【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、企業の枠を超えて組織される、いわゆる合同労組であり、平成22年4月25日に結成された。本件申立時の組合員数は、238名である。

  申立人X2(以下「組合支部」といい、組合と併せて「組合ら」という。)は、会社に勤務する外国人講師らにより結成された組合の下部組織たる労働組合である。本件申立時の組合員数は、6名である。

⑵ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、昭和40年に設立された株式会社であり、30年3月末日当時の会社の正社員数は150名、契約社員数は16名である。会社の主たる業務は、29年当時、通訳・翻訳事業、通訳者及び翻訳者の養成事業並びに法人語学研修事業であった。

   

2 事件の概要

⑴ 申立外Z1組合及び同Z1組合Z2支部と会社とは、平成15年7月31日に、労働協約(以下「本件労働協約」という。)を締結した。

22年4月、Z1組合Z2支部の組合員らは、Z1組合を脱退し、Z1組合の他の支部と共に組合を結成し、同時に、組合支部を結成した。

291120日、会社は、30年4月1日に法人語学研修事業をグループ会社である申立外Z3会社に事業譲渡すること(以下「本件事業譲渡」という。)を決定し、291122日以降、同事業を所管する法人語学研修事業部門(以下「CTD部門」という。)に所属する従業員に対し、本件事業譲渡に伴い30年3月31日をもって同部門を閉鎖すること、同部門所属の契約社員及び会社と業務委託契約を締結している講師(以下「業務委託講師」という。)は同日付けで有期雇用契約ないし業務委託契約が終了すること等を通知した。

2912月4日、組合らは、会社に対し、組合らに連絡することなく組合員の雇用の終了を決定したことは本件労働協約に違反していると抗議し、本件事業譲渡後の組合員の処遇について団体交渉を申し入れた。組合らと会社とは、1215日、30年1月19日、2月2日、同月23日及び4月13日に団体交渉を実施した(以下、この5回の団体交渉を併せて「本件団体交渉」という。)が、解決には至らなかった。

30年3月1日から同月15日にかけて、組合らがストライキを実施したところ、会社は、ストライキを実施したX3、X4及びX5が担当するその後の業務又は授業を他の講師に変更するなどした。

⑵ 本件は、@会社が、CTD部門の閉鎖を2912月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことが、支配介入に当たるか否か、A本件団体交渉における会社の対応が、不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか否か、B会社が、30年3月5日及び同月7日に予定されていたX3のレベルチェック業務を非組合員の教員に交代したこと、同月15日に予定されていたX4の授業をキャンセルしたこと及び同月16日以降に予定されていたX5の授業をキャンセルしたことが、支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

 ⑴ 文書交付(要旨:CTD部門を平成30年3月31日に閉鎖することを、2912月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑵ 前項の履行報告

⑶ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

 ⑴ 会社が、CTD部門の閉鎖を2912月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことが、支配介入に当たるか否か

ア 本件労働協約第2条では、「会社は、・・・営業譲渡・・・を決定した場合、速やかに、組合へ通知し、説明する。」と定められているところ、会社は、本件事業譲渡を291120日に決定し、同月22日以降従業員に対して発表したが、組合らに対しては、12月4日に組合らから通知がなかったことについて抗議を受けて、同月6日付回答書で初めて通知した。

イ この点について、会社は、本件労働協約を会社と締結したのはZ1組合及びZ1組合Z2支部であるが、Z1組合Z2支部と組合支部との同一性は認められないことから、本件労働協約は組合支部に承継されず、会社と組合らとの間には同協約の効力が及ばない、会社の対応は殊更本件労働協約の趣旨や過去の労使慣行、組合らの存在を軽視するなどの意図があってなされたものではない旨主張する。

ウ 確かに、組合組織再編の経緯は明らかとなっていない点もあるため、Z1組合Z2支部と組合支部との同一性が認められるかは判然としない。

しかしながら、組合支部はZ1組合Z2支部の組合員がZ1組合を脱退して結成されたもので、結成当時の組合支部の組合員はZ1組合Z2支部の組合員と同一であり、組合組織再編の前後で労使関係に変更があったとはうかがわれない。

