【別紙】

1 当事者の概要

⑴ 申立人は、業種を問わず東京都三多摩地区を中心とする企業に雇用される労働者で構成されるいわゆる合同労組で、本件申立時の組合員数は約200名である。

⑵ 被申立人は、肩書地に本店を置き、一般貨物自動車運送事業等を営む株式会社であり、本件申立時の従業員数は約200名である。

2 事件の概要

⑴ X1委員長及びX2分会長(以下「組合員両名」)はトレーラー車両の運転手として入社した。組合員両名は入社して以来、役職が昇格することなく最低位のままであった。

⑵ 会社では、運転手が休憩時間を取得せずに勤務した場合は、その勤務時間に対する手当(以下「その他手当」)を支給していた。その後、会社は労基署からの指導を受け、運転手に対して休憩時間を取得するように指示するとともに「その他手当」を廃止した。

⑶ 組合と会社は協定書を締結し、これまで、組合員には年500円の定期昇給(以下「協定昇給」)が実施されていた。平成29年7月、会社は、全運転手に対し、勤続年数×500円(以下「本件勤続給」)の支給を開始したが、その際に、組合員に対する協定昇給を停止した。

⑷ 301130日及び31年2月2日の団体交渉にて、会社は、組合からの質問に対し、会社の回答書を示して「だって、ここに書いてあるじゃん、このとおり。」などと発言した。また、31年3月2日の団体交渉以降、本件申立てまでの約8か月にわたって団体交渉が開催されなかった。

⑸ 本件は以下の点がそれぞれ争われた事案である。

@ 会社がX1委員長及びX2分会長を昇格させなかったことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。

A 会社が、「その他手当」を廃止したこと、及び賃金規程の改定により、本件勤続給を導入し組合員に対する協定昇給を停止したことは、組合員に対する不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

B 301130日の第168回及び31年2月2日の第169回団体交渉における会社の対応、並びに3月2日の第170回団体交渉以降本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)。

3 主文の要旨 <一部救済>

 ⑴ 会社は、X1及びX2を平成301127日付けで指導員以上の職位に昇格させたものとして取り扱い、指導員以上の職位であったならば支払われるべき賃金額と既に支払われた賃金額との差額を支払うこと。

⑵ 会社は、X1に対し、平成31年4月に支給した賃金について、既支払額と、勤続給を250円加算して支払った場合の賃金額との差額を支払うこと。

⑶ 会社による文書の交付及び掲示(要旨:X1及びX2を昇格させなかったこと及び協定昇給を実施しなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑷ 会社による前各項の履行報告

⑸ 「その他手当」の廃止に係る申立ての却下

⑹ その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

⑴ 争点1について

 ア 申立期間について

() 組合は、会社が組合に対して役割・昇格基準書案を提示した平成251012日を起算点として、申立日まで不当労働行為が継続していると主張する。しかし、労組法第27条第2項のいわゆる「継続する行為」とは、複数の行為をもって一体として一個の不当労働行為を構成すると評価できるものと解されるところ、上記の役割・昇格基準書案の提示自体は、従業員を昇格させる行為とは性質が異なるものであり、一体として一個の行為を構成すると評価することはできない。

() 次に、会社における昇格の手続の取扱いについてみると、新賃金規程の施行以前において昇格の手続に係る正式な根拠基準などは存在しておらず、また、新賃金規程においても役職者が果たすべき役割を示す職務基準書が定められるにとどまり、昇格の手続を定める明確な社内規定はなかったといえる。

しかし、会社は、第171回団体交渉やその後の組合への回答書において、従業員の昇格は所属長や配車係からの推薦に基づいて実施していること、毎年4月に昇格させるので、現場には3月に推薦を出すように指示していること、おおむね10年前からそのような取扱いをしていることなどを回答している。

このことからすれば、会社には昇格について、毎年検討がなされるといった一定の運用が存在し、少なくとも、本件申立て前の1年以内には、従業員の昇格機会が存在していたとみるのが相当である。そうすると、組合員には、少なくとも本件申立て前の1年以内において、昇格の機会が存在していたといえるから、本件申立て前1年以内に組合員が昇格していないことは、本件審理の対象となるというべきである。

