【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1は、いわゆる登録型派遣の形態にて、パーソルテンプスタッフ(以下「パーソル」という。)と3か月間の雇用契約を締結し、平成31年2月7日からNTTデータに派遣されて業務に従事していた。X1は、31年1月に申立外首都圏なかまユニオン(以下「組合」という。)に加入し、組合は同年4月に同人の加入を公然化して両社との間で団体交渉又は話合いを行ったが、X1は、2不41号事件申立て後に組合を脱退した。

⑵ 申立外組合は、職種を問わず個人で加盟できる、いわゆる合同労組である。組合は、X1と連名にて2不41号事件を申し立てたが、その後、同人が組合を脱退したことを受けて、3年2月16日、同事件のうち組合申立てに係る申立てを取り下げた。

⑶ 被申立人パーソルは労働者派遣等を業とする株式会社であり、2不41号事件申立時の従業員は約45,000名である。

⑷ 被申立人NTTデータは情報通信事業等を業とする株式会社であり、2不41号事件申立時の従業員は約12,000名である。なお、本件申立時の被申立人であるエヌ・ティ・ティ・データは、持株会社制への移行に伴い、5年7月1日付けにて商号変更して持株会社である株式会社NTTデータグループとなるとともに、国内事業の権利義務を引き継ぐ国内事業会社「株式会社NTTデータ」を会社分割した。それに伴い、本件の被申立人の地位は国内事業会社である株式会社NTTデータに承継された。

2 事件の概要

⑴ 申立人X1は、いわゆる登録型派遣の形態にて、パーソルと雇用期間3か月(平成31年2月7日から令和元年5月6日まで)の雇用契約を締結し、被申立人株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(当時、なお、原則として会社分割の前後を通じて「NTTデータ」といい、パーソルと併せて「両社」という。)に派遣されて、業務に従事した。

平成31年3月29日、職場にて歓送迎会が行われ、その際に、派遣先の上司が、X1について「(職場に)長くいてほしい。」と発言した。3月31日、X1は、上記発言に不満を覚えて、パーソルの担当者に対してメールにて苦情を申し出た。

4月3日、X1は体調不良により早退し、以後、4月21日まで欠勤した。

⑵ 4月9日、X1が当時加入していた申立外組合は、両社に対し、同人の加入を公然化して団体交渉を申し入れた。

4月22日、パーソルは、組合に対し、令和元年5月下旬の団体交渉日程を提示し、また、同月26日、NTTデータは、労働組合法(以下「労組法」という。)上の使用者ではないので団体交渉に応じる義務はないが、話合いであれば応じる旨を回答した。

⑶ 4月22日、X1は職場復帰したが、業務の開始前にパーソル及びNTTデータと面談を行い、体調確認や今後の業務内容の指示などが行われた。面談終了後、X1は業務を行ったが、パソコン内に「新しい人が来たら読むフォルダ」という名称のフォルダが作成されていることを見つけた。

4月23日、X1は、派遣先のNTTデータの上司と面談を行い、自身の派遣契約の更新有無の説明や雇止めの理由書の交付を要求するなどし、その後、就業時間終了の10分前に退社した(以下「本件定時前退社」という。)。同日、パーソルは、X1に対し、雇止めを通知するメールを送付するとともに、同月26日、「契約を更新しない理由について」と題する文書(以下「雇止め理由書」という。)を交付した。

4月24日、パーソルは、X1に対し、同月23日の同人の言動には問題があるとして、今後の改善等を約束する確約書を提出しなければ、以後の出勤を認めないことなどを通知した。X1はこれに応じずに、そのまま雇用契約満了日である令和元年5月6日を経過した。

⑷ 5月24日以降、組合とパーソルとは、4回にわたって団体交渉を行い、5月29日以降、組合とNTTデータとは、2回の話合いを行った。

⑸ 2年4月23日、組合及びX1は、パーソル及びNTTデータを被申立人として、当委員会に対して不当労働行為救済申立て(2不41号事件)を行った。

⑹ 元年6月以降、X1は、東京労働局及び渋谷労基署に対し、両社が労働者派遣法(以下「派遣法」という。)又は労働基準法の違反行為を行った旨の申告を行った。その後、パーソルは東京労働局及び渋谷労基署から、NTTデータは東京労働局から行政指導を受けた。

⑺ 3年2月13日、X1は組合から脱退し、組合は2不41号事件の組合の申立てに係る申立てを取り下げた。

⑻ 4年1月27日、X1は、NTTデータに対し、@職場に残した私物(以下「残留私物」という。)の返還、A平成31年4月の自身の勤怠記録(以下「勤怠表」という。)の交付を求めた。それに対して、NTTデータは、@残留私物はない、A勤怠表は派遣元に報告済みである旨を回答した。

