当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、個人加盟のいわゆる地域合同労働組合であり、本件申立時における組合員数は約150名である。傘下にZ分会(以下「分会」という。)があり、本件申立時における分会員数は両組合員の2名である。

⑵ 被申立人Y1(以下「Y1」という。)は、平成26年8月に設立された、砂利、土石等各種建材の採掘、製造、販売、運送を行う株式会社であり、本件申立時における従業員数は約40名である。代表取締役はB1である。

⑶ 被申立人Y2(以下「Y2」といい、Y1と併せて「両社」という。)は、28年2月に設立された、砂利、土石等各種建材の採掘、製造、販売、運送を行う株式会社であり、令和3年9月16日に福島地方裁判所(以下「福島地裁」という。)いわき支部において破産手続開始が決定された。代表取締役はB2である。

⑷ 被申立人Y2株式会社破産管財人Y3弁護士(以下「Y3破産管財人」という。)は、9月16日付けで福島地裁いわき支部によりY2の破産管財人として選任された。

 事件の概要

⑴ X2は、平成30年1月からY2に雇用されていた。

X3(以下、X2と併せて「両名」又は「両組合員」という。)は、8月からY1に雇用されていた。

X2は令和元年6月、X3は2年11月頃、申立人X1に加入した。

⑵ 3年7月27日、Y2は、X2を含む従業員全員に対し、取引先の民事再生により債権回収不可能となり、事業を廃止することを理由に、7月31日付けでの解雇を通知した。

8月4日、仙台地方裁判所は、Y1の民事再生手続開始を決定し、同月11日、同社は、X3を含むバラセメント車両等の運転手(以下「運転手」という。)に対して9月10日付けでの解雇を通知した。

⑶ 組合は、両社に対し、解雇撤回や雇用確保等を議題として、7月21日、同月28日、同月30日、8月11日及び同月18日付けで団体交渉を申し入れたが(以下、5回の団体交渉申入れを併せて「本件団体交渉申入れ」というが、個別に言及する場合には、それぞれ「7月21日付団体交渉申入れ」、「7月28日付団体交渉申入れ」、「7月30日付団体交渉申入れ」、「8月11日付団体交渉申入れ」、「8月18日付団体交渉申入れ」という。)、両社はこれに応じなかった。

⑷ 9月16日、福島地裁いわき支部は、Y2の破産手続開始を決定し、Y3破産管財人を破産管財人に選任した。

⑸ 本件は、下記アないしカの6点がそれぞれ争われた事案である。

ア Y1が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、X3を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。

イ Y1が、同社の○○○○○○○○ターミナル(以下「○○ターミナル」という。)の運転手全員を解雇後、両組合員に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

ウ 組合の本件団体交渉申入れに対し、Y1が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点3)。

エ Y2が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、X2を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)。

オ Y2が運転手全員を解雇後、X2に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)。

カ 組合の本件団体交渉申入れに対し、Y2が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点6)。

 主 文 <一部救済>

⑴ Y2は、申立人に対して文書を交付しなければならない。

⑵ 前項の履行報告

⑶ Y2に対するその余の申立て並びにY1及びY3破産管財人に対する申立ての棄却

 判断の要旨

(1)  Y1が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、X3を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かについて(争点1)

Y1は、団体交渉を拒否した状態ではあったが、民事再生手続に基づく事業廃止に伴い、○○ターミナルで勤務していた同社所属の運転手5名全員を組合員であるか否かにかかわらず解雇したのであるから、同社がX3を解雇したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。

(2)  Y1が○○ターミナルの運転手全員を解雇後、両組合員に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かについて(争点2)

ア X3について

Y1が、組合員であるX3の雇用確保について、他の従業員と異なる取扱いをしたということはできず、このほか、同社が不当労働行為意思をもってX3に雇用あっせん等を行わなかったと認めるに足りる事情も特にうかがわれないことから、同社が同人に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。

イ X2について

Y1は、同社の従業員、Y2の従業員のいずれに対しても、雇用確保のための措置を講じたとは認められないから、Y1が、X2に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。

(3)  組合の本件団体交渉申入れに対し、Y1が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点3)

組合は、直ちに団体交渉に応じるよう繰り返し要求するのみで、8月6日以降の候補日を提示することなく、同月20日のY1の回答から間もない同月23日に本件を申し立てた。

そうすると、団体交渉が開催されなかった原因をY1のみに負わせるのは酷であるといわざるを得ず、同社がX3の雇用確保等を議題とする本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

(4)  Y2が、雇用確保に係る団体交渉を拒否した状態で、X2を解雇したことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かについて(争点4)

Y2は、団体交渉を拒否した状態ではあったが、事業廃止に伴い、X2を含む運転手8名全員を組合員であるか否かにかかわらず解雇したのであるから、同社が同人を解雇したことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。

(5)  Y2が運転手全員を解雇後、X2に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であること等を理由とする不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かについて(争点5)

Y2が、解雇した従業員の雇用確保について、X2と他の非組合員の運転手とで異なる取扱いをしたということはできず、このほか、同社が不当労働行為意思をもってX2に雇用あっせん等を行わなかったと認めるに足りる事情も特にうかがわれない。

したがって、Y2が、X2に対して雇用確保のための措置を講じなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いにも組合運営に対する支配介入にも当たらない。

(6)  組合の本件団体交渉申入れに対し、Y2が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて(争点6)

ア 7月21日付団体交渉申入れに対する対応

5月6日及び6月15日の団体交渉において、組合が両社を宛名とした団体交渉申入書をY1のみに送付し、これに対してB1及びB2が出席する組合と両社との団体交渉が行われていた。

Y2が、7月21日に組合から団体交渉申入れがあったこと及びY1がこれに回答したことを認識していたことは自らが主張するとおりであって、そうだとすればこれに応じるべきであったということができ、特に5月6日及び6月15日の団体交渉において、B1及びB2が出席していたという上記の事情も考慮すると、Y2が7月21日付団体交渉申入書を直接受領していないことやY1が回答したと聞いていたことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。

また、Y2が、組合に対して「X2分会長解雇の件」を送付したことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。

イ 8月18日付団体交渉申入れに対する対応

Y2が、組合に対して「回答書」を送付したことをもって、団体交渉に応じない正当な理由があったと認めることはできない。

ウ 破産手続への対応

Y2が破産手続の対応で多忙を極めたことや、X2の解雇を撤回することが想定し難い状況であったことが推認できる。

しかし、このような事情があったとしても、Y2の組合員の雇用確保等を求める7月21日付団体交渉申入れ及び8月18日付団体交渉申入れに対して全く対応しなかったことに正当な理由があったということはできない。

エ 7月28日付団体交渉申入書、7月30日付団体交渉申入書及び8月11日付団体交渉申入書

組合は、民事再生手続開始申立てに伴って従前と異なる対応をY1から求められたにもかかわらず、従前どおり、3通の各申入書について、Y2には送付せず、同社がY1からこれらを受領した旨を聞いた事実も認められない以上、Y2がそれらに対応しなかったこともやむを得ないといわざるを得ない。

したがって、Y2が、7月28日付団体交渉申入れ、7月30日付団体交渉申入れ及び8月11日付団体交渉申入れに対して回答しなかったことには正当な理由が認められる。

オ 結論

したがって、Y2が、組合の本件団体交渉申入れのうち、7月21日付団体交渉申入れ及び8月18日付団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

 命令書交付の経過

(1)  申立年月日         令和3年8月23

(2)  公益委員会議の合議 令和4年12月6日

(3)  命令書交付日       令和5年1月26