2912月頃に結成された、会社の従業員の一部で組織する労働組合である。本件申立時の組合員数は約20名であるが、X2以外の組合員は公然化していない。

⑵ 被申立人会社は、肩書地に本社を置き、一般乗用旅客輸送業等を営む株式会社である。本件結審時における従業員数は約180名である。

⑶ 会社には、乗務員が親睦等を目的として結成したZ1会があり、乗務員のほとんどが加入している。Z1会は、野球やテニス等の親睦行事や、年1度の総会及び月例の明け番会を開催する一方、随時、会社と労働条件に関する交渉を行っている。

 事件の概要

⑴ 平成2711月、X2は、会社に入社し、タクシー乗務員として勤務を始めた。X2は、29年3月にZ1会の会長に就任した。12月、X2は、有給休暇取得に関する交渉等を行うため、申立人組合を結成し、執行委員長に就任した。30年3月、Z1会の規約の改正に伴い、X2はZ1会を脱退した。

⑵ 9月11日、会社は、X2が、社内で同僚従業員に大声で罵声を浴びせるなど社内の秩序を乱す行為に及んだとして、同人に対しけん責処分(第一次懲戒処分)を行った。

⑶ 会社は、Z1会と協定を締結して、Z1会が勤務時間外に実施している月例の集会(明け番会)の場で研修を実施していた。組合は、この研修時間について超過勤務手当が支払われていないとして、会社に改善を申し入れていた。1018日の明け番会で、Z1会の理事であるZ2は、出席した乗務員に向けて、組合はおかしな主張をしており、どしどし文句を言ってほしい旨発言した(本件発言)。

⑷ 1210日、会社は、X2による会社の許可を得ることなく社内に組合のチラシを貼付した行為及びZ1会のポスターを剥がして持ち去った行為が社内の秩序と融和を定めた就業規則に反するとして、同人に対しけん責処分(第二次懲戒処分)を行った。

⑸ 31年1月頃、会社は、Z1会とは別の日程で組合員向けに研修を実施することとし、X2に組合員向けの研修に出席するよう命ずる(本件業務命令)とともに、それを周知するポスターを社内に掲示した。

⑹ 令和元年7月12日、会社は、X2が、研修の受講を拒否していること、正当な理由なくZ1会の掲示物を剥がしたこと及び始業点呼を妨害したことを理由に、同人に対し減給処分(第三次懲戒処分)を行った。

⑺ 8月30日、会社は、X2が、出庫前点呼時に大声を出し、業務を妨害するとともに会社役員や従業員を畏怖させたとして、同人に対し減給処分(第四次懲戒処分)を行った。

⑻ 本件は、@X2に対する平成30年9月11日付懲戒処分(第一次懲戒処分)は、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)、A1018日の明け番会におけるZ2の本件発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)、BX2に対する1210日付懲戒処分(第二次懲戒処分)は、組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)、C本件業務命令を行ったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)、DX2に対する令和元年7月12日付懲戒処分(第三次懲戒処分)は、組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)、EX2に対する8月30日付懲戒処分(第四次懲戒処分)は、組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点6)がそれぞれ争われた事案である。

 主 文 <棄却>

  本件申立てを棄却する。

 判断の要旨

⑴ 平成30年9月11日付懲戒処分(第一次懲戒処分)について(争点1)

ア 30年6月から、X2とZ1会会員6名との間で組合ブログの掲載内容について訴訟が係属中であった。同年、X2は、会社内の駐車場でZ4及びZ3以外のZ1会会員である乗務員との間でもめ、興奮して倒れそうになったことがあった。

  8月28日、X2は、会社内で、Z3に対し、「お前、俺と飲みに行かないよう触れ回ってるだろう。」と話し掛け、Z3は、何も返答せず逃げるようにその場を立ち去った。これを知ったY2課長は、X2に対し、そういう乱暴なことはだめだと口頭で注意をした。その後X2は、Z4がX2との訴訟に関する発言をしたことを他の職場仲間から聞き、9月1日、Z4に対し、「お前、俺が訴えたと言ってるんだってな。」と話し掛け、二人の人間から聞いている旨を述べて更に詰め寄るなどしたところ、Z4は確認する旨を伝えてその場を離れた。9月11日、会社はX2に対し、上記行為についてけん責処分(第一次懲戒処分)を行った。

イ 組合の主張は、第一次懲戒処分の対象のうち、9月1日のX2の行為について処分事由の一部の存否を争う趣旨ともみられる。しかし、Z4を含むZ1会会員6名が組合ブログの掲載内容につきX2に対し損害賠償等を求める訴訟を提起し、X2が反訴を提起してこれらが係属中であることからすると、X2のZ4に対する発言は、Z4らが先に訴えを提起したにもかかわらず事実と異なる話をしたとしてZ4を非難するものであると解され、不穏当な内容であるといえるし、X2は、二人の人間から聞いている旨を述べて更に詰め寄っており、Z4がその場を離れたのは、8月28日のZ3と同様にX2とのトラブルを回避するためであったとみられ、この時の状況としては、X2が相当に強い口調でZ4に迫り、仮にZ4が強く言い返すなどしてその場を離れていなければトラブルに発展するおそれがあったと十分に認められる。

