当事者の概要

⑴ 申立人ユニオンは、平成5年12月に設立された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約650名である。

⑵ 申立人組合は、31年2月に学校の教職員により結成され、令和2年8月にユニオンに組織加盟した労働組合である。本件申立時の組合員数は37名である。

⑶ 被申立人法人は、肩書地に本部を置く学校法人であり、中学校・高等学校(以下、両校を合わせて「学校」という。)のほか、大学及び短大を運営している。本件申立時の学校の教職員数は約50名である。

なお、令和2年7月、法人は、翌年以降の大学入学者の募集停止を決めた。

 事件の概要

⑴ 学校の教職員らは、平成31年2月9日に組合を結成した。その後、組合は、ユニオンに組織加盟した。

⑵ 令和2年1120日、組合は、未払残業代問題などを要求事項として、法人に団体交渉を申し入れた。また、1214日、組合は、法人に対し、法人理事長らが団体交渉に出席することなど7項目の要求事項を挙げ、翌日までにこれらに対する回答がなければ、同月16日から22日までの間、組合員がストライキを行うことを通知した。

⑶ 1214日、ユニオンは、学校周辺の公道上で、同校生徒らに対し、組合のストライキへの理解を求める旨を記載したビラ(以下「本件ビラ」という。)を配布した(以下、この行為を「本件ビラ配布」という。)。これに対し、法人は、複数の教職員を学校敷地内の表門及び裏門付近に配置し、裏門付近にごみ箱を置いたほか、学校校舎内の生徒が通過するゲートに「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を掲示した。

⑷ 1214日及び15日、学校の校長は、組合の執行委員長ら執行部に対し、「ストライキをやめるなら今だよ。」、「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言した。

⑸ 組合は、1216日から22日までストライキを行った(以下「本件ストライキ」という。)。また、組合は、1214日にXら3名の組合員について、一部業務に限りストライキを解除する旨を法人に通知していたが、1216日及び17日、法人は、Xに対し、ストライキ期間中の該当業務への就労を拒んだ。

⑹ 組合が、学校の生徒からの要望を受け、本件ストライキに係る生徒向けの説明会を準備していたところ、1221日、法人は、組合に対し、説明会の中止を求め、中止に応じなければ、厳正なる対応をする旨を記載した同日付「御通知」と題する書面を送付した。

⑺ 1222日、組合は、生徒に対する説明会を行った。また、3年1月7日、法人は、生徒の保護者への説明会で、本件ストライキに係る説明を行った。

⑻ 本件は、以下アないしエのことが争われた事案である。

ア 本件ビラ配布に関し、法人の教職員が生徒に対して「ビラを受け取るな。」、「そのビラはごみだから捨てなさい。」などと発言したか否か、当該発言があった場合、そのことは法人によるユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か、また、法人が「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。

イ 校長が、組合の執行部に対し、2年1214日に「ストライキをやめるなら今だよ。」と、翌15日に「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

ウ 法人が、組合に対し、1221日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする」と通知したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)。

エ 組合が本件ストライキを限定的に解除するとした組合員Xに対し、法人が、その就労を拒否したことは、組合員としての行為を理由とする不利益取扱い又はユニオンらの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)。

 主 文 <全部救済>

⑴ 法人は、組合の組合員Xを、令和2年1216日及び17日に、計画されていた生徒指導の業務に従事したものとして取り扱い、Xに対し、同業務の従事に相当する時間の賃金相当額を支払うこと。

⑵ 法人による文書の交付及び掲示

要旨:@令和2年1214日、法人の教員が、学校の生徒に対し、ユニオンが配布するビラを受け取らず、捨てるように声を掛けたこと、及び「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したこと、A法人の校長が、組合の執行部に対し、1214日及び15日に「ストライキをやめるなら今だよ。」、「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言したこと、B法人が、組合に対し、1221日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする。」と通知したこと、並びにC組合がストライキの限定解除を通知したにもかかわらず、法人が、1216日及び17日に、組合の組合員Xを生徒指導の業務に従事させなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと、今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。

