【別紙】

 

1 当事者の概要

 ⑴ 申立人全労連・全国一般労働組合東京地方本部(以下「東京地本」という。)は、単位労働組合によって構成される労働組合の連合体であり、本件申立時の組合員数は約4,500名である。

⑵ 申立人全労連・全国一般労働組合東京地方本部一般合同労働組合(以下「一般合同労組」という。)は、東京地本に組織加盟する個人加盟組織の労働組合であり、本件申立時の組合員数は約1,400名である。

⑶ 申立外全労連・全国一般労働組合東京地方本部一般合同労働組合学研教室支部(以下「支部」といい、東京地本、一般合同労組及び支部を併せて「組合ら」、東京地本及び一般合同労組を併せて「申立人組合ら」ということがある。)は、一般合同労組に個人加盟する一部の契約者らが結成した労働組合であり、本件申立時の組合員数は約200名である。

⑷ 被申立人株式会社学研エデュケーショナル(以下「会社」という。)は、肩書地に本店を置き、学習教材の研究開発、製作、指導法の研究や学研教室の運営及びフランチャイズ事業等を主たる業とする株式会社であり、令和4年2月時点の従業員数は約600名である。

2 事件の概要

 会社と学研教室契約書(以下「本件契約書」という。)に基づきフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結した者(以下「契約者」という。)は、それぞれ学研教室を開室するとともに、会員の学習指導や教室運営等の業務を行い、会員から支払を受けた入会金及び月謝(以下「月謝等」ということがある。)の一定割合をロイヤリティとして会社に支払っていた。

令和2年8月20日、会社は、学研教室におけるICT改革及びプロモーション改革(以下「二大改革」という。)を発表し、二大改革の実施に同意した契約者は、以後会社に対し、ロイヤリティに加えて、ICT利用料及びプロモーション費用を毎月支払うこととなった。

3年1月6日、申立人組合らは、会社に対して、支部の結成及び上部団体への組織加盟等を通知するとともに、ロイヤリティの引下げ等を協議事項として団体交渉を申し入れた。

これに対し、会社は、組合らとの間で団体交渉に応じる義務について疑問を呈しつつ、協議事項について内容を確認する機会を設ける旨の回答を行った。

1月15日、一般合同労組は当委員会にあっせん申請(令和3年都委争第6号)を行い、6月4日まで4回の期日を重ねて協議を行ったところ、団体交渉の開催は実現しなかったものの、一定の事項について合意に至り、合意内容について「あっせん員確認メモ」が作成された。

3月18日、一部の支部組合員らは「学研教室を良くし、指導者の声を届ける会(以下「指導者の会」という。)」を結成し、「学研エデュケーショナルエリア及び事務局各位」宛てに、指導者の会が会社公認の組織となった旨の記載が含まれた文書を送付した。

6月29日及び8月18日、組合らが、会社に対し、ロイヤリティの引き下げ等を協議事項として団体交渉を申し入れたところ、会社は、団体交渉には応じられないが、契約者の意見を聞く機会を設けることはやぶさかではない旨の回答をした。

7月12日、会社は、全契約者に対し、指導者の会が「当社公認の団体ではなく、契約者の皆さまの代表でもございません。」という記載が含まれた、「お知らせ」と題する文書(以下「7月12日付文書」という。)を交付した。

本件は、@契約者は、会社との関係で労働組合法上の労働者に当たるか、A契約者が労働組合法上の労働者に当たる場合、㋐申立人組合らが3年1月6日、6月29日及び8月18日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び申立人組合らの運営に対する支配介入に当たるか、㋑会社が、7月12日付文書を全契約者に対して交付したことは、申立人組合らの運営に対する支配介入に当たるかが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <棄却>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ 契約者は、会社との関係で労働組合法上の労働者に当たるか

ア 労働者性の判断枠組みについて

() 会社は、@本件契約はフランチャイズ契約であるところ、契約者は、フランチャイザーである会社から学研教室の名称を使用する権利を付与されるとともに、学習塾事業の経営について統一的な方法で支援を受ける一方で、これらの支援等の対価として会社にロイヤリティを支払うフランチャイジーにすぎないこと、A契約者は、会員に対して学習指導等の労務を供給する一方で会社に対して労務を提供するものではないことから、労働組合法上の労働者性の判断の前提となる労務供給者にはなり得ないなどと主張する。

