【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成13年に結成されたいわゆる合同労組であり、令和4年9月現在における組合員数は約250名である。法人の従業員で組合に加入しているのはX2のみである。

⑵ 被申立人Y1(以下「法人」という。)は、児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉、病院事業等を行う社会福祉法人であり、肩書地に本部を置き、東京都中野区、清瀬市及び栃木県那須町において養護老人ホームなどの施設を運営している。4年4月現在の常勤専従職員は約440名、非常勤・その他の職員数は約210名である。

 

2 事件の概要

平成23年9月、法人は、生活相談員であったX2をけん責処分とし、10月1日付けで支援員に配置転換(23年配転)した。X2は、組合に加入し、組合と法人とは団体交渉を重ね、法人は、X2のけん責処分を撤回したが、24年6月、協調性が欠如し改善の見込みがないとしてX2を普通解雇した。

24年9月、X2は、23年配転及び解雇が無効であるとして、地位確認等を求めて東京地方裁判所(東京地裁)に提訴した。東京地裁は、解雇無効、23年配転有効との判決を言い渡し、2610月、同判決は東京高等裁判所で確定した(本件判決)。

12月1日、X2は支援員として職場に復帰した。その後、組合と会社とは団体交渉等を重ねた結果、28年4月22日にX2と法人との間で面談を行うこととなったものの開始時刻の調整がつかず、面談は行われなかった。同日、法人のY2事務長はX2に対し、ア X2が同日の面談を行わなかったこと、イ 3月17日の団体交渉における組合員X2の態度、ウ 組合がホームページに掲載した文書等について発言した。

組合と法人とは、8月23日から、団体交渉を4回行ったが、法人は、議論が尽くされたとして以降の団体交渉を拒否し、29年4月18日、組合は、本件申立てを行った。

30年2月5日、組合と法人とは、協定書を締結して団体交渉を再開し、X2の配転に関する団体交渉を4回行った(再開団交)が、法人は、交渉がデッドロックに陥ったと回答した。

当委員会は、本件のうち、X2の配転が不利益取扱いに当たるとの申立てに係る部分を分離し、令和3年3月、申立てを棄却する旨の命令書を交付した。

本件(分離後)は、法人が行った以下の行為が不当労働行為に当たるか否かが争われた事案である。⑴ 法人は、X2の生活相談員への配転について、組合との団体交渉に誠実に応じたか(平成28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉及び30年2月26日から6月26日までの4回の団体交渉)。⑵ 法人が、@組合が要求する「組合員X2を生活相談員に配置転換すること」(令和3年9月27日及び1011日の申入れ)、A組合員X2及び他の従業員の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)、並びにB令和3年1016日付「団交開催の要求」で求めた議題について、団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。⑶ 法人のY2事務長が、平成28年4月22日に行ったX2に対する以下の発言は、組合に対する支配介入に当たるか否か。ア X2が同日の面談を行わなかったこと。イ 平成28年3月17日の団体交渉における組合員X2の態度。ウ 組合がホームページに掲載した文書。

 

3 主 文

⑴ 法人は、組合が申し入れた組合員X2の生活相談員への配置転換を議題とする団体交渉に誠実に応じなければならない。

⑵ 法人は、組合の組合員X2の賃上げに関する団体交渉、及び組合が令和3年1016日付「団交開催の要求」で申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

⑶ 法人は、組合に対する抗議の内容を、組合員個人に対し、業務上の指導として直接発言することにより、組合の組織運営に支配介入してはならない。

⑷ 文書の交付及び掲示

⑸ 前項の履行報告

 

4 判断の要旨

⑴ 法人は、組合が要求する「組合員X2を生活相談員へ戻すこと」について、組合との団体交渉に誠実に応じたか(平成28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉及び30年2月26日から6月26日までの4回の団体交渉)。(争点1)

ア 団体交渉の開催に至るまでに時間を要したこと

法人は、組合が、28年4月25日に団体交渉を申し入れた後、業務上の都合などの理由を伝えたものの、6月24日になって、組合の申し入れた議題は、義務的団体交渉事項ではないなどと回答し、8月8日まで具体的な日程などを提示していなかった。

