【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成24年に結成された、雇用形態に関係なく労働者が企業の枠を越えて個人で加入できる、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約350名であった。

   X2は、平成31年4月中旬に組合に加入した。

組合は、A(以下「A」という。)に加盟している。

⑵ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、警備業及び人材派遣業などを業とする株式会社であり、令和元年5月当時の従業員数は10,415名であった。会社はB1グループに属しており、グループ会社には申立外株式会社B2(以下「B2」という。)などがある。

 

2 事件の概要

令和元年5月9日、会社は、組合員であるX2らから同人らの勤務態度等について事情聴取を行い、X2は「決意表明」及び「自認書」と題する書面を作成した後、退職届に署名押印して会社に提出した。

5月30日以降、会社は断続的に文書を組合事務所等にそれぞれ郵送又は持参投函の方法により送付し、また、会社本社入口に掲示するなどした(以下、会社による文書の送付及び掲示行為を合わせて「本件文書送付行為等」という。)。

4月8日、団体交渉が行われ、席上において組合が、会社の同意を得ずに団体交渉の様子の一部を動画撮影し、同月11日、組合は、YouTube等に、本件団体交渉の出席者の映像をアップロードした(以下、組合による本件団体交渉における動画撮影行為及びアップロード行為を合わせて「本件組合行為」という。)。

2年4月30日、5月11日及び8月5日に組合は、会社に対し、団体交渉を申し入れたが、会社は、いずれも応じなかった。

本件は、@会社が、令和元年5月9日、X2に対して退職勧奨をした事実が認められるか、事実が認められる場合、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点1)、A会社が、令和2年4月30日、5月11日及び8月5日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(争点2)、B会社による本件文書送付行為等が、組合の運営に対する支配介入に当たるか(争点3)が争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

 ⑴ 組合が団体交渉を申し入れたときは、団体交渉の開催条件に固執することなく、誠実に応じること。

 ⑵ 組合の方針及び行動並びに同組合の組合員を非難する内容の文書を、会社の社屋に掲示する、又は、組合、組合の組合員、組合の組合員の就業先及び組合の上部団体に対して送付する等の方法によって、組合の運営に支配介入しないこと

 ⑶ 文書の交付

⑷ 前項の履行報告

⑸ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 会社が、令和元年5月9日、X2に対して退職勧奨をした事実が認められるか、事実が認められる場合、会社の行為は、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)について

 ア 会社が、令和元年5月9日、組合員X2に対して退職勧奨をした事実が認められるかについて

X2は、「決意表明」作成に際して、本件工事現場に遅刻した点について「今後の取組み」の記載欄に、休憩時間の遵守及び会社への報告の徹底を誓約していること等の事情から、X2は「決意表明」作成時点において会社を退職する意思を有していなかったことが認められる。

また、事情聴取を行ったY2においても、X2の「決意表明」の作成を受けて、「やってしまったことはしょうがないっちゃしょうがないから。取り返すように全力でやってください」と述べており、かかる発言からはX2の「決意表明」作成時点においてY2らがX2に対して退職勧奨を行う意思を有していなかったことが認められる。

X2が「決意表明」を作成した後に本件勤怠管理の瑕疵が発覚したことから、X2は、Y2らの指示を受けて「自認書」を作成しているところ、かかる「自認書」は、Y2らから、本件勤怠管理の瑕疵が給与の不正受給であるとともに、執行猶予の付かない「電子機器等使用詐欺罪」に該当する犯罪であることや警察に身柄を引き渡す可能性を示唆されたことを受けて、Y2らの指示のとおりに「自認書」を記載することにより警察沙汰を回避できると考え、作成されたものであると解するのが相当である。

加えて、X2が作成した「自認書」には、本件勤怠管理の瑕疵が犯罪に当たることを認識し、会社や会社の同僚に迷惑を掛けたことに対する謝罪の意思等が記載されているが、一方で、同人において会社を退職する旨の記載はないこと等の事情を勘案すると、X2は「自認書」の作成段階においても会社を退職する意思を有していなかったことが認められる。

一方、会社の属するB1グループにおいては、過去に給与の不正受給を行った従業員について、面談の上その場で「自認書」及び退職届を提出させた事例が存在したこと等の事情を勘案すると、遅くともX2による「決意表明」及び「自認書」の作成に続き、Y2がX2に対して「X2さんどうします、今後。」、「うちの会社は不正があったら、基本的には、現職の人間だったら、それはもう連れてくんですよ。そういうもんですよね。ただ、去る者追わずっていうのはありますよね。」と述べた時点においては、Y2らがX2に退職届を提出させる意思を固めていたことが認められ、上記各発言はX2に対する退職勧奨を意図したものであったと認められる。

よって、会社が、令和元年5月9日、X2に対して退職勧奨をした事実が認められる。

 イ 会社のX2に対する退職勧奨が、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるかについて

本件において、X2に加えて組合員であるX3及びX4も5月9日付けで退職の意思表示をしている事実が認められ、また、会社の重職にあるY2が本件ホテルを訪れ、本件事情聴取に臨んだ上で退職勧奨まで行っている点などの事情を併せて考慮すると、X2に対するこのような会社の対応は、X2が組合員であることを理由に行われたものであると疑われなくもない。