() 一般的に、フランチャイズ・システムは、本部が加盟者に対して、特定の商標、商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟者の物品販売、サービス提供その他の事業・経営について、統一的な方法で統制、指導、援助を行い、これらの対価として加盟者が本部に金銭を支払う事業形態とされており、フランチャイズ契約は、いわゆるライセンス契約としての側面があるとともに、フランチャイジーが会社とは別個の事業者であることが想定されていることからすると、フランチャイジーがフランチャイザーに対して労務を供給することが契約上当然に予定されているとはいえない。

しかし、労働組合法は、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」を目的の一つとしており(第1条)、この条文の趣旨及び性格からすれば、労働組合法が適用される「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(第3条)に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある。

() 本件契約書及び本件細則によれば、本件契約の目的が会社と契約者とが、相互の協力のもとに所期の教育目的を達成し実現することである旨の趣旨が明記されており、契約者の業務遂行に会社が一定の関与を行うことが想定されている。

加えて、実態として、会社は、@学研教室事業についてテレビコマーシャル等の媒体を利用した大規模な広告・宣伝活動や各種キャンペーンの立案・実施を行い、契約者の新規会員募集活動をサポートしていること、A会社が作成した学研教室独自の教材や、会員の学習指導・教室運営に関する詳細な各種マニュアル等を契約者に配布し、契約者も強制ではないとはいえおおむね各種マニュアル等に沿って会員の学習指導や教室運営を行っていること、B事務局を通じて学習指導や教室運営に関する相談対応や定期的な報告文書等を通じて各契約者の会員数や入退会状況等の管理を行っていること、C契約者に対して出席を必須とする定期・不定期の研修を実施し、契約者の学習指導や教室経営の能力の維持向上及びその実証を図る等の施策を行っていることが認められる。

以上のことから、本件契約の目的に加えて、実態としても、会社は、本件契約の契約者が円滑かつ安定的に本件契約に基づく各種業務を遂行できるよう様々な形で関与し、契約者に対して労務供給の方法を働き掛ける一方で、契約者も会社の関与の下に各種業務を遂行しているものと認められる。

() 本件契約における、契約者による労務供給の相手方の点について、契約者の業務のうち、会員の学習指導の点に着目すれば、形式的には、契約者は、会社ではなく会員に対して労務を供給しているとみることができないわけではない。

しかし、会員の学習指導の場面のみをもって本件契約における労務供給の相手方を一義的に決定することは妥当ではなく、以下のとおり、契約者が会員の学習指導を行うことをもって、必ずしも会社に対する労務供給の側面が否定されるものでもない。

すなわち、会社が、契約者が円滑かつ安定的に本件契約に基づく各種業務を遂行できるよう様々な形で関与し、契約者に対して労務供給の方法を働き掛ける一方で、契約者も会社の上記関与の下に各種業務を遂行していることは上記()で判断したとおりであり、加えて、@本件契約上、契約者の業務には、会社の実施する各種研修会への出席が含まれるところ、少なくとも各種研修会を実施するのは会社であり、本件契約上、契約者は各種研修会に出席する義務を負っていることから、同業務に関する契約者の労務供給の相手方は会社であると認められること、A研修会実施の目的には学習指導に使用する教材の内容の研鑽が含まれ、実際に、研修会では、会社作成の各種マニュアル等が使用されていること、B強制ではないとはいえ、実態として、契約者はおおむね各種マニュアル等に沿った学習指導を行っていること、C会社が契約者から受領するロイヤリティ収入は、会社の学研教室事業における収入の60パーセント程度の割合を占めていること等の事情を併せ考慮すると、会社と契約者との関係を実質的にみた場合、会社は、契約者による労務供給により一定の利益を帰属させている一方で、契約者は会社の学研教室事業遂行のために労務を供給していると認められる余地がある。

() 会社は、契約者が会員から支払を受ける月謝と、契約者が会社に支払うロイヤリティとの間に関連性が認められないとして、契約者における労務供給者性を否定する趣旨の主張をするようである。

確かに、外形上、会員が契約者に支払う月謝と契約者が会社に支払うロイヤリティとはそれぞれ支払手続を異にしていることから、両者の関連性が認められないようにもみえる。

ここで、本件契約における、契約者、会社及び会員間の金銭の流れに着目すると、本件契約において、@契約者は、本件契約に基づく業務として会員から月謝等を徴収すること、A契約者は、会員の入会金及び入会後2か月間の月謝を除き、原則として月謝の徴収手続を会社に委託し、会社はさらに第三者に対して同手続を再委託すること、B会社は、上記の委託及び再委託に基づき、月謝を受領し、月1回の頻度でまとめて契約者の金融機関口座に送金すること、C会社は、当該契約者がロイヤリティの支払を遅滞している場合には受領した月謝から未納のロイヤリティ相当額を控除することが認められる。