上記を踏まえて、以下判断する。

 イ 会社が組合員両名を昇格させなかったことについて

() 会社は、2510月に、役職者が果たすべき役割と昇格基準に係る役割・昇格基準書案を組合に提示し、30年7月施行の新賃金規程においても同様の職務基準書を定めている。

2510月の役割・昇格基準書案は、正式施行されたものではなく、また、新賃金規程の職務基準書は、組合員に直接適用されていないとしても、昇格は従業員に対する人事権の行使であるから、会社が組合員の昇格判断を行う際には、他の従業員との公平性を損なわないようにするために、自ずと他の従業員に適用されている新賃金規程の職務基準に準拠することとなることが想定されるところである。

その上で職務基準書をみると、班長や指導員といった下級職制の役割として示されている事項は、従業員への指導・助言や会社の決定事項の周知、現場課題の会社への上申や業務に有用な情報収集といった内容であり、勤務態度の悪さや運転技術の欠如など、問題を抱える従業員である場合は別としても、少なくとも、班長や指導員については、相応の業務経験を有して業務に精通している従業員であれば担うことが可能な職責であったとみるのが相当である。

() 組合員両名の所属部署をみると、両名と同等の勤続年数である勤続18年以上の従業員のうち、役職に登用されていないのは両名のみであることが認められる。他方で、本件結審時における会社の役職者数をみると、全運転手198名のうち、59名が何らかの役職者であり、班長及び指導員に限ってみても39名が登用されていることから、運転手のうち約2割ないし約3割が役職者であったといえる。

そして、組合員両名は、ともに、会社の運転手として、20年以上にわたって同一業務に従事しているが、これまでに重大事故を起こして乗務停止となったり、懲戒処分を受けたなどの事実や、運転技術が劣っていたり勤務態度に問題があったとまで認めるに足りる事実の疎明はない。さらに、会社では、昇格は配車係等からの推薦に基づいて実施するとしながらも、全運転手の約2割ないし3割が役職者でありながら、本件にて明らかとされたのは、29年1月昇格の3名及び30年7月昇格の4名に係る推薦にとどまる。

そうすると、全運転手の約2割ないし3割には何らかの役職が与えられている中で、勤続20年以上の従業員である組合員両名は、入社以来全く昇格しておらず、一方で、組合員両名の勤務成績や業務遂行能力が低いなど、役職者に不適任な従業員であることを認めるに足りる事実の疎明がなされていないのであるから、両名と非組合員との間には、昇格の取扱いについて不自然な差異が生じていたことを疑わざるを得ない。

() 会社は、31年2月から令和元年9月にかけて、組合に対して3回にわたって賃金シミュレーションを作成して提示しているところ、そのうち、第2回及び第3回の賃金シミュレーションでは、組合員両名ともに指導員以上の職位にて賃金額を提示している。このことからすれば、新賃金規程適用時の賃金試算のためとはいえ、この時点において、少なくとも会社は、両名が指導員の職責を担えると評価していたということができ、しかも、上記の評価は会社として判断した結果であるから、配車係等からの昇格推薦の有無が問題となるともいえない。

() 一方で、会社は、上記のとおり、少なくとも組合員両名を指導員の職位に登用できるとの判断をしていたものの、団体交渉や回答書においては、依然として、配車係等からの推薦がなければ昇格しないなどといった手続的部分を回答するにとどまり、組合員両名の昇格について具体的に対応しようとしたことは窺われない。

() さらに、組合は、長年にわたって、組合員が昇格しないことを問題視し、昇格の運用を明らかにするために、会社に対し、組織図等の開示や組合員が昇格しない理由の説明を繰り返し求めてきたが、それに対して、これまで会社が積極的に対応してきたとはいい難い。

() これらの事情を踏まえると、会社は、長年にわたり組合が組合員の昇格を要求してきたことに対し、組合員両名を指導員に登用できると会社として判断していながら、組合が新賃金規程に合意していないことや、配車係の推薦という形式的部分にかこつけて、敢えて組合員らの昇格を回避ないし先延ばししていたとみざるを得ない。