⑼ 令和4年1220日、X1は、NTTデータを被申立人として、@残留私物の返還、A勤怠表の交付及びBコンプライアンス通報に対するフィードバックを求めて、当委員会に不当労働行為救済申立て(4不80号事件)を行った。さらに、5年1月23日、X1は、パーソル及びNTTデータを被申立人として、渋谷労基署又は東京労働局の是正指導に従うことなどを求めて、当委員会に不当労働行為救済申立て(5不4号事件)を行った。

⑽ 9月12日、当委員会は、2不41号事件、4不80号事件及び5不4号事件を併合して審査すること及び審問を実施しないことを決定し、同日をもって調査手続を終結した。

3 争 点

⑴ 組合の平成31年4月9日付けの団体交渉申入れに対するパーソルの対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点1)

⑵ パーソルが、X1を令和元年5月6日をもって雇止めとしたことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点2)

⑶ 令和元年5月24日、8月7日、10月9日及び2年1月22日の団体交渉におけるパーソルの対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点3)

⑷ X1に対する、パーソルの以下の対応は、下記アは組合運営に対する支配介入に、下記イ及びウは組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に、それぞれ当たるか否か。(争点4)

ア 平成31年4月22日の始業前における対応

イ 4月24日に確約書の提出を求めたこと。

ウ 4月26日に雇止め理由書を送付したこと。

⑸ パーソルは、X1の取扱いに関して東京労働局及び渋谷労基署から行政指導を受け、それに従わなかったと認められるか。認められる場合、そのことは、X1が2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点5)

⑹ NTTデータは、本件において、労組法上の使用者に当たるか否か。(争点6)

労組法上の使用者に当たる場合、

@ NTTデータが、平成31年4月9日付けにて組合から申し入れられた団体交渉に応じなかったことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6−1)

A 令和元年5月29日及び同年1226日の組合とNTTデータとの話合いにおける同社の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点6−2)

B X1に対するNTTデータの以下の対応は、ア及びウは組合運営に対する支配介入に、イ及びエは組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に、それぞれ当たるか否か。(争点6−3)

ア 平成31年4月22日の始業前における対応

イ 4月23日の職場における対応

ウ 4月23日の電話連絡における対応

エ 4月23日の本件定時前退社に関するパーソルへの報告

C X1の令和元年5月6日付け雇止めは、NTTデータの行為といえるか。いえる場合、そのことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。(争点6−4)

D X1がNTTデータに残留私物の返却及び勤怠表の写しの交付を求めたことに対し、同社が残留私物はないと回答して、4不80号事件申立時までに返却していないこと、及び同社が、4不80号事件申立時までに、勤怠表の写しを同人に交付していないことは、同人が2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6−5)

E X1がNTTデータ又は外部のコンプライアンス窓口に連絡したことに対し、本件4不80号事件申立時までに、同社が同人に回答していないことは、同人が2年不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6−6)

F NTTデータは、X1の取扱いに関して、東京労働局から行政指導を受け、それに従わなかったと認められるか。認められる場合、そのことは、X1が2不41号事件を申し立てたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か。(争点6−7)

⑺ 本件調査手続終了時までにX1が組合から脱退している本件において、支配介入に係る救済の利益が存在するか。(争点7)

4 主文の要旨 <却下・棄却>

⑴ 平成31年4月22日のパーソルの対応についての申立てを却下する。

⑵ その余の申立てを棄却する。

5 判断の要旨

⑴ 争点1について

ア 4月9日付団交申入書に対するパーソルの対応をみると、組合が平成31年4月中旬の団体交渉開催を求めたことに対し、同社は令和元年5月下旬の開催日程を提示し、その結果、第1回団体交渉の開催が5月24日となったことが認められる。

イ しかし、組合は、4月9日付団交申入書にて、初めてX1が組合の組合員であることを通知しており、それまでにパーソルが組合との団体交渉に対応したことがなかったという事情に加え、組合は、同申入書でX1の派遣就業に関する事項について協議を求め、また、事実関係に関するパーソルの認識を文書回答することを要求していたのであるから、4月中旬の団体交渉開催は困難であったとみざるを得ず、同社が、派遣先における事実関係等を確認するために、一定の時間を見込んだ上で、団体交渉の開催日を回答したとしてもやむを得なかったといえる。

ウ また、パーソルは、4月9日付団交申入書を4月10日に受領後、同月15日に組合に回答の猶予を求めた上で、同月19日に団体交渉開催日として複数の日程を提示しており、同社が団体交渉の開催に向けた連絡調整を意図的に遅らせていたとはいい難い。

