【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成31年3月に結成された、原子力関連産業の事業場等で働く労働者で構成する労働組合であり、本件申立時の組合員数は20名である。

⑵ 被申立人Y1(以前の商号は「Y1」であり、以下「Y1」という。)は、肩書地に本社を置き、電気事業を行う株式会社である。28年4月1日、持株会社に移行し、現商号に変更した上で、発電、送電、小売等の事業を傘下の各事業会社に承継した。31年3月頃の従業員数(傘下の会社を含む連結)は41,086名である。

 

2 事件の概要

X2は、申立外Z3社の従業員として、2310月から2512月までの間、Y1のZ1及びZ2の事故収束作業等に従事した。X2は、上記の作業等の従事期間中、放射線に被ばくした。

2512月、X2は、Z3社を退職した。

26年1月、X2は、急性骨髄性白血病と診断され、2710月には同病が上記の作業等の従事期間中における労働災害であると認定された。

令和元年7月1日、X2は組合に加入し、同月11日、組合はY1に対し、上記Xの発病が業務上疾病であると認めることなどを求めて団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉申入れ」という。)。しかし、Y1は、X2との関係で使用者に該当しない旨の回答を行い、本件団体交渉申入れに応じず、その後に組合が繰り返し団体交渉を申し入れても、同旨の回答を行い、結局応じなかった。

本件は、@Y1が、組合の組合員X2との関係で、労働組合法(以下「労組法」という。)上の使用者に該当するか否か(争点1)、AY1が使用者に該当する場合、本件団体交渉申入れに同社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)が争われた事案である。

 

 

3 主 文 <棄却>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

 ⑴ Y1が、組合の組合員X2との関係で、労組法上の使用者に該当するか否か(争点1)について

ア 原賠法に基づく責任との関わりについて

    組合は、原子力損害については、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)により、雇用主らの損害賠償責任が免責され、原子力事業者であるY1が損害賠償責任を有することから、Y1は使用者に当たると主張する。

しかし、原賠法第3条及び第4条は、原子力事業者の原賠法上の損害賠償の責任集中を定めたものであり、上記規定によって、直ちに、原子力事業者であるY1が、原子力損害を受けた、同社と雇用関係にない作業員の使用者に当たると解することは困難である。

イ 安全管理について

() 組合は、原子力発電所における安全管理について、法律上、電力会社に義務付けられており、雇用主であるZ3社や元請事業者と併せてY1にも使用者責任があると主張する。

しかし、Y1が発注する工事等に係る共通仕様書や契約書等の記載からすると、同社の担う安全管理とは、発注者としてのものであり、同社が、Xら作業員に対して雇用主と同視できる程度の安全管理を行う立場にあったものとは認められない。

また、X2が作業に従事した各工事等における状況をみても、Y1がX2ら個々の作業員の労働条件を具体的に決定していたという事情をうかがうことはできない。

() 組合は、被ばく労働管理を含む安全衛生対策について、雇用主だけでは把握できない累積的な被ばく線量を一元管理するY1は、雇用主及び元請事業者と共に、使用者としての責任を担っていると主張する。

しかし、工事等に係る放射線管理仕様書では、受注者が、線量管理計画を作成し、作業員の線量管理を行うこととされている。X2が作業従事した各工事等における状況をみても、現場における放射線量の測定や管理等について、元請事業者(受注者)や一次下請事業者のZ4社が携わっていることはうかがわれるものの、Y1が、直接、作業員の線量管理を行っているような実態はうかがえない。

そうすると、Y1が、工事等での被ばく線量等の情報の一元管理をしているとしても、その情報に基づいて実際に現場で作業員の線量を測定し、個々の作業員の具体的な線量管理を行うのは、受注者である各元請事業者やその下請事業者であるとみるのが相当であり、Y1が、同社と雇用関係にない、X2ら個々の作業員の放射線安全の確保や線量管理を直接行ったり、作業の安全対策等の労働条件を具体的に決定したりする立場にあったということはできない。

() 組合は、厚生労働大臣がY1に対して労働災害防止対策の徹底を求めた書面を根拠に、Y1が被ばく労働管理を始めとする労働災害防止対策について、現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったと主張する。

