【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人yoggyインストラクターユニオン(以下「組合」という。)は、会社が運営するスタジオ・ヨギーにおいて、ヨガ、ピラティス等のクラスを担当する業務委託契約講師らが組織する労働組合であり、組合員数は非公開である。

⑵ 被申立人株式会社ヨギー(以下「会社」という。)は、平成16年に設立された株式会社であり、肩書地に本社を置き、ヨガ、ピラティス等のスタジオ事業であるスタジオ・ヨギーを運営するほか、講師養成のためのスクール事業等も運営している。令和元年12月末日時点の従業員数は265名、2年8月時点の店舗数は23であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、3年6月末日時点の従業員数は90名、本件結審時点の店舗数は14となっている。

 

2 事件の概要

会社は、平成16年から、スタジオ・ヨギーの名称で、全国の店舗でスタジオ事業を運営し、ヨガ、ピラティス、ビューティー・ペルヴィス等プログラムを展開しており、会社の正社員、又は会社との間で業務委託契約を締結したインストラクター(以下「業務委託契約講師」という。)が、開講クラスの講師を担当していた。

27年、会社は、既存のヨガのプログラムを改めて体系化し、「ヨギーヨガ」という名称の新プログラムとして開始するとともに、有効期間を1年間とし、年1回の更新を要する「ヨギー・インスティテュート認定資格」(以下「本件認定資格」という。)を設ける制度(以下「本件制度」という。)を導入した。

301010日、会社は、ヨガ講師に対し、31年3月以降にスタジオ・ヨギーでヨギーヨガのクラスを担当する場合に本件認定資格の取得・更新を必須の条件とする旨(以下「本件制度の適用拡大」という。)を通知するとともに、31年3月1日付けで全てのヨガ講師が本件認定資格の取得者となる旨、同資格の有効期間は1年間であり、資格更新の条件として継続教育ポイントの取得及び事務手数料の支払が必要となる旨等を案内した。

4月29日、本件制度の適用拡大に反対する業務委託契約講師が組合を結成し、組合は、会社に対して本件制度の適用拡大の方針の撤回等を求めて、会社との間で、令和元年5月22日から2年3月5日までの間に、6回にわたる団体交渉を行ったが、この間、組合の副執行委員長X2の担当していたレギュラークラス週8クラスのうち3クラスにつき、3月末ないし4月での終了が伝えられた。

4月11日、会社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、全店舗を休業とし、その後、6月1日から首都圏の店舗において、開講クラス数を休業前の約半数とし、クラスの定員も従前の半分に制限する形で営業を再開したが、会社は、営業再開後のクラス編成に際して、休業開始時点でレギュラークラスを担当していた組合の執行委員長X1(週4クラス)、副執行委員長X2(週5クラス)、執行委員X3(週4クラス)及び同X4(週4クラス)の4名(以下「組合員4名」といい、X3を除く3名について「組合員3名」ということがある。)に対し、担当クラスを割り当てなかった。

本件は、@組合の組合員である業務委託契約講師は、労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者に当たるか否か(争点1)、A業務委託契約講師が労組法上の労働者に当たる場合、会社が、組合員4名の担当クラスを削減してゼロにしたことは、同人らが組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるか否か(争点2)がそれぞれ争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

⑴ X1に対して週1クラス、X2に対して週5クラス、X4に対して週2クラスのレギュラークラスを割り当てること。

⑵ X1に対して令和2年6月1日以降週1クラス、X4に対して同日以降週2クラス、X2に対しては、同日以降週6クラス、令和3年1月1日以降週5クラスのレギュラークラスを割り当てたものとして取り扱い、同人らに前項のレギュラークラスを割り当てるまでの間、同人らが得たであろう報酬相当額を支払うこと。

⑶ 文書の交付及び掲示

⑷ 前各項の履行報告

⑸ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 業務委託契約講師の労組法上の労働者性について(争点1)

