【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、個人加盟のいわゆる地域合同労働組合であり、本件申立時の組合員数は、94名である。

⑵ 被申立人Y2は、Y1の全株式を所有する完全親会社で、事業持株会社であり、本件申立時の従業員数は99名である。

⑶ 被申立人Y1は、大学や地方公共団体が設置する図書館や資料室等の運営を受託する事業を行う株式会社である。平成31年3月末時点での従業員数は、正社員が9名、有期労働契約従業員が492名である。

 

2 事件の概要

⑴ X2は、平成20年4月1日からY1に有期雇用され、24年1月に組合に加入した。

⑵ 24年2月の組合とY1との第1回団体交渉から第3回団体交渉までは、Y2の者のみが交渉員として出席し、交渉の権限及び責任を持つ旨を述べた。その後、25年2月、Y1の代表取締役にY3社長が就任し、同年6月の第4回団体交渉からY3社長が出席するようになった。他方、Y2は、28年7月、組合に対し、同社には使用者責任がない旨を通知したものの、29年2月の第10回団体交渉まではY2の者も出席していた。

⑶ 組合は、25年4月以降、Y1に対し、労働契約法(以下「労契法」という。)の改正に関連して、X2について、無期労働契約への転換(以下「無期転換」という。)を求め、団体交渉で議題に挙げていた。他方、Y1は、無期転換やそれに伴う労働条件を定めるため、30年2月1日に同社の臨時従業員就業規則を変更したが、そのことを同月15日の第12回団体交渉まで組合に伝えなかった。また、第12回団体交渉で、Y1は、上記就業規則変更等について組合と事前協議をする意向がない旨を述べた。

⑷ 組合は、Y2に対し、28年7月14日付け、29年8月4日付け及び301122日付けで団体交渉を申し入れたが、同社は、使用者に該当しないとして、いずれの申入れにも応じなかった。

⑸ 組合とY1とは、30年9月21日に第13回、12月7日に第14回団体交渉を行ったが、同社は、2月の臨時従業員就業規則の変更について、改めて組合と協議する意向はない旨、同就業規則やX2の労働条件について今後も組合と事前協議をする意向はない旨を述べた。

⑹ 本件は、@Y2は、本件において、労働組合法(以下「労組法」という。)上の使用者に該当するか否か(争点1)、AY2が、組合が28年7月14日付け、29年8月4日付け及び301122日付けで申し入れた団体交渉について、いずれも応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)、B30年9月21日及び12月7日に開催された第13回及び第14回団体交渉におけるY1の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)が争われた事案である。

 

3 主文の要旨

⑴ Y1は、組合が、臨時従業員就業規則の変更と無期労働契約転換に伴う転勤及び組合員X2の人事考課と賃金引上げに係る議題について団体交渉を申し入れたときは、必要な資料を提示するなどして、誠実に応ずること。

⑵ Y1による文書の交付

要旨:第13回団体交渉及び第14回団体交渉におけるY1の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。

 Y1による履行報告

⑷ Y2に対する平成28年7月14日付及び29年8月4日付団体交渉申入れに係る申立ての却下

⑸ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 申立期間について

Y2による平成28年7月22日付及び29年8月22日付拒否回答については、いずれも、本件申立日(31年2月18日)には、行為の日から1年を経過していることから、申立期間を徒過したものとして、却下せざるを得ない。

⑵ Y2は、本件において、労組法上の使用者に該当するか否か(争点1)、及びY2が、組合が301122日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)について

ア 第4回団体交渉のあった25年6月頃までは、Y1の従業員の労働条件について、Y2が現実的かつ具体的に支配し、決定していたという事情がうかがわれ、当時、X2の人事労務について、Y2が組合との関係で労組法上の使用者に該当する立場にあったことが強くうかがわれる。

イ しかしながら、第1回団体交渉で、組合とY2との間で何らかの労使合意が成立したとまで認めるに足りる事情は特にうかがわれない。他方、Y1は、第4回団体交渉以降Y3社長が毎回出席し、X2の労働条件について権限があることを述べ、その後に書面で、権限を有するのはY3社長であると回答した。また、第6回団体交渉では、Y2が、Y1での人事考課に関して全く関与していないことを組合に伝えている。さらに、Y1は、28年3月の書面でY2の使用者性を否定し、6月の書面で過去の団体交渉に出席していたY2の者は、Y1が委任したものである旨、交渉事項の決定権限を有しているのはY3社長である旨を述べている。そして、Y2も、28年7月、29年8月及び3012月の書面で、親会社としての使用者性を否定し、Y1の従業員の労働条件その他の待遇に関する決定権限はY1にあることを組合に回答している。

ウ これらのことからすれば、24年から25年頃までは、Y2が実質的な使用者であることが労使間の共通認識になっていたとみることもできるものの、第4回団体交渉のあった25年6月頃から組合による301122日付けY2への団体交渉申入れまでの間に、Y1及びY2は、組合に対し、Y2の労組法上の使用者性を否定する旨の見解を伝えていて、こうした見解に沿う形で、Y1の従業員の人事に関する権限がY2からY1へ移譲され、Y3社長が最終決定権限を有するようになったことがうかがわれる。

エ Y3社長はY2の取締役でもあるが、Y1の従業員の人事について、同社長に最終決定権限があることが明確に述べた第6回団体交渉以降は、同社長はY1の代表取締役の立場で対応していたとみることができる。Y2の者が第10回団体交渉まで出席していたが、それらの団体交渉には、Y3社長も出席して対応していたのであり、団体交渉にY2の者が出席していたことをもって、直ちに、団体交渉事項とされるY1従業員の労働条件その他の待遇について、Y2が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配又は決定していたことが基礎付けられるとはいい難い。