しかし、上記書面では、Y1に対し、「作業の発注者として、・・・元請事業者が実施する労働災害防止対策に対して、必要な指導援助を実施すること。」も求めているのであり、第一義的には元請事業者が労働災害防止対策を実施することを前提にしているといえる。そうすると、この書面をもって、Y1が、同社と雇用関係にない、X2ら個々の作業員の労働災害防止対策について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいい難い。

ウ 本件団体交渉申入れにおける要求事項について

組合は、Y1に対する要求の趣旨として、X2の被ばく労働に伴う危険手当の金額や算定根拠の説明を求めること、X2の急性骨髄性白血病発症を業務上疾病と認めて補償することをあげ、いずれもY1でなければ対処できない義務的団体交渉事項であるとも主張する。そこで、組合が要求する事項@ないしCについて、Y1が使用者に当たるといえるか否かについて、以下、検討する。

() 組合要求事項@の危険手当(設計上の労務費割増)は、Y1が、工事等の契約金額の算出に当たり、Z1の事故収束作業に従事する作業員に係る分の割増を行っていたものであり、アンケートの結果発表資料には、「当社が割増した金額は作業員の皆さまのお手元に届くように元請企業と一体となって取り組んでまいります。」との記載がある。

しかし、これは、Y1の方針や姿勢を示したものと考えられ、その前提として、「作業人数については設計時の人数と実際に働いていただいた人数では異なることもあるため、必ずしも1万円増額されるわけではありません。また、割増対象となる工事にかかわった人だけでなく、全作業員に均等に支払うといった企業もあり、作業員の皆さまにいきわたる手当額は企業毎に異なります。」との記載があることから、Y1が、同社と雇用関係にないX2ら個々の作業員の賃金としての危険手当の額を、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいえない。

なお、X2に係る危険手当を巡るやり取りをみても、工事等の元請事業者が、作業員に支払われる危険手当の額を具体的に想定していることがうかがわれるほか、下請事業者が、作業員への賃金としての危険手当の支給につき、具体的な金額に言及した上で、支配、決定していることがうかがえる。

() 組合要求事項Aの「X2組合員の急性骨髄性白血病について、貴社が業務上疾病と認めること。」については、前記イの判断のとおり、Y1が、同社と雇用関係にないX2ら個々の作業員の労働災害防止対策について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいい難い。そうすると、Y1が、無過失責任である原賠法上の損害賠償責任を負うとしても、同社が、X2の急性骨髄性白血病の発症について、業務に起因するものか否かを判断して、団体交渉で組合に回答する義務を負うということはできない。

() 組合要求事項Bの「貴社従業員がZ1およびZ2で就労するにあたって、基本給に加算して支払われる特別な手当の金額及び根拠をユニオンに明らかにすること。」及び組合要求事項Cの「貴社従業員の労災職業病被災者に対する企業内上積補償制度の内容を、ユニオンに明らかにすること。」については、組合要求事項@及びAの団体交渉事項に付随して、Y1が雇用する従業員の処遇に関する情報を求めたものと考えられるところ、上記()及び()のとおり、組合要求事項@及びAのいずれについても、Y1が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいえず、使用者性が認められない以上、組合要求事項B及びCについて、Y1のX2ら個々の組合員に対する使用者性は問題とならないといわざるを得ない。

エ 以上のとおり、原賠法上、X2が原子力損害に係る損害賠償責任を負うことをもって、同社がX2ら個々の作業員の使用者である根拠ということはできない。また、Y1は、被ばく労働管理を含む安全衛生対策などのX2の基本的な労働条件等や、本件団体交渉申入れにおける要求事項であるX2の危険手当等についても、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできないのであるから、Y1が、組合の組合員であるX2との関係で、労組法上の使用者に該当するということはできない。

⑵ 本件団体交渉申入れにY1が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか否か(争点2)について

本件において、Y1がX2との関係で労組法上の使用者に当たらないことは上記争点1の判断のとおりであるから、争点2については判断するまでもなく、本件団体交渉申入れにY1が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否には該当しない。

    

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日       令和2年6月16

⑵ 公益委員会議の合議  令和4年4月5日及び5月10

⑶ 命令書交付日     令和4年6月9日