  組合は、会社では社員の暴言について職場の秩序を乱したことを理由にけん責処分が行われた事例はないと主張する。しかし、第一次懲戒処分は、処分事由となった行為の態様だけでなく、X2が口頭注意を受けたにもかかわらず、近接した時期に同様の行為を繰り返したことに対する処分であるとみるべきである。

  会社では、従業員間で訴訟が係属するという異常な状況の中、X2が、実際に他の乗務員との間でトラブルに発展するおそれのある行為をしたことから、会社が、これ以上従業員間の対立をエスカレートさせてはいけないと考え、口頭注意の僅か数日後の9月1日にX2が同様の行為をしたことにつき、処分の必要があると判断したのも、職場秩序維持の観点から不自然とはいえない。

ウ 当時の労使関係をみると、組合が、年次有給休暇取得時の賃金支給や所定時間外の法定研修について、足立労働基準監督署に相談しながら会社と交渉し、同労働基準監督署が会社に是正勧告を行うなど、会社と組合とは対立関係にあったことが認められる。しかし、これを考慮したとしても、第一次懲戒処分が、X2が組合員であるが故になされたとまではいい難い。

エ よって、第一次懲戒処分は、組合員であるが故の不利益取扱いであるということはできないし、組合の弱体化を企図した支配介入に当たるとまではいえない。

⑵ 明け番会におけるZ2による本件発言について(争点2)

ア Z2は、本件発言の前半で、「明け番会について、会社側より説明してくださいとのことです。明け番会は明け番の日に行うのが良いとのことで、労働組合が言う出番の日に明け番会に出席すると皆さま方乗務員の売上げが下がります。」と発言しているが、この発言は、単に出番の日の勤務時間内に研修を行うと、各乗務員が運転時間を制限されて売上げが下がり、その結果として歩合の給与も下がるという事実を説明しているにすぎず、組合に殊更悪印象を持たせようとする趣旨の発言とまではいえない。

イ 一方、後半の「こんなバカなことを言っている、そういう労働組合にどしどし文句を言ってください。」との発言については、組合の活動を単に非難するだけにとどまらず、必要以上に組合を攻撃するものであり、この発言により組合の運営に支障を与えるおそれなしとしない。しかし、Z2は、Z1会の理事職にあるものの、会社における地位は乗務員にすぎないところ、本件発言に対する会社の関与を認めるに足りる疎明はない。むしろ、本件発言当時、X2とZ1会執行部が険悪な対立関係にあったとみられること、本件発言が行われたのは、Z1会の会員が集まる明け番会の場であったことを併せ考えると、本件発言の後半部分は、Z2自身のZ1会執行部としての意見の表明であったとみるのが相当である。

ウ 以上のとおり、本件発言の前半は、明け番会で法定研修を実施することによる給与への影響を伝達したにすぎず、後半は、会社の乗務員であるZ2自身の意見表明とみるのが相当であって、会社の意を受けた発言であるということはできないから、本件発言が、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑶ 平成301210日付懲戒処分(第二次懲戒処分)について(争点3)

ア 会社の就業規則において、事業所内で掲示を行う際は事前の許可が必要とされ、また、会社の施設を利用して会社の許可なく労働組合活動等をすることが禁じられているところ、X2は許可を得ることなく組合チラシ等を貼付しており、X2の行為は、形式的に就業規則の規定に反している。  

イ 組合は、Z1会の抽選ポスターの内容が乗務員の有給休暇取得の抑制を図るものであるから、組合チラシ等を貼付する行為は正当な権利の行使に当たると主張する。しかし、繁忙期に従業員の有給休暇取得の調整を図ることは必ずしも不当なものとはいえないし、従業員が「あたかもこの抽選を受けないと年末年始の有給休暇が適法に取得できないように誤解」する可能性が高い状況にあったとまではいえず、組合がそのような誤解の生じることを危惧していたとしても、そのために、就業規則に定められた許可を得ずに組合チラシ等を貼付する行為が正当な権利の行使として是認されるとまでいうことはできない。

ウ X2がZ1会の抽選ポスターを撤去し持ち帰った行為についても、抽選ポスターが従業員の有給休暇取得に誤解を与えると組合が判断していたとしても、そのような誤解が生じる可能性が高い切迫した状況にあったとまではいえず、Z1会が会社の許可を得て掲示した抽選ポスターを、X2が独断で撤去し持ち去る行為が正当な権利の行使として是認されるということはできないし、会社が職場の秩序維持の観点から、X2の行為を問題視したことは不自然とはいえない。

エ 以上のとおり、X2の行為を正当な組合活動と認めることは困難であり、第二次懲戒処分には相当な理由があったというべきであるから、組合と会社とが、年次有給休暇取得時の賃金支給や所定時間外の法定研修について対立関係にあったことを考慮しても、第二次懲戒処分が、X2の組合活動を理由とした不利益取扱いないし組合弱体化を企図した支配介入に当たるとまではいえない。

