【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、業種を問わず企業に雇用される労働者で構成されるいわゆる合同労組であり、本件申立て時の組合員数は約400名である。なお、組合には、会社の従業員で組織する分会があり、本件申立時における分会員数は8名である。

⑵ 被申立人キャピタルモータース株式会社は、肩書地において一般乗用旅客自動車運送事業等を行っている。

  被申立人キャピタルオート株式会社は、肩書地において一般乗用旅客自動車運送事業等を行っている(以下、被申立人キャピタルモータース株式会社と被申立人キャピタルオート株式会社を併せて、「会社」という。)。

本件申立て時の会社の従業員数は、2社合わせて約650名である。なお、会社には、従業員が組織する労働組合として、分会のほかに、申立外Z1労組がある。

2 事件の概要

⑴ 平成281120日、会社と申立外Z1労組とは、会社のタクシー乗務員賃金規定(以下「賃金規定」という。)等の改定について協定書を締結し、同月21日、会社は、賃金規定等を改定し、新賃金体系に移行した。

⑵ 29年9月25日、会社に組合の分会が結成され、30年6月19日から31年2月5日にかけて開催された団体交渉において賃金改定等の議題について協議された。

⑶ 301030日に分会が発行した組合ニュースには、乗務員への釣銭の準備をすること(以下「釣銭準備」という。)を会社に認めさせたなどの記載があったため、会社は、組合に対し、記載内容が事実と異なるとして抗議し、訂正と謝罪を要求した。

⑷ 31年2月27日、組合は、会社に対し、団体交渉を申し入れ(以下「本件2月27日付団体交渉申入れ」という。)、4月8日に第7回団体交渉が開催されることとなった。

⑸ 31年3月22日、組合は、複合コピー機(以下「複合機」という。)を組合事務所に搬入しようとしたができなかったため、会社に対し、組合事務所の入口の工事等を要請した。これに対して会社は、予定されていた第7回団体交渉の場で協議することを求めたが、組合は、団体交渉の前に、組合事務所の入口を自ら加工して複合機を搬入したため、会社はこれに抗議した。

⑹ 4月8日の第7回団体交渉の後、元年6月17日に第8回団体交渉を開催する予定となっていたが、同月11日、会社は、組合に対し、これまでの組合ニュースや複合機搬入についての組合の対応等を踏まえると話合いを継続することには強い疑念がある、また、賃金規定等の議題については、会社は慎重に検討し既に十分な議論を尽くしているなどとして、今後の団体交渉を拒否し、同月17日の団体交渉は実施しないなどと通知した。

⑺ 1126日、組合は、交渉議題を提示して団体交渉を申し入れた(以下「本件1126日付団体交渉申入れ」という。)が、12月9日、会社は、組合の団体交渉申入れは既に行われた団体交渉の蒸し返しである、また、労使の関係正常化に向けた対応も何ら示されていないことから、団体交渉を継続することは不適切であるとして、団体交渉を拒否する回答を行った。

⑻ 本件は、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れに係る9項目(@賃金改定、A有給休暇、B釣銭準備、C組合掲示板、D改定前の新賃金適用、E組合ニュース、F貸付制度、G弁護士特約及びH複合機)の議題に関する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済>

 ⑴ 会社は、組合が平成31年2月27日付けで申し入れた団体交渉の議題のうち、「乗務員への釣銭を準備すること(釣銭準備)」、「組合ニュース」及び「弁護士特約」に係る団体交渉に応じなければならない。

⑵ 文書交付(要旨:団体交渉に応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前項の履行報告

⑷ その余の申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

 

⑴ 本件の争点は、「本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れに係る9項目(@賃金改定、A有給休暇、B釣銭準備、C組合掲示板、D改定前の新賃金適用、E組合ニュース、F貸付制度、G弁護士特約及びH複合機)の議題に関する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か」である。なお、上記9項目のうち、C組合掲示板は、本件の争点ではあるが、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れの議題になっていないことから、判断を要しない。

⑵ 上記9項目のうち、E組合ニュースは、本件2月27日付団体交渉申入れの議題である。また、H複合機は、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れにおける直接の議題ではない。そして、会社は、E組合ニュース及びH複合機について、これらの議題に係る交渉を拒否したというよりも、これらに係る組合の対応を理由として、令和元年6月11日及び12月9日付「回答書」により、団体交渉に応じない旨組合に回答したものである。そこで、まず、会社が、E組合ニュース及びH複合機を理由として、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れに対し、団体交渉を拒否したことに正当な理由があったか否かについて判断する。