以上の金銭の流れに着目すると、本件契約上、月謝については、入会後2か月間を除き、原則として契約者が会員から直接受領することは想定されておらず、また、上記委託及び再委託を経て会社が受領した月謝の総額が確定した時点で、契約者が会社に対して支払うべき当月のロイヤリティの金額も確定するのであるから、その実態において、月謝等とロイヤリティとが無関係であるとまでは認められない一方で、月謝等が労務供給の対価であるとみる余地がないわけではなく、会員が契約者に支払う月謝等と契約者が会社に支払うロイヤリティとがそれぞれ支払手続を異にしていることをもって、契約者における労務供給者性を否定する事情になるとはいえないことから、この点に関する会社の主張は採用することができない。

() 以上のとおり、本件契約がフランチャイズ契約であるとしても、実態としては労務供給契約の側面を有するとみる余地もあることから、契約者が労働組合法上の労働者に当たるか否かについては、労働組合法の趣旨及び性格に照らし、@事業組織への組入れ、A契約内容の一方的・定型的決定、B報酬の労務対価性、C業務の依頼に応ずべき関係、D広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、E顕著な事業者性の有無や事業者性の程度等の諸事情を総合的に考慮して判断することとし、以下において、上記の判断要素ごとに検討する。

イ 事業組織への組入れについて

() 事業組織への組入れ状況

本件契約はフランチャイズ契約であり、同契約の性質上、フランチャイジーである契約者が会員から月謝等の支払を受けなければ、会社は、これらにロイヤリティ料率を乗じたロイヤリティ収入を得ることができないのであるから、会社の学研教室事業の遂行において契約者の存在が重要な地位を占めることは否定できない。

そして、@会社が契約者から受領するロイヤリティ収入は、会社の学研教室事業における収入の60パーセント程度の割合を占めること、A国内における学研教室の形態のうち直営教室の割合は約2パーセントにとどまる一方で、その余の学研教室は全てフランチャイズ型教室であること等の事情を勘案すると、会社の主要事業の一つである学研教室事業は、実質的にフランチャイズ型教室の契約者が主体的に担っていると認められる。

また、実態として、会社は、契約者が円滑かつ安定的に本件契約に基づく各種業務を遂行できるよう様々な形で関与し、契約者に対して労務供給の方法について働き掛ける一方で、契約者も会社の関与の下に各種業務を遂行していることは前記ア()で判断したとおりであり、加えて、@個人の契約者はおおむね自身が運営する教室において会員の学習指導を行っていること、A本件契約締結に際して契約者になろうとする者には年齢や特定の資格保有の有無等は条件とされていないこと、B本件契約締結に先立ち実施される筆記試験の内容も小学校6年生から中学校1年生相当のものであり、面接を含めた合格率は80パーセントないし90パーセントであること、C本件契約は、契約期間を締結日より1年間とするものの、期間満了の3か月前までに更新拒絶の申入れがない場合には新たな契約書を締結することなく自動更新される内容になっていること、D会社は、契約締結後10年経過以降5年単位で永年表彰制度を設けるなど、本件契約について更新を続けて一定の長期間にわたり業務を行うことを奨励する仕組みになっており、実態としても、Z1、Z2及びZ3は本件契約の更新を重ねて相当程度長期間にわたり、本件契約に基づく業務を行っていることなどの事情を勘案すると、実態として契約者は会社の事業組織に組み入れられているとみるのが相当である。

() 第三者に対する表示

契約者は、原則として会社から提供を受ける学研教室の名称や商標が記載された看板や印刷物等を適宜使用し、各教室において会員の学習指導を行っている。

また、会社の「体験・入会申込書」や「学研教室のきまり」には、会員との関係において、入会金及び入会後2か月間の月謝の徴収や入退会手続の窓口等の教室運営業務を行うことが明記され、実際に契約者が同業務を行っている。

以上のことから、契約者は、会員との関係においても会員外の第三者との関係においても、その表示につき、学研教室事業に従事する会社の組織の一部と思わせる取扱いがなされているものと評価することができる。

