【別紙】

 

1 当事者の概要

    申立人X1(以下「組合」という。)は、平成1812月6日にX2の名称で結成され、20年5月9日、現在の名称に変更し、X3に加盟している。本件申立時の組合員は293名である。

   被申立人Y1(以下「法人」という。)は、191130日に、モーターボート競走法によるモーターボート競走の競技、選手等の登録、選手の出場のあっせん等の業務を行うことにより、競走の公正かつ円滑な実施に資するとともに、競走の健全な発展を図り、併せて海事知識の普及に寄与することを目的として設立された法人である。それ以前は、各都府県にある18のZ1及びZ2があったが、それらは、20年4月1日に解散し、法人に一元化された。

 

2 事件の概要

   30年2月19日、組合のX4執行委員長(以下「X4委員長」という。)が法人に対し、新たに組合に加入した組合員に関する「組合費・共催費控除申請書」(以下「チェック・オフ申請書」という。)を送付したところ、同月21日、法人のY2人事課長(以下「Y2人事課長」という。)は、チェック・オフ申請書に氏名の記載があった組合員X5及びX6の2名を含む新入社員7名に対し、組合加入の事実関係等を確認した(以下「本件ヒアリング」という。)。

   31年3月29日及び令和元年6月5日、X4委員長は、同人を差出人として、ボートレーサー養成所(以下「養成所」という。)の職員に宛てて、組合資料を封入した郵便物を養成所に送付したところ、法人は、X4委員長に対し、職場内での組合活動は認められていないとして、郵便物の中身が組合活動に関するものかを問い合わせた。X4委員長は、法人とのやり取りの結果、2件の郵便物を返送するように依頼した。

 ⑶ 組合と法人とは、平成291130日、30年3月7日、6月6日、1113日、31年2月13日及び令和元年5月14日の6回にわたり団体交渉を実施した。これらの団体交渉の主な議題は、平成30年度と31年度のベースアップ及び賞与の増額要求、業績に応じて支給される一時金(以下「特例一時金」という。)の支給、嘱託通勤手当の改善、レスキュー業務への従事に対して支払う手当(以下「レスキュー手当」という。)の新設等であった。

 ⑷ 本件は、@法人が平成30年2月21日に、組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことが組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)、A組合が31年3月29日及び令和元年6月5日に養成所に送付した養成所職員宛ての郵便物に対する法人の対応が組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)、B平成291130日、30年3月7日、6月6日、1113日、31年2月13日及び令和元年5月14日に行われた団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)が、それぞれ争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <全部救済命令>

 ⑴ 組合がベースアップ、定期昇給、賞与、手当等に関する団体交渉を申し入れたときは、財務資料を提示するなどして回答の根拠を具体的に説明し、誠実に応ずること。

⑵ 組合が業績に応じて支給される一時金に関する団体交渉を申し入れたときは、義務的団体交渉事項に当たらないとして拒否してはならず、誠実に応ずること。

⑶ 組合の組合員に対して組合加入の経緯等を確認したり、職員に対して同組合への加入意思の有無を確認したりするなどして組合の組織・運営に支配介入しないこと。

⑷ 組合がボートレーサー養成所の職員に宛てて郵便物を送付したときは、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないとの対応を執らないこと。

⑸ 文書の交付

⑹ 前項の履行報告

 

4 判断の要旨

 ⑴ 法人が30年2月21日に、組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことは、組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)。

ア 本件ヒアリングについて、法人は、組合からチェック・オフの申請がなされた以上、便宜供与をするかどうか、また、チェック・オフという便宜供与をする場合の要件の確認、その事情、本人がチェック・オフされても良いのか委任の意思を確認することは何ら不当労働行為に該当しないなどと主張する。

