【別紙】

 

1 当事者等の概要

⑴ 被申立人Y1(以下「Y1」という。)は、昭和37年に設立されたZ1(以下「Z1」という。)を前身とし、国土交通大臣が指定する船舶等振興機関として、全国の地方自治体が主催するボートレースの収益金を基に、海洋船舶関連事業の支援や公益・福祉事業、国際協力事業を行っており、平成23年4月に公益財団法人として認定された。

  令和2年4月1日現在、Y1の役員は、会長、理事長、専務理事及び5名の常務理事で構成されており、正職員数は128名である。

⑵ 被申立人Y2(以下「Y2」という。)は、Z1によって昭和49年に設立されたZ2(以下「Z2」という。)を前身としている。Z2は、平成23年4月に公益財団法人として認定され、31年4月にY2に名称を変更した。

  令和2年4月1日現在、Y2の常勤役員は、会長、理事長及び常務理事の3名であり、常勤職員は16名である。

⑶ Y1とY2との関係

  ア 役員について

Y1の理事長のY3は、Y2の評議員を務めている。また、Y2の理事長のY4は、Y1の常務理事を務めていた時期がある。

  イ Y2の収入について

  Y2の収入のうちY1からの助成金の割合は、平成29年度の決算では約60パーセント、30年度は約63パーセント、31年度(令和元年度)は約83パーセントである。

 ウ Y1及びY2の各会長の認識

Y1のY5会長に対するインタビューを基にして、平成31年1月10日に発行された書籍の中では、Y2はY1の「直轄」の組織であると記載された箇所がある。

また、A2療養所の医療従事者が30年に実施したフィリピン共和国視察の調査報告書の中にあるY2のY6会長の「ご挨拶」には、Y1について「B」と記載された箇所がある。

⑷ 申立人X1(以下「組合」という。)は、国の行政機関、独立行政法人等で働く労働者を対象に一人でも加入できる労働組合であり、1512月に結成された。組合は、人事院に登録された職員団体であるとともに、労働組合法上の労働組合でもあり、令和2年4月現在の組合員数は67名である。

 X5分会(以下「分会」といい、組合と分会とを併せて「組合ら」という。)は、A1資料館(以下「資料館」という。)に勤務する学芸員3名で結成され、その後全国各地のA2療養所に併設されているA6会館に勤務する学芸員2名が加わり合計5名となった。

 

2 事件の概要

平成4年6月25日、A3療養所(国立のものと私立のものがある。)の入所者が中心となって設立したA4資料館は、19年4月1日に現在の資料館となった。同時に厚生労働省(以下「厚労省」ということがある。)の単年度の委託事業として、入札によって資料館の管理運営業務の受託者が決定されることとなった。

その後、資料館の管理運営業務の受託者は2回変わったが、資料館に勤務する職員は、その都度新しい受託者に雇用され、資料館での勤務を継続した。

令和元年9月24日、資料館に学芸員として勤務していたX2、X3及びX4は、同人らに対する様々なハラスメントがあると主張し、資料館の管理運営業務の受託者であるY1にその対応を要求するため、組合に加入し、分会を結成した。その後、組合らとY1とは、X2、X3及びX4が主張するハラスメント等について、団体交渉を行った。

2年2月13日、Y1の常務理事であるY7は、資料館の朝礼において、Y1が翌年度の資料館の管理運営業務委託の入札に参加しなかったことを発表した。その後の団体交渉において、Y7常務理事は、組合らに対し、入札に参加しなかった旨及びY2に同業務委託の応札を検討するよう依頼した旨を説明した。

2月27日、Y2は、資料館の管理運営業務委託の入札の結果、4月1日からの同業務の受託者となった。その後、Y2は、資料館の職員に対し、採用試験を実施する旨を通知した。X2、X3及びX4は採用試験を受けたところ、X2及びX3が不採用となった。

3月31日、Y1は、資料館の管理運営業務の受託期間が終了したことに伴い、X2及びX3を雇止めとした。

本件は、Y2がX2及びX3の2年4月1日からの雇入れを拒否したことは、同人らとY1との従前の雇用契約関係における不利益取扱いにほかならないとして、不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済>