() 専属性の程度

本件契約上、契約者は会社の事前の承諾なしに、学研教室以外の学習塾を自ら経営し、又は、第三者による学研教室以外の学習塾の経営に関与してはならないとされており、契約者は、学研教室以外に学習塾業務又は学習塾に類する業務を行うことはできず、事実上、学研教室事業に専属的に従事しているものと認められる。

() 小括

以上のとおり、@事業組織への組入れ状況、A第三者に対する表示、B専属性の程度等の事情を総合すると、契約者は、会社の学研教室事業の遂行に質的・量的な面で不可欠ないし枢要な存在として、会社組織に組み入れられていると認めることができる。

なお、それが労働力としての組入れであるとまで評価できるか否かは、広い意味での指揮監督下の労務提供の有無及び程度、契約者の事業者性の有無及び程度を踏まえて総合的に判断することとする。

ウ 契約内容の一方的・定型的決定について

() 本件契約は、契約締結に際して、会社があらかじめ作成した統一的な契約書が用いられ、会社と契約者が個別に交渉して契約の内容を決定することや、会社が行う本件契約書や本件細則の改定に契約者が関与することは予定されておらず、実際に契約者との交渉に応じて契約内容の修正が行われた事例はない。

() 本件契約は、契約期間を締結日より1年間とするものの、期間満了の3か月前までに更新拒絶の申入れがない場合には新たな契約書を締結することなく自動更新される内容になっているところ、学研教室への入会金や各学習コースの月謝の金額についても会社が一方的に決定しており、契約者の関与は予定されていない。

() 以上のことから、本件契約の締結及び更新に際して、会社がその内容を一方的、定型的に決定していると認められる。

エ 報酬の労務対価性について

() 本件契約の内容及び本件契約における金銭の流れをみると、契約者は、学研教室を開室し運営することにより、会員からの月謝等を収入として得るとともに、会社にロイヤリティを支払っており、月謝等からロイヤリティや経費等を差し引いた金額を、本件における契約者の報酬と捉えることができる。

そして、月謝等やロイヤリティの額は、会社が決定している。

() 契約者の業務量と収入との関係に着目し、@例えば、小学生の「算国」コースの月謝は8,800円(税込み)、小学生の「算国英」コースの月謝は13,200円(税込み)となっていること、A会社は、契約者の募集要項において、会員数と収入金額との比例関係を前提とした収入の目安を提示していたこと、BZ1、Z2及びZ3の会員数、稼働時間及び収入状況によれば、実態として、会員数、稼働時間及び収入との間におおよその比例関係が認められること、C会社は、毎月20日前後に「集金月謝振込明細書」記載の月謝の総額を契約者に対して支払っており、契約者は毎月1回一定期日払が保障されていると評価することもできること等の事情を併せ考慮すると、契約者の報酬について労務の対価としての性格が認められるようにもみえる。

() しかし、本件において具体的な稼働実態が明らかとなった組合員Z1、Z2及びZ3については、同人らの労務提供の量と収入金額との間におおよその比例関係を認めることができるとしても、本件審査手続において、同人ら以外の組合員の稼働実態は明らかになっていない。

本件契約上、契約者自身が直接会員の学習指導を行う必要はなく、契約者がスタッフを雇用して学習指導を担当させることも可能であり、組合員Z1、Z2及びZ3についてみると、Z1は合計14名、Z2は5名程度、Z3は5名のスタッフを雇用し、それぞれ相応の時間数に相当する人件費を支払っており、特にZ1は学習指導についても一部スタッフに委ねていること、一契約者当たりの教室数や会員数からは、相当数の契約者がスタッフを雇用しているものと推認できることからすれば、月謝等の収入は、契約者本人の労務提供のみによるものではなく、スタッフを含めた集団による労務提供の対価とみることもできる。

月謝等の収入から経費を控除した収益の点に着目すると、契約者の収益の金額の多寡は、人件費や教室会場の賃料等の経費の金額等によって相当程度左右されるものであるといえる。

そうすると、契約者が受領する報酬の性質は、契約者自身の労務提供の量に応じたものであるとみる余地があることは否定できないとしても、一方で、スタッフの雇用や教室会場の選定などの点を考慮すると、学研教室を運営する事業者としての事業報酬とみる余地も十分にあり得るものである。