⑶ 法人による前各項の履行報告

 判断の要旨

 争点1について

ア 令和2年1214日、法人は、学校内に、「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を掲示し、学校の裏門外側にごみ箱を置き、学校敷地内の各門付近に教職員を配置し、裏門付近では、複数の教員が、下校する生徒に対し、「(ビラを)受け取らないで。」、「『捨てて』って言ったよね。」、「いいよ、もらわなくて。」などと声を掛けた事実が認められる。したがって、本件ビラ配布に関し、法人の教職員が生徒に対して「ビラを受け取るな。」、「そのビラはごみだから捨てなさい。」という趣旨の発言をしたことがあったというべきである。

そして、法人が、学校敷地外で直接的な妨害を行っていないとしても、本件ビラ配布を否定的に捉え、生徒が本件ビラを受領することを組織的に妨害するための対応をしたということはいえるし、裏門付近にごみ箱を置いたことも、職員の個人的判断ではなく、法人としての行為であるとみざるを得ない。

本件における法人の教職員の上記発言や、法人が「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、本件ビラの内容が生徒に伝わることを妨害するものであるということができる。

イ 本件ビラ配布の態様に関しては、本件ビラ配布が行われた場所は、学校の校門前とはいえ、敷地外の公道上である。本件ビラ配布は、生徒を対象として行われたが、ストライキによる影響を受ける生徒及び保護者に本件ストライキ実施の経緯を説明するビラであるから、生徒を配布対象とするのは不自然なことではなく、このことが生徒への教育的配慮に欠けるということはできない。そして、教員らは、学校敷地内に配置されていたのであり、ユニオンの組合員との間でトラブルが生じた事実は認められない。一方、ユニオンの組合員の配布の態様についても、組合員と生徒との間にトラブルが生じた事実は認められないことから、配布は平穏に行われたものと推定できる。

このように、本件ビラ配布の場所、手段、態様は穏当を欠くものであったとまではいえない。

ウ 本件ビラが、「上野学園中高生・保護者の皆様へストライキの経緯のご説明」と題するものであるにもかかわらず、その記載内容として、法人や理事長一家の経営に対する批判の色合いが強いものがあり、組合員である法人の教職員の労働条件や組合と法人との労使関係に関する記述としては、行き過ぎの感が否めない。

エ しかしながら、本件ビラの記載は、ユニオンらが、「中学、高校及び短大の廃止」という事態をも想定して、組合員の雇用や労働条件に危機感を抱いていたものを表していると考えられ、それは不自然ではない。組合が、従前から法人に対し、財務諸表の開示や理事長らの経営責任などを団体交渉の議題として挙げていたことに鑑みれば、法人や理事長一家の経営に対する批判は、組合員の雇用や労働条件を脅かす原因を追及する趣旨のものであるとみることができる。また、法人や法人の理事の行為について外部専門家の調査が行われ、法人が文部科学省への報告や説明を行っていたことなどを考慮すると、本件ビラの記載内容は、組合員の雇用や労働条件への危機感から、表現に行き過ぎたところがあったとしても、全くの虚偽や事実の歪曲があったとまではいえず、一定の事実に基づくユニオンらの認識又は評価を記したものであるとみることができる。

オ 本件ビラには、これまでの事情に係る記載もあり、本件ストライキへの理解や協力を求める呼び掛けの記載もあることから、本件ビラを全体としてみると、組合員の雇用や労働条件を脅かすものとユニオンらが認識する法人の経営や理事長らの行為について、ユニオンらの見解を述べて、本件ストライキの実施に至る労使関係の経緯を説明するものであるということができる。本件ビラに添付された「Q&A」とを併せても、本件ストライキによって何らかの影響を受けることが予想される生徒やその保護者に対し、労使関係の経緯を説明して本件ストライキ実施への理解を求める趣旨であることは十分に読み取ることができる。

したがって、生徒を労使紛争に巻き込むことを直接の目的としていると認めることはできないし、生徒に対する教育的配慮がないとまでいうこともできない。

カ 本件ビラ配布の場所、手段、態様は穏当を欠くものであったとまではいえず、本件ビラの全体としての趣旨は、本件ストライキに係る経緯を説明し理解を求めることにあることを併せ考えると、本件ビラ配布の目的、本件ビラの記載内容は、いずれも労働組合の正当な活動の範囲を逸脱しているとまではいえない。一方、法人による対応や行為は、正当な組合活動である本件ビラ配布への対応としては過剰なものである。

