【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人JAMゼネラルユニオン(以下「組合」という。)は、主に中小企業に勤務する労働者が企業の枠を超えて個人で加盟するいわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約450名である。

⑵ 被申立人株式会社バンドー産商(以下「会社」という。)は、水産物の輸出入、加工、卸売業を主たる業務とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は4名である。

2 事件の概要

⑴ ミャンマー国籍の]は、令和4年6月27日から会社において就労を開始した。

⑵ 7月15日、]は、会社の社長に対し、連日、社長から、「バカ」、「バカ野郎」などと叱責され続けたとして、社長のいじめがこのまま続くのであれば退職したい旨を発言したものの、同日、社長に謝罪の上、翌日以降も就労する意向があることを伝えた。これに対し、社長は、]に対し、「辞表」を提出するよう求めた。]はこの日を最後に就労していない。

7月16日、社長は、]に対し、「退職届」の提出と、会社が借り上げたアパートからの速やかな退去を求めた。

⑶ 7月19日、]は、組合に加入した。7月26日、組合は、会社に対し、]の解雇問題やパワーハラスメント等8項目を協議事項とする団体交渉を申し入れたが、会社はこれを拒否した。

⑷ 8月4日、組合は、会社に対し、再度、団体交渉を申し入れたものの、会社は、組合宛てに電子メールで自己の見解を述べた文書を送付したのみで、団体交渉には応じなかった。

⑸ 本件は、組合が4年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて争われた事案である。 

3 主文の要旨 <全部救済>

⑴ 会社は、組合が4年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に、速やかに、かつ、誠実に応じること。

⑵ 文書交付(要旨:団体交渉に応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前項の履行報告

4 判断の要旨

⑴ 組合が申し入れた協議事項が義務的団体交渉事項に当たるか否かについて

ア 解雇問題に関して 

]は、7月15日の社長との話合いにおいて、一旦は、社長のいじめがこのまま続くのであれば退職したいと述べたが、その後、謝罪の上、翌日以降も就労する意向があることを社長に伝えた。それにもかかわらず、社長は、7月15日及び同月16日、]に「辞表」ないし「退職届」の提出、会社が用意したアパートからの退去等を求めた。

これに対し、]は、7月15日を最後に就労していないものの、会社に「辞表」や「退職届」は提出していない。

その後、組合の団体交渉申入れに対し、会社は、]が自主退職したと回答しており、]の雇用終了が「解雇」であるかどうかについて労使の認識が一致していなかった。

したがって、]の雇用終了が「解雇」であるかどうかも含め、会社と同人との間には、雇用の終了という労働条件に関する未解決の問題が存在していたのであり、このことは義務的団体交渉事項に当たる。

イ パワーハラスメントに関して

7月14日、社長は]に対し2度電話を掛け、「バカ」、「バカ野郎」などと何度も発言した。]はこれを苦にして、社長に対し、一旦は、社長のいじめがこのまま続くのであれば退職したいと述べ、また、社長に毎日バカなどと何回も連発され侮辱された、違法行為や侮辱を告発するなどと電子メールで訴えた。

これに対し、社長は、私は叱咤、激励、訓練をしたのであり、そのことを]はいじめと勘違いしたなどと返信したのみであり、社長の言動に対する双方の認識には大きな隔たりがあった。その後、]と会社との間で話合いがなされた事実は認められない。

ハラスメント問題は労働条件に関する事項であって、]が就労できなくなった経緯からしてもこのことは重要な労働問題であったというべきであり、これについて未解決の状態が続いていたのであるから、義務的団体交渉事項に当たる。

ウ 解雇予告手当の支払に関して

前記アのとおり、]の雇用終了が解雇であるか自主退職であるか、組合と会社の間で認識が対立しているところ、仮に解雇であれば労働基準法第20条第1項の解雇予告手当の支払義務が会社に発生していた可能性がある。そして、このことは組合員である]と会社との間の労働条件に関する未解決の事項であるから、義務的団体交渉事項に当たる。

エ 健康保険証の解約、年金手帳の返還及び退職証明書の発給に関して

これらは雇用関係の終了に当たって発生する事務的な手続であり、雇用関係の清算に関する未解決の事項であるから、全て義務的団体交渉事項に当たる。

オ 6月30日付書面(「返済額」)に関して

]は、会社からの6月30日付書面を見た上で、会社に対する航空券費用やアパート賃料等毎月の返済額が、自らが認識していた金額より高額であったことから、この金額の根拠や計算方法などについて疑問を持つに至ったと思われる。このことは労働契約の締結に伴い発生した会社と]との金銭の負担額を巡る問題であり、雇用関係の清算に関する未解決の事項であるから、義務的団体交渉事項に当たる。

カ 上記アないしオのとおり、組合の申し入れた協議事項は、全て会社と組合員]との間の未解決の労働条件に係る事項であって義務的団体交渉事項に当たるから、会社は団体交渉に応ずべき立場にあったといえる。

⑵ 会社は、組合からの7月26日付団体交渉申入れに対し、同月27日付電子メールで、認可官庁、該当する法律、執行委員長及び担当者の身分証明書並びに]からの委任状を求め、さらに、組合からの8月4日付団体交渉申入書に対しても、「そもそも組合の法的立場、自身の身分も明かさず、あなたたちは何者か。」などと返信し団体交渉を拒否しており、組合が正当な団体であるのかどうかに強い疑義を持っていることが窺われる。

しかし、本邦において労働組合は自由設立主義であり許認可の制度はないが、労働組合が不当労働行為救済申立てを行った場合には、労働委員会が資格審査を行い労働組合法上の労働組合であるか否かを判断する制度となっており、本件の合議に先立ち当委員会で組合の資格審査が行われ、適法決定がなされたところである。

そして、組合は、上記2通の団体交渉申入書において、組合の名称、住所、電話番号、ファクシミリ番号及びメールアドレス、執行委員長の氏名、交渉の議題が]の解雇問題等であることなどを明らかにしており、会社がさらに執行委員長及び担当者の身分証明書まで確認しなければ団体交渉ができない理由は見いだせないし、会社が、組合がどのような団体であるのか疑問を持っているとしても、そのことは必要に応じて団体交渉の中で確認されるべきものであり、組合が会社の求めに応じないことをもって団体交渉を開催しない正当な理由には当たらない。

⑶ 上記⑴⑵で検討したとおり、会社が組合からの団体交渉申入れに応じていないことについて、何ら正当な理由は見いだせない。

したがって、組合が4年7月26日付け及び8月4日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和4年9月7日

⑵ 公益委員会議の合議 令和5年5月23

⑶ 命令書交付日    令和5年7月13