() 以上のことから、契約者の報酬について、契約者自身の労務の提供の対価又はこれに類する収入としての性格を有するか否かについては、後記の契約者の事業者性の有無及び程度を踏まえて判断するのが相当である。

オ 業務の依頼に応ずべき関係について

本件契約上、契約者は、会社の認可に基づき自宅の一部を提供し、若しくは、他の適切な場所を確保して、学研教室を開室することとされ、実際に全ての契約者が一つ以上の教室を開室している。契約者の中には会員数が0名である者(学習指導を行っていない者)が約3パーセント存在しているが、その理由は明らかでなく、契約者のほとんど(約97パーセント)が会員の学習指導を行っている状況にある。

また、会社は、教室運営において、契約者に対し、@随時会員募集を行う責任を課し、A保護者面談等の保護者対応を推奨している。契約者は、これらを行わなかったとしても、会社から特段の制裁を課されることはないが、実態として、おおむね各種マニュアル等に沿って教室運営を行っている。

さらに、本件契約上、契約者は、定期・不定期を問わず原則として研修会への出席が義務付けられており、各種研修会への出席について契約者に諾否の自由は認められていない。

以上のことから、当事者の認識や契約の実際の運用においては、契約者は、基本的に会社による業務の依頼に応ずべき関係にあると認めることができる。

カ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について

() 広い意味での指揮監督下の労務提供

a 会社は、募集要項や各種マニュアル等において、開室日における学習時間の目安や、開室前後の準備や片付けに要する時間の提示を行っているが、本件契約上、契約者は、開室日における学習指導の結果等について、日報や週報等による会社への報告を行う必要はなく、会社が契約者の日常的な稼働実態について管理を実施していたとまでは認めることができない。

一方で、会社は、一部の事務局において「教室運営確認書」を通じて、契約者の現在の開室曜日及び開室時間の把握に努めていることが認められるところではあるが、かかる運用は、飽くまで一部の事務局独自の施策であり、全契約者に対して義務付けているものではなく、その他、会社が「教室運営確認書」やこれに類する形式で契約者の稼働実態を把握していることの疎明はない。

以上のことから、会社が契約者の日常的な稼働実態について管理を実施していたとまでは認めることができない。

b 会社は、各種マニュアル等により、学習指導や教室運営の手順を詳細に示すとともに、各種マニュアル等を用いて各種研修会を実施しており、実態として、契約者もおおむね各種マニュアル等に沿って会員の学習指導や教室運営を行っているが、一方で、会社は、契約者が各種マニュアル等に沿って学習指導や教室運営を行っているかを確認しておらず、実際に契約者が各種マニュアル等に沿って学習指導や教室運営を行っていなかったとしても、会社は当該契約者に対して本件契約上の制裁を課すことはない。

そうすると、契約者がおおむね、各種マニュアル等に沿って会員の学習指導や教室運営を行っているとしても、それは、本件契約上又は事実上契約者が会社の指揮監督に従うことを余儀なくされているというものではなく、契約者自身が自由な判断と決定により行っているものと解することが相当である。

c 以上のことから、契約者は、広い意味で会社の指揮監督下において労務提供を行っているとまでは認めることができない。

() 一定の時間的場所的拘束

a 契約者は、原則として週2回の開室日を設ける必要があるが、認可を受ける学習コースや開室時間や開室曜日については、契約者が自由に定めることができることに加えて、本件契約上、契約者自身は直接会員の学習指導を行う必要はなく、スタッフを雇用し、シフトを組んで各種業務を担当させることも可能であることから、契約者は必ずしも時間的に拘束を受けているわけではないといえる。

この点、実態として、個人の契約者はスタッフの雇用の有無を問わずおおむね自ら学習指導を行っているとしても、それは、本件契約上又は事実上契約者自身が労働力を提供することを余儀なくされているというものではなく、契約者自身が自由な判断と決定により行っているものと解することが相当であり、@会員の多くは小学生であり、事実上開室時間帯に一定の制限があると認められること、A会社は、1日当たりの会員の学習指導時間、開室日のスケジュール例、開室前後の準備や片付けを含む標準的な業務時間を提示していること等の事情を勘案してもなお、契約者が時間的拘束を受けているとまでは認めることができない。

b 契約者は、開室場所につき、会社から紹介を受けることもあるが、原則として自らこれを決定するものであり、開室時点において契約者は必ずしも場所的に拘束を受けているわけではない。