⑷ 組合員のみを対象とする研修への参加を命じたこと(本件業務命令)等について(争点4)

ア 組合は、法定研修の実施時間に対して時間外手当の支給を求めていた組合活動を嫌うが故に、会社とZ1会とが一体となり本件業務命令を行ったと主張するが、勤務時間の異なる乗務員に一律に法定研修を受講させる必要があった事情も認められ、Z1会から明け番会への参加を拒否された組合員にも法定研修を受講させるために、組合員向けの法定研修を別途実施せざるを得なかったとの会社の主張も理由がないとまではいえない。また、会社が、Z1会に働き掛けて組合員の明け番会への参加を拒否させたと認めるに足りる疎明はない。

イ 組合は、X2とZ1会との対立の悪化を防ぐ必要があったのであれば、X2だけに別途法定研修を受けさせれば済んだとし、会社が本件ポスターを用いて法定研修の実施を周知したことは、組合活動への介入が目的であると主張する。確かに、会社は、組合の同意を得ることなく、一方的に「労働組合 定例会 実施」と題した本件ポスターを掲示しており、組合員に対する法定研修の実施の周知方法としてこのような一見すると組合自身が本件ポスターを掲示したかのようにも取られかねない形式を採ったことが適切であったとはいい難い。しかし、本件ポスターの掲示は、会社が明け番会に出席しない乗務員に対しても法定研修を受講させる必要性に基づいて行ったと認められるし、会社は、本件ポスターの掲示に先立って本件業務命令を発しており、本件ポスターがX2を含めた組合員に対して法定研修の実施日時等を周知する趣旨で掲示されたと理解できる状況であったから、会社に組合活動への介入の意図があったとまでは認められない。

ウ 本件業務命令や本件ポスターの掲示によって、X2以外の非公然組合員が明け番会に出席することに何らかの支障が生じたとの疎明はなく、本件業務命令や本件ポスターにより会社が非公然組合員のあぶり出しを行うことは事実上不可能であり、そのほかにも本件業務命令や本件ポスターの掲示により組合活動に何らかの支障が生じたとの疎明はない。そうすると、組合に対してなされた法定研修の内容がZ1会に対してなされた法定研修と同一であったことや、組合に対する法定研修が勤務時間内に実施されたことは組合の問題視する時間外賃金の件を回避するという形で組合の意向を汲んだものともいえることをも踏まえると、本件業務命令が、組合の弱体化を企図した支配介入であると認めることはできない。

⑸ 令和元年7月12日付懲戒処分(第三次懲戒処分)について(争点5)

ア X2は、平成31年2月以降、第三次懲戒処分まで約半年間、業務命令に従わずに法定研修を欠席しており、他にこのように長期にわたり法定研修を欠席した乗務員がいたとの疎明はなく、また、会社が乗務員全員に法定研修を受講させる必要があったことに鑑みると、X2が長期間業務命令に従わずに研修欠席を続けたことを会社が重く見て懲戒事由としたことも無理からぬことである。

イ 有給休暇抽選会のポスターを持ち去ることは、争点3で判断した抽選ポスターの場合と同様に、正当な権利の行使として是認されるものではなく、会社が職場の秩序維持の観点から、当該行為を問題視することは不自然とはいえない。

ウ 就業規則第99条第2項で「非違行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を科すことを原則とする。」としている趣旨からも、第一次懲戒処分で処分されたX2が再度同種の非違行為を繰り返したことを重く見て、同人にのみ懲戒処分を課したとしても不自然とまではいえない。

エ 以上のとおり第三次懲戒処分には相当な理由があり、組合員であること等を理由とする不利益取扱い又は支配介入があったとまでは認められない。

⑹ 令和元年8月30日付懲戒処分(第四次懲戒処分)について(争点6)

ア 第四次懲戒処分の理由は、出庫前点呼で、Y3取締役が乗務員に対し、「最近事故が多くて、こんなことでは皆さんが乗りたがっているジャパンタクシーへの代替を社長に交渉することができません。」と述べたのに対して、X2が抗議する旨の発言を行ったことであったが、業務時間である出庫前点呼において組合の見解を表明することに問題がないとはいえない。これまで組合が乗務員の使用する自動車の車種について何らかの要求をしたとか団体交渉等で議題になったなどの経過の疎明がないことからすれば、X2の発言を組合としての意見表明や要求であるとして是認することは困難である。

  会社が、X2がこれまで非違行為を繰り返し第一次懲戒処分ないし第三次懲戒処分を受けたことを考慮した上で、他の乗務員の見ている前で幹部職員の発言に抗議したという同人の行為を職場秩序維持の立場から問題視し、業務妨害行為と判断して処分事由としたことも、不自然とまではいえないし、処分内容が重すぎるともいえない。

 以上のとおり、第四次懲戒処分は、組合活動を理由とした不利益取扱い又は支配介入に当たるとまでは認められない。

 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日         平成31年1月24

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年4月18

⑶ 命令書交付日       令和5年7月11