また、組合らは、22年4月26日に組合組織再編を会社に通知したが、会社はそれに対して特段意見を述べなかった上、29年1月6日に組合らが組合掲示板の掲示物が会社の従業員により剝がされたと会社に抗議した際には、総務部門のY2が、掲示物を剥がした従業員に対して、「労働協約の存在とその内容について会社から改めて知らせるようにいたします。」と記載したメールを組合らに送信しており、団体交渉においても、Y2が、組合組織再編後も当然のように本件労働協約が存在すると思っていたが本件事業譲渡に際して弁護士から同協約の有効性に疑義があると助言を受けたなどと述べていたことからすれば、会社としても、組合組織再編後も本件労働協約が組合支部との間で効力を有しているという前提で組合らとやり取りしていたと認められる。

以上のような組合組織再編後の本件労使間の経緯からすると、本件労働協約が組合支部に承継されたか否かはさておき、会社は本件労働協約の趣旨を十分に尊重した対応を執るべきであったといえ、本件事業譲渡が組合員らの契約の存続という労働条件に重大な影響を及ぼすものであったことを鑑みれば、会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められていたといえる。

この点について、会社は、組合支部で役職を有するX3に個別に通知していることから、同人から組合らに本件事業譲渡の件が伝えられるものと考えていた旨主張するが、従業員に対する通知をもって組合らへの通知に代えることはできないといわざるを得ない。

エ 以上のとおり、会社は、本件事業譲渡について、従業員である組合員に通知する前又は同時期に組合に通知することが労使関係上求められる状況にあったが、会社は、本件事業譲渡を従業員らに通知しながら組合らには抗議を受けるまで通知しなかったのであるから、会社の対応は、組合らの存在を軽視したものであったといわざるを得ない。

したがって、会社が、CTD部門を平成30年3月31日に閉鎖することを、2912月4日に組合らが抗議するまで、組合らに通知しなかったことは、組合らの運営に対する支配介入に当たる。

 ⑵ 本件団体交渉における会社の対応が、不誠実な団体交渉及び支配介入に当たるか否か

  ア 第1回から第5回までの本件団体交渉をみると、会社は、第1回及び第2回団体交渉で、本件事業譲渡には、会社は通訳・翻訳事業に特化させ、語学事業はグループ会社のZ3会社に集中させて、更なる事業拡大を狙う意図があることなどを説明し、その上で、組合らに対し、組合員のZ3会社への移籍を打診している。これに対し、組合らは、Z3会社への移籍を拒否し、会社での雇用継続を求め、組合員を会社の他の部署へ配置転換することを提案した。会社は、第3回団体交渉で、契約社員は職種が特定されているとしながらも、会社の他部署への配置転換のほか、同社が運営する養成校であるサイマル・アカデミーやグループ会社への配置転換を検討した結果や、今後の人員補充の予定や当該部署で求められるスキルを具体的に説明し、部門閉鎖後、組合員が継続して従事できる業務はないと回答した。また、併せて組合らから提案のあった本件事業譲渡の1年延期についても、時期を延長することはできない旨を説明している。

    さらに、会社は、第2回団体交渉で、X3とX5について、退職金に上乗せをする金銭解決案を提示し、第5回団体交渉で、組合らが会社の提案がどのようなものでも真剣に検討すると述べて金銭解決の余地もあり得ると示唆すると、その後、更に上乗せした金額を提示した。

    以上のような経過をみれば、労使間で合意に達することはできなかったものの、本件団体交渉において、会社は、本件事業譲渡の経緯を説明し、組合らの提案を受けて検討した結果を具体的に説明し、組合らの理解を得ようと努め、自らも提案して話合いによる解決を目指して一定の努力をしていたことがうかがえる。

これに対し、組合らは、会社の対応が不誠実で中身のある実質的な交渉ができなかったと主張するので、以下、組合らの主張に沿って、各団体交渉における労使間のやり取り等について判断する。

イ 団体交渉の出席者及び会場

    組合らは、本件団体交渉において、会社が、長年の慣行を一方的に覆し、会社代理人らを参加させ、会場を職場から離れた貸会議室に変更したことは、不当労働行為に当たると主張する。

確かに、本件団体交渉の前までは、団体交渉は会社施設内において弁護士が入らずに行われていたが、会社は、12月6日付回答書から会社代理人らが対応するようになり、1213日付回答書で会場を東京駅周辺の貸会議室を予定していると一方的に通知している。

会社代理人らの出席については、本件団体交渉から突如弁護士が同席することになったことに対して組合らが困惑したことも理解できるが、会社から委任を受けた弁護士が代理人として団体交渉に出席することは特に非難されるべきことではないし、本件団体交渉において、会社代理人らに団体交渉の進行に支障を来すような言動は見当たらず、必要に応じて会社の担当者が本件事業譲渡の経緯や配置転換の検討結果などについて発言をしているのであるから、会社代理人らが本件団体交渉に出席したことによって交渉の円滑な進行を妨げられたとはいえない。