しかし、開室後においては、@契約者は、それぞれの教室において会員の学習指導を行い、教室以外において学習指導を行うことは想定されていないと考えられること、A契約者が、認可地区以外への教室展開を行う場合には事務局の了解と定められた手続が必要であること等の事情を併せ考慮すると、契約者は教室開室後においては、一定の場所的拘束を受けているといえる。

() 以上のことから、契約者は、業務の遂行に当たり、一定の場所的拘束を受けているものの、広い意味での指揮監督下において労務提供を行っていることや時間的拘束を受けていることまでは認めることができない。

キ 顕著な事業者性の有無や事業者性の程度について

() 自己の才覚で利得する機会について

a @本件契約上、契約者の収入は原則として月謝等に限られるところ、契約者において、契約者の収入の変動に直結する月謝等の金額を個別に変更することはできず、また、月謝等及び冷暖房費等本件細則で定められたもの以外の費用を徴収することも原則として認められていないこと、A契約者が会員募集のために独自に課外活動の企画を考案した場合であったとしても、実施に当たっては会社の承諾が必要とされており、原則として有償による活動の実施は許可されないこと、B本件契約上、契約者の行う広告・宣伝等の活動は、SNSの利用も含めて、会社の指導や関与の下に、フランチャイズ契約の統一性の観点から補助的な範囲内で認められているにすぎないこと、C新入会員の入会のきっかけは多くは兄弟姉妹や友人の紹介、インターネットでの検索によるものであるところ、各教室の広告・宣伝方法についても、会社が深く関与していること、D会員の多くが小学生であり、原則として会員の自宅の最寄り又は近隣の教室を選択することが容易に想定できること、E本件契約上、契約者は会社の指定する責任地域において会員募集活動をする旨規定されていること等の事情を総合すると、契約者の才覚において会員を増加させるとともに利得の機会を増加させることについて一定の困難が伴うものであることは否定できない。

b 一方で、@本件契約上、個人のみならず、一般に個人に比して事業者性が高いものと考えられる法人も契約者になることが可能であり、その運営形態の別に係る会社からの指定はないところ、実際にフランチャイズ型の教室のうち、約9パーセントについては法人が契約者となり教室運営を行っており、契約者の中には最大で12又は13教室を運営する法人も存在すること(なお、組合員に法人又は法人の代表者等が含まれているか否かについての疎明はない。)、A本件契約上、契約者が運営できる教室数や1教室当たりの会員数についての制限はなく、契約者において自由な規模の教室経営を行うことが可能であること、B一契約者当たりの会員数でみると、最少0名から最大500名超まで、一契約者当たりの教室数でみると、最少1教室から最大12又は13教室まで広く分布していることが認められ、また、CZ1及びZ2の収入状況によれば、学研教室に関する同人らの年間の総収入額は約1,700万円前後になると推認することができる。

この点、Z1及びZ2の上記年間の総収入額については、ロイヤリティ等の経費、各種公租公課等の支払が予定されていることやZ1及びZ2の会員数は全契約者における上位1ないし2パーセント内の水準に相当するものであることからすると、契約者における顕著な事業者性の判断に際して、上記年間の総収入額を額面どおりに評価することや同人らの収入状況を契約者の収入状況として一般化することが相当ではないとしても、一方で、新入会員における入会経路の多くは、兄弟姉妹及び友人の紹介、インターネットの検索によるものであるところ、Z1及びZ2は開室日以外の会員及び会員の保護者対応や独自のサービスといった自己の才覚により、利用者からの支持を集め、高い水準で会員数を維持し、収入を得ているとみる余地があるものと認められる。

 c 以上のことから、契約者が自己の才覚で利得の機会を増加させることについて一定の困難が伴うことは否定できないとしても、各契約者の才覚次第で相応の収入を得ることができる余地が認められる。

() 業務における損益の負担について

本件契約上、契約者の収入は原則として会員の月謝等に限られるところ、いずれについても、契約者は全額受領しており、また、教室運営に当たり、契約者は自己の責任と負担において会場となる教室を準備するほか、原則として教室経営に当たり要する一切の費用を負担するものであることが認められる。

この点、教室開室初期において、会社が、支援制度等を通じて契約者における一定の損失を塡補していることが認められるとしても、いずれも一定期間にとどまるものであり、一定期間経過後には、契約者の所得を保障するような制度は存在しない。