() そして、本件申立てまでに5回にわたる不当労働行為救済申立てと当委員会又は中労委における和解が繰り返され、また、協定昇給と本件勤続給の問題、「その他手当」及び新賃金規程などについて、数年にわたって労使の認識や意見の対立が継続し、第169回団体交渉では組合が法的に争う可能性も示唆していたことからすれば、当時の労使間には恒常的に懸案事項が存在し、一定の緊張状態の下で労使関係が展開されていたといえる。

() 以上を併せ考えると、会社は、反組合的な意図の下で、組合員両名を昇格させない状態を意図的に維持しようとしたものであり、両名が昇格していないことは、組合員であること又は組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるといえる。また、組合員であるが故に賃金上昇を伴う昇格がなされないことは、組合活動や組合加入への意欲を削ぐこととなるから、組合運営に対する支配介入にも当たる。

⑵ 争点2について

ア 「その他手当」の廃止について

本争点に係る事実関係をみると、会社は、従前支払っていた「その他手当」を平成30年8月25日以降支払わずに廃止しており、それ以降は一切支払っていないのであるから、上記手当の廃止は、遅くとも30年8月25日を終期とする行為とみるのが相当である。また、本件申立て前の1年以内に、本来であれば「その他手当」の支給がなされるべきであったといえる事情も認められない。

したがって、会社が「その他手当」を廃止したことは、本件申立ての1年以上前の事実であり、このことについての申立ては、申立期間を徒過した不適法なものとして却下を免れない。

イ 本件勤続給を導入し組合員の協定昇給を停止したことについて

() 会社は、新賃金規程に組合が合意していないことから、本来であれば、組合員らは本件勤続給の支給対象外であったところ、誤って昇給分の二重払をしたものであり、30年4月及び31年4月の協定昇給分は、本件勤続給をもって支払われたといえるのであるから、定期昇給協定に何ら違反していないなどと主張する。

確かに、第160回団体交渉において、会社は、本件勤続給について、これまで運転手の基本給は勤続の長短にかかわらず同額であったため、勤続年数を加味した支給をすると説明しており、また、本件勤続給の組合員への支給状況をみても、協定昇給と同様に、勤続年数に500円を乗じた金額が毎月支給され、その勤続年数が増える30年及び31年の年度当初には一定額が増額されている。

() しかし、29年4月8日の第160回団体交渉において、本件勤続給についてやり取りがなされた際においても、会社は、例年4月に実施してきた協定昇給については何ら言及しておらず、しかも、同月14日に500円の定期昇給を反映させた労働条件通知書を組合員に交付した上で、同月25日の給与支給時に協定昇給を実施している。また、29年7月25日の本件勤続給の支給開始時においても、会社は、組合に対し、本件勤続給の計算方法を回答したのみで、その際にも協定昇給について何ら言及していない。そのような経緯を経て、会社は、30年4月25日の給与支給時から、従前の協定昇給を停止しており、しかも、会社は、31年2月の第169回団体交渉において、本件勤続給の支給開始時点では協定昇給の実施と勤続給の支給は別の給付として認識していた旨を発言している。

そうすると、会社は、第160回団体交渉時はもとより、29年7月の本件勤続給の支給開始の時点では、組合員に本件勤続給を支給するに当たり、従前より実施していた協定昇給との関係を考慮すべきとは認識しておらず、その後、事後的にその解釈を変えて、30年4月及び31年4月の協定昇給を停止したといえる。

() また、会社は、30年及び31年に本件勤続給を増額しているものの、X1委員長には、30年及び31年の4月及び5月にそれぞれ250円ずつ増額し、X2分会長には、30年4月に750円、同年5月に250円、31年4月及び令和元年5月にそれぞれ250円ずつ増額しており、その年次増額の実施方法も、毎年4月に500円昇給していた協定昇給(同5(27)、別表2)と、必ずしも同一の取扱いをしていたとはいえない。

