【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 被申立人財団は、肩書地に本部を置き、法人及び個人事業主を対象とした保険販売(認可特定保険業)を行う一般財団法人であり、本件申立時の職員数は約300名である。

  財団は、令和4年4月1日現在、全国各地に20か所の支局を有している。

⑵ 申立人組合は、平成5年12月に設立された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約650名である。

平成2812月1日、財団の職員のうち、X2ら7名(以下「組合員ら7名」という。)が組合に加入し、A支部を結成した。

 

2 事件の概要

27年3月以降、財団は、X2ら職員7名(X2ら7名)を、転居を要する地方の支局へ配転した。6月以降、X2ら7名は心身の不調を来して休職するに至り、財団は、配転を撤回した。2812月1日、X2ら7名は組合に加入し、組合と財団とは復職等について団体交渉を行った。

29年以降、X2ら7名は復職し、財団は、X3の復職と7月26日付西東京支店への配転に当たり、出退勤時各30分間の時短勤務を承認した。1225日、財団のY2支局長は、X3との面談において「早期退職制度って制度があるじゃん。」などと発言した。30年4月2日、Y2支局長は、X4との面談において「いいんじゃない。出社できなくなっちゃえば。」などと発言した。同月30日、財団は、X3の時短勤務を終了し、翌日、同人をY2支局営業職から本部内勤職に配転した。財団は、6月20日、X2ら組合員5名に対してグレードの降格又は降給を行い、31年2月28日付けでX3を欠勤等の多発などの理由により、令和元年5月31日付けでX5を勤務成績不良などの理由により、それぞれ普通解雇した。

本件は、財団が行った以下の行為が、組合員であるが故の不利益取扱い、及び組合の組織運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。@平成29年7月26日付X3の配転、A1225日のX3に対するY2支局長の発言、B30年4月2日のX4に対するY2支局長の発言、C4月30日付X3の時短勤務終了、D6月20日付X2ら5名に対する降格又は降給、E31年2月28日付X3に対する普通解雇、F令和元年5月31日付X5に対する普通解雇

 

3 主 文 <一部救済>

⑴ 被申立人財団は、申立人組合のX3に対する平成31年2月28日付普通解雇及び同X5に対する令和元年5月31日付普通解雇をなかったものとして取り扱い、両名を原職に復帰させるとともに、解雇の翌日から復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。

⑵ 文書交付及び掲示

  上記⑴の内容のほか、争点AのX3に対するY2支局長の発言に関するものを含む。

 

4 判断の要旨

⑴ 争点A

X3との面談については、その経緯や面談趣旨などの詳細は明らかではないものの、Y2支局長が、X3に対して「早期退職って制度があるじゃん。」、「辞めても裁判って続けられるじゃん。」などと発言していることからすれば、この面談では、X3に退職の勧奨を行ったとみるのが相当である。

上記面談で、Y2支局長は、早期退職の募集とは無関係である係属中の訴訟を引き合いに出して、退職することを促している。当時、X2ら7名の配転に係る訴訟が進行し、判決言渡し(平成30年2月26日)直前であったなど、労使が対立的な関係にあったといえる。

Y2支局長は、所属職員の管理監督に当たる立場であり、財団の利益代表者に近接する職制上の地位にあるところ、同人の発言は、上記のように訴訟事件等をめぐる対立的な労使関係を踏まえたものであるから、使用者の意を体して行ったものといわざるを得ない。

そうすると、Y2支局長の発言は、財団の意を体して、組合員であるX3を、早期退職募集の機会を利用して排除しようとしたものということができる。

よって、Y2支局長の上記発言は、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合員を排除することにより組合の弱体化を図る支配介入にも当たる。

⑵ 争点E

X3は、29年7月31日に一旦復職したものの、就業規則上の休職期間が満了している状況で再び体調不良のため出勤できなくなり、解雇通知を受けるまでの約4か月の間は休職を取得できずに欠勤状態となっており、また、同人の勤務成績の結果も良好であったとはいえないのであるから、財団が同人の解雇を検討する余地がなかったとはいえない。

しかし、X3への解雇事由が数か月間にわたる欠勤や勤務成績の不良といった一定の期間経過を伴うものであるにもかかわらず、財団は、それまで解雇の可能性等を何ら示唆することもなく、31年2月26日に突如、二日後の解雇を通知している。また、X3は、1月22日と2月19日にも就労は不可能との診断書を再び提出しているが、いずれも、1か月の加療期間を要するとの所見であり、今後の見通しが立たないような状態であったともいえない。そうすると、X3の解雇は、いかにも唐突で、不自然な対応であったとみざるを得ない。

そして、X3への解雇通知書において、財団は、裁判所での和解協議において法外な解決金を要求したなどと記載し、普通解雇事由とは何ら関連のない事項を挙げて同人を強く非難していることからすれば、財団が同人に対して強い敵対心を有していたことがうかがわれる。

また、前記⑴のとおり、財団は、係属中の訴訟を引き合いに出してX3に退職を勧奨するなどしており、財団が、X3らを嫌悪していたことがうかがわれる。

当時の労使関係をみると、組合の積極的な情宣活動に対し、財団は、支局長会議において、組合の活動に対する批判的な記載のある配布資料に基づいて研修を行い、その後、複数の支局で、配布して読み上げるなど労使間の対立は極度の緊張状態にあったといえる。

⑶ 争点F

X5の勤務成績が良好とはいえず、31年3月以降、地方支局への配転命令を2度拒否しており、就業規則の定めからすれば、財団が同人を解雇する余地がなかったとはいえない。

しかし、X5が自らの配転について訴訟を提起したことについては、解雇理由として合理的なものであるとはいえず、配転拒否を他の職員に呼び掛けたことは、約4年前の出来事であるし、勤務成績の低迷ついては、財団が、X5を十分に指導したと認めるに足りる事実の疎明はない。

さらに、地方支局への配転拒否については、X5には、自身の健康状態や家族の介護事情といった、一定の配慮が検討されてしかるべき事由が存在している中で、財団が提示した配転先は秋田支所及び九州支局であり、財団が、X5の個人的事情を踏まえて十分な配慮や配転先の検討を行ったとはいい切れない。

加えて、X5への解雇通知書をみると、財団は、同人が理由のない裁判を繰り返し起こして財団を混乱させたとか、何ら根拠を挙げずに同人の疾病には詐病の疑いがあるなどと非難し、また、同人が裁判所での和解協議において法外な解決金を要求したなどと記載し、普通解雇事由とは何ら関連のない事項を挙げて、同人を非難している。このことから財団は、X5及び組合に対して強い敵対心を有していたことがうかがわれ、このような経緯を経て行われたX5の解雇は、組合員であるX5の排除を意図して行われたとみざるを得ない。

そして、当時の労使関係の対立が先鋭化していたことは、前記⑵のとおりである。

⑷ 以上⑵⑶を併せ考えると、財団が、X3及びX5を、解雇したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入に当たる。

⑸ その余の申立て(争点@、BないしD)を棄却する。

 

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成30年4月12

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和4年1018

 ⑶ 命令書交付日    令和4年12月7日