当事者の概要

⑴ 申立人組合は、銀行やその関連会社等で働く労働者を組織する労働組合であり、一人でも加入できるいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員数は約150名であり、会社において組合に加入している者は、X2外1名である。

⑵ 被申立人会社は、肩書地に本社を置き、日本全国に支店を有する普通銀行である。

 事件の概要

⑴ X2は、平成2310月、会社に入社し、FPグループに配属された。入社時、X2の職務等級は管理職層であった。

 令和2年7月、会社は、X2の上司、同僚、部下とのやり取り等に関する問題行動が懲戒事由に該当するとして、同人と2回の面談を行った。
 8月13日、X2は、組合に加入し、組合と会社とは、10月8日に第1回団体交渉を開催した。

 1030日、会社は、X2に対し、出勤停止3日間の懲戒処分を行った(本件懲戒処分)。その後、組合と会社とは、11月6日及び12月7日に団体交渉を開催した。

 3年2月24日、会社は、X2に対し、2年度の人事評価が低評価になること、同人の所属するFPグループが年度末で消滅して他部署に移管するものの、移管先の部署への同人の配属は不可能であること、同人は降格の可能性があることを伝えた上で、今後、同人が満足する職場環境を提供できないとして退職勧奨を行った。これに対し、3月3日、組合は、抗議の上、団体交渉を申し入れた。

 4月1日、会社は、X2に対し、非管理職層への降格(本件降格)、人事部附への異動(本件配置転換)を発令した。

⑵ 本件は、会社が、X2に対し、@本件懲戒処分を行ったこと並びにA本件降格及び本件配置転換を行ったことが、それぞれ、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 主文 <一部救済>

⑴ 会社は、組合員X2を、速やかに人事部附以外の部署に配属させなければならない。

⑵ 文書掲示及び交付(要旨:本件配置転換が不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前各項の履行報告

⑷ その余の申立ての棄却

 判断の要旨

⑴ 本件懲戒処分について

X2は、2年8月13日に組合に加入し、10月8日に組合と会社との間で団体交渉が行われている。そして、会社は、1028日に懲罰審議会を開催し、同月30日にX2に処分を通知しており、団体交渉と本件懲戒処分とが時期的に近接しているといえる。

しかしながら、本件懲戒処分の通知には懲戒事由@からIまでの記載があるが、これらはX2の組合加入以前から会社が問題視して懲戒処分の手続を進めていたものであり、同人の行動が懲戒事由に該当するとの会社の認識は、同人の組合加入、団体交渉を経ても変動がなかったとみるのが相当である。そのため、本件懲戒処分を、X2が組合員であること又は正当な組合活動をしたことと結び付けて考えることは困難である。

したがって、会社がX2に対し、本件懲戒処分を行ったことは、同人が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いであるとまでいうことはできず、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。

⑵ 本件降格及び本件配置転換について

 ア 本件降格について

X2は、入社以来、管理職層の職位にあったが、上司の命令に従わなかったり、周囲には非難、侮辱又は威圧的と受け取られ得る対応を行ったり、周囲との間であつれきを生むなどの数々の問題行動があったといえ、同人が管理職として、社内の模範となり、後進を指導・育成し、円滑なコミュニケーションを促進して組織をマネジメントしていくことはもはや困難であったと会社が判断したことにも、相応の根拠があったといえる。

また、2年3月に、Y2副本部長が管理職としてのX2のふるまい方を注意していることから、同人の管理職としての行動を、会社は、同人が組合に加入する8月13日よりも前から問題視していたことが認められる。そして、会社において、職務等級が下がった例はほかにもあり、特殊な事例ではない。

以上のとおり、会社は、X2の管理職としての資質について、同人の組合加入前から問題視していたことが認められ、その上で、会社が同人について、グループメンバーの模範となり、指導・育成やマネジメント能力が求められる管理職層にはふさわしくないと判断して本件降格を行ったことにはそれ相応の理由があるといえ、管理職を選任する上で認められる使用者の広範な裁量をも考慮すると、本件降格という帰結自体に限れば、著しく不合理な判断とまで評価することはできない。したがって、本件降格は、X2が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いであるということはできず、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。

イ 本件配置転換について

() 3年4月1日、会社は、部署の再編を行い、X2が所属していたFPグループが他部署に統合された。X2は、総合職の一般行員として会社に入社し、FP業務に従事してきたが、本件配置転換により、人事部附となり、週3日は出社、週2日は在宅勤務を基本とし、出勤時は来客用応接室に一人配置され、レポートを作成することとなり、他の社員とやり取りをしたり、交流をすることはなくなった。そして、その状況は、4年9月21日の本件結審日時点において変動がない。

X2には、FPグループ内において周囲には非難、侮辱又は威圧的と受け取られ得る対応を行ったり、周囲との間であつれきを生むなどの数々の問題行動があり、会社が、同人を、周囲との人間関係が引き継がれる部署に配属させることができないと判断したことにはそれなりの理由があるといえる。