エ さらに、5月24日以降、組合とパーソルとは4回にわたって団体交渉を行っており、後記⑶の判断のとおり、4回を通じて団体交渉は正常に進んでいたといえる。そうすると、第1回団体交渉の開催が、組合の要求した4月中旬ではなく、5月24日になったとしても、そのことにより、団体交渉の実質が損なわれたなどと評価することはできない。

オ 以上を踏まえると、4月9日付団交申入れに対するパーソルの対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑵ 争点2について

ア 本件雇止めに至る経緯をみると、4月1日に、パーソルのY1は、X1に対し、追って、同人の雇用契約更新の可否を確認する予定である旨を伝えており、雇用期間終了の1か月前の時期に、X1と雇用契約に係るやり取りが予定されていたとはいえる。

一方、X1は、4月3日の早退の際に、両社に対し、同人への連絡を拒否すること及び今後の対応を第三者に委ねる旨を通告し、「第三者」についても何ら具体的に明示していない。

そうした中で、パーソルがX1との接触を控え、その結果、X1の職場復帰後である4月23日に雇止めを告げることとなったとしても、やむを得なかったというべきである。

イ また、4月3日のX1の早退を受けて、パーソルは、同人に対し、今後の就労については話合いが必要との認識を伝えるとともに、同人の欠勤により派遣先職場が対応に苦慮している旨を伝えた上で、健康状態について回答することを求めている。

しかし、X1は、4月3日の早退の際に、体調が回復するまで休むことのみを告げて、以後欠勤し、その後も、同月9日にスタッフ相談室へ診断書を送付するのみで、逐次の現状報告や復帰の見込みなどの連絡などは行っていない。

これらの事情を踏まえると、パーソルが、X1の派遣就業について、当面の見通しはもとより、雇用契約更新の前提となる、今後の同人の労務提供が確保できるとの見通しも立たないと判断したとしても、不合理とはいえない。

ウ さらに、X1の組合加入の公然化後のパーソルの対応をみても、後記⑶の判断のとおり、計4回にわたって団体交渉に応じ、また、当該団体交渉において、組合の求めに応じて相応の対応をしている。加えて、その他、組合に対するパーソルの姿勢が敵対的であったといえるような事情も特に窺われない。

エ 以上のとおり、パーソルによる不自然な対応や反組合的な姿勢が窺われるような事情を認めることはできず、同社が、組合の弱体化を意図して同人を雇止めとしたなどとみることは困難である。

したがって、パーソルが、X1を令和元年5月6日をもって雇止めとしたことは、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑶ 争点3について

ア X1は、パーソルが回答拒否、虚偽説明及び派遣先事業主へ責任転嫁する発言を繰り返すなどして、団体交渉を無意味化して実効性を失わせたなどと主張する。

イ しかし、計4回の団体交渉においては、事実の有無や認識を確認するやり取りに多くの時間が割かれているところ、パーソルは自社の把握する事実関係とそれに対する認識をくり返し説明しており、それらが変遷している事情も窺われないことから、パーソルが回答拒否、虚偽説明及び派遣先事業主へ責任転嫁する発言を繰り返していたというX1の主張を採用することはできない。

ウ また、計4回の団体交渉を通じて、パーソルは、組合の求めに応じて、事実関係やその認識について、あらかじめ文書にて回答するとともに、派遣契約書や36協定書などの資料を開示して説明を行っている。

エ 以上を踏まえると、結果として労使の合意達成には至っていないとはいえども、労使間の懸案事項の解決を目指して協議を行う場である団体交渉は、正常に進行していたとみるのが相当であり、パーソルが団体交渉を無意味化させる対応を行っていたなどと評価することはできない。

 したがって、令和元年5月24日、8月7日、10月9日及び2年1月22日の団体交渉におけるパーソルの対応は、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑷ 争点4について

ア 平成31年4月22日の始業前における対応について

X1は、平成31年4月22日の面談におけるパーソルの対応が組合の運営に対する支配介入に当たる旨を主張するが、令和2年4月23日の2不41号事件申立ては、上記行為の日から1年を経過しており、平成31年4月22日の面談に係る2不41号事件申立ては、申立期間を徒過した不適法なものとして却下を免れない。

イ 平成31年4月24日に確約書の提出を求めたことについて

() パーソルが確約書の提出を指示するに至った経緯をみると、4月23日のX1の本件定時前退社は、業務に従事すべき勤務時間中であるにもかかわらず、派遣先及び派遣元のいずれの許可も得ずに就業場所から立ち去ったものであり、たとえ短時間であっても業務への従事を放棄した点においては、X1に非が無かったとはいい難い。