組合員4名は、会社との間で、雇用契約ではなく業務委託契約を締結しているが、労組法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(同法第3条)に当たるか否かは、労組法の趣旨に照らし、業務委託契約講師の業務実態に即して、諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。

ア @事業組織への組入れ

会社のスタジオ事業について、講師の大半は業務委託契約講師が占めており、会社は、業務委託契約講師の長期にわたる労働力を見込んで開講クラスの担当を割り振り、研修実施やマニュアルの配布によりクラスの質を担保するとともに、報酬の増減に影響する講師の考課を行うことによって講師を管理し、業務委託契約講師にクラス実施についての責任を負わせることで、その運営を成立させていた。

したがって、業務委託契約講師の労働力は、会社のスタジオ事業の遂行に、量的・質的な面で不可欠な労働力として位置づけられており、会社は、その労働力の恒常的な維持、確保のために、講師を会社の組織に組み入れていた。

イ A契約内容の一方的・定型的決定

業務委託契約には定型的な契約書式が用いられており、業務委託契約講師の側で、契約締結や更新の際に、労働条件等の契約内容に変更を加える余地はなく、労働条件の中核である報酬についても、報酬基準や増減は、会社が考課に基づいて決定していることから、会社は、業務委託契約講師の契約の内容を一方的・定型的に決定している。

ウ B報酬の労務対価性

業務委託契約講師の業務報酬は、1クラス当たりの基本単位報酬額という形で規定されており、講師の拘束時間を考慮した基本単位報酬額の割増や待機報酬の支払があるなど、業務量や時間に基づいて算出されている。また、講師が提供する各クラスは、会社のマニュアルによって統一した形で実施され、講師ごとに独自の要素を盛り込む余地は制限されており、労務の提供の性質が強いものである。

したがって、業務委託契約講師に対する業務報酬は、インストラクション業務等に関する、講師の労務提供に対する対価としての性質を有する。

エ C業務の依頼に応ずべき関係

業務委託契約講師は、会社からのクラス担当の打診等に応ずべき関係にあったとまではいうことができないが、場面によっては、実際の運用や業務委託契約講師の認識として、会社からのクラス担当の打診やクラス実施の依頼を拒否しづらい状況があったこともうかがわれる。

オ D広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

業務委託契約講師は、労務提供について会社から詳細な指示が与えられており、会社からの評価が報酬の増減に直結しているためこれを遵守する必要があり、労務を提供する日時、場所、内容等について、クラス前後の対応時間やスタジオ間の移動時間も含めて行動が拘束されている。

したがって、業務委託契約講師は、広い意味での会社の指揮監督下で労務提供をしており、また、会社から一定の時間的場所的拘束を受けていた。

カ E顕著な事業者性の有無

業務委託契約講師に、自己の才覚で利得する機会は乏しく、業務における損益の負担は課せられておらず、他人労働力の利用の実態もなく、業務に要する設備や交通費等は会社が負担しており、他の主たる事業の有無も明らかでない。

したがって、業務委託契約講師に顕著な事業者性は認められない。

キ 結論

以上を総合的に勘案すれば、組合員4名を含む業務委託契約講師は、会社との関係において、労組法上の「労働者」に当たると解するのが相当である。

⑵ 組合員4名の担当クラスの削減について(争点2)

ア ヨギーヨガの担当クラスの削減について

会社は、平成31年3月以降にヨギーヨガのクラスを担当するに当たっては本件認定資格の取得・更新を必須の条件とする方針を、組合結成前の301010日に決定事項として講師に周知していた。組合は、こうした会社の決定方針の撤回を求めて結成されており、組合員は全員、本件認定資格の更新をせず、更新する意思も示していなかったところ、会社は、令和2年6月の営業再開のタイミングで、当初の決定方針どおり、組合員であるか否かにかかわらず、ヨギーヨガのクラスを担当するに当たり本件認定資格の取得・更新の意思を求めたものである。

