【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、主として東京都多摩地区に事業所を有する企業で働く労働者が組織したいわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約200名である。

  Xは、平成28年4月に組合に加入した。会社での組合員は、Xのみである。

⑵ 被申立人会社は、業務用酒類販売を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は37名である。

 

2 事件の概要

平成30年3月、被申立人会社は、就業規則を改定した(以下「30年版就業規則」という。)。申立人組合の組合員Xは、29年7月に唎酒師の資格を取得していたが、30年版就業規則には、資格手当の規定はなく、従前Xに支給されていた職務手当及び皆勤手当の規定もなかった。組合は、会社に対し、30年版就業規則、Xの一時金及び賃上げについて団体交渉を申し入れ、30年2月から31年2月までの間に6回の団体交渉が開催された(以下「本件団交」という。)。その後、令和2年5月、会社はXを解雇した(以下「本件解雇」という。)。

本件は、@Xが唎酒師の資格を取得した後、会社が同人に資格手当を支払わなかったことが不利益取扱い及び支配介入に、A会社が、30年版就業規則により、Xに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと並びに資格手当を規定しなかったことが、不利益取扱い及び支配介入に、B本件団交における会社の対応が不誠実な団体交渉及び支配介入に、C本件解雇が不利益取扱い及び支配介入に、それぞれ当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <棄却>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ Xが唎酒師の資格を取得した後、会社が同人に資格手当を支払わなかったことが不利益取扱い及び支配介入に当たるか否かについて(争点1)

ア 会社では、昭和63年に就業規則を制定したが(以下「63年版就業規則」という。)、平成28年4月に新給与体系を導入し、その際就業規則及び賃金規程(以下「28年版就業規則案」という。)は存在したものの、まだ細部まで詰められていなかったため、会社は、就業規則の改定を行わなかった。このため、実際の賃金体系と異なる内容の63年版就業規則が存続する状態となっていた。

イ 29年8月、会社は、法的に有効な就業規則は63年版就業規則であるとの見解を示し、その理由について、28年版就業規則案の内容を先行的に実施しているが、同案は細かな部分について未完成の箇所があり、法的効力を全面的に認めることは困難であると説明した。

ウ 30年3月、会社は、30年版就業規則へと改正した。Xは、29年5月に人事考課の目標に唎酒師の取得と記載して会社に提出した上で同年7月に唎酒師の資格を取得していたが、30年版就業規則には、28年版就業規則案には定められていた資格手当の規定はなかった。

エ 30年4月の団体交渉において、組合は、Xが唎酒師の資格を取得したことを会社に初めて伝え、同人への資格手当支給を要求したが、会社は、今は資格手当はないから支払うわけにはいかないなどと述べ、同人に資格手当を支払わなかった。

  以上の経緯からすると、30年版就業規則施行後にXが唎酒師の資格を有していることを伝えられた会社が、既に資格手当の規定がないことを理由として、同人に資格手当を支給しなかったことに特段不自然な点はなく、Xに対し差別的な意図をもってなされたということはできない。

オ このことについて、組合は、会社が、Xの資格取得目標を知ったことから、組合に対しては63年版就業規則が有効であるとの虚偽の事実を説明し、組合員であるXに資格手当を支給しなかったと主張する。

しかし、会社は、前記イのとおり、法的に有効な就業規則は63年版であるとした理由を説明しており、この説明は、当時の状況や会社の認識をそのまま伝えたものであり、会社が虚偽の説明をしたとはいえない。

カ 組合は、X以外の従業員には28年版就業規則案を適用していながら、Xのみに63年版就業規則を適用していたため、本来支給される資格手当が支給されなかったとも主張する。

しかし、Xの給与明細の賃金の構成は28年版就業規則案の規定と同様であり、会社は、Xにも他の従業員と同様に28年版就業規則案の賃金に係る内容を運用していたといえるから、組合の主張は採用することができず、会社がXに資格手当を支給しなかったのは、Xが会社に資格取得を申告しなかったためといえる。

