【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、正規・非正規や業種職種を問わず一人でも加入できるいわゆる合同労組であり、組合員数は非公開である。

⑵ 被申立人Y(以下「会社」という。)は、昭和51年に設立された株式会社であり、肩書地に本社を置き、清涼飲料水のベンディングサービス等を主たる事業としている。令和3年6月3日時点における従業員数は、約220名である。

 

2 事件の概要

会社で、担当地域内の飲料自動販売機を順次回り、売上金の回収や商品の補充を行う業務(以下「ルート配送」という。)に従事するルートドライバーのX2及びX3は、平成31年1月に組合に加入した。

1月末ないし2月初旬頃、会社のC1営業所の所長が、労働組合を批判する内容が含まれた文書(以下「本件文書」という。)を同営業所の従業員に配布した。

4月26日及び令和元年5月9日、X2及びX3がルート配送の途中から終業時刻までの時限ストライキを行い(以下「本件ストライキ」という。)、その際、会社の車両である配送トラック(以下「会社車両」という。)を社外のコインパーキングに駐車した。このことにつき、5月24日、会社の総務部長が、X2に対して口頭注意を行った。

2年6月12日、X2及びX3は、会社を被告として提起した未払残業代請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)において、同人らの所属する営業所から会社が指定した駐車場までの移動時間も労働時間であると主張し請求を拡張した。これを受け8月14日、会社は17日以降の両名の駐車場所を営業所付帯の駐車場に変更する旨の業務指示書(以下「8月14日付業務指示書」という。)を交付した(以下「本件変更」という。)。

組合はこれに抗議し、10月8日、団体交渉が行われた(以下「本件団体交渉」という。)が、会社は、組合に対し、駐車場所は会社の裁量で決めるべきものであり労働条件ではないとの主張を繰り返し、両名は会社が決めたことに従うように、と述べた。

本件は、@会社が従業員に対し、本件文書を配布・閲覧させたか否か、配布・閲覧させた場合、当該行為は組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)、A会社部長が、X2に対し、本件ストライキの際に会社車両を社外のコインパーキングに駐車したことについて注意したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)、B本件変更は、組合活動を理由とする不利益な取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)、C本件団体交渉における会社の対応は団体交渉拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点4)がそれぞれ争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <一部救済命令>

⑴ 従業員に対して労働組合を批判する内容が含まれた文書を配布することにより、組合の運営に支配介入しないこと。

⑵ 組合がX2及びX3の駐車場所変更を議題とする団体交渉を申し入れたときは、誠実に応ずること。

⑶ 文書の交付及び掲示

⑷ 前項の履行報告

⑸ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 文書の配布等について

ア 平成31年1月末ないし2月初旬頃に、会社のC1営業所の所長が本件文書を同営業所の従業員に手渡しで配布したことが認められる。

イ 本件文書は、ユニオン一般について書かれたものであり、組合を特定した記載があるわけではないが、本件文書の表題及び内容は、ユニオン一般に対する認識や見解としては、ユニオンを悪く評価する偏ったものであり、このような労働組合に対する偏った認識や見解が記載された本件文書が従業員に配布されれば、会社内に労働組合に対する嫌悪感が醸成され、従業員の労働組合に対するイメージを悪化させる効果をもたらすことは明らかである。

ウ 本件文書が配布された31年1月末ないし2月初旬頃は、組合が、会社に対して団体交渉を申し入れて、組合と会社との間で初めての団体交渉が行われた時期であり、また、組合が会社の各営業所を回り、従業員にチラシを配布して組合加入を呼び掛けて、組織拡大を企図していた時期でもある。

こうした時期に、労働組合に対する偏った認識や見解が記載された本件文書が配布されれば、配布を受けた従業員が、労働組合一般に対するイメージを悪化させ、ひいては、組合に対しても悪印象を抱くのは自然なことであり、従業員の組合加入を抑制する効果をもたらすものというべきである。

エ 以上の本件文書の内容と配布の時期を合わせ考慮すると、営業所長による本件文書の配布は、同営業所の従業員に対し、組合に対するイメージを悪化させ、組織拡大を企図する組合の活動を抑制するものであったといわざるを得ない。