ア E組合ニュースについて

() 会社の組合ニュースに関する抗議に対し、組合は、訂正記事等で対応すると回答したものの、それを行わないまま本件2月27日付団体交渉申入れと本件1126日付団体交渉申入れを行った。そして、会社は、それらの申入れに対し、6月11日付回答書と12月9日付回答書を組合に交付していることから、これらの会社の対応について検討する。

() まず、6月11日付回答書については、確かに、@団体交渉の継続中に、団体交渉での発言や協議内容について組合が独自の解釈に基づいて組合ニュースに記載したこと、A会社の1120日付「抗議書」に対して組合が会社に示した1130日付「抗議文に対する回答」の記載がなお団体交渉における協議内容に関する会社の認識と異なったこと、B第5回団体交渉で、会社が、組合ニュースに対する組合の態度を疑問視して、そういう認識ならばこれ以上の話合いは必要ないと述べるなどした結果、組合は、第7回団体交渉で、どう表現するかX1分会長と討議中で決まっていないが表明の仕方は考えると述べたこと、C第7回団体交渉での発言にもかかわらず、結局組合は具体的な対応をしなかったとの経緯からすれば、会社が組合の組合ニュースについての対応を非難し、団体交渉を継続する前提である信頼関係に疑問を感じたことも理解できなくはない。

しかし、組合は、訂正記事を出してはいないものの、第5回団体交渉で、組合ニュースについて会社から抗議を受けたのは本部側のミスであると認め、今後同様の事態により団体交渉ができなくなることを避けるため努力すると述べ、本件2月27日付団体交渉申入れにおいて、組合として団体交渉で確認・合意していないことを組合ニュースなどに記載しないことを約束すると記載するなど、同様の行為を繰り返さない姿勢を示している。

また、組合は、第7回団体交渉で、訂正記事の表現についてX1分会長と討議中で決まっていないが表明の仕方は考えると述べるなど、訂正記事を出す姿勢を表明し続けており、6月29日付「抗議文」においても、検討が遅れたことを認めているから、訂正記事を出す姿勢を変えていないといえる。会社は、6月11日付回答書において組合が訂正や謝罪の意思がないものと断じているが、組合の検討が遅れていることは否めないものの、組合が訂正記事を提案する意思を放棄したことをうかがわせる事情があったとは認められず、このことをもって事前に開催することに合意していた団体交渉をあえて打ち切ったことは相当でない。

() 次に、12月9日付回答書は、組合が本件1126日付団体交渉申入れを行ったのに対し、会社が、本件1126日付団体交渉申入れには何ら関係正常化に向けた方策は示されておらず、組合が態度を改めない限り関係正常化が期待できないなどとして団体交渉を拒否したものである。

しかし、6月11日付回答書で会社が団体交渉を拒否して以降、組合は訂正記事を提案しなかったとはいえ、12月9日までの間に労使間で組合ニュースの訂正記事に関するやり取りはなかったし、会社が特に働き掛けた事情はなく、組合が訂正記事を提出する期限が決められていた事実は認められないのであるから、組合が事前に訂正記事を提案していないことをもって、関係正常化が期待できないとみるのは相当でない。

() 以上のとおり、組合は、組合ニュースに係る会社の抗議に対し、同様の行為を繰り返さない姿勢を示しており、関係正常化に向けた交渉の余地はあったというべきであるから、会社が、組合ニュースに係る組合の対応を理由として、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れについていずれも団体交渉を拒否したことは、それぞれ相当でないといわざるを得ない。

イ H複合機について

() 組合が会社との協議を経ずに複合機を搬入したのに対し、会社は、6月11日付「回答書」において、組合が会社との話合いを尊重しない態度で団体交渉に臨んでいるとの認識を示し、組合との話合いを継続する意味に疑念を表明したこと、及び12月9日付「回答書」において、本件1126日付申入れには組合が会社との関係正常化に向けた方策は示されておらず、自らを一切顧みない態度を固持しており、組合が態度を改めない限り関係正常化が全く期待できない等と記載したことが認められるので、この会社の対応について検討する。

() 複合機搬入のための工事については、会社が第7回団体交渉で協議するよう求めていたにもかかわらず、組合は、一方的に工事を行って複合機を搬入し、同日の第7回団体交渉で搬入を完了した旨を事後報告したのであるから、会社が組合に不信感を持ちその旨を表明したことは理解できる。