団体交渉の会場については、組合らの再三の抗議にもかかわらず、会社は本件団体交渉の会場を社外の会場に固執し続けており、会社の対応に問題なしとはしない。しかしながら、本件団体交渉は毎回2時間程度実施され、会場は、東京駅から徒歩3分という交通の便の良い場所であり、費用も会社が負担しており、会場が社外の施設に変更になったことにより団体交渉の進行に著しい支障が生じたとは認められない。

  ウ 第1回団体交渉

    組合らは、CTD部門の閉鎖を決めた時期に係る質問に対し、会社代理人が具体的な日時は回答できないとしたことは、不誠実な対応であると主張する。

しかし、決定時期が組合員の労働条件と関連性があるとは当然には認められず、また、組合らは、決定時期の開示を求める理由や組合員の労働条件との関連性などを会社に説明しておらず、決定時期が組合員の労働条件と関連性があることが団体交渉において明らかになっていなかったことから、会社が決定時期についての回答を拒否したとしても、このことから直ちに会社の対応が不誠実であったとはいえない。なお、組合らは、会社代理人が会社の担当者の発言を遮ったと主張するが、会社側は組合らの質問に対してまずは会社代理人が回答するという対応をしていたものであり、会社代理人が会社従業員の発言を遮ったとはいえない。

    また、組合らは、CTD部門で勤務していた講師の移籍先となるZ3会社での労働条件について、会社が、どのような内容になるのか保証できないと回答していることが不誠実な対応であると主張するが、Z3会社はグループ会社とはいえ別会社であり、そこでの労働条件を会社が保証できないことは理解できるところであるし、第1回団体交渉の時点においてZ3会社に移籍する講師の労働条件が決まっていたと認めるに足りる事実の疎明もないことから、この会社の回答をもって不誠実な対応であったとはいえない。

  エ 第2回団体交渉 

組合らは、会社が組合員個人宛てに和解案を提出しようとしたことが不誠実な姿勢の表れであると主張する。

しかしながら、会社は、組合員各人に対する条件をまずは組合員本人に提示しようとしたものの、その後、組合らにも内容を確認してもらって組合らと交渉することを想定しており、組合らの頭越しに組合員と個別交渉をしようとしたとまでは認められないことから、会社の対応に問題があったとはいえない。

  オ 第3回団体交渉

    組合らは、会社代理人がY3マネージャーの発言を遮ったと主張する。確かに、組合らがY3マネージャーに質問しても、会社側は会社代理人が回答しているが、Y3マネージャーが答えようとしたにもかかわらず会社代理人がこれを遮ったというような事実は認められないし、会社の判断で会社代理人が回答をしたものであるから、会社代理人が回答したことに問題があったとはいえない。

    また、組合らは、会社代理人が交渉の目的は解雇が前提であると宣言したと主張するが、会社側の提案内容が退職を前提に解決金を支払うというものであり、会社代理人はそのことを組合らに説明したにすぎない。合意退職を求める会社が、雇用継続を求める組合らの提案と相反する退職前提の提案をしたとしても、それは、双方の立場の違いによるものであり、会社の対応が不誠実であったということはできない。  

カ 第4回団体交渉

    組合らは、会社代理人が交渉の目的は3月末の解雇が前提であると繰り返し発言したと主張するが、上記オと同様に、会社代理人は会社の見解や提案内容を説明したものであり、会社が組合らの要求を受け入れなかったとしても、その対応が不誠実であったとはいえない。

    会社は、団体交渉の最後に、組合員に解雇通知を交付している。第4回団体交渉の時点で、CTD部門が閉鎖される3月末が約1か月後に迫っていたことから、このタイミングで会社が組合員に解雇通知をしたことは理解できる。また、組合らと会社とは、4回にわたり団体交渉で組合員の処遇について協議をしており、協議が平行線となってはいたが、それは雇用継続を前提とする組合らと退職を前提とする会社とで見解に大きな隔たりがあったことが一因であり、会社が組合らとの交渉をする意思を有していなかったとは認められない。そして、会社は、解雇通知を渡すとともに今後も団体交渉を通じて円満に解決することを望んでおり、従前提案した解決案は今後も維持すると述べていることから、解雇通知を交付したことをもって会社が組合らとの交渉を打ち切ったと評価することはできない。

