【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、主に東京都の南部地域(品川区及び大田区)に職場又は住居を有する労働者により構成される、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約30名である。

⑵ 被申立人Y(以下「法人」という。)は、肩書地において私立各種学校を設置し、学校教育を行う学校法人であり、本件申立時の従業員数は84名、児童及び生徒数は320名、児童及び生徒の年齢は5歳ないし14歳である。

 

2 事件の概要

平成29年8月28日、X2と法人とは、契約期間を29年8月28日から30年8月27日まで、業務内容をスクールバスのドライバーとする等の契約条件で雇用契約を締結し、その後、1年単位で契約を更新していた。

令和2年8月31日、法人は、X2の複数回の事故と危険運転を理由に、スクールバスのドライバーとしての能力に不足があるとして、X2を解雇した(以下「本件解雇」という。)。

9月3日、X2は組合に加入した。組合と法人とは、本件解雇を議題として、9月28日、11月6日、1224日、3年2月17日、3月30日及び6月3日に計6回の団体交渉を実施した。組合が、9月1日付けで法人に団体交渉の申入れ (以下「本件申入れ」という。)を行ったところ、法人は、本件解雇の理由の説明は十分に行われたとして、本件申入れを拒否した。

本件は、組合が令和3年9月1日付けで申し入れた団体交渉に法人が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉の拒否にあたるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <棄却命令>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

組合は、令和3年9月1日付けで本件申入れを行い 、それに対して法人は、本件解雇理由については、これまでの団体交渉で説明を尽くしたとして応じなかったことが認められる。

この点、法人は、計6回の団体交渉を経て、法人が本件解雇の理由について十分に説明した上で、双方の主張は平行線となり、これ以上の団体交渉を重ねても協議の進展が見込めない行き詰まりの状態に至っているため、法人の団体交渉拒否には正当な理由が存在する旨の主張をするので、以下、検討する。

⑴ 解雇理由の説明について

組合は、計6回の団体交渉を通して、本件解雇の理由について十分な説明は行われなかったと主張する。

しかし、法人は、団体交渉において、X2が令和2年8月に立て続けに事故を起こしたことから、以前から口頭注意していたにもかかわらず運転の状況に改善がみられないと判断し、解雇するに至った旨の説明を繰り返し述べている。この法人の説明は、X2に交付した解雇理由証明書の記載とも合致しており、相応の理由があるということができる。

⑵ 事故の評価について

次に、計6回の団体交渉において、議論が平行線になっており、行き詰まりの状態に至っていたといえるか、以下、子細に検討する。

法人は、第3回団体交渉において、X2の令和2年8月の複数回の事故について、上記⑴のとおり、解雇事由に該当する旨の説明を繰り返し行っている。一方、組合は、上記事故はそれほど重要なものではないと主張した上で、事故に対する双方の評価は異なるかもしれないが、法人の評価が誤りであると問い詰めたいなどと述べている。

このように、X2の起こした事故の評価については、双方がそれぞれの立場から説明や主張を行った上で、議論が平行線になっていたことが認められる。

⑶ チェックシートの評価について

法人は、第5回団体交渉において、組合に対し、運転チェック時にX2に交付されたチェックシートを提示した。組合は、チェックシートに最低評価のCが一つもないため、解雇相当という判断は誤りであると主張した。

これに対し、法人は、実際の運転状況が危険であったことには変わりなく、以前から危険運転に対して口頭で注意していたなどと述べた。また、前記⑴のとおり、一番大きな解雇理由は2年8月の複数回の事故であり、仮に運転チェックがなかったとしても、解雇相当であることも説明した。

法人の上記説明に対し、組合は、チェックシートの評価は解雇相当ではないという主張を更に繰り返す状況となっていた。

このように、双方の主張が平行線となって、同じ主張を繰り返す行き詰まりの状態になっていたと認めることができる。

⑷ 解雇の再検討について

法人は、第5回団体交渉における組合の要求に応じて、本件解雇の再検討を行う会議を設けた。その検討結果として、第6回団体交渉では、X2の危険運転及び複数回の事故が解雇相当であるとした現場の判断が妥当とされたため、本件解雇の撤回はできない旨を説明した。また、上記会議には、法人の人事・総務担当のほか理事長らも参加し、これまでの団体交渉の内容も共有した上で議論したことも説明しており、本件解雇を再検討した結果については相応の説明を尽くしているといえる。