使用者は、団体交渉において、譲歩して労働組合と合意することまでを義務付けられているわけではない。会社は、組合の要求は受け入れなかったけれども、交渉期間の延長及び継続教育ポイント取得期限の更なる延長を認めるなど、一定の配慮をしている。

そうすると、ヨギーヨガのクラスについて、会社が、組合員4名が休業前に担当していたクラスを削減し、割り当てなかったことは、本件認定資格の更新の意思がないヨガ講師に対する、会社の当初の決定方針どおりの対応であり、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いには当たらない。したがって、会社が、組合員のヨギーヨガのクラス(X1の週3クラス、X3の週4クラス及びX4の週1クラス)を削減したこと、及び、ヨギーヨガ以外のクラスを担当するための資格取得の意思を有さなかったX3について、ヨギーヨガ以外のレギュラークラスの担当を調整せず同人の担当クラス数をゼロとしたことは、不当労働行為には当たらない。

そこで、以下、会社が、組合員3名のヨギーヨガ以外の担当クラス(X1の週1クラス、X2の週8クラス及びX4の週3クラス)を削減し、同人らの担当クラス数をゼロとしたことについて、判断する。

イ ヨギーヨガ以外の担当クラスの削減について

() クラス再編における担当講師の決定方針について

会社がクラス再編に当たって参照したのは、元年10月から2年4月10日までの期間における当該講師の、全担当クラスの定員合計に対する全担当クラスの受講者合計の割合(以下「集客率の総計」という。)であり、会社は、代講クラスも含めてその算出を行っていた。

しかし、会社は、従前から、業務委託契約講師の総合評価を行うに当たっては、考課内容として集客率及び貢献度の2項目を見ており、また、講師ごとに、様々な観点で集客率を算出して管理していた。このため、貢献度の項目を一切捨象し集客率の高さを重視した、クラス別や店舗別の集客率を参照するのは手間が掛かる、などとして、従前とは異なる集客率の総計を参照したとする会社の主張には不自然な部分がある。

スタジオ・ヨギーでは、多種多様なクラスが展開されており、また、同一内容のクラスでも条件によって集客率に差が出るため、一律に集客率を比較して担当講師の評価を行うことは適切な方法とはいい難い。また、代講に入った場合や、休業前にレギュラークラスを担当していない場合等は、集客率(の総計)が、講師の技量・力量を反映した数字とならない可能性もある。

会社が集客率のデータを明らかにしている講師の人数は、全業務委託契約講師274名中、わずか20名であり、組合員3名の集客率の総計が、業務委託契約講師全体の中で絶対的に低い数値かについては十分な疎明がなく、むしろクラス別の集客率を比較した場合、多くのクラスにおいて、X2の集客率は、営業再開後の担当講師の集客率を上回っている。X1及びX4については、令和2年の契約における基本単位報酬が、基準金額より高く、毎年の総合評価において会社から一定の評価を受けていたことが分かる。こうした組合員3名の担当クラスを削減し、当該クラスを他の講師に割り振った会社の対応は不自然である。

会社が主張する組合員に対するクレームは、具体的な疎明がないものが多数含まれており、また、認定できる事実についても、会社がクラス削減時点で認識していたこと、他の講師と比較して組合員に対するクレームが特に多かったこと等については十分な疎明がない。

また、営業再開後に担当クラスを有する組合員がいたとしても、それは、組合員3名に対する不利益取扱いと両立し得る事実であり、その事実のみによって、組合員3名に対する会社の不当労働行為意思が否定されることにはならない。

() 組合員3名の担当クラス削減の程度について

営業再開の際のクラス再編で担当クラス数がゼロとなった講師は、関東を拠点とする全186名の講師のうち16名しか存在せず、また、会社の業務委託契約講師全274名中、営業再開前後の週当たりのクラス減少数がおおよそ4程度以上となった講師は、組合員4名以外に19名しか存在しない。