労働組合法上は、使用者は、組合が申し入れた団体交渉に誠実に応ずることが求められるが、その団体交渉の日時等の設定について、必ずしも、組合の都合のみを優先しなければならないわけではない。しかし、使用者の業務上などの都合によって組合の申し入れた日時に団体交渉に応じられない場合には、代替となる日程を示したり、先の見通しを明らかにしたりするなど、団体交渉の実現に向けた努力を誠実に行うことが求められると解されるところ、法人は、その都度異なる理由を述べて先の予定や具体的な日時を提示することなく開催を延期する一方、担当課長が交代になった以降は、組合の申し入れた団体交渉の議題が義務的団体交渉事項ではないといったそれまでと異なる見解を述べている。

法人は、上記の担当課長の対応について、組合に対して義務的団体交渉事項該当性についての法人の見解を伝えただけで、結果的に、日程調整に応じ、団体交渉が開催されたと主張するが、最初の申入れから担当課長が回答するまで約2か月間、法人が日程を提示するまでに3か月超、団体交渉が開催されるまでに約4か月間を要していること、8月23日に行われた団体交渉には、従前出席していた理事長や理事が欠席していること、その間、団体交渉の開催見通しについて組合に知らせることはなかったことなどを併せ考えると、法人の業務上の都合により開催が遅れたという側面があるとしても、法人が、団体交渉の実現のために十分に意を払ったということはできない。

したがって、団体交渉の開催までに約4か月間を要したことについては、法人の対応に誠実さが欠けていたというべきである。

イ 生活相談員になるための評価基準の説明

法人は、28年8月23日から29年3月28日までの4回の団体交渉においては、「異動については法人の裁量である」、「それじゃいつ戻すかというのは、我々に任せてください。」、「我々は我々の判断基準で決めているわけです。それをね、ああですこうですって説明する必要もないし。」などと述べ、生活相談員になるための評価基準等を説明しようとはしなかった。しかし、生活相談員と支援員とでは賃金に差異があり、支援員から生活相談員への異動は職員の重要な労働条件であるから、組合が団体交渉で要求している以上、法人は、異動については法人の裁量であるとしても、その判断基準等について、可能な限り組合に説明する必要があったというべきであり、説明する必要がないなどとした法人の対応は、誠実な団体交渉態度とは認め難い。

法人は、本件申立て後、当委員会に提出した書面において評価基準5項目を提示した。

そして、30年2月26日から6月26日までの4回の再開団交において、法人が評価基準5項目を示し、X2の配転について議論が行われた。組合は、X2の評価やどうして同人が生活相談員に戻れないのかを具体的に明らかにするよう求めたが、法人は、本件判決でX2を生活相談員として配置することに支障があると認められたという23年配転時の同人の評価や、同人が施設の運営方針について施設長と異なる意見を述べたという評価基準5項目に当たるのか追加の基準に当たるのかが不明な事柄を挙げただけであるから、再開団交において、評価基準5項目に照らしたX2の評価について、十分な説明を行ったとはいい難い。

ウ 生活相談員3名の枠に変動が生じる可能性について組合に伝えていなかった点

生活相談員2名が、28年9月と29年1月に、それぞれ退職したい意向を示し、法人は後任の選定と配転を行ったが、この過程について団体交渉等で組合に説明しなかった。

法人は、団体交渉で、生活相談員3名の枠が埋まっていることをX2を配転できない理由の一つとして挙げており、そうだとすると、この枠に空席が生じる可能性があった点については、X2を生活相談員に配転することに関して重要な位置を占めるといえる。

しかし、職員が退職の意向を示したとはいえ、この時点で退職が確定していたとまではいい切れず、それに伴う後任者の選定はいまだ法人の検討段階であったこと、また、労使間で、生活相談員の枠が空いたときに組合にその旨を伝える旨の取り決めや慣行があったとの疎明はなく、法人は、「それじゃいつ戻すかというのは、我々に任せてください。」と述べていることなども考慮すると、団体交渉で組合に説明しなかったとしても、必ずしも不誠実な対応であるとはまでいい切れない。

エ 交渉がデッドロックに至ったとして交渉を打ち切るとした点

() 29年4月4日の拒否

組合と法人とは、28年8月23日以降、4回にわたり団体交渉を行ったが、法人は、29年3月28日の団体交渉で、「我々は我々の判断基準で決めているわけです。それをね、ああですこうですって説明する必要もないし。」、「利用者さんのために最適と思われる方を。」などと述べ、4月4日、組合の申入れに対し、交渉が行き詰まりに達したため、これ以上応じる義務はないとして団体交渉を拒否した。