⑴ Y2は、X2及びX3の採用試験の不採用をなかったものとし、同人らを令和2年4月1日付けで資料館の職員として採用したものとして取り扱わなければならない。

⑵ 文書交付・掲示

要旨:Y2がX2及びX3を採用試験で不採用としたことが不当労働行為であると認定されたこと、今後繰り返さないよう留意すること。

⑶ 上記⑴及び⑵の履行の報告

⑷ Y1に係る申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ Y1とY2との関係について

 ア 組合らは、Y1とY2とが一体であり、Y1がY2の意思決定を事実上支配していると主張する。

   確かに、Y1とY2との関係については、@Y1の前身であるZ1がY2の前身であるZ2を設立した経緯があり、AY1のY3理事長がY2の評議員を務めていたり、Y2のY4理事長がかつてY1の常務理事を務めているなど、役員の兼務や交流があり、BY2の収入の過半がY1からの助成金であり、Cそれぞれの会長が相互に「直轄」であるとか、「親財団」であると認識していることなどが認められるため、両財団は、極めて密接な関係にあることがうかがえる。

イ また、資料館等の管理運営業務委託に限ってみると、Y2は、平成31年度(令和元年度)の入札への応札を見送ったものの、2年度にY1が応札しないことを決定した際には、Y1は、Y2に応札の検討を依頼している。これを受けたY2は、実際に応札している。この入札は、価格だけでなく入札参加者からの提案も受託者決定に当たっての評価の対象となるものであるところ、Y2が厚労省に提出した技術提案書は、Y1から元年度に提供を受けたものを基に作成されており、Y1のものと多くの共通点がある。そうすると、Y2は、前記アのとおり極めて密接な関係にあるY1との関係に基づき、2年度の資料館等の管理運営業務委託の入札において、Y1からその業務運営方針やノウハウ等を引き継ぐ意思をもって応札したものとみることができる。

 さらに、Y2が受託者となった2年4月1日付けの資料館の組織と人事は、Y7常務理事がY2の顧問として引き続き資料館の運営に関与し、幹部職員の多くも出向関係等が変わるだけでY1時代と同じ者が引き続き担当しており、しかも、これらについては、Y1のY8専務理事が調整したというのであるから、Y2は、Y1の人的体制を基本的には引き継いだとみることができる。

 ウ このようにY1とY2は密接な関係にあり、特にY2の受託に至る経緯において密接な関係が認められる本件においては、Y2による不採用が、従前の雇用関係であるY1との関係において、組合員であることを理由とする不利益な取扱いに当たるという事情が存在する場合には、不当労働行為に当たるというべきであり、Y2が、使用者としての責任を負う立場にあるというべきである。

エ 一方、Y1は、3月31日にX2及びX3を雇止めとしているが、これは、資料館の管理運営業務の受託期間終了に伴い、組合員であるか否かにかかわらず全ての職員に対して契約更新を行わなかったものであるから、同日での両名の雇止めそのものについて、不当労働行為の成立を認めることはできない。

  また、Y1とY2とは、別個に公益財団法人として認定された別法人であり、前記ア及びイのとおり両団体に密接な関係が認められるとしても、両団体が事実上一体であるとか、Y1がY2の意思決定を事実上支配しているとまで認めるに足りる事情はうかがわれないため、Y2による4月1日からのX2及びX3の雇入れの拒否(不採用)について、Y1の行為であるとみることはできない。

  よって、Y1による両名の雇止めの撤回に係る申立てについては、棄却とせざるを得ない。

オ したがって、以下、Y2が、4月1日からの資料館の職員の採用に当たり、X2及びX3を不採用としたことについて、不当労働行為の成否を判断する。

⑵ 組合らとY1との関係について

ア Y1におけるX2及びX3の状況

Y1におけるX2及びX3の状況に関し、X2については、Z5との関係が悪化したことがきっかけとなって、遅くとも平成30年度後半までには、Y9館長、直属の上司であるY10事業部長、事業部の学芸員らとの人間関係が悪化して、X2の業務遂行にも支障が生ずるようになったことが認められる。

X3については、3011月半ば頃、Y9館長から「辞めろ、辞めちまえ、辞めさせてやる。」などと言われている。

   X2及びX3は、これらをY9館長、Y10事業部長や事業部の学芸員らからのハラスメントの結果であると主張して、ハラスメントの中止と再発防止をY1に要求するべく令和元年9月24日に分会を結成した。

イ 組合らとY1との関係

組合らは、Y1に対し、資料館において、X2、X3及びX4に対するY9館長、Y10事業部長や事業部の学芸員らからのハラスメントがあると主張し、その対応などを要求して6回の団体交渉を行うとともに、Y1の団体交渉における対応の問題点を記載した分会ニュースをA2療養所の入所者及びその自治会などの資料館の関係先に送付している。送付先の中でも全国のA2療養所の入所者は、A5協議会(以下「A5」という。)の協力の下、資料館の前身のA4資料館の設立に当たって中心となった存在であり、しかも10年近くその運営を自ら担っていたのであるから、資料館を運営するY1及びY9館長に与える影響は少なくないものと考えられる。また、全国のA2療養所の入所者の自治会は、A5を組織しており、資料館の名称(「A1資料館」)がA5の意向を踏まえて決定されていることを考えれば、入所者の自治会が組織するA5もまた資料館の運営に対して強い発言力を有しているものと考えられる。