オ そして、本件文書を配布したC1営業所長は、同営業所を統括する地位にあり、所長会議に出席するなど、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある。また、本件文書の配布が職務に全く関係のない営業所長の個人的行為として行われたと認めるに足りる事実の疎明はなく、むしろ会社は、組合対応を議題として所長会議を開催し、その席上で、取扱いについて特段の注意喚起をしないまま本件文書を営業所長間で共有することを了承しているのである。

そうすると、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある営業所長による本件文書の配布は、会社の意を体して行われたものであり、使用者の行為であるとみるのが相当である。

カ 以上のとおり、営業所長による本件文書の配布は、使用者の行為ということができ、従業員の組合に対するイメージを悪化させて、当時、組織拡大を企図していた組合の活動を抑制する効果を持つものであるから、組合の運営に対する支配介入に当たる。

 

⑵ X2に対する口頭注意について

ア 会社は従前から、ルートドライバーに対して所定の駐車場所に会社車両を戻してから退社するという運用を、業務上の遵守事項としており、会社の就業規則においても、商品、集金した金銭及び会社車両の管理について規定している。一方で、本件ストライキは、当初から就業時間の途中から終業時刻までの実施を予定しており、当日中に組合員が業務に復帰することは予定されていなかった。

そうすると、会社が、両名に対し、ストライキに入る前の就業時間内において、所定の駐車場所に会社車両を戻し、集金した金銭を納金することを求めることには相応の根拠があるというべきである。

したがって、会社のX2に対する注意は、ストライキ及びそれに付随する組合の行動を対象としたものではなく、ストライキに入る前の就業時間内において、会社車両や集金した金銭を戻さずに業務を終了したという、業務上の遵守事項ないし就業規則上の義務に違反する従業員の行為に対しての注意であるとみるのが相当である。

また、会社のX2に対する注意は、口頭での注意にとどまっており、行為に比して相当性を欠くような重い懲戒処分に至っているわけではないことからも、会社財産の適正な管理を目的とする労務管理上必要な範囲内の行為であると認められる。

イ 組合は、ストライキ開始直後に会社車両の駐車場所を会社に伝えて、会社が車両を適切に管理できるよう協力した旨主張する。

しかし、組合が、ストライキ開始直後に会社車両の駐車場所を会社に伝えて、会社が車両を適切に管理できるよう協力したとしても、会社は、駐車場料金の支払や会社車両の回収など、ストライキによる労務の不提供の範囲にとどまらない負担を強いられたのであるから、会社がX2に対し、口頭注意を行う理由がなかったということはできない。

ウ 以上のとおり、会社がX2に対して行った注意は、ストライキに入る前の就業時間内における業務上の遵守事項ないし就業規則上の義務に違反する行為に対する注意であって、会社財産の適正な管理を目的とした労務管理上必要なものであり、また、その手段も口頭注意にとどまる相当なものである。

よって、X2に対する口頭注意は、組合の運営に対する支配介入には当たらない。

 

⑶ X2及びX3の駐車場所の変更について

ア 本件変更によって、X3は往復で20分ほど、X2は往復で5分ほど通勤時間が増えており、また、変更前の駐車場の自動販売機を担当しているX2は、本件変更によって出勤後に所属営業所付帯の駐車場から変更前の駐車場に移動する必要が生じ、業務時間が増加している。したがって、両名にとって通勤上の不利益があり、かつX2にとっては業務上も不利益があったことが認められるため、不利益に当たらないとする会社の主張は採用することができない。

イ 会社は、別件訴訟において、両名が退勤時の所属営業所から変更前の駐車場までの移動時間は労働時間に該当すると主張して未払残業代の請求を拡張したことから、将来的な未払残業代の支払リスク(危険)を回避するために本件変更を実施したものであり、両名が組合員であることや組合活動との因果関係はないとも主張する。