() そして、定期昇給協定の内容は、組合が会社との団体交渉を経て獲得した労働条件であるから、その内容や履行方法の変更などは、労使の合意をもって行われるべきものであるところ、会社は、何らの事前通知や説明も行なわないままに、平成30年4月の協定昇給を実施せず、その後、本件勤続給と協定昇給に対する解釈を示すに至っている。しかも、組合が協定昇給の履行を求めたことに対し、会社は、第166回団体交渉以降、本件勤続給と協定昇給は同一のものであると主張し続け、31年4月においても同様に協定昇給を実施していない。

() 以上のとおり、会社は、第160回団体交渉、あるいは本件勤続給の支給開始以降において、定期昇給協定の内容やその履行方法等について労使間での協議や合意がなかったにもかかわらず、会社が事後的に変更した解釈のみを根拠として、何らの事前通知や説明も行わずに、いわば一方的に協定昇給を実施しなかったといわざるを得ない。したがって、このような会社の対応は、組合と締結した労働協約の存在とその履行を軽視した対応であり、組合運営に対する支配介入に当たる。

() また、第160回団体交渉における本件勤続給の支給に係る労使合意の有無等を巡って、労使の主張が対立し、会社は、組合が求めた本件勤続給に係る協定の締結にも応じていないのであるから、本件勤続給は、協定昇給とは別に支払うべきものであるかなど、組合員に支給する根拠が必ずしも明確ではないままに支払われていたとみざるをえない。

ただし、協定昇給と本件勤続給の算出方法をみると、ともに、勤続年数に500円を乗じたものが給与に加算されて支給され、それが毎年4月に増額されており、また、第160回団体交渉において、会社は、本件勤続給について、これまで運転手の基本給は勤続の長短にかかわらず同額であったため、勤続年数を加味した支給をすると説明している。このことからすれば、協定昇給と本件勤続給とは、勤続年数が増えることに伴って毎年増額される点においては、その支給趣旨を同じくするとみるのが相当であり、本件勤続給の毎年増額分(500円)の支給により、協定昇給を実施しないことに伴う組合員の経済的不利益は生じていなかったとはいえる。

() しかしながら、会社は、本件申立て前1年以内である31年4月支給の給与において、組合員両名に対して協定昇給を実施せずに、本件勤続給を増額しているものの、その金額は250円の増額にとどまっている。

そうすると、会社は、組合員両名に対し、協定昇給を実施せず、本件勤続給の毎年増額分についても協定昇給(500円)を下回る額(250円)しか支払っていないのであるから、たとえ翌月において、本件勤続給を更に250円増額し、その時点で前年に比して500円増額していることとなったとしても、31年4月支給の給与において、会社が組合員両名に協定昇給を実施しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。

() 以上のとおり、会社が組合員に対する協定昇給を実施せず、本件勤続給も適時に支給しなかったことは、組合運営に対する支配介入及び組合員であるが故の不利益取扱いに当たる。

⑶ 争点3について

ア 第168回団体交渉における会社の対応について

() 確かに、当該団体交渉において、Y1執行役員は、問題となっている事案の詳細を把握できていない旨の発言を複数回にわたって行なうなど、前任者であるY2専務からの引継ぎが十分になされていなかったことが窺われ、組合が会社の上記対応を問題視したことは理解できなくもない。

() しかし、当該団体交渉には、Y2専務も出席予定であったが、業務都合により当日になって急遽欠席となっており、また、Y1執行役員もY2専務から交渉担当者の役割を引き継いでから初めての団体交渉であったのであるから、団体交渉においてY1執行役員が組合の質問に即答できなかったとしてもやむを得ない部分があったといえる。

また、Y1執行役員は、事前になされていた組合の質問事項に対しては答えられる範囲で回答する旨を述べており、交渉担当者として、組合との協議のために一定の準備をしていたとみるのが相当である。さらに、Y1執行役員は、上記のとおり、詳細を把握できていない旨の発言はしているものの、交渉議題に係る前提となる事実関係や組合側の認識を時系列で確認しながらやり取りし、組合の求める経営資料の要求にも応じる旨を回答するなどしている。加えて、会社は、次回の第169回団体交渉にY2専務が出席する前提で開催日程の調整を行い、実際に、第169回団体交渉にはY2専務が出席して組合との協議が行われていることも踏まえると、会社が交渉を進める姿勢を欠いた対応をしていたとまではいえない。