そして、令和2年2月に厚労省がY1による資料館の運営の在り方について学芸員を中心にヒアリングを行った結果をまとめた書面には、平成30年度の組織改編及び人事異動によってA5とのコミュニケーションがうまくとれておらず、A5からの信頼が失われる事態が生じている旨の記載があることから、当時のY1においては、A5との信頼関係の回復が課題となっていたことがうかがえる。

そのような状況下で、令和2年2月1日付けのA5ニュースに「健全な運営を目指して」、「資料館に労働組合誕生」と題した記事が掲載され、現状の資料館運営への批判とともに、組合らの主張するハラスメントの問題等も取り上げられた。このことは、Y1の資料館運営を批判する組合らの活動がA5によって支持されていることを意味しているとみられ、A5との信頼関係の回復が必要なY1にとっては深刻な問題であったと考えられる。

 加えて、組合らは、3月9日に記者会見を行い、Y1の資料館等の運営に問題があるとして、組合らの主張するハラスメントの問題等を発表するとともに、その内容を分会のホームページにも掲載した。この記者会見を受けた記事が「しんぶん赤旗」に掲載され、Y1は、Y7常務理事が資料館の職員を集めて説明を行うなどの対応を余儀なくされた。

 このように、資料館等の運営への批判を広く外部に訴える組合らの活動は、Y1にとって好ましくないものであったことがうかがわれ、特にA5との信頼関係の回復の妨げとなることを、Y1が強く警戒していたことが推認される。

⑶ Y2の採用試験について

 ア Y2は、令和2年度の資料館等の管理運営業務を受託するに当たって、資料館の職員として雇用するか否かを判断するために採用試験を実施することとし、その中で多面評価を実施した。多面評価は、組合らの主張するとおり、一般には、既に雇用されている従業員の勤務成績評価として、上司、部下、同僚などから多面的に評価する手法であり、Y2がこの手法を採ること自体が、従前の雇用契約における人間関係を前提としているといえる。

また、Y2が委託した事業者の「360度評価(多面評価)」では、通常50問の質問に回答するのがスタンダード版とされているところ、Y2は、Y4理事長及びY11顧問の判断で9項目の質問にしており、しかもその設問の多くがコミュニケーションに関係するものである。資料館の業務にコミュニケーションが重要であるとしても、広い角度から評価する多面評価を採用しながら、評価(質問)項目をコミュニケーションに関係する9項目のみに限定するのは極めて不自然である。これを実施した場合、職場の人間関係に関わる主観的な評価が反映されやすくなり、評価が恣意的なものとなる可能性は否定できない。そして、実際、X2及びX3の多面評価点は、他の職員よりも極端に低くなっている。Y2は、このような結果が出ることを意図して多面評価を実施したのではないかと疑われるところである。また、Y1へ出向しているなど有期雇用ではない資料館の管理職等(Y10事業部長外3名)が、多面評価には評価者及び被評価者として参加していることからも、多面評価が純然たる採用試験とはいえず、従前の雇用関係において職場におけるハラスメントの中止などを求める組合活動を公然と行っていたX2及びX3が低評価となる結果を得ようとする意図のあったことが疑われる。

   イ 採用試験総括表におけるX2の不採用理由には、「洞察力やコミュニケーション力に欠けており、組織の中で様々な人間と連携して物事を進めていくという学芸員としての基本的資質も不足していると判断せざるを得ないため、不採用としたい。」と記載されているが、X2の面接試験におけるやり取りでは資料館における同人とほかの職員との連携状況についての質問はなかったのであるから、同試験のやり取りのみからこのような具体的な評価を行うことは困難であるとみられ、上記記載は極めて不自然なものである。

     X3の不採用理由には、「ある特定の協力者や自分の考え方に同調する学芸員とは連携できるが、異なる考えを持つ人間と協調しながら、より質の高い業務に従事していくという資質に欠けている」、「物事を自分の感性のみで判断し、広く客観的な意見を受け入れる寛容性が感じられず、他者との協調にも支障をきたすのではという危惧があるため、不採用としたい。」と記載されている。X3の面接におけるやり取りではX4以外の資料館の職員との業務上の連携状況については質問されていないこと及び面接試験の時間はわずか20分程度であったことを考えると、面接のみからこのような具体的な評価を行ったとみるのは困難であり、上記記載は極めて不自然なものである。