一方、組合は、法人が再検討の会議の結果、改めて撤回しないと回答したばかりの本件解雇について、新たな理由もなしに再々検討を求めており、交渉が行き詰まり状態となっていたことが認められる。

⑸ 解雇の判断基準について

組合は、第6回団体交渉において、法人に対し、客観的な解雇基準の説明を求めた。これに対し、法人は、点数制のような基準はないと述べて、組合の主張する客観的な解雇基準の存在を否定するとともに、X2の事故が、就業規則に照らして解雇事由に相当すると判断した旨の説明を繰り返し述べた。

法人は、説明が繰り返しになっていることを指摘し、今後何を交渉すべきかを尋ねたところ、組合は、客観的な解雇基準についての説明を繰り返し求め、本件解雇の撤回を再び要求した。

 ⑹ 第三者機関の利用について

法人は、第4回団体交渉では、お互い主張しあって争うのであれば労働審判や労働訴訟の範ちゅうではないかと述べ、また、第6回団体交渉では、話合いは平行線をたどっているため、東京都労働委員会のあっせん手続などの第三者の場で議論をした方がいいのではないかと発言している。

上記の法人の発言は、団体交渉は争いの場であると述べた組合に対し、争いではなく話合いを促す趣旨であり、団体交渉の議論がいわゆる行き詰まり状態に至っている現状を伝えて、今後の対応の検討を求める趣旨であったとみるのが相当である。したがって、第三者機関の利用を提案して団体交渉を拒否するものではなく、団体交渉を不当に打ち切る意図を持ってなされたものとまでは認めることができない。

 ⑺ 団体交渉での資料の提示について

組合は、第3回団体交渉で、法人が初めて解雇理由の裏付けとなる資料を提出したと主張する。

確かに、第1回及び第2回の団体交渉では、解雇理由の裏付けとなる資料が提示されなかったことが認められる。しかし、第1回及び第2回の団体交渉申入書には、提出資料の要求に関する記載はなく、第1回団体交渉においても、組合が次回の団体交渉で特定の資料の提出を要求したことはうかがえなかった。加えて、法人は、第2回団体交渉における組合の要求を受けて、第3回団体交渉において、X2の解雇理由の根拠資料を開示し、その場で質疑応答も行っている。これらの事実に鑑みると、法人は、一連の団体交渉において、解雇理由の説明に必要な資料を開示していると認めることができる。

そして、第6回団体交渉が終了した時点において、団体交渉に必要な資料が不足していたと認めるに足りる疎明もない。

 ⑻ 団体交渉の出席者について

組合は、第1回団体交渉には、法人の代理人弁護士のみが出席し、法人の職員が出席せず、具体的な議論ができなかったと主張する。

しかし、法人が、第1回団体交渉において、解雇理由証明書の記載のどの点が事実と異なるのか繰り返し質問したところ、組合は、法人職員がいない場では具体的な主張は明らかにできないとの態度に終始していたことに鑑みれば、組合の上記対応も、実質的な議論に至らなかった原因の一つと認められる。

また、法人は、第1回団体交渉において、組合が次回の団体交渉に法人の職員を同席させるよう要求したことを受けて、第2回以降の団体交渉には、人事労務を担当する管理職2名が出席し、また、第5回団体交渉には、組合の要求を受けて、当時のX2の運転の評価を行った者を出席させるなど、それぞれ実質的な対応を行っている。

さらに、第1回団体交渉における法人の上記対応によって、その後の団体交渉の進捗が著しく妨げられたという事情も認めることができない。

⑼ 結論

以上のとおり、法人は、解雇理由について相応の説明を繰り返すとともに、組合側の求めに応じて各種の資料を開示する、運転の評価を行った者を団体交渉に出席させるなどして、本件解雇について組合の理解を得るべく相応の努力を尽くしていたものと認められる。

一方で、組合は、飽くまで本件解雇の撤回を求めるという要求に終始しており、本件申入れにも、本件解雇に係る新たな主張や提案等はなく、従来と同じ要求の繰り返しに至っていたといわざるを得ない。

これらの事情に鑑みれば、本件申入れの時点では、これ以上団体交渉を行っても議論の進展が見込めない、行き詰まりの状態に至っていたものと認められる。

したがって、法人の本件申入れの拒否には、正当な理由が認められる。

 

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日            令和3年9月17

⑵ 公益委員会議の合議     令和5年5月9日

⑶ 命令書交付日           令和5年6月30