なお、組合は、会社が、評価シートの目標達成について確認をしなかったため、Xの資格取得を報告するタイミングを失ったとも主張するが、会社が確認しなかったとしても、そのためにXが資格取得を会社に報告する機会が失われたということはできず、組合の上記主張は採用することができない。

キ 以上のとおり、会社は、Xの賃金を他の従業員と同様に取り扱っており、会社が同人に資格手当を支給しなかったのは、同人も組合も、会社が30年版就業規則において資格手当を削除する前に、同人の唎酒師の資格取得を会社に伝えていなかったためであり、組合の主張は、いずれも認めることはできない。

したがって、会社がXに資格手当を支払わなかったことが、組合員であるが故の不利益取扱いや組合の運営に対する支配介入に当たるということはできない。

⑵ 会社が、30年版就業規則により、Xに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと並びに資格手当を規定しなかったことが、不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か。(争点2)

ア 職務手当及び皆勤手当について

上記手当を会社が支給するに至った経緯をみると、会社では、28年4月から28年版就業規則案に記載のある新給与体系を運用し、63年版就業規則に規定されていた職務手当及び皆勤手当については既に廃止していたところ、会社が63年版就業規則が法的に有効であるとの見解を示したことから、組合は、団体交渉で上記手当をXに支給することを求め、会社はこれに応じたことが認められる。

組合が、上記手当を団体交渉で要求した際、新しい就業規則が確定するまでの間、支給してほしいと求めており、また、その後会社が2912月中に就業規則を整備することを前提として、同月まで上記手当相当額を支給する内容の和解協定書を締結した経緯からすると、当時廃止され従業員には支給していなかった上記手当について、30年版就業規則が整備されるまでの間、組合員であるXのみに上乗せして支給することを組合と会社との間で取り決めていたということができる。

そうすると、30年版就業規則が整備された段階で、会社が、上記手当を他の従業員と同様にXに支給しなくなったことは、当初の組合との取り決めに従ったものであり、このことに特段不自然な点はないし、他の従業員と同じ取扱いとしたものであるから、組合員を差別したものとはいえない。

イ 資格手当について

前記⑴エのとおり、X及び組合は、Xの唎酒師の資格取得を会社に伝えておらず、会社は、同人が唎酒師の資格を取得して受給資格があることを30年版就業規則改定時には知らなかったのであるから、会社が、Xに受給資格があるにもかかわらず、30年版就業規則において削除したという組合の主張は、採用することができない。

Xは、29年5月、評価シートの目標設定の欄に唎酒師等の資格取得と記載して総務部長に提出しているから、会社は、Xが唎酒師の資格取得を目指していたことは認識していたといえるが、評価シートは、総務部の従業員だけが試験的に提出したのみで、面談も実施されず、専務にも見せていなかったことからすると、会社が、Xの評価シートの目標に唎酒師等の資格取得と記載のあることに着目し、同人に資格手当を支給しない意図をもって30年版就業規則に資格手当を規定しなかったと認めることは困難である。

ウ 以上のとおり、会社が、30年版就業規則改定により、Xに職務手当及び皆勤手当を支払わなかったこと並びに資格手当を規定しなかったことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入には当たらない。

⑶ 本件団交における会社の対応が不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか否かについて(争点3)

ア 30年版就業規則を議題とする本件団交について

会社は、就業規則について、法的には63年版就業規則が有効であるとした理由、組合の要求する諸手当を支給することできない理由などについて、組合の求めに応じて相応の説明をしていたといえる。

これに対し組合は、既に会社が説明済みであるにもかかわらず、同様の質問や従前の主張を繰り返し、会社の説明を踏まえた追及をすることなく、削減した手当の支給を要求し続けている。こうしたやり取りをみれば、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

イ 29年冬季一時金を議題とする本件団交について

会社は、組合が求めた29年冬季一時金の根拠ないし理由を説明し、組合の要求に応じて資料を提出して説明を尽くしており、29年冬季一時金の支給額について、組合の理解を得ようと努力していると評価することができる。

したがって、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

ウ 30年賃上げを議題とする本件団交について

会社は、組合の賃上げの要求には応じていないが、賃上げをしない理由を必要な資料を提示しながら説明しており、組合に自らの見解について理解を得ようと一定の努力をしていると評価することができる。また、専務が出席しないことで団体交渉の進捗に大きな支障が生じたともいえない。