キ よって、1214日、法人が、その教員をして生徒に対して本件ビラを受け取らず、捨てるように声を掛けたこと、及び「外で配っているビラは受け取らないでください。」と記載した紙を学校内に掲示したことは、正当な組合活動を妨害するものといわざるを得ず、ユニオンらの運営に対する支配介入に該当する。

⑵ 争点2について

ア 1214日の校長の発言が、仮に、たまたま会ったときの会話であり、事前に計画してわざわざ呼び出したわけではなく、威圧的な口調でなかったとしても、時間の長短に関わらず、発言内容としては、組合の委員長ら執行部に対して本件ストライキを行わないように働き掛ける趣旨であるといわざるを得ない。

イ 1215日の校長の発言は、前日の続きとして校長が呼び出した上で、前日よりも長い時間、組合の執行部に対して行われている。その際、校長は、前日に続いて、組合の執行部に対して本件ストライキを行わないように働き掛けたほか、組合員らに何らかの不利益が生ずることを示唆したということがいえる。

ウ 上記のことは、校長の個人的発言とはいい難く、本件ストライキを抑制することを目的として行われた法人の行為であるというべきであり、法人に帰責するものといえる。そして、結果的に本件ストライキが行われたことは、上記各発言の評価を左右しない。

カ よって、校長が組合の執行部に対し、1214日及び15日に「ストライキをやめるなら今だよ。」、「何も変わらないからストライキをやめた方がいいよ。」、「君たちが大変なことになるよ。」などと発言したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に該当する。

⑶ 争点3について

ア 本件ビラは、生徒やその保護者に対して本件ストライキの実施に至る労使関係の経緯を説明するものであったことや、組合の組合員は学校の教職員であることから、教職員が組織する組合が、説明会開催という生徒の要望に応えようとすること自体に教育的配慮がないということまではいえず、生徒に対して本件説明会を行おうと計画したことは正当な組合活動の範囲を逸脱しているとまではいい難い。そして、本件説明会の目的が本件ストライキに係る生徒への説明であることは、生徒からの要望書を受けて組合が計画したことから容易に推測できるし、法人の1221日付「御通知」において、組合が1222日に、本件ストライキに関して、生徒への説明を行う予定であることを、法人は伝え聞いているとの記載からも読み取れる。

イ 本件説明会が計画されていることを法人が知った際に、組合に対して説明内容を尋ねるなどして「教育的配慮の有無」を確かめた様子はうかがわれない。このように、本件説明会の具体的な内容を確認しないまま、法人が、組合に対し、本件説明会そのものの中止を求めた上で、万一、生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする所存である、と通知しているのであるから、これは、労働組合としてのユニオンらの活動に対するけん制とみることができる。

ウ 以上のとおり、ユニオンらが本件説明会を計画したことが正当な組合活動の範囲を逸脱するものであるとまではいえないのであるから、法人が、組合に対し、1221日付「御通知」により、「生徒に対して組合活動を行うようなことがあれば、当学園は、厳正なる対応をする」と通知したことは、ユニオンらの運営に対する支配介入に該当するといわざるを得ない。

⑷ 争点4について

ア 組合は、本件ストライキに先立ち、Xの生徒指導の業務を本件ストライキの対象としないストライキ限定解除通知を行っていたにもかかわらず、校長は、Xに対し、本件ストライキに専念するように述べて、ストライキの対象外であった生徒指導業務にも従事させず、その理由として、ストライキをやっているから、生徒指導主任の教員は労働組合が嫌いだからなどと述べているのであるから、法人は、組合員Xが、正当な組合活動である本件ストライキに参加することを理由として、労働組合を嫌う生徒指導主任らの意向を受け入れ、Xを、本件ストライキの対象外である生徒指導の業務に従事させなかったものといわざるを得ない。

イ 以上のとおり、法人は、Xが、正当な組合活動である本件ストライキに参加することを理由として、1216日及び17日、組合が本件ストライキの対象外であると通知していた生徒指導の業務にも同人を従事させず、その分の賃金を支払わなかったのであるから、法人の対応は、Xが組合員としてストライキを行ったことを理由とした不利益取扱いに該当するとともに、ストライキというユニオンらの組合活動の運営に対する支配介入にも該当する。 

 命令書交付の経過

(1)  申立年月日         令和3年1月12

(2)  公益委員会議の合議 令和5年7月18

(3)  命令書交付日       令和5年9月7日