しかし、X2の「決意表明」作成後にY2が「やってしまったことは、しょうがないっちゃ、しょうがないから。取り返すように全力でやってください。」と発言をしており、同発言時点において会社がX2に対して退職を求める意思があったとは認められず、X2に対して退職を求める意思を持って退職勧奨を行ったのは、X2による本件勤怠管理の瑕疵が発覚し「自認書」の作成段階に移ってからのことであると認められること、X2らの本件工事現場における勤務態度が必ずしも良好なものであったとはいえないこと等の事情を勘案すれば、かかる事情をもっても、会社によるX2に対する退職勧奨が組合員であるが故に行われた不当労働行為に該当するとまでは認められない。

その他、組合は@X2に対する退職勧奨の時期とX2の組合加入及び労働条件に関する団体交渉の申入時期が近接していること、A会社が、X3に対して組合との団体交渉では和解する気はないが、組合を脱退すれば復職させるということを示唆する内容の文書を送付していること、B退職の意思を有していなかったX2に対して、会社が退職届をすぐに印刷する等周到に準備をした上で退職勧奨に及んでいることから、会社によるX2らに対する退職勧奨は組合嫌悪の意思に基づくものであり、不利益取扱い及び支配介入に当たる旨を主張するが、いずれの事実をもってしても本件事情聴取に際して、会社が組合嫌悪の意思を持ってX2に対して退職勧奨を行ったことを推認させるものであるとまでは認められない。

  ウ 以上のとおり、会社が元年5月9日、組合員X2に対して退職勧奨を行った事実が認められ、その態様は、極めて問題であるといわざるを得ないが、かかる退職勧奨は、同人が組合員であることを理由として行われたものであるとまでは認められないことから、組合員であるが故の不利益取扱いには当たらず、また、組合の運営に対する支配介入にも当たらない。

 

⑵ 会社が、令和2年4月30日、5月11日及び8月5日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)について

ア 組合が2年4月30日、5月11日及び8月5日付団体交渉の申入れに際して提示していた協議事項は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であることから義務的団交事項に当たり、正当な理由がない限り団体交渉を拒否することは不当労働行為に当たる。

イ 本件において、会社は、組合からの4月30日、5月11日及び8月5日付団体交渉の申入れに対し、本件組合行為が団体交渉に出席した会社側出席者の肖像権・プライバシー権を侵害し、ひいては会社の業務を妨害するものであったこと、会社は再三にわたり本件動画等の削除及び公開停止、本件組合行為に対する謝罪、同様の行為を二度と行わないことの誓約を要求したにもかかわらず、組合において誠実な回答や対応を行わなかったこと、本件組合行為及び会社の上記要求に対する組合の姿勢は不誠実なもので、本件団体交渉以降、会社と組合との間で団体交渉を行うことが可能な程度の信頼関係を構築することは困難な状態になっていたとして団体交渉に応じることを拒否しているため、かかる会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかにつき、判断する。

確かに、組合による本件組合行為には会社側出席者に対する権利侵害の点や、将来にわたる団体交渉の円滑な運営の観点等から、責められるべき点がないとはいえない。

しかし、@新型コロナウイルス感染症対策の観点から、従業員が着用するマスクの問題は、従業員の就業環境に影響を及ぼす事項であるといえ、本件組合行為の目的は必ずしも殊更に会社の社会的地位を低下させ、円滑な業務を妨害するものであったとまでは認められないこと、A組合と会社は、本件団体交渉以前にも議題は異なるものの複数回団体交渉を行っていたところ、組合は過去の団体交渉においては動画撮影を行っておらず、本件団体交渉において本件組合行為が行われたとしても、本件団体交渉以降の団体交渉において、再度本件組合行為と同様の行為が行われる蓋然性が高かったとまではいえないこと、B会社が組合に対して要求する本件組合行為に対する謝罪や本件動画及び画像の削除について団体交渉の席上で協議を行う上での支障は認められないこと、C本件動画はアップロードに際して一部モザイク処理がなされ、一定のプライバシー保護が図られており、本件団体交渉における会社側担当者が容易に特定できるものであるとまでは評価できないこと、DYouTubeにアップロードされた本件動画は組合による団体交渉申入れに先立つ4月19日には削除されていたこと、E本件動画を掲載したブログには「ご意見・抗議は→Y1(旧B3)」と記載し会社の住所、電話番号、ファクシミリ番号も記載されていたことは認められるものの、4月30日、5月11日及び8月5日付団体交渉申入れ時点においてかかる記載により会社の業務が妨害されたことについての疎明はないこと等の事情を勘案すると、本件組合行為及びこれに対する組合の対応に責められるべき点がないとはいえないとしても、会社において団体交渉を拒否する正当な理由とはならないとするのが相当である。

ウ 以上のとおり、令和2年4月30日、5月11日及び8月5日付けで組合が申し入れた団体交渉を拒否した会社の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。

