【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、昭和35年に結成され、法律事務所、会計事務所、特許事務所、司法書士事務所等で働く労働者を中心に組織している。本件申立時の組合員数は数百名である。

⑵ 被申立人Y2は、弁護士であり、個人で法律事務所を運営している。同事務所において弁護士資格を有するのはY2だけであり、勤務する職員は]2だけである。

   

2 事件の概要

   平成19年8月、]2はY2弁護士に、正職員である秘書として雇用された。26年2月、]2は組合に加入し、組合とY1とは団体交渉を行うなどし、残業に関する合意書や、賞与に関する協定書が締結された。その後も団体交渉が複数回開催されたが、開催場所や時間に関して調整がつかないこともあった。

30年4月26日、組合は、賃上げや残業代についての団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉申入れ」という。)。団体交渉は6月29日の午前8時に喫茶店で開催(以下「本件団体交渉」という。)されることとなったが、6月27日、]2とY2との間で、組合が準備する団体交渉の資料の提出を巡ってやり取りがあった。

7月30日、Y2は]2に対し、年の後半期の業績が不明なため、新しい解決方法がないうちは今後も夏期賞与を1か月分しか支給せず、このことについて協議するつもりはないなどと文書で通知した(以下「本件通知」という。)。

⑵ 本件は、@本件団体交渉申入れに対するY2の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか、AY2の6月27日付言動が支配介入に当たるか、B本件団体交渉におけるY2の対応が不誠実な団体交渉に当たるか、C本件通知が支配介入に当たるか否かがそれぞれ争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

 ⑴ Y2は、組合が団体交渉を申し入れたときは、開始時間や開催場所に固執せず、速やかに応じなければならない。

⑵ 文書交付(要旨:本件団体交渉申入れに速やかに応じなかったこと、Y2の6月27日付言動及び本件通知が不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前項の履行報告

⑷ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

   本件団体交渉申入れへの対応について

ア 30年4月26日の本件団体交渉申入れに対し、Y2は、開催候補日として提示された5月8日までに何ら回答せず、組合から回答を催促された後、5月15日になって回答した。しかし、Y2は、既に過ぎた候補日である5月8日は都合がつかないと回答するのみで、回答が遅れた理由を全く説明しなかった。さらに、Y2は、団体交渉に応ずるとの回答はしたものの、開催可能な期日を、特に理由を示すことなく、そこからさらに1か月以上先の6月29日又は7月6日とした。このようなY2の対応は、団体交渉の開催を先延ばしにした行為であるといわざるを得ない。

イ Y2は、朝に喫茶店で行うという団体交渉ルールがあったにもかかわらず、本件団体交渉申入れで、組合は、突然、午後6時30分開始で、Y2の事務所で行うことを申し入れており、その強硬姿勢に納得できず、回答を留保したと主張する。
 確かに、]2が組合に加入した直後の26年3月4日に行った最初の団体交渉申入れに当たり、組合は、団体交渉の開催時間及び場所について、Y2の希望の時間帯と場所で行うと述べ、その後の団体交渉において、朝の時間帯に喫茶店で行われていた事実も認められる。
 しかし、組合が団体交渉をY2の希望の時間帯と場所で行うと述べたのは最初の団体交渉申入れの際であり、その後の団体交渉の時間帯と場所を拘束するものではない。
 また、26年4月に開催された団体交渉は、夜の時間帯に行われている事実が認められる。
 さらに、29年7月28日付団体交渉申入れについて、組合が、夜の時間帯にY2の事務所又は組合事務所等の喫茶店以外の場所での開催を求めたのに対し、Y2は、朝の時間帯に喫茶店での開催を求めた。これを受けて、組合が、今回については朝の時間帯の団体交渉を受け入れるとし、次回からは、Y2が組合の要望にきちんと対応することを要望するなど、団体交渉の開催時間帯と場所をめぐって両者の間でやり取りがあった。
 このように、団体交渉の開催時間帯と場所について、組合とY2との間で双方の希望が合わない状況の中で、何回かY2の希望する朝の時間帯に喫茶店で団体交渉が行われたことのみをもって、団体交渉は朝の開始で、場所は喫茶店とする団体交渉ルールが存在したとは、およそ認めることができない。
 また、組合が、本件団体交渉申入れにおいて、午後6時30分開始で、Y2の事務所で行うことを申し入れたのは、29年7月28日付団体交渉申入れに関し、組合が交渉時間を十分確保するために夜の時間帯での開催と、周囲の音を気にする必要のない事務所の会議室での開催を希望していたものの、Y2がこれに応じず、組合が譲歩するなどのやり取りや、朝の時間帯に行われた1017日の団体交渉において、交渉に出席していた組合員が職場の勤務時間との関係上途中退席せざるを得なくなった事情などを踏まえたものであるから、突然のことではないし、強硬姿勢であると評価することもできない。
 したがって、本件団体交渉申入れに対してY2が回答を留保したことに正当な理由があるとはいえず、Y2の主張を採用することはできない。