たとえ、配転命令や昇格等について法人に一定の裁量が認められるとしても、団体交渉において、組合に対して一切説明する必要がないとまでみるのは適当でない。法人は、本件申立て(4月18日)後の当委員会の審査において、評価基準5項目などを提示し、生活相談員の任用に関する基準を明らかにしているのであるから、28年3月17日から29年3月28日までの団体交渉の中でも、評価項目を開示するなどして生活相談員の配転の判断基準を組合に説明することは可能であったとみられる。それにもかかわらず、何ら説明しなかった法人の対応は、不誠実な交渉態度に当たるというべきであり、法人が、4月4日に団体交渉を打ち切ったことは一方的な対応であるから、正当な理由は認められない。

() 30年7月10日の拒否

30年2月26日以降、再開団交が4回行われたが、7月10日、法人は、交渉がデッドロックに陥ったとして以降の団体交渉を拒否した。

前記イで判断したとおり、再開団交では評価基準5項目などについて協議が行われたものの、評価基準5項目に照らしたX2の評価について、十分な説明を行ったとはいい難い状況であったことから、団体交渉が行き詰まっていたとはいえず、法人が団体交渉を拒否したことに正当な理由は認められない。

⑵ 法人が、@組合が要求する「組合員X2を生活相談員に配置転換すること」(令和3年9月27日及び1011日の申入れ)、A組合員X2及び他の従業員の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)、並びにB令和3年1016日付「団交開催の要求」で求めた議題について、団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点2)

ア X2の配転(3年9月27日及び1011日の申入れ)

3年3月25日、当委員会は、本件のうちX2の配転の不利益取扱いに係る申立てについて命令書を交付した(分離命令)。

9月27日、組合は、法人に対し、「X2組合員をどうして生活相談員に戻さないのか。」等の議題について団体交渉を申し入れた。これに対し、10月8日、法人は、分離命令において、X2を生活相談員に配転しなかったことは不当労働行為に当たらないと判断されていること、本件判決においても23年配転の有効性が認められていることを挙げて、組合の申入れが、分離命令及び本件判決の蒸し返しであり、応じられないと回答した。組合は、1011日、「団交拒否への抗議とユニオンの要求」を送付し、再度、団体交渉の開催を求めたが、法人は、1015日、組合の申入れは蒸し返しであるから、議論に応じる余地はない旨回答した。

確かに、本件判決では、23年配転が有効であると判断され、分離命令では、X2を生活相談員に配転しなかったことが不当労働行為には当たらないと判断されている。

しかし、組合が9月27日に団体交渉を申し入れた時点で、本件判決の対象である23年配転から10年が経過しており、分離命令の対象となった平成29年3月1日及び同年7月1日の配転からも3年が経過しており、その間、X2は、2612月1日に職場復帰して以降、支援員として経験を積んできている。

そして、法人では、異動や配転に当たり、職員から法人に対して希望を伝えることができるから、法人は、職員配置について、当該年度に出された職員の希望をも加味して施設長の判断に基づき、その都度検討していたと認められる。

そうすると、たとえ、過去に、本件判決や分離命令が出されていたとしても、それ以降にX2が配転を希望することが阻害されるということはなく、新たに希望を出すことは可能であるから、本件判決や分離命令から相当の期間が経過し、その間、X2が支援員としての経験を積んできた状況において行われた上記団体交渉申入れについて、蒸し返しとして拒否することは適切でなく、法人は、団体交渉に応じた上で、その時点での評価基準5項目に照らしてのX2の評価等について説明する必要があったというべきである。

イ X2及び他の従業員の賃上げ(平成29年4月28日、5月10日、18日及び31日の申入れ)

29年4月28日、組合は、X2の賃上げ問題等について団体交渉を申し入れたが、5月8日、法人は、組合が本件申立てを行ったことから、法人としては都労委の調査に応じていくなどとして、申入れを拒否した。5月10日、組合は、賃金問題については法人に団体交渉に応じる義務があるとして、再度申し入れたが、同月16日、法人は、組合の主張する賃金問題は、X2の配転に起因するものであるなどとして、応じなかった。