オ 組合が301122日付けで団体交渉を申し入れた時点において、Y2が、同申入れに係る交渉事項のうち組合員の労働条件その他の待遇に係る事項について、親会社の立場による子会社の事業への関与の範囲を超えて現実的かつ具体的に支配又は決定していた事情はうかがわれず、また、このほかに、Y2が、これらの事項について現実的かつ具体的に支配又は決定していたと認めるに足りる事実の疎明があるともいえない。

カ 以上によれば、以前にはY2が、完全子会社であるY1の従業員の人事に一定の権限を有していた事情があるとしても、Y2が、組合が301122日付けで団体交渉を申し入れた組合員の労働条件その他の待遇に係る事項について、その時点で、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配又は決定することができる地位にあったものとは認め難い。よって、その余の事情を判断するまでもなく、Y2は、組合が301122日付けで申し入れた団体交渉について労組法上の使用者に当たらないというべきであるから、Y2が同申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

⑶ 第13回及び第14回団体交渉におけるY1の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)について

ア 臨時従業員就業規則の変更、無期転換に伴う転勤に関することについて

組合は、25年4月以降、X2の無期転換とその検討状況の説明を求めていたが、Y1は、組合との実質的な協議を行うことなく、30年2月1日に臨時従業員就業規則を変更し、2月15日の第12回団体交渉で組合に報告した。

13回団体交渉で、組合は、改めての協議や交渉を求めたが、Y1は、組合と事前に協議することは考えていない、規則の変更は終了している、Y1が責任をもって変更を行った後、説明をするとの考え方は変わらないなどと答えた。

X2の無期転換については、組合が以前から要求を行い検討状況等の説明を求めていたのであるから、組合と協議をせずに臨時従業員就業規則の変更を決定したY1の対応は、本件における労使関係の経緯に照らして適切なものであったとはいい難い。Y1は、組合が団体交渉を求めている以上、変更の経緯や組合の要求に対する対応などについて、十分に説明や協議を行い、誠実に対応する必要があったというべきであるが、既に決定済みの事項に係る一方的な説明を行うという姿勢に終始していたのであるから、同社が、組合との合意形成を図るべく誠実な対応に努めたということはできない。

無期転換に伴う転勤について、Y1は、第13回団体交渉で、X2の転勤可能性については協議をすることではない旨を答え、第14回団体交渉では、X2に係る個別の協定を締結する考えはない旨を繰り返し述べ、組合との協議を拒否する一方、異動しなければならないときには、X2とじっくり話をしたいと述べるなど、殊更に、組合ではなく従業員個人と協議する姿勢を示しており、このような対応は、組合との合意形成を図るよう努めたとはいい難い。

Y1は、個別の協定を締結することはできないとしても、転居を伴う転勤の有無に係る不安を解消するよう十分な説明に努める必要があったといえる。しかし、組合が、資料を求める理由を示したり、守秘義務協定の申出を行ったりしても、Y1は、それらを検討しようとはしなかった。

以上のとおり、臨時従業員就業規則の変更及び無期転換に伴う転勤に関する議題に係るY1の対応は、従業員個人と話をする姿勢を繰り返して示し、組合と協議することには否定的であり、組合の要求する資料の提示についても十分な検討をしないなど、交渉により組合との合意形成を図る姿勢に欠けていたものであり、不誠実な団体交渉態度であるといわざるを得ない。

イ X2の人事考課、賃金引上げに関することについて

13回団体交渉で、Y1は、X2の人事考課について、X2個人との面談で対応する姿勢を示し、組合との交渉には否定的な回答をした。

賃金引上げについて、Y1は、第14回団体交渉で、X2個人の賃金について団体交渉の場で話すことは考えていない旨を答えた。また、組合が、X2の賃金交渉はどこでやるのかと問うても、Y1は、面談によることを想定している旨を答えた。このように、Y1は、X2との個別交渉を前提として、組合との交渉には否定的な発言をしている。

組合は、Y1で働く全従業員の賃金の決め方について交渉したいとして、個々の委託契約の内容を明らかにすることなどを求めたが、Y1は、機密事項であるなどとして、いずれも開示できない旨を答えた。組合がこれらの資料を要求したのは、人事考課や賃金について、従業員の個別の問題ではなく、賃金の決め方という従業員全体に係る問題として、団体交渉で取り上げることを求める趣旨であり、組合はそれを説明した上で資料要求をしたのであるから、Y1は、組合の要求する資料そのものを全て提示することはできないとしても、組合の要求趣旨を踏まえ、提示できる範囲や、どのような資料であれば提示できるかなどを真摯に検討する必要があったというべきであり、そのような検討をすることもなく、資料を開示しない詳細な理由を説明しないまま、直ちに要求を拒否した対応は、組合との合意形成を図る姿勢に欠けていたといわざるを得ない。

以上のとおり、X2の人事考課及び賃金引上げに関する議題に係るY1の対応は、従業員個人と話をする姿勢を示して個人との面談にこだわる一方で、組合と協議することには否定的であり、組合の要求する資料についても十分な検討をしないなど、交渉により組合との合意形成を図る姿勢に欠けていたものであり、不誠実な交渉態度であるといわざるを得ない。

 

5 命令書交付の経過

 ⑴ 申立年月日     平成31年2月18

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和5年2月7日

 ⑶ 命令書交付日    令和5年3月30