【別紙】

 

1 当事者の概要

    申立人X1(以下「X1」という。)は、主として東京都内の企業に雇用される労働者によって組織される、いわゆる合同労組であり、平成29年4月24日時点の組合員数は約4,000名である。

    申立人X2(以下「X2」といい、X1と併せて「組合」という。)は、X1と同様の合同労組であり、X1に加盟している。29年4月24日時点の組合員数は約450名である。

X2のX5分会(以下、「分会」という。)は、X2の組合員で申立外Y2(以下「Y2」という。)に雇用され成田ベースに所属していた客室乗務員(以下「FA」という。)により組織され、29年4月24日時点の分会の組合員数は13名であった。

    被申立人Y1(以下「Y1」という。)は、肩書地に本社を置く航空会社であり、29年4月24日時点の従業員数は約80,000名である。2210月、米国に本社を置く申立外Z1(以下「旧Z1」という。)と同Y1(以下「旧Y1」という。)とが経営統合を行った後、25年3月31日に旧Z1が旧Y1を吸収合併し、商号をY1に変更した。

Y2は、米国のグアムに本社を置く航空会社であり、Y1の完全子会社であった。29年4月1日、Y1は、Y2を吸収合併した。

    Y1及びY2には、米国従業員の労働組合で、米国のFAに関する事項に関して各社と団体交渉を行うことが現地法上認められている唯一の労働組合(排他的代表)である申立外Z2(以下「Z2」という。)が存在する。

 

 

2 事件の概要

平成28年2月4日、グアム−成田便等の航空事業を営むY2は、組合との団体交渉において、成田空港にあった同社の業務上の拠点となる事業所(以下「成田ベース」という。)を、同年3月31日をもって閉鎖することを告げるとともに、同ベースに所属するFAに対して早期退職又は成田空港における地上職への配置転換(以下「地上職への配転」という。)の二つの選択肢を提案した。当時、FAである組合の組合員20名は、全員が成田ベースに所属していた。

これ以降、組合とY2とは、成田ベース閉鎖の理由や組合員の雇用継続等について団体交渉を続けたが、4月13日の団体交渉で交渉は終了した。

Y2は、5月31日付けで、X3及びX4を含む、それまでに早期退職又は地上職への配転に応じなかった、組合の組合員12名を解雇した(以下「本件解雇」という。)。

Y2は、29年2月14日付けでX3及びX4に対し、本件解雇の日までの勤務期間に係るプロフィット・シェア(利益を計上したときに、年1回、一定の支給率で計算した金額を支給するもの)を支給したが、その支給率は、Z2の組合員に対する支給率よりも低い割合によるものであった。

29年4月1日、Y1は、Y2を吸収合併した。

本件は、Y2の以下の行為が、それぞれX3及びX4が組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

⑴ X3及びX4を28年5月31日付けで解雇したこと。(争点1)

⑵ X3及びX4に対して29年2月14日付けで支給したプロフィット・シェアについて、支給率を別組合の組合員より低くしたこと。(争点2)

 

3 主 文 <棄却>

 本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

 ⑴ Y2がX3及びX4を平成28年5月31日付けで解雇したことについて(争点1)

ア 組合は、成田ベースの閉鎖及び本件解雇に合理的な理由はないと主張する。

   () Y2が成田ベース閉鎖を決定した事情として、@グアムへの日本人旅行者の減少が続き、利用客が減少し、グアム−日本路線の運航停止や減便が行われたことに伴い、Y2の受託業務も減少した結果、Y2全体におけるリサーブ率(乗務せずに待機するFAの占める割合)が40パーセント程度から低下しないなど、顕著な業務減少が続いていたこと、AY2は、26年及び27年に、組合に対し、人員余剰を理由に早期退職プログラムを提案したが、成田ベースのFAでいずれの提案にも応じた者はおらず、人員整理を含む効率化が進んでいないこと、B成田ベースのコストはグアムベースよりも高く、成田ベースを閉鎖してグアムベースのFAで業務を行うことにより削減されるコストの概算に係る認識をY2が団体交渉で述べ、項目も示したことなどが認められる。これらのことからすれば、Y2が成田ベース閉鎖を決定したことには、経営上の相応の根拠や理由があったということができる。

() 本件解雇については、成田ベースを閉鎖すれば、日本を拠点とするFA業務がなくなることから、職種限定である成田ベース所属のFAについて、日本でのFAとしての雇用を維持することは容易でない事情がうかがわれるところ、Y2は、組合に対し、特別退職金を加算する早期退職プログラムを提案し、団体交渉の中でその条件を上乗せしており、加えて、解雇回避策として、年収を維持した上での地上職への配転を提案し、応募したFAには実際に地上職への配転を行っていることから、Y2は、成田ベース閉鎖に伴うFAである組合の組合員の処遇について、雇用の維持も含めた相応の対応をしているということができる。

イ 組合は、成田ベースの閉鎖及び本件解雇は、Y2が組合を嫌悪し、組合の組合員を排除する目的で行ったものであると主張する。

() Y2が成田ベースの閉鎖を組合に告げた28年2月4日頃には、