しかし、組合は、最終的には会社の許可を得ることなく組合事務室の入口を加工して複合機を搬入したものの、数度にわたり「ご連絡」などと題する書面を会社に交付して会社と連絡を取るべく直前まで努力していたことが認められる。

これに対し、会社は、4月1日付「ご連絡」で拡張工事の実施も許可も予定しないとか、4月3日付「ご連絡」でも壁の取り外し作業等の許可はしていない、団体交渉で協議したいと回答したにとどまっている。

以上の経緯からみれば、許可を得ないままに組合事務室の入口を加工して複合機を搬入した組合の対応に問題はあるとしても、組合が会社との話合いを尊重しない態度であったと断ずることは相当とはいえず、会社に団体交渉を拒否する正当な理由があったとまで認めることは困難である。

ウ したがって、会社が、本件2月27日付団体交渉申入れ及び本件1126日付団体交渉申入れのいずれにおいても「E組合ニュース」及び「H複合機」を団体交渉拒否の理由としたことは相当でないといわざるを得ない。

⑶ 本件2月27日付団体交渉申入れについて

 本件2月27日付団体交渉申入れには、議題として、「組合ニュース」、「会社の制度上の問題についての要求(貸付制度、釣銭準備、事故審議会、弁護士特約、寮規定、洗車の件)」及び「賃金引下げ(手当の引下げ、中退金の脱退、有給休暇、カード手数料の乗務員負担の廃止)」の記載があった。また、2月27日付けで組合が提出した「説明要求書」には、改定前に新賃金規定が適用されていた者について、労働者に不利益が生じていないとする会社の主張について説明を求める旨の記載があった。

その後の複合機の搬入や第7回団体交渉などを経て、元年6月11日、会社は、既に十分な議論を尽くしたことや組合の団体交渉における話合いを尊重しない態度に照らすと団体交渉を継続する意味がないなどとして、今後の団体交渉を拒否し、6月17日の団体交渉は実施しないなどと記載した「回答書」を交付した。

本件2月27日付団体交渉申入れの議題のうち、本件の争点9項目の議題のE組合ニュースについては、前記⑵で判断したとおり、会社が、組合ニュースに係る組合の対応を理由として本件2月27日付団体交渉申入れを拒否したことは相当ではなく、この議題について交渉の余地があったといえる。

そこで、本件の争点9項目の議題のうちE組合ニュース以外の、@賃金改定(賃金引下げ)、A有給休暇、D改定前の新賃金適用、B釣銭準備、F貸付制度及びG弁護士特約について、団体交渉を実施しないとした会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかを判断する。

ア @賃金改定について

本件2月27日付団体交渉申入れについてみると、給与制度の変更に伴い、それが不利益変更であるか否かの議論をするに当たって、組合は、新規定では旧規定下で存在した手当がなくなったことなどを理由に不利益変更であると主張したのに対し、会社は、新旧では成果給の導入などで異なる制度になったと説明し、301010日付「ご連絡」の新旧賃金対比表や組合員2名の新旧給与支給比較表を作成して説明したり、組合に対しても資料や質問を書面で求めるなどで議論を具体化するよう繰り返し求めたが、組合は具体的な質問やそのための資料も提出しなかったことから、31年2月13日、団体交渉が円滑に実施できていないとして2週間以内に書面で回答するよう求めたことが認められる。これに対し、組合は、本件2月27日付団体交渉申入れを行ったが、この申入書において、新賃金体系について議論が深まっていないとして協議を求めたにとどまり、具体的な質問事項を記載せず、質問のための資料も添付していなかったのであるから、それまでの団体交渉でのやり取りを超える具体性や新たな点を含む申入れとみることは困難であるといわざるを得ず、組合が交渉を続けるための対応をしたとまではいえない。

さらに、第7回団体交渉においても、賃金改定については議論もされなかったことからすると、その後の令和元年6月11日付団体交渉拒否回答の時点において、会社が、賃金改定について議論が尽くされたと認識したとしても不自然であったとはいえない。

なお、第6回団体交渉で組合が要求した実質的に手当の性質が引き継がれている項目の対応関係が分かる資料について、会社は、認識している範囲で回答すると述べ、6月11日付回答で「組合から要望のあった、手当の各性質を新賃金規定の評価給のポイントに反映していることを示す対応表は別紙記載のとおりなのでご確認願う」との記載とともに「勤怠評価ポイント表」と題する別紙を添付して回答しており、相応の対応をしたといえる。