しかしながら、組合と法人との間には、チェック・オフに係る協約があり、組合は協約に基づいてチェック・オフを申請しているのであるから、便宜供与の要件について法人が組合員に対して改めて確認する必要はない。確認する必要があるとすれば、組合への委任の意思であるが、法人は、X5及びX6に対し、組合加入の話をいつ、どこで聞いたのか、加入申込書はいつ、どこで手に入れ、どのタイミングで提出したのか、本部職員には組合員はいないと思うが把握しているか、加入申込書を渡されたのは、組合に加入した二人だけかなどと組合加入の経緯や他の職員の組合加入状況を質問するだけで、同人らに対してチェック・オフについて組合への委任の意思を確認したとは認められないことから、本件ヒアリングには、別の意図があったとみざるを得ない。

  イ 法人は、X5及びX6に対し、上記のとおり、組合加入の経緯について詳細に聞き取りを行うとともに、ほかの職員の組合加入状況を確認した。また、非組合員の5名に対しても、組合の話はいつ、どこで聞いたのか、その話を聞いてどう感じたのか、組合に興味はあるか、加入する意思はあるかなどと組合からの勧誘状況や組合加入の意思を詳細に質問するとともに、本部職員に組合加入者はいないが把握しているかなどと組合加入している職員を特定するための質問をしている。このような本件ヒアリングの内容から、法人が、職員の組合加入の動向等について取り分け注視していたことは明らかである。

そして、本件ヒアリングは、組合員のX5及びX6とその同期である非組合員5名を訓練後に養成所の教官室に呼び出し、Y2人事課長が各人と電話で話をする方法で行われている。このように、法人が、新入職員7名を教官室に一斉に呼び出し、養成所の職員ではなく本部の人事課長が、組合の勧誘方法、組合加入の経緯又は加入の意思、他の職員の組合加入状況などを詳細に質問すれば、新入職員は、法人が、職員の組合加入の動向等を取り分け注視していることを知るとともに、法人の対応に動揺することは容易に想像できるところである。そうだとすれば、本件ヒアリングは、組合加入者を動揺させ、組合未加入者に対しては、組合加入をちゅうちょさせるものであったといわざるを得ない。

以上のとおり、本件ヒアリングは、新入職員に対して、法人が職員の組合加入を注視していることを意識させ、組合加入をちゅうちょさせるものであったことから、組合の組織運営に対して干渉する行為といえ、組合の組織・運営に対する支配介入に当たる。

⑵ 組合が31年3月29日及び令和元年6月5日に養成所に送付した養成所職員宛ての郵便物に対する法人の対応は、組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)。

ア 法人における業務外の郵便物の取扱いについてみると、その取扱いに係る基準や労使の合意はなく、法人は、寮生活をしている実務者養成員宛ての封書やはがきについては、原則として実務者養成員に配布しているが、職場に届いた職員宛ての郵便物は、各々の事業所(支所)の責任者の判断でその取扱いを決めるという運用を行っている。

イ X4委員長個人を差出人とする郵便物についてみると、30年7月頃及び31年2月20日に送付した実務者養成員宛ての封書は、法人が同封書を実務者養成員のリーダーに取り次いではいるが、封筒を開封し中身を確認したり養成員に渡す時期を試験終了後にしたりしている。

また、301113日の団体交渉で組合が法人の事業所(支部)宛てに組合説明会の告知文を郵送するので事業所内に置いてほしいと求めると、同月16日、法人は、内部で検討した結果として、組合が法人に対し郵便物を送ることは職場内での組合活動であるので、これには応じられないとの見解を示した。

そして、31年3月29日及び令和元年6月5日に送付した養成所職員宛ての郵便物について、法人は、X4委員長に電話を掛け、内容物が組合活動に関するものかを確認したり、職員宛ての郵便物は職場内での組合活動として認められないと述べたりするなどして、その取次ぎを拒否した。
 このように、法人は、X4委員長からの郵便物について、その内容物が組合活動にするものか否かを確認するなどの対応を執っているが、組合又は組合役員以外からの郵便物について、法人がその差出人に対して内容物を確認するような対応を執っていたという事実があったとはうかがうことができないし、法人もそのような事実があるとは主張していない。