上記各記載は、X2及びX3が職場におけるハラスメント問題の解決や雇用の継続を求めて組合活動を行っていたという事情をY2が知った上で、それを踏まえて評価したものではないかとの疑いを禁じ得ない。

   ウ 以上のことを総合すると、Y2は、Y1との従前の雇用関係において組合活動を行っていたX2及びX3について、採用試験で不利になるように多面評価を実施するとともに、面接試験においても、面接内容だけでは必ずしも明らかになっていない点も加味して採否の検討をしたことが強く疑われる。

⑷ Y2がX2及びX3を不採用としたことについて

Y1のY7常務理事は、Y2が2年度の資料館の管理運営業務の受託者として厚労省によって決定された2月27日以降、Y2のY4理事長に対し、Y1が組合らと団体交渉をしていること、その団体交渉において組合員らの雇用を継続してほしいという要求があったことを伝えている。

Y2は、遅くともX2及びX3の面接試験日である3月15日の前までに、3月9日の組合らの記者会見やその内容を掲載した分会のホームページ、3月10日の「しんぶん赤旗」の記事やX4委員長のY4理事長への電話によって、X2及びX3が組合員であることや、組合らが、Y1に対し、資料館の運営やハラスメント問題について、追及していたことなどを認識していたと認められる。

また、Y2は、@Y1が資料館の管理運営業務を受託する以前から資料館や全国各地のA2療養所に併設されているA6会館と連携して様々な事業を実施したり、助成金を交付したりするなどしていたこと、A元年度中から資料館等の管理運営業務委託の入札説明会に参加し、Y1から技術提案書の提供を受けて、自らの技術提案書を作成していたこと、BY1とY2とは極めて密接な関係にあることからすると、元年9月24日の分会結成後、相当早い時期から、資料館の関係先に対する自らの情報収集や、Y1からの情報提供に基づき、分会の存在やその活動内容等を把握していたとみるのが相当である。

そして、@前記⑴イのとおり、Y2は、Y1の資料館の業務運営方針やノウハウ等を引き継ぐ意思をもって応札するとともに、基本的には、Y1の人員体制を引き継いだとみることができ、A前記⑵イのとおり、資料館運営への批判やハラスメント問題等を広く外部に訴える組合らの活動は、Y1にとって好ましくないものであり、特にA5との信頼関係の回復の妨げとなることをY1が強く警戒していたのであり、B前記⑶のとおり、Y2の採用試験における多面評価の実施方法や、採用試験総括表におけるX2及びX3の不採用理由が極めて不自然であり、Y2は、Y1から同人らの消極的な評価についての情報の提供を受けて、それも加味して採否の検討をしたことが疑われる。

さらに、Y1は、3月29日のX2による私物の展示品引取りについて警察官に説明する際、X3及びX4が組合員であることを伝えている。この時、Y1は、上記展示品がX2の私物であることを知っていたのであるから、X3及びX4は、上記引取りとは無関係であるとみるのが自然であり、それにもかかわらず、Y1が、上記引取りに、ほかの組合員らも関係するものとして警察官に説明したことは不自然である。そして、Y2は、Y1の指示に基づき、資料館の学芸員らに対し、X2だけではなく、X3及びX4も含めて防犯カメラの映像から行動の記録を付ける作業を行わせており、しかも、それらは、上記引取りの発生した3月29日以外の日も対象としている。これらのことは、Y1及びY2が、上記引取りだけではなく、組合員であるX2、X3及びX4の資料館内における活動状況を監視しようとしていたとみるのが相当であり、同人らの資料館内における組合活動に対して極めて強い警戒心を有していたことがうかがわれる。

これらのことを総合的に考慮すると、X2及びX3が分会を結成し、全国のA2療養所の入所者及びその自治会といった資料館の重要な関係先に対して、Y1の資料館等の運営を批判する組合活動を行っていることを、Y2が、Y1とほとんど一体となって警戒し、資料館の管理運営業務の受託に当たっての採用試験の不合格という形式を装い、同人らを資料館から排除したものであるといわざるを得ない。

  ⑸ したがって、Y2が、X2及びX3について、採用試験で不採用にすることで、2年4月1日からの資料館における雇入れを拒否したことは、従前の雇用関係のあるY1との関係において同人らが組合員であること及び同人らの組合活動を理由とした不利益取扱いに当たるというべきである。

 

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和2年5月8日

⑵ 公益委員会議の合議 令和4年3月15

⑶ 命令書交付日    令和4年5月9日