したがって、賃金改定に係る議題について、本件2月27日付団体交渉申入れに対して6月11日に団体交渉を拒否する旨の回答をした会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

イ A有給休暇について

会社は、旧規定と新規定との有給休暇手当の計算方法の違いにより賃金が減少することになるかという点について、1010日には、第3回団体交渉で質問された例についての支給額を回答し、第4回団体交渉及び11月7日付文書で、具体例に基づき会社の計算方法による有給手当支給額が労基法施行規則の規定と合致するという会社の見解を説明している。そしてその後は、組合が資料を提出しなかったことから交渉が進展しなかったとみざるを得ない。

組合は、第4回団体交渉で、実際に減額になった例として、一部黒塗りの給与明細書を示したが、その後、組合は会社に対しこれを交付しておらず、本件申立て後に書証として提出されたにすぎないから、組合が一部黒塗りの給与明細書を示したことは、上記の判断を左右しない。

また、新規定における有給休暇手当の計算方法について、その適用条文とその解釈に労使間で見解の相違があることが認められるところ、会社は、「月によって定められた賃金」であるとする自らの見解を組合に繰り返し説明したのに対し、組合は、出来高払制に該当するとの見解であったが、後に出来高払制は主要な争点ではないと述べるにとどまっている。

そして、第7回団体交渉でも有給休暇は議題にはならなかった。そうすると、この新規定における有給休暇手当の計算方法について、その適用条文及び解釈について労使いずれの見解が正しいかはさておき、この議題について、組合が資料や具体的な見解等を示さない以上は交渉が進展する余地のない状態になっていたといわざるを得ないし、会社は、従業員が有給休暇を取得した場合の通常の賃金の計算方法に関し、第4回団体交渉において、会社の出番表を用いた計算方法による場合と労基法施行規則第25条第1項第4号の「その金額をその月の所定労働日数で除した金額」を仮に計算した場合を比較することにより新規定における具体的な労働条件について相応の説明をしたと評価することができる。そして、会社は、その後も、11月7日付「ご連絡」や第5回団体交渉において繰り返し説明を行っているが、組合は、資料や具体的な見解等を示していない。

したがって、有給休暇についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

ウ D改定前の新賃金適用について

会社は、改定前に新賃金規定と同内容の労働契約を締結した労働者が存在することとその理由を回答し、さらに、組合の求めに応じて改定前に新賃金規定を適用した組合員2名の給与を新旧賃金規定で比較する試算表を作成・提示して具体的に説明した。これに対し、組合は、説明要求書で説明を求めたが、その内容は従前の主張の繰り返しにとどまっていた。

そうすると、改定前の新賃金適用については、双方の見解の応酬が繰り返され対立している状態であったが、会社が、組合員2名の新旧給与支給比較表等の資料も示して、相当程度具体的な説明を行っているのに対して、組合は、それ以上具体的な質問等を行っておらず、同じ主張を繰り返していることから、組合が、会社の見解に対して具体的な質問や反論等を示した上で、団体交渉の申入れをしていない以上、交渉の余地がない行き詰まりの状態になっていたといわざるを得ない。

したがって、改定前の新賃金適用の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

エ B釣銭準備について

釣銭準備ができない理由についての会社の回答の内容は理解できなくもない。しかし、会社は、第7回団体交渉で、導入できないと発言したり、制度趣旨の違う話が混在して整理しきれない、今何とも答えようがないなどと述べた一方で、結局、回答を考えることとなった。しかし、会社は、6月11日、組合に対し釣銭準備ができない旨を一方的に通知したものである。

そうすると、会社は、第7回団体交渉で釣銭準備に係る回答を考えると表明しながら、団体交渉の場で何らその回答や説明を組合にすることなく、6月11日付「回答書」において団体交渉を一方的に打ち切ったと評価せざるを得ないから、釣銭準備の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるというべきである。

オ F貸付制度について

貸付制度は、第5回団体交渉における釣銭準備の議論の中で、釣銭のない運転手に会社が貸付をする場合があるとの話が出た後、第6回団体交渉では特に議題とならず、本件2月27日団体交渉申入れで組合が議題に挙げた。