    以上の事実に加え、前記⑴で判断したとおり、法人が組合の活動やその組織拡大に格段の注意を払っていたことも踏まえると、法人は、業務外の郵便物の中でも組合からの郵便物のみを殊更に警戒し、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないという特別な対応を執っていたものとみるべきである。

ウ この点、法人は、郵便物が組合関係の書類であれば組合活動に当たるので、その配布を認めないとしたことは、就業規則及び組合活動の原則からして適法であるなどと主張しているが、組合による印刷物の郵送が、就業規則第19条第10号の「職場内において…印刷物を配布し」に当たるかどうかは、その文言から必ずしも明らかとはいえず、法人の主張は採用することはできない。

エ 以上のとおり、法人は、組合からの郵便物について、内容を確認して組合活動に関するものであれば取り次がないという、他の業務外の郵便物とは異なる特別な対応を執っており、これは、組合活動の制約を企図したものとみざるを得ないから、組合が平成31年3月及び令和元年6月に送付した郵便物に対する法人の対応は、組合の組織ないし運営に対する支配介入に当たる。

⑶ 平成291130日、30年3月7日、6月6日、1113日、31年2月13日及び令和元年5月14日に行われた団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)。

組合は、6回の団体交渉における法人の対応が不誠実であると主張するので、以下、組合の主張に沿って判断する。

ア 根拠説明、資料開示

   () 組合は、定期昇給やベースアップ、賞与等に係る団体交渉において、法人に対し、売上げや交付金が増えている中でゼロ回答や満額回答でない理由を数字などの具体的な資料を示して説明するよう求めたが、法人は、法的な開示義務がないから開示しない、資料を出すかどうかは法人の任意であり、法人の中の決めであるなどと述べて、一貫して組合の要求する資料の開示に応じていない。

しかし、団体交渉において、使用者は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律上の開示義務のあるものだけを提示すればよいわけではなく、労組法の趣旨に照らして交渉に必要な資料を提示するなどして自らの回答や提案の根拠を具体的に説明して、労働組合の納得を得るよう努力する必要があるというべきである。

   () 本件において、売上げや交付金が増えている中でゼロ回答や満額回答でないことに組合が疑問を抱くのはもっともである。加えて、組合は、法人の回答は、以前から宿舎の建設や設備改修の問題で内部留保が必要であるとのことだが、内部留保の現状や見通しを数字で示すべきであり、示せないのであれば組合で調べるために資料を出してほしい、ベースアップがゼロ回答である根拠、1号俸上げた場合に必要な原資の見込みなどを説明してほしい、資料の作成が大変であれば貸借対照表と財務諸表をもって説明してほしいなどと、法人の説明を踏まえた具体的な要求を行っていたのである。

     これに対し、法人は、固定的に人件費が高く将来の収入の増減も勘案しており、収入が増えてもすぐに組合の要求に応じるわけにはいかない、全体的な数字の中で給与費の動向を見ている、選手宿舎の建設や設備改修など単年度の収入では当然行うことができない事業があり、今余ったからといって全部還元できるという問題ではなく、将来の経営的なことを十分に検討して回答したなどと抽象的な回答をするにとどまり、組合の求める具体的な数字や資料の開示には応じず、法人が挙げる資料開示できない理由も、開示義務がない、法人の中の決めであるといったものにすぎない。

     こうしたことからすると、法人には、組合の理解、納得を得ようとする姿勢に著しく欠けており、団体交渉における法人の対応は不誠実であったといわざるを得ない。

イ 形式的な団体交渉

組合が嘱託通勤手当の是正及びレスキュー手当の新設を要求したことに対し、法人は、291130日の団体交渉で、支給するかしないかを含めて検討中と回答し、30年1月10日の事務折衝では、前向きに検討しているが満額回答は難しい旨を回答し、具体的な検討内容は示さなかった。

ところが、法人は、事務スケジュールに従って、2月7日、組合に対し嘱託通勤手当及びレスキュー手当に係る諸規程の改正を通知し、組合との団体交渉を経ることなく、2月23日には理事会で通勤手当支給規程等の改正を決定した。