⑶ 会社による本件文書送付行為等が、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)について

会社による本件文書送付行為等につき、送付文書については文書の送付先ごとに区分して、支配介入に当たるか否かを判断する。

ア 組合代理人事務所宛ての文書について

会社は、組合代理人に対する文書を合計5通送付しているところ、いずれの文書にも、「彼等はウソつきなので真実を報告していない可能性がある。」等の組合及び組合員を非難するとともに、組合及び組合員との離反を意図したものと認められる記載や代理人をやゆするものと認められる記載が含まれているところ、組合代理人事務所と組合事務所とは住所を異にし、組合代理人宛ての各文書が組合及び組合員に与える影響は飽くまでも間接的なものにとどまり、本件において組合代理人宛ての各文書の送付行為が組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるとまでは認められず、同文書の送付行為は支配介入に当たらない。

 イ 組合事務所及びA事務所宛ての文書について

   () 組合のみを送付対象とした文書について

     会社は、組合のみを送付対象とする文書を合計4通送付しているところ、このうち2通の文書については、不穏当な表現も認められるものの、文書全体としては、組合の要請行動や街宣活動に対する抗議を趣旨とするものであると認められ、かかる文書の送付行為は支配介入に当たらないが、その余の2通の文書には、組合関係者が匿名掲示板「5ちゃんねる」に「板(スレッド)を開いた」ものと断じて非難する旨の記載が散見され、かかる文書の送付行為は、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があると認められ、支配介入に当たる。

   () Aのみを送付対象とした文書について

     会社は、Aのみを送付対象とする文書を合計2通送付しているところ、いずれの文書についても、「貴会傘下のX1(執行委員長 〇〇〇〇氏)が不法行為等を繰り返していることについて、上部団体の会長である貴殿に責任を問う。」等のAを通じて組合活動を牽制することを意図する記載、「犯罪行為が常態化している集団と云わざるを得ない。」等の組合及び組合員を誹謗中傷し、また、組合の運営を非難する記載が散見される。

したがって、かかる文書の送付行為は、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があると認められ、支配介入に当たる。

   () 組合員を送付対象の含む文書について

会社は、組合と併せて組合員を送付対象とする文書を合計32通送付しているところ、このうち1通の文書については、今後会社において団体交渉に応じる意思が無いことを明言する記載などが存在するが、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるとまでは認められず、かかる文書の送付行為は支配介入に当たらないが、その余の31通の文書には、「まさに“漆黒のブラックユニオン”だな」、「どこかで話があればタネにして、ハイエナのように集まってくる。」等の記載が散見され、かかる文書の送付行為は、組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があると認められ、支配介入に当たる。

   ウ 組合員の就業先への文書について

会社は、組合員の就業先を送付対象とする文書を合計2通送付しているところ、いずれの文書についても、「X1のようなブラックユニオンは必要ないと考えている」等の、会社における、組合及び組合活動に対する嫌悪の意思が明確に表現されていると評価できる記載や就業先に対して組合員へ何らかの不利益処分や組合からの脱退の説得を行うことを要請するものであると評価できる記載が散見される。

かかる文書の送付行為は、就業先における組合員の社会的地位をいたずらに毀損する点において、組合事務所宛てに送付した文書に比して、より一層組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるものと認められ、支配介入に当たる。

   エ 組合員宅への文書について

会社は、7名の組合員の自宅へ、郵送又は持参投函により合計22通の文書を送付しているところ、いずれの文書にも、「お前らの出る幕は無い!」等の組合の組織、運営事項を嫌悪、誹謗中傷するものと認められる記載、「このゴミ野郎!」等の組合員個人を誹謗中傷するものと認められる記載、「X1に非難される謂れは何一つ無い! 組合に利用されているのだ!」等の組合員に対して組合からの脱退を強く促すものと認められる記載、組合員個人に対する民事・刑事を問わず法的措置を講ずる旨の記載、組合員個人宅を訪問することを示唆する記載が散見される。

また、住所を公開していない組合員の自宅に文書を郵送、持参投函する行為は、組合員をして組合活動を継続することへの極度の不安を抱かせるものであり、かかる文書の送付行為は、組合事務所宛ての送付文書に比して、より一層組合員の間に精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるものと認められ、いずれも支配介入に当たる。

   オ 掲示文書について

本件掲示文書は、「半グレ→反社」、「真面目に仕事しろ!」等の記載が散見されるところ、組合事務所宛ての送付文書とは異なり、会社本社入口のガラス扉に掲示されたものであることから、会社の従業員や不特定多数の通行人が閲覧可能となっており、従業員をして組合加入をためらわせるとともに、殊更に組合の社会的地位を毀損しかねないものであって、かかる文書の掲示行為は、組合員の精神的動揺を引き起こし、組合の組織や運営に影響を及ぼす危険があるものと認められ、支配介入に当たる。

   カ 結論

    会社が送付又は掲示した文書のうち、一部のものを除いた文書の送付行為等はそれぞれ組合に対する支配介入に当たる。

5 命令書交付の経過 

⑴申立年月日      令和2年4月20日(2不40

           令和3年4月2日(3不27

⑵公益委員会議の合議 令和4年6月21

⑶命令書交付日    令和4年8月24