() この点、変更前の駐車場の自動販売機を担当しているX2は、本件変更前は、出勤後、移動を要さずに変更前の駐車場の自動販売機の補充ができていたが、本件変更後は、同駐車場への移動が必要となり、業務時間が増加している。そうすると、特にX2については、本件変更が必ずしも労働時間の減少につながっているかどうかは明らかでなく、将来的な未払残業代の支払リスク(危険)の回避という訴訟対応上の観点を本件変更の理由とする会社の主張には不自然さが残る。

() 会社は、組合との労使関係が始まって以降、労働組合に対する偏った認識や見解が記載された本件文書を営業所長間で共有し、また、一部の従業員に対して本件文書を配布する支配介入行為を行っている。両名が所属する営業所においても、役職者が、X3に対し、組合のメンバーについて質問をし、「ユニオンは解決金を取る。」などの発言を行うなどしていた。

以上の経過からすると、組合と会社との労使関係は当初から対立的な状況にあり、その対立状況が継続していたとみるべきである。

() 別件訴訟の提起及び同訴訟における労働時間該当性の主張ないし未払残業代の請求の拡張は、両名を含む組合員らが、組合の方針に基づき、組合活動の一環として行ったものであることは明らかであり、会社も、そのことを十分に認識していたものと認められる。

それにもかかわらず、会社は、8月14日付業務指示書に記載のとおり、別件訴訟における両名の移動時間の労働時間該当性の主張ないし請求の拡張を理由として、変更前の駐車場を使用している従業員が両名のほかに8名ほどいた中で組合員である両名についてのみ本件変更を行い、両名が使用していた駐車場所を他の従業員の駐車場所として指定しているのである。

() これらの経緯からすると、本件変更と組合活動との間に因果関係がないとする会社の主張は採用することができない。

ウ 両名が別件訴訟において移動時間の労働時間該当性を主張し、請求の拡張を行うことは、訴訟上の正当な権利行使でもある。それにもかかわらず、会社は、別件訴訟の弁論準備期日の席上で、両名の訴訟代理人に対し、請求を拡張するのであれば両名の駐車場所を変更前の駐車場から所属営業所付帯の駐車場に変更する旨を予告した上で、請求の拡張についてはこの点を踏まえて両名と十分協議してもらいたいと伝えている。

この経緯に照らしても、会社の意図は、将来的な未払残業代の支払リスク(危険)を回避するという訴訟対応上の観点にとどまらず、両名に対して本件変更を予告することにより、組合活動の一環としての別件訴訟における両名の請求の拡張を断念させ、組合活動の抑制を図ることにあったといわざるを得ない。

エ 以上のとおり、会社は、別件訴訟が組合活動の一環として提起されたものと認識した上で、両名に対して本件変更を予告することにより、別件訴訟における移動時間の労働時間該当性の主張を断念させようとしたところ、両名がそれを拒否して請求の拡張を行ったことから、これに対する対抗措置として、訴訟対応上の観点からも不自然さが残る本件変更をあえて行ったものであるといえる。

よって、本件変更は、組合活動を理由とする不利益な取扱いに当たるとともに、組合員に不利益を与えて組合活動を委縮させる支配介入にも該当する。

 

⑷ 駐車場所の変更を議題とする団体交渉における会社の対応ついて

ア 駐車場所の指定は、X2及びX3の通勤時間に影響するだけでなく、X2については、それまで出勤後直ちに担当する変更前の駐車場の自動販売機の補充ができたところ、本件変更後は同駐車場への移動が必要となるなど、業務時間にも影響するものであるから、両名の労働条件として義務的団交事項に該当するものであることは明らかである。

イ 本件団体交渉において、会社は、本件変更が義務的団交事項に該当しないことを前提として、8月14日付業務指示書の内容は説明したものの、指示の撤回を求める組合の質問に対して答えようとせず、会社が裁量で決めたことなので交渉の余地はないという態度に終始した。このような会社の対応は、組合との合意達成の可能性を模索する意思のないことを終始明確にした交渉態度といわざるを得ず、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たる。

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日            令和元年7月5日

⑵ 公益委員会議の合議     令和4年4月5日

⑶ 命令書交付日           令和4年5月26