    その後、法人は、30年3月7日の団体交渉において初めて、嘱託通勤手当及びレスキュー手当について、具体的な回答をした。この団体交渉において、組合が、嘱託通勤手当とレスキュー手当は継続協議中の事項であるのに、組合に回答する前に結論が決まったのか問うと、法人は理事会の内諾を経ないと組合への回答が難しいなどと述べている。

    確かに、組合の要求事項に対し、法人の回答や提案を理事会で諮ること自体は非難されるものではない。しかし、法人は、組合が団体交渉事項として要求していたのに対し、検討段階では、検討中であるとして具体的な検討内容を示さず、その後いきなり諸規程の改正を組合に通知し、組合との団体交渉を経ることなく、改正を決定した。さらに、法人は、理事会における規程改正決定後の、3月7日の団体交渉において、協議を求める組合に対し、通勤手当支給規程等を変えたばかりなのですぐには応じられないと思うなどと述べ、その後の6月6日の団体交渉においても、手当の是正及び増額について、現時点では考えていないと回答し、実質的な協議に応じていない。

    このような法人の対応は、組合が団体交渉を求めた組合員の労働条件に関わる事項について、組合との協議を経て労働条件を決定するという姿勢に欠けており、団体交渉で具体的な交渉を行わずに一方的に決定するものであるから、組合との団体交渉を軽視する不誠実な交渉態度であるといわざるを得ない。

ウ 団体交渉の出席者

組合は、法人が実質的な決定権限のない者を団体交渉に出席させ、持ち帰って検討をすることを繰り返しており、このことは、交渉権限のない者を団体交渉に出席させるに等しく、不誠実な態度であると主張する。

しかし、法人側の団体交渉の出席者をみると、理事、執行役員、人事部長、人事次長等の相応の役職にある者が出席しており、団体交渉において、法人側の出席者の交渉権限が原因で交渉が滞ったといった事情は特に認められない。したがって上記ア及びイの判断のとおり、法人の団体交渉に臨む姿勢に問題があったことは認められるものの、法人の団体交渉に出席者に実質的な交渉権限がなかったとする組合の主張については、採用することができない。

エ 特例一時金について

   () 法人は、特例一時金は、労働協約や就業規則等に規定がなく、規定にある賞与等とは別に「特例」として支給するものであり、それを支給するかしないかは法人の裁量であるから、労働条件には該当しない恩恵的給付であり、義務的団体交渉事項に該当しないなどと主張する。

しかし、特例一時金は、少なくとも26年から令和元年まで毎年継続して相当額が職員全員に対して一律に支給されており、また、特例一時金の支給に際して、法人は賃金と同様に社会保険料と所得税を控除していることも併せ考えれば、職員の労働条件その他の待遇に当たることは明らかであり、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。

   () 特例一時金に関する団体交渉でのやり取りをみると、法人は、平成291130日の団体交渉において、年度末が終わって最終的な数字を見てから判断することになると回答しているものの、30年6月6日の団体交渉では、特例一時金は恩恵的給付と考えており、義務的団体交渉事項に該当しないと認識していると回答し、1113日の団体交渉では、特例一時金は恩恵的給付であるから交渉は行わないと述べ、以後の団体交渉においては、特例一時金の支給は考えていないとのみ回答している。

     以上のとおり、法人は、特例一時金の金額の交渉には一切応じず、結果だけを回答していたのであるから、このことを議題とする団体交渉における法人の対応は不誠実であったといえる。

オ 結論

    以上のとおり、法人の団体交渉に出席者に実質的な交渉権限がなかったとはいえないものの、団体交渉における法人の対応は、不誠実であったといわざるを得ず、平成291130日、30年3月7日、6月6日、1113日、31年2月13日及び令和元年5月14日に行われた団体交渉における法人の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。

 

5 命令交付の経過

⑴ 申立年月日     平成3010月1日

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年1221

⑶ 命令書交付日    令和4年3月7日