ウ 加えて、組合とY2との間において、本件団体交渉以前で最後に開催された団体交渉は、上記イのとおり団体交渉の開催時間帯と場所をめぐって両者の間でやり取りがあり、29年7月28日の団体交渉申入れから2か月以上経過した1017日に開催された経緯がある。

エ これらのことを考慮すると、本件団体交渉申入れに対して何ら回答せず、組合から回答を催促された後に、特に理由を示すことなくさらに1か月以上先を開催可能期日とし、団体交渉の開催を先延ばしにしたY2の一連の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

   Y2の30年6月27日の言動について

ア 6月27日、Y2が]2に対し、書類が出来ていないなら団体交渉に行かないでよいかなどと述べ、書類が出来ていないなら団体交渉をキャンセルする旨の発言をしたことが認められる。

イ Y2は、本件団体交渉の開催に当たり、組合に対し、未払残業代を請求するのであればその根拠を具体的に明示することを求めているものの、その提出期限は6月29日の団体交渉期日までと明記しており、Y2と]2とのやり取りがあった6月27日は、まだ提出期限前であった。Y2の上記発言は、提出期限は団体交渉期日までとしていたものの、当日ではなく事前に資料を提出してほしいという趣旨とも解されるが、そうであったとしても、以下のような本件の労使関係において、団体交渉をキャンセルする旨の発言は問題であるといわざるを得ない。
 すなわち、組合とY2との間において、本件団体交渉以前で最後に開催された団体交渉は291017日であった。その団体交渉は、組合が7月28日付団体交渉申入れにおいて、夜の時間帯にY2の事務所又は組合事務所等の喫茶店以外の場所での開催を求めたのに対し、Y2は、朝の時間帯に喫茶店での開催を求めるなど、団体交渉の開催時間帯と場所をめぐって両者の間で複数回に及ぶやり取りがあった。結局、組合が譲歩してY2の希望する朝の時間帯に喫茶店で開催することに合意したものの、当初の団体交渉申入れから2か月以上経過後に開催されたものであった。
 また、30年6月29日に開催された本件団体交渉についても、組合による4月26日付団体交渉申入れに対してY2は5月15日まで何ら回答せず、正当な理由なく団体交渉の開催を先延ばしにして、2か月以上経過後に開催されることとなったものであった。
 このように、組合とY2との間で団体交渉開催日がなかなか決定しない経緯がある中で、30年6月29日の団体交渉の開催がようやく確定した状況下において、その2日前の6月27日に、Y2が]2に対し、提出期限が未到来の書類であったにもかかわらず、出来ていないなら団体交渉をキャンセルする旨の発言をしたことは、その発言の時期、内容及び態様からして、組合に対し、ようやく決まった団体交渉の機会を失うおそれを抱かせるものであり、かねてから団体交渉開催を希望する組合を威嚇、けん制し、動揺、弱体化させるものであるといえる。
 さらに、このような発言を、組合を通さずに]2に対して直接発言したことは、残業代の支払等を要求する同人の組合活動に動揺を与え、組合活動を委縮させるものであるといえる。
 したがって、Y2の上記発言は、組合の運営に対する支配介入に当たる。

   本件団体交渉について

本件審査において、Y2が不誠実な交渉態度であったことを認めるに足りる組合からの具体的な疎明がなく、本件団体交渉におけるY2の対応が不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。

   本件通知について

ア 30年7月30日、Y2は、]2に対し、本件通知を行った。その通知には、夏期賞与の支給は後半期の業績が不明なため、基本給の1か月分しか支給しない方針であり、この方針は新しい解決方法がないうちは今後も変わらず、この点について協議するつもりは全くなく、時間の無駄となるので、年中行事のような同じ繰返しは避けるよう記載されていた。

イ そこで、]2の夏期賞与についての規定をみてみると、雇用契約書では、7月末に基本給の2か月分支給する、ただし、Y1の事業実績及び]2の勤務成績によるものとされ、また、26年9月29日付協定書において、Y1の事業実績及び]2の勤務成績の内容次第では年2回、2か月分の賞与が、減額又は発生しないことがあると協定されている。このように、]2の賞与は、Y1の事業実績と]2の勤務成績によってその支給水準が確定するものであり、その支給時期にならないと支給水準が確定しないものとされている。

ウ したがって、組合が各年に夏期賞与の支給水準について要求していたことには相応の理由があり、それにもかかわらず、Y2が、今後の夏期賞与について1か月分しか支給しない方針を一方的に表明し、新しい解決方法がないうちは協議するつもりがないとあらかじめ意思表示することは、組合が夏期賞与について団体交渉を行うことを抑制し、否定するものであるといえる。また、時間の無駄となるので年中行事のような同じ繰返しをしないよう求めたことは、団体交渉の中で]2の賞与について協議するという組合活動を非難するものであるといえる。
 さらに、この文書を組合ではなく]2に直接通知したことは、同人の組合活動に動揺を与え、組合活動を委縮させるものであるといえる。
 したがって、Y2が、]2に対し、本件通知を行ったことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     平成301019

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年1116

⑶ 命令書交付日    令和4年1月18