  キ 第5回団体交渉

    組合らは、会社が団体交渉を申し入れたにもかかわらず団体交渉で新しい提案をしなかったと主張するが、会社が組合らに対し団体交渉を申し入れた事実や新たな提案をすると約束した事実を認めるに足りる疎明はない。会社は、団体交渉で、金銭解決について組合らから条件があれば検討すると述べており、実際に組合らからの提案を受けると、2週間後に条件の上乗せを提案していることから、会社が交渉を引き延ばして組合をあきらめさせようとしていたということはできない。

  ク まとめ

    以上のとおり、本件団体交渉において、会社は、本件事業譲渡の経緯を説明し、組合らの提案を受けて検討した結果を具体的に説明し、組合らの理解を得ようと努め、自らも提案して話合いによる解決を目指して一定の努力をしていたということができ、会社が、本件団体交渉の会場を社外の貸会議室にしたことや、会社代理人らを出席させたことにより、団体交渉の進行に著しい支障が生じたり、交渉の円滑な進行を妨げられたりしたとは認められない。このほか、組合らが不誠実であると主張する会社の各対応について、いずれも、組合らの主張を採用することはできない。

本件事業譲渡に端を発した組合員の処遇の問題について労使で合意できなかったのは、無期雇用を前提に会社での雇用の継続を求める組合らと、Z3会社に転籍しないのであれば退職を前提とした解決を模索する会社との間に大きな見解の隔たりがあったからであり、団体交渉における会社の対応が不誠実であったとまでは認められない。

よって、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉ないし組合の運営に対する支配介入に当たらない。

 ⑶ 会社が、組合員らの業務を非組合員の教員に交代したり、担当する授業をキャンセルしたりしたことが、支配介入に当たるか否か

  ア 30年3月1日から15日にかけて、組合らがストライキを行ったことを受けて、会社は、X3、X4及びX5に対し、同人らが担当する予定であった業務ないし授業を、ストライキの対象とされていなかったにもかかわらず別の講師に担当を変更あるいはキャンセルすることを通知した。

この点につき、組合らは、ストライキの対象でない授業についてまで、非組合員の講師に交代させるなどする必要はなく、明らかに組合員であるストライキ参加者への差別的な取扱いであり、支配介入に当たると主張する。   

イ 組合らによるストライキが実施された時の状況をみてみると、組合らのストライキ通告のほとんどが授業開始の30分ないし40分前に突如として行われたことから、組合らからストライキ通告があると、会社は急ぎ代替の講師を探すことになるが、3月1日の授業及びレベルチェック業務並びに同月6日の授業については代替講師を手配できず、授業の中止を余儀なくされている。このような状況から、その後もストライキが実施されれば、会社が代替講師を準備できずに授業等を開始直前になって中止にする事態が続くことも容易に想像でき、また、当時は組合員の処遇の問題がいまだ労使間で解決しておらず、組合らの2月25日付「労働紛争宣言」が続いていて今後もいつストライキ通告があるか予測が付かない状況にあったことからすれば、会社が、ストライキを実施したX3及びX4の授業等について事前に代替講師を立てたことは、会社の操業を継続するために執った対応であったということができる。そして、この対応を執った際、会社は、X3及びX4に対し、外した業務ないし授業の賃金相当額を支払っており、組合員に少なくとも経済的不利益が生じないように配慮をしているといえる。また、当時、会社は、3月末にCTD部門が閉鎖され講師の契約も終了するという状況にあり、顧客からも補講を含めた授業は3月までに終わらせてほしいという要望が出ていたことも踏まえると、会社の対応は、操業を継続するために許容される程度のやむを得ないものであったと認められる。

    他方、会社がX3の3月16日以降に予定されていた授業を中止したのは、顧客が授業をキャンセルしたためである。顧客が授業をキャンセルした理由は明らかでないが、会社が、顧客からキャンセルされた授業を実施できないのは無理からぬことであり、X3に当該授業の賃金相当額を支払っていることも考慮すれば、授業の中止が同人のストライキを理由としたものであったとまで認めることはできない。

ウ 以上のとおり、X3及びX4の業務ないし授業について他の講師に交代した会社の対応は、組合らによる予測が困難なストライキを受けて会社の操業を継続するために許容される程度のやむを得ないものであったといえ、また、X5の授業を中止にした会社の対応は、同人のストライキを理由としたものであったとまで認めることはできないから、これらの会社の対応が組合らの運営に対する干渉行為であったとまで認めることはできない。

したがって、会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たらない。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     平成30年5月31

⑵ 公益委員会議の合議 令和4年2月1日

⑶ 命令書交付日    令和4年3月24