() また、その後のX1の対応は、両社を非難するのみであり、本件定時前退社についての弁明等を述べていた事実もない。さらに、本件定時前退社の以前には、X1は、4月3日の早退以降、両社からの連絡を拒んだ上で、現状報告や今後の見通し等の連絡を行うこともなく欠勤を続けるととともに、スタッフ相談室に対して、複数回にわたって感情的なメールを送付していることからすれば、パーソルがそれまでの同人の言動を問題視しており、本件定時前退社に対しては、より強い姿勢で臨んだとしても、無理からぬことであったというべきである。

() そして、パーソルが、X1が確約書を提出せずに欠勤となった期間については、会社都合による休業手当を支払っていることからすれば、確約書の提出指示が、同人を出勤させずに経済的打撃を与えることを意図したものなどとみることはできず、また、前記⑵ウの判断のとおり、当時、パーソルが組合と対立的な緊張関係にあったといえる事情も特に窺われない。

() 以上の事情を踏まえると、パーソルが確約書の提出を求めたことは、業務上の改善指導として、X1に確約書への署名を求めて自省を促し、翌日以降の派遣契約の履行を担保しようとしたとみるのが相当である。したがって、パーソルが4月23日にX1に確約書の提出を求めたことは、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

ウ 4月26日に雇止め理由書を送付したことについて

 () X1は、パーソルが雇止め理由書を同人に送付したことが、労働者としての地位を喪失させて、経済上及び精神上の不利益を与えるものであり、そのことをもって組合員であるが故の不利益取扱いであるなどと主張する。

() しかし、X1は、雇止め理由書が送付されること自体が同人に与えた不利益の内容について、具体的な事実の疎明をしていない。また、雇止めの理由を記した書面を送付するだけでは、労働者としての地位に影響を与えるものではなく、しかも、パーソルは、X1の求めに応じて雇止め理由書を送付したのであるから、雇止め理由書を送付すること自体が特段問題視されるものとみることはできない。

() さらに、X1は、雇止め理由書を組合に交付することを求めていたとはいえるものの、雇止め理由書は、本来、雇用主が被用者に交付すべきものであるから、パーソルが、雇止め理由書をX1に送付したことのみをもって、同社が組合の頭越しに同人と接触して、組合と同人との分断を図ったなどとみることも困難である。

() 以上のとおり、パーソルが雇止め理由書をX1に送付したことが、同人に不利益な取扱いであるとも、反組合な行為であるとも評価できない。

したがって、パーソルが4月23日にX1に雇止め理由書を交付したことが、組合員であるが故の不利益取扱い又は組合運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

⑸ 争点5について

ア パーソルに対する行政指導について、渋谷労基署は、令和元年1010日に労基署指導を行い、また、東京労働局は、2年4月2日に第1回労働局指導、3年2月9日頃に第2回労働局指導をそれぞれ実施していることが認められる。そして、上記各行政指導に対するパーソルの対応をみると、第1回労働局指導に対して、パーソルは、2年4月14日にX1へ修正した就業条件明示書を交付しており、東京労働局は、遅くとも4月22日までには改善を確認して行政指導を完了しているものの、一方で、労基署指導及び第2回労働局指導に対するパーソルの対応は証拠にて明らかにされていない。

イ しかしながら、労組法第7条第4号の報復的不利益取扱いは、不当労働行為救済申立てをしたことを理由とした不利益取扱いであるところ、上記行政指導の実施時期をみると、第1回労働局指導は、2年4月23日の2不41号事件申立ての以前において、東京労働局により是正完了が確認されている。また、労基署指導は2不41号事件申立ての約6か月前に行われており、第2回労働局指導の実施は同申立ての約9か月以上も以後の事実である。さらに、X1は、上記の行政指導に従わないことが同人にもたらした不利益の内容について、何ら具体的な事実の疎明をしていない。

  そうすると、X1が2不41号事件を申立てたことと、上記行政指導に対するパーソルの対応との間に因果関係があるとは認め難く、また、この他にも、パーソルが、2不41号事件申立てを理由にして、行政指導に従わなかったと認めるに足りる事実の疎明もない。

ウ 以上のとおり、X1が2不41号事件を申立てたことと、労基署指導並びに第1回労働局指導及び第2回労働局指導へのパーソル対応との間に因果関係を認めることは困難である。したがって、東京労働局及び渋谷労基署からの行政指導に対するパーソルの対応が、2不41号事件申立てを理由とする報復的不利益取扱いに当たるということはできない。