5月18日及び31日、組合は、団体交渉申入れは、X2の賃金問題だけではなく、法人の職員全体の賃上げも交渉事項としている、法人職員の賃上げ問題についての団体交渉を求めているなどとして法人に対して団体交渉の開催を求めたが、法人は、法人の賃金は他の社会福祉法人と比較して遜色ないレベルであり、組合が議題として取り上げる意味が分からない、都労委の調査に応じ、その解決を優先したいなどとして、団体交渉に応じなかった。

法人は、法人にはX2以外の組合員がおらず、非組合員の賃上げに関することは義務的団体交渉事項には当たらないと主張する。

しかし、組合が、法人の職員全体の賃上げも交渉事項としている、法人職員の賃上げ問題についての団体交渉を求めているなどと述べたのは、法人が、組合の主張する賃金問題は、X2の配転に起因するものであるなどと主張したのに対し、同人を支援員から生活相談員に配転することによる賃上げではなく、ベースアップや定期昇給等の法人職員全体の賃上げにより組合員である同人の賃上げを求めているとして、同人の配転とは異なる交渉議題であることを示す趣旨であったと解するのが相当である。

よって、組合が議題として挙げた賃上げは、組合員の労働条件に関するものであり、義務的団体交渉事項に当たるということができ、また、X2の配転に起因するもので、同人の配転を問題にするための口実であるなどとする法人の主張は当たらない。

したがって、組合が申し入れた、X2の賃上げ関する団体交渉について、法人が応じなかったことに正当な理由は認められない。

ウ 令和3年1016日付「団交開催の要求」で求めた議題

組合が、1016日付「団交開催の要求」で申し入れた議題は、9月27日に申し入れた議題から、@X2の配転に関するものを除いた各議題であり、A人事異動の基準と運用、B賃金規則の内容と運用基準と実際、C人事考課制度の作成、D高齢者虐待事件の原因と対策、E組合掲示板の設置、F過半数代表者選出の規則の作成、及びG職場環境の改善の要求(制服などの支給枚数ほか)の計7項目である

これに対し、法人は、1022日付「回答書3」において、組合がX2の配転に関する団体交渉に応じさせるための口実だとの理由で拒否したが、組合の申し入れた上記各議題は、文言上、明らかにX2の配転とは異なる内容であり、法人は、X2の配転に関する団体交渉に応じさせるための口実だとする根拠を何ら示していない。組合の申入れ議題に疑義があるならば、組合に趣旨を確認することもできるところ、法人は、議題の趣旨や内容について組合に問い合わせたりすることもなく、文言的には明らかにX2の配転とは異なる内容の議題について、X2の配転に関する団体交渉に応じさせるための口実だと一方的に決め付けて団体交渉を拒否しており、このような法人の対応に合理的な理由は認められない。

エ 小括

以上の次第であるから、法人が、@組合が要求する「組合員X2を生活相談員に配置転換すること」、A組合員X2の賃上げ、及びB令和3年1016日付「団交開催の要求」で求めた議題について、団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

⑶ 法人のY2事務長が、平成28年4月22日に行った組合員X2に対する発言は、組合に対する支配介入に当たるか否か。(争点3)

ア X2が本件面談に行かなかった点

28年3月17日に行われた団体交渉で、理事長は、「X2さん、個人と・・・意見交換だとかしたいなと思っています。」と述べ、理事長及び理事とX2との話合いの場(本件面談)を持つこととなり、X2は、誰か一人組合の人も入れて同じ人数でやった方がいいと思うなどと述べた。

4月8日、Y2事務長は、組合副委員長に対し、メールで、本件面談を4月22日の15時から法人本部で行うこと、法人側の出席者は、理事長と理事の2名であること、組合副委員長の同席を了解することなどを通知した。組合副委員長は、自身の勤務終了後である19時開始を要望したが、Y2事務長は、これを受けられないとし、組合副委員長の都合が付かないならば、他の人で都合を付けてほしい、職員としてのX2の意見や考えを聞く趣旨の面談なので、法人の都合で予定どおり行いたいなどと伝え、これに対し、組合副委員長は、本件面談は団体交渉の確認事項だから、労使双方で協議して決めるものであり、一方的強行は許されないなどと回答した。

そして、本件面談の4月22日の15時からの実施については結論が曖昧なまま、Y2事務長も組合副委員長も相互に改めて確認することもなく、本件面談当日に至ったことが認められる。

当日(4月22日)の午後、X2が、本部に行かずに職場(施設)で仕事をしていると、Y2事務長が、X2の職場に行き、15時頃から、面会室において、施設長を交えた3名で、業務上の指導であるとして話合いを行った。Y2事務長は、「法人の職員という自覚はありますか。」と発言するなど、X2が本件面談に応じなかったことをとがめる発言を行った。