() 以上のとおり、団体交渉におけるY1執行役員の対応に問題がなかったとはいえないものの、Y2専務が急遽欠席した中での対応としてはやむを得ない部分もあったといえる。また、団体交渉におけるその他の会社の対応においても、Y2専務が不在の中で可能な限り対応する姿勢にあり、また、その後の団体交渉にはY2専務も出席して組合との協議が行われていることからすれば、会社が、交渉する意思を欠いた姿勢で対応していたとまではいえない。よって、第168回団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉又は組合運営に対する支配介入に当たるとまではいえない。

イ 第169回団体交渉における会社の対応について

() 組合が、第168回団体交渉において、会社が持ち帰って確認するとした事項についての回答を求めると、会社は、「分会長の方に1126日に出した回答書」、「そのとおりです、内容的には。」と回答したり、組合が本件勤続給の支給の再考を要求したことに対し、会社は、「する気はない。」、「だって、ここ(301126日付回答書)に書いてあるじゃん、このとおり。」と発言したことが認められる。そして、この発言のみを捉えれば、協議を進める姿勢を欠いた発言とみえなくもない。

() しかし、当該団体交渉においては、協定昇給と本件勤続給の問題などが主な議題であったところ、会社は、本件勤続給の支給趣旨や第160回団体交渉におけるやり取りに対する会社の認識などを説明したり、Y2専務の当時の認識には誤りがあった旨を述べるなどしている。

() 以上の事情を踏まえると、会社は、組合の要求には応じられない旨を明確に回答する一方で、組合の理解や納得を得るべく、会社の主張の理由や認識、あるいは当時の会社の認識に誤りがあったことを説明していたとみるのが相当である。よって、第169回団体交渉における会社の対応は不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。

ウ 第170回団体交渉以降、団体交渉が開催されなかったことについて

() 第170回団体交渉以降の経緯をみると、令和元年6月8日に、組合が事務折衝又は団体交渉の開催を求めたが、実際に、事務折衝が開催されるに至ったのは9月21日であり、その後、11月5日付けでなされた組合の団体交渉の申入れに対し、会社は、本件申立てと同日である1127日に、団体交渉を12月7日に開催する旨を回答している。また、会社は、事務折衝又は団体交渉の交渉日程の調整過程において、組合から複数回にわたり回答の催促を受けており、第170回団体交渉以降、事務折衝又は団体交渉が必ずしも速やかに開催されていたとはいえない。

() しかしながら、会社は、6月7日付けの事務折衝又は団体交渉の申入書は、組合から再送されるまでは、行き違いにより受領していなかったことが窺われ、また、その後の日程調整においては、社内行事である安全大会の開催を理由に挙げて、安全大会後の交渉開催を求めており、組合はその旨を了承している。さらに、組合の上記6月7日付申入書では、組合が賃金シミュレーションの再作成なども求めていたことも考慮すれば、会社がそれらに対応するために一定の準備期間を要し、直ちに事務折衝に応じられなかったとしてもやむを得なかったとみるのが相当である。

そして、事務折衝は9月21日に開催されているところ、会社は、その開催日程の調整に係る回答を必ずしも速やかに行っていたとはいえないものの、上記事務折衝の前に、組合に対し、6月7日付申入書への回答書や再作成した賃金シミュレーションを提出していることを踏まえると、会社が交渉日程を意図的に引き延ばしたとまでいうこともできない。

() また、11月5日の組合の団体交渉の申入れに対し、会社は、本件申立て日と同日である1127日に回答しているが、その間に、役職者の一覧や物損事故歴といった、組合からの要求資料を作成して組合に提出し、その後、12月7日には第171回団体交渉を開催している。

() 以上のとおり、組合の事務折衝又は団体交渉の開催要求に対して、会社が必ずしも速やかに回答していないなどの対応には問題がなかったとはいえないものの、会社が直ちに開催に応じられなかったことにはやむを得ない事情もあったということができ、交渉を意図的に引き延ばしたとまではいえない。したがって、第170回団体交渉以降本件申立てまでの間、団体交渉が開催されなかったことは、正当の理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和1127

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年1017

⑶ 命令書交付日    令和5年1129