6 争点6について

ア 労組法上の使用者は、基本的に雇用主がこれに当たるが、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて労組法上の使用者に当たることがあり得る。そして、労組法上の使用者に当たるかの判断は個々の具体的な事案に応じて判断すべきであるから、NTTデータに係る争点(6−1ないし6−7)を踏まえて、同社が、X1の基本的な労働条件等について、部分的とはいえ現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるか否かを以下検討する。

イ まず、平成31年4月9日付け、令和元年6月26日付け及び1212日付けの団体交渉申入書にて組合が求めた協議事項としては、@従事業務の特定、A時間外労働時間の上限、B本件Y2発言及びそれに対するX1の苦情申出への対応、並びにC残留私物の返還及び勤怠表の交付であったといえる(争点6−1及び6−2)。

この点、@従事業務の特定及びA時間外労働時間の上限について、組合が協議を求めたのは、就業条件明示書の記載事項における正誤関係というべきであり、それらは、X1が派遣就業する際の諸条件として、派遣元とX1との雇用契約関係の下で決定される事項であり、また、派遣先であるNTTデータが、就業条件明示書に記載された業務内容を明らかに超えた業務を命じていたとか、時間外労働時間の上限を超える時間外労働を命じていたなどの事情も認められない。

また、B本件Y2発言及びそれに対するX1の苦情申出への対応については、上記苦情の対象は、X1の雇用期間への言及を想起させる本件Y2発言が派遣先であるNTTデータの上司であるY2によってなされたものであり、派遣元であるパーソルのY1に対して苦情申出がなされ、派遣先のY2も、X1との面談を予定して苦情に対応しようとしていたものであるが、派遣先が、派遣労働者の苦情に対応することは派遣法に沿った対応であり、NTTデータが本件Y2発言に係るX1の苦情申出に対応したとしても、そのことが直ちにNTTデータの使用者性を基礎付けるものであるということはできない。

さらに、C残留私物の返還及び勤怠表の交付についても、NTTデータは、派遣先として、仮に、派遣労働者の残留私物があれば、それに対応する必要があるとしても、そのことが同社の使用者性を基礎付けるものであるとはいえず、また、X1との雇用契約関係にあるのは派遣元のパーソルであり、派遣先のNTTデータは、派遣元のパーソルにX1の勤怠表を報告済みである旨回答しているのであるから、同人への勤怠表の交付は、NTTデータではなく、派遣元のパーソルが対応すべき事柄であるといえる。

ウ 次に、X1の雇止め(争点6−4)については、パーソルが、X1に雇止めを通知するとともに雇止め理由書を交付していることを踏まえると、パーソルがX1の雇止めを決定していたとみるのが相当であり、その他、パーソルが別個独立した企業体としての実質を欠き、その意思決定をNTTデータが事実上支配、決定していたなどといえる事情もない。なお、X1の雇用契約はいわゆる登録型派遣の形態であるから、NTTデータが派遣契約を更新しないことが、パーソルがX1の雇用契約を更新しないことの理由になることは現実にあり得るものの、NTTデータが派遣契約を更新しないこと自体は、派遣法に基づく労働者派遣の枠組みの範囲内の行為というべきであり、そのことを受けて雇用主であるパーソルが同人の雇用契約を更新しなかったとしても、NTTデータが同人の雇用を支配、決定しているなどとみることもできない。

エ そして、その他の争点に関わる、平成31年4月22日及び同月23日におけるX1への派遣先担当者の対応(争点6−3)、残留私物の返還及び勤怠表の写しの交付(同6−5)、コンプライアンス窓口への連絡に対する回答(同6−6)、並びに行政指導への対応(同6−7)等についても、NTTデータの行為とX1の具体的な労働条件との関連を認めるに足りる事実の疎明がなされているとはいえず、また、同社が派遣先の指揮命令権を行使する立場を超えて、部分的であっても、X1の何らかの労働条件を直接左右していたといえる事情も認められない。

オ 以上のとおり、NTTデータは、部分的であっても、X1の基本的な労働条件等を雇用主と同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、よって、同社は、X1又は組合との関係において、労組法上の使用者に当たるとはいえない。

そうすると、その余を判断するまでもなく、争点6−1ないし争点6−7におけるNTTデータの行為が不当労働行為に当たるとはいえない。

7 争点7について

本件申立ての各事実が組合の運営に対する支配介入に当たるといえないことは、上記判断のとおりであるから、争点7は判断を要しない。

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和2年4月23日(2不41号事件)

             令和4年1220日(4不80号事件)

             令和5年1月23日(5不4号事件)

⑵ 公益委員会議の合議 令和6年2月6日

⑶ 命令書交付日    令和6年3月6日