したがって、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

エ 30年夏季一時金を議題とする本件団交について

30年夏季一時金について、会社は一定の査定基準に基づき評価した結果、前年と同額相当とした理由を文書で説明している。組合は、これを受けて会社と交渉することなく本件申立てに至っており、このような経緯からすると、30年夏季一時金についての団体交渉における会社の対応が不誠実であるとはいえない。

オ 30年冬季一時金を議題とする本件団交について

組合は、Xの査定内容を文書で提出してほしいと要求したのみで、実質的に労使間で交渉が行われたわけではない。会社は、組合に30年冬季一時金の支給額を決めた理由を記載した回答書を提出したが、組合はこれを受けて団体交渉をすることなく、本件申立てに至っているのであり、このような経緯からすると、会社の対応が不誠実であるとはいえない。

カ 支配介入について

本件団体交渉における会社の対応は、いずれも不誠実な団体交渉には当たらないことから、組合の組織運営に対する支配介入にも当たらない。

⑷ 本件解雇が不利益取扱い及び支配介入に当たるか否かについて(争点C)

ア 本件解雇の理由について

() 会社が本件解雇理由としている事業の不振については、こうした会社の経営状況を認めるに足りる具体的事実の疎明がない。

() 会社は、Xの休職に伴って会社がXに照会したことに対し、相当期間内に回答がなかったことを本件解雇の理由にしているが、Xは会社が解雇通知を発送した同日に、照会に対する回答を行き違いに送付しており、そのことが理由であれば、解雇を撤回してXの復職の可能性について調査を開始する余地もあったといえる。

() ところで、XがY部長の発言で休職したのは2度目であり、会社としてはY部長の発言を適正な業務指示や叱責と認識しているところ、Xが復職しても、XがY部長と業務を共にすることは避けられず、会社が、Xの復職の可能性がないと判断したことには相応の事情があったと推測することができる。

() また、会社はXの勤務態度を従前から問題視しており、さらに、30年7月18日の団体交渉以降、会社は毎日業務指示書をXに交付しているが、そこに記載がない業務を指示すればトラブルに発展するなど、会社では日常の業務遂行においてさえ看過できないほどに支障が生じていたことが推認される。

イ 不当労働行為意思について

() 組合は、会社がXのみに63年版就業規則を適用し、同人を組合員であることを理由に差別してきたと主張する。

しかしながら、前記⑵アで判断したとおり、会社は、当時Xには他の従業員と同様に28年版就業規則案を適用していながら、63年版就業規則に規定されている職務手当及び皆勤手当をXのみに上乗せして支給していたのであるから、会社がXを差別して不利益に扱ったとはいえず、組合の主張は採用することができない。

() また、組合は、賃上げや一時金の要求など、交渉を通じて権利を主張する組合員を会社が嫌悪している旨を主張している。

しかしながら、組合は、本件団交における会社の対応において具体的な事実を指摘して主張していないから、このことも不当労働行為意思を推認する事実に当たるとはいえず、組合の主張は採用することができない。

() したがって、Xが組合員であることを嫌悪して会社が本件解雇を行ったとする組合の主張や、組合の弱体化を企図して会社が本件解雇を行ったとする組合の主張は、いずれも採用することができないし、このほかに、会社が本件解雇を行った理由が組合員への嫌悪や組合弱体化の意図にあったと認めるに足りる事実も見当たらない。

() 本件解雇は、休職期間の満了前に行われ、組合がこのことを問題視することも理解することはできる。しかしながら、本件解雇には、会社にとってはXとの雇用関係を継続し難い事情があったことが認められ、かつ、同人が組合員であることや組合弱体化の意図をもって会社が本件解雇を行ったと推認するに足りる事実が特に認められないことを併せ考えると、本件解雇は、Xが組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえないし、組合の運営に対する支配介入に当たるともいえない。

 

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      平成31年2月15

⑵ 公益委員会議の合議 令和4年5月10

⑶ 命令書交付日    令和4年7月7日