() しかしながら、人事部附に配属したことについては、以下のとおりその必要性に疑問が生ずる。

a X2は総合職として採用されており、FPグループから他の部署に異動した者もいる中で、X2をこれまでの人間関係が引き継がれない他の部署へ配属させることも制度上可能であったにもかかわらず、本件配置転換に当たって会社がその検討をしたことは認められない。

b そして、会社では、同時期に人事部附となってX2と同様の職場環境で同様の業務を遂行していた社員は存在せず、また、会社は、X2に他の社員とトラブルが生じていたことから安易に他の部門に配属できず、ひとまず人事部附に配置転換するほかなかったと主張しながらも、本件配置転換後約1年半が経過する4年9月21日の本件結審日時点までその状況に据え置いており、これは、人事部附となった他の事例と比べて異例の対応であるといわざるを得ない。

c さらに、X2に作成を命じたレポートを会社がどのように活用していたかも不明であり、会社が3年3月24日に、X2に対し、4月からの業務は調査レポートの作成であると伝え、その内容については決めかねているが何もしないというのは許されないから何らかの業務を決めておくと伝えていたことからしても、その業務上の必要性に疑問が残るところである。

d 加えて、X2が会社において管理職としては適格性を欠くとしても、そのことから直ちに、同人が人事部附以外の非管理職の業務には適格性がないとまではいい難い。

() そこで、本件配置転換前後の組合と会社との関係について、以下検討する。

a 組合と会社との間では、本件懲戒処分をめぐって第2回及び第3回団体交渉が行われ、会社は処分の正当性を主張してX2の反省を求める一方で、同人は懲戒処分そのものに納得せず、組合が処分の撤回を求め、労使の間で鋭く対立していた。そして、会社は、X2に対する注意の具体的時期や内容といった未回答の部分もある中で、本件懲戒処分について組合が更なる説明を求めて団体交渉を申し入れていたのに対し、これを軽視し、具体的な説明をせず、交渉を打ち切る姿勢をみせていた。

b また、3年2月24日、会社がX2と面談して退職勧奨を行ったが、X2は、組合と相談するため即答は難しい旨応じた。しかし、その翌日にY3人事担当部長がX2と話をすることを持ち掛け、また、組合が3月3日に団体交渉を申し入れたが、同月8日にY2副本部長がX2と話をすることを持ち掛けている。このように、会社は、退職勧奨についてX2が組合と相談し、組合が団体交渉を申し込んでいたにもかかわらず、X2と直接話をしようとする姿勢をみせていた。

c 加えて、本件配置転換後も複数回にわたり、組合は対面での団体交渉を申し入れてきたが、会社はオンラインでならば応ずるとし、第3回団体交渉までは対面で開催されていたが、その後、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況は変動していたにもかかわらず、会社は、対面での団体交渉を拒否する姿勢をみせていた。

d これらのことからすると、会社は、本件懲戒処分を受け入れようとせず、団体交渉を重ねて求めてくる組合を疎ましく思い、組合との更なる交渉を忌避していたことがうかがわれる。

() また、X2は、組合に加入し、本件懲戒処分をめぐって組合を通じて団体交渉を行って処分撤回を求め、会社からの始末書の提出要求に素直に従わないなど組合の力を借りて精力的に活動している。これに対し、会社は、新たな懲戒処分をほのめかして反省の意思を明記した始末書の提出を求め、早急に収束させる方向で対応してほしいと通知するなどしており、同人の組合活動を疎ましく思っていたことは容易に推認できるところである。

そして、会社は、X2に対し、本件配置転換前後において退職勧奨を重ねている。さらに、本件配置転換の態様は、X2一人を客用応接室に配置して、他の社員とのやり取りや交流のない中で、必要性に疑問のある調査レポートの作成を命ずるのみであるという異様なものであった。

こうした経過からみると、会社は、X2を退職誘導し、会社から同人を排除しようとしていたことが認められ、本件配置転換の真の目的は、同人に退職勧奨を受け入れさせるために行われたのではないかとの疑いも否定できない。

() 以上のとおり、会社がX2を人事部附に配属したことについての業務上の必要性は疑問であり、同人を人事部附に配属したことは不自然であるといわざるを得ない。そして、本件懲戒処分をめぐって労使が鋭く対立していた中で、会社は、組合を軽視し、退職勧奨について組合が交渉を求めていたにもかかわらず、組合を通さずにX2と直接話をしようとするなど組合との更なる交渉を忌避しようとしていたことが認められる。また、本件懲戒処分に納得せず、会社からの始末書提出の指示に素直に従わず、組合の力を得て団体交渉で会社を追及しようとするX2を会社は疎ましく思い、同人を会社から退職させようとしていたことが認められる。

    そうすると、本件配置転換は、組合の存在を嫌悪していた会社が、組合員として自身の懲戒処分撤回等の活動を行っていたX2を退職誘導して職場から排除し、ひいては会社から排除することを企図して組合を弱体化させるために行ったものであったといわざるを得ない。

    したがって、本件配置転換は、X2が組合員であること及び組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たり、また、組合の運営に対する支配介入にも当たる。

 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日         令和2年3月29

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年1月24

⑶ 命令書交付日       令和5年3月14