そして、この19名のうち、6月ないし8月の期間に担当クラス数が継続してゼロとなっている講師は4名おり、また、19名のうち、休業前に週4クラス以上を担当しており、かつ組合員4名と同等以上の講師勤務歴を有する講師としては、5名の担当クラス数が、営業再開時点において、週1クラス程度にまで減少していた。しかし、これらの講師については、講師都合により担当クラスを辞退した、会社方針により当面一律中止となっているマタニティ向けクラスを担当していた、時期によって担当クラスが戻っている等の事情があった。一方、営業再開後の担当クラス数が、休業前の担当クラス数を上回った講師は、約32名存在した。

会社は、新型コロナウイルスの影響による経営の悪化及びスタジオでの開講クラス数の減少を主張するが、営業再開以降、スタジオでの開講クラス数の増加が認められる月も少なからずあり、また、会社は、5月から、一般向けにオンラインクラスの展開を開始している。

こうした営業再開後の開講クラス数の推移に伴い、組合員以外の講師については、時期によって担当クラス数が回復している状況が認められるが、組合員3名は、会社との業務委託契約は更新され続けながら、営業再開から2年半が経過しても、一貫して担当クラス数がゼロのままとなっている。

会社は、従前から講師に対し、報酬安定型の考えに基づく緩やかな報酬変化の体制を取る旨、可能な限り報酬の減額を避ける旨、一方的な通知による担当クラス数の急激な変化を極力避ける旨等の方針を明示していた。また、会社は、組合に対し、本件認定資格の更新の意思がないヨガ講師について、ヨギーヨガ以外の内容でのレギュラークラスの継続を調整する旨を回答していた。

以上からすると、組合員3名に対する会社の上記対応は、他の講師との比較においても、会社の方針に照らしても、異例の対応であるといわざるを得ない。

() 労使関係の状況

組合は、本件制度の適用拡大の方針の撤回を求めて結成され、6回にわたる団体交渉の中で一貫して本件制度の適用拡大についての協議が行われた。また、会社は、遅くとも第1回団体交渉において、出席していたX1、X2及びX4が組合の組合員であること及びX1が執行委員長、X2が副執行委員長であることを認識した。

その後、2年2月末の本件認定資格の更新に当たって、会社がヨガ講師に対して提出を求めた同意書(確認書)について、組合員は全員、署名捺印をしないまま返送し、組合が改めて会社に対して団体交渉を申し入れるなど、本件制度の適用拡大をめぐり、会社と組合との間の労使関係は対立的な状況にあった。

こうした中で、まず、X2が、第4回団体交渉と第5回団体交渉との間である2年1月に、担当する2クラスの3月末での終了を伝えられ、2月末には、更に1クラスの4月での終了を伝えられ、3月から4月にかけて相次いで3クラスを削減された。

その後、第6回団体交渉においても議論が継続となり、次の団体交渉が開催されない中で、6月の営業再開時のクラス再編において、X1、X2及びX4の組合員3名は、ヨギーヨガ以外のクラスも含めて休業前に担当していた担当クラスを全て削減され、担当クラス数をゼロとされた。

ウ 上記イ()ないし()からすると、会社の組合員3名に対する異例な対応は、本件制度の適用拡大をめぐって対立的な状況にあった中で、組合の中心的人物である組合員3名に対し、担当クラスを削減してゼロにするという不利益を与えることにより、組合活動の抑制を図ることにあったといわざるを得ない。

エ 以上のとおりであるから、会社が組合員のヨギーヨガのクラス(X1の週3クラス、X3の週4クラス及びX4の週1クラス)を削減したこと、及びX3に対して同人の担当クラス数をゼロとしたことは、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いには当たらない。

一方、会社が、組合員3名のヨギーヨガ以外の担当クラス(X1の週1クラス、X2の週8クラス及びX4の週3クラス)を削減し、同人らの担当クラス数をゼロとしたことは、同人らが組合員であることや組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いに該当する。

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日            令和2年9月1日

⑵ 公益委員会議の合議     令和5年3月28

⑶ 命令書交付日           令和5年6月1日