以上の点に加え、本件契約上、契約者が開室可能な教室数や指導可能な会員数の上限は存在せず、契約者において自由な規模の教室経営を行うことが可能であることを併せ考慮すると、契約者は、自己の判断において損益を一定程度左右することが可能であるとともに、原則として業務における損益の帰属主体となっているものと認められる。

() 他人労働力の利用について

本件契約上、契約者自身は直接会員の学習指導を行う必要はなく、契約者が運営できる教室数や1教室当たりの会員数についての制限もない。

また、契約者はスタッフを雇用することも可能であり、一契約者当たりの教室数及び会員数からは、相当数の契約者がスタッフを雇用しているものと推認できるところ、スタッフについては、原則として、契約者の判断において募集・採用を行うとともに、契約者が各スタッフの給料などの労働条件を決定し、勤務シフトの作成や業務内容の指示を行っている。

そして、Z1、Z2及びZ3の稼働状況を勘案すると、スタッフの業務はおおむね会員の宿題の採点等の補助的な業務にとどまるものであると推認することができるが、一方で、当該スタッフは契約者に対して労務を提供し、契約者の業務の一部を遂行し、契約者の円滑な学習指導や教室運営に一定の役割を果たしていると評価することができ、Z1のように学習指導の一部をスタッフに任せている例もあることや、上記のとおり、一契約者当たりの教室数及び会員数からは、相当数の契約者がスタッフを雇用しているものと推認できることを併せて考慮すれば、相当数の契約者は他人労働力を利用して学習指導や教室運営を行っているものと認めることができる。

このほか、個人の契約者は、スタッフの雇用の有無を問わず、おおむね自ら学習指導を行っていることや約75パーセントの契約者は1教室のみを運営していることが認められるが、それは、契約者が自らの独立した経営判断を行った結果によるものであると解することができる。

() 固有の顧客を持つことについて

本件契約上、契約者は、他の学習塾への関与が禁止され、学科以外の技能の教授を目的とする教室を自ら経営し、又は第三者の経営に関与する場合には、会社に届け出なければならないとされており、学習塾経営者として固有の顧客を持つことを制限されているものといえる。

() 小括

以上のとおり、契約者が自己の才覚で利得の機会を増加させることに一定の困難が伴うことは否定できず、また、本件契約上、学習塾経営者として固有の顧客を持つことが制限されているとしても、@法人も契約者になることが可能であること、AZ1、Z2及びZ3の稼働実態、一契約者当たりの会員数や一契約者当たりの教室数の分布状況等によれば各契約者の才覚次第で相応の収入を得ることができる余地が認められること、B本件契約上、契約者が業務における損益の帰属主体となっていること、C相当数の契約者は他人労働力を利用して学習指導や教室運営を行っていることを併せ考慮すると、契約者は、相当程度の事業者性を備えていると認めることができる。

ク 結論

以上のとおり、本件において、@契約者は、会社の業務遂行に不可欠な存在として会社の事業組織に組み入れられており、A会社が契約内容を一方的、定型的に決定しており、B契約者の得る報酬は、契約者の労務の提供に対する対価とみる余地もあるが、事業報酬とみる余地も十分にあり得るものであり、C契約者が会社からの業務の依頼に対して基本的にこれに応ずべき関係にあると認められ、D契約者が、広い意味で会社の指揮監督の下に業務を遂行しているとはいえず、その業務の遂行については時間的拘束を受けているとまでは認められないが、一定の場所的拘束を受けていると認められ、E契約者は、相当程度の事業者性を備えていると認められる。

そして、@事業組織への組入れの点について、D広い意味での指揮監督下の労務提供の有無及び程度、E契約者の顕著な事業者性の有無及び事業者性の程度を踏まえると、契約者が事業組織に組み入れられているとしても、それは、労働力としての側面のみならず、事業者という側面もあるものと認めるのが相当である。

また、B契約者の受領する報酬については、E契約者の事業者性の有無及び事業者性の程度を併せ考慮すれば、事業報酬としての性格を持つ場合もあり、契約者自身の労務の提供の対価又はこれに類する収入としての性格のみを有するとまでは認められない。

以上の事情を総合的に勘案すれば、本件における契約者は、会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないと解するのが相当である。

⑵ その余の争点

本件における契約者が会社との関係で労働組合法上の労働者に当たらないことは、上記判断のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件で不当労働行為が成立する余地はない。

 

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和3年1129

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年11月7日、1219日及び令和6年2月20

⑶ 命令書交付日    令和6年4月11