しかし、本件面談については、上記のとおり、日程調整で双方がそれぞれ自らの主張を述べ、面談実施の結論が曖昧なままでであった。

法人は、当日の出欠席についてX2が連絡もよこさなかったと主張するが、当日朝、X2は、施設長に、「日時の調整ができていないんだから、確認してください。」と答えている。これに対し、法人が、組合や組合副委員長に確認した形跡はない。

組合が本件面談の開催時間に合意せず、一方的な実施に反対している以上、組合員であるX2が、当日本部に現れなかったのは無理からぬことである。そもそも結論が曖昧なままであったY2事務長と組合副委員長との日程調整に問題があったのであるから、Y2事務長は、本件面談の実施につき見解が相違したことについて、それまで調整を行ってきた組合副委員長との間で確認や調整を図るべきであった。ところが、Y2事務長は、組合副委員長にではなく、組合員であるX2個人に対して、「法人の職員としての自覚はありますか。」と繰り返し尋ね、「指導」に言及しながら、本部に行かなかったことを非難する発言を行っている。これは、組合と日程調整を行ってきた経緯を無視し、組合と法人との間の問題について組合員個人の責任を追及することにより、X2の組合活動を萎縮させて組合の弱体化を図るものであるといわざるを得ない。

イ 3月17日の団体交渉における組合員X2の態度

3月17日の団体交渉で、X2以外の組合員が、前施設長に対し、「施設長が研修してないじゃないですか。」、「何も言えない、そんなこと、失礼なこと言うんじゃねえ。」などと発言した際、同席していたX2は、特に発言をしなかった。

Y2事務長は、このことについて、前施設長が組合員から罵倒されているのに、X2が「一切、止めなかった」、「黙って聞いていた。」、「とんでもない」などと述べて、X2を非難した。

団体交渉における組合側出席者の対応について問題があると考えるのであれば、本来、抗議・非難を行うべき相手方は組合であるところ、Y2事務長は、組合員であるX2個人に対して、就業時間内に、「指導」に言及しながら、団体交渉における組合側出席者の行動について、上司としての立場で部下である組合員個人に対して非難しており、これは、X2の組合員としての行動に圧力を加え、ひいては団体交渉における言動を萎縮させる効果を有することになる。

また、団体交渉に組合側出席者として参加していたX2に対し、他の組合員の発言を止めなかったり、法人側出席者を擁護しなかったことを非難することは、X2の組合員としての行動に圧力を加え、同人を通じ組合の行為や交渉方針等に制約を生じさせるものであり、組合の弱体化を図るものである。

ウ 組合がホームページに掲載した文書

Y2事務長は、組合のホームページ上に記載された文書について、X2に対し、「あなたが組合のホームページとかで出してる文書とか、我々は皆チェックしてます。」、「(X2が、)あること、ないこと。法人に対して、悪意のある文書を書いてる。」、「組合員としては、立派な組合員なんでしょう。」、「法人の職員としては最低ですよ。」などと述べ、非難している。

しかしながら、組合のホームページ上の記載に問題があると考えるのであれば、抗議したり非難すべき相手方は組合であり、就業時間内に、「指導」として組合員であるX2個人を非難することは、X2の組合員としての行動に圧力を加え、ひいてはその組合活動を萎縮させる効果を有することになるから、妥当とはいえない。

エ 不当労働行為の成否

以上のとおり、Y2事務長の発言は、いずれも、本来組合に対して抗議すべき内容について、組合員であるX2個人に対し、就業時間内に、「指導」として、同人を非難する内容の発言をしたものであり、同人の組合員としての行動に圧力を加え、組合活動を委縮させ、組合の弱体化を図るものである。

そして、法人本部に勤務する人事労務担当の管理職であるY2事務長が、就業時間中に、職場内の面会室において、所属上長である施設長同席の下で「指導」を行ったことは、法人の意を体して行ったものというべきであり、Y2事務長の発言は、法人の行為であると捉えることができる。

したがって、法人のY2事務長が、平成28年4月22日に行った組合員X2に対する各発言は、組合の組織・運営に対する支配介入に当たる。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成29年4月18

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和5年3月28

 ⑶ 命令書交付日    令和5年5月31