組合が、第7回団体交渉で、貸付制度について制度化するとともに広く周知をすべきであると申入れを行ったところ、会社は税法上の問題があることを指摘して公表の予定はないと回答したが、それを受けて、組合は、制度の趣旨は分かったので、制度化を求めるのか適正運用を求めるのか検討すると述べ、その後、組合は具体的な要求を行っていないことが認められる。

そうすると、組合が具体的な要求を行っていない以上、会社がこの議題を交渉事項に取り上げないのも無理からぬことであるから、貸付制度の議題についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

カ G弁護士特約について

組合は、本件2月27日付団体交渉申入れにおいて、会社の加入する交通事故の保険に弁護士特約があることを周知することを議題とした。

確かに、会社は、第7回団体交渉で、会社の契約している弁護士特約と組合の考えている弁護士特約が多分違っていて議論がかみ合っていないと思われると回答した一方で、保険会社の回答では特約内容によく分からない点がある旨や資料を読んで会社の契約している弁護士特約の内容を回答する旨を述べており、この団体交渉の時点で、会社自身が弁護士特約の周知の必要性について議論することを前提に、会社の契約している弁護士特約の内容を確認して回答することを表明していたといえる。

それにもかかわらず、会社は、6月11日付「回答書」で、「弁護士特約を利用するか否かは保険対応時に保険会社と協議の上、個別に検討するので周知の必要はないと考える」と回答した。

このように、6月11日付「回答書」において、会社は、周知の必要性の有無について会社の結論を回答したにすぎず、第7回団体交渉で自ら表明した会社の契約する弁護士特約の内容を確認する件について回答していないし、団体交渉において、会社の回答に係る説明や組合との交渉を行っていないのであるから、会社は交渉の途中で団体交渉を一方的に打ち切ったといわざるを得ない。

なお、会社は弁護士特約が組合員の労働条件ではなく義務的団交事項に当たらないと主張しているところ、その主張の当否はさておき、これは本件審査手続において主張されたもので、その旨を団体交渉において組合に説明したものではない上、第7回団体交渉で会社は、交渉することを前提に回答を約していた経緯もあることから、義務的団交事項に当たらない旨の主張は、上記の判断を左右しない。

したがって、弁護士特約の議題についての会社の対応は正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

キ 以上のとおり、本件2月27日付団体交渉申入れの議題のうち、B釣銭準備、E組合ニュース及びG弁護士特約についての会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

⑷ 本件1126日付団体交渉申入れについて

ア 本件1126日付団体交渉申入れの交渉議題のうち、本件の争点9項目の議題に当たるのは「@賃金改定」のみであるから、それ以外の議題に関する会社の対応については判断を要しない。

そこで、「@賃金改定」の議題について、会社が団体交渉を拒否したことに正当な理由があったかについて以下判断する。

イ 組合の本件2月27日団体交渉申入れに対して、会社は、6月11日に団体交渉を拒否する旨の回答を行ったが、この対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たらないことは、前記⑶で判断したとおりである。

6月29日、組合は、会社に「抗議文」を交付し、組合からの疑問や反論の提示及び証拠提出のための本人確認が遅れているなど十分に対応できていないことは認めるが、議論はまだ途中であり、これ以上議論しても意味がないとの主張は納得できないなどと述べ、団体交渉に誠実に応じるよう申し入れた。

しかし、その後、本件1126日団体交渉申入れまでの間に賃金改定について労使間でのやり取りはなく、組合は、会社が提示した新旧賃金対比表や組合員2名の新旧給与支給比較表等に対する具体的な質問や、提出すると述べていた就業規則の問題点などの資料を提出していないし、会社が、第6回団体交渉における組合の要望に応え、令和元年6月11日付団交拒否回答において、手当の各性質を新賃金規定の評価給のポイントに反映していることを示す「勤怠評価ポイント表」と題する別紙を添付して回答したことに対しても、具体的な質問やさらなる資料要求もしていない。

そうすると、賃金改定に係る議題について、本件2月27日付団体交渉申入れに対して6月11日に団体交渉を拒否する旨の回答をした会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たらないことは上記判断のとおりであるところ、組合は、6月29日付「抗議文」では、議論は途中であるなどとして、会社に団体交渉に誠実に応じるよう求めてはいるものの、その後、組合が具体的な提案や申入れなどの対応を行ったとの事情が認められない以上、会社が、本件1126日付団体交渉申入れに対し、12月9日付回答書で団体交渉を拒否する旨回答したことに理由がないとはいえないから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和2年5月2日

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年1月24日及び同年5月23

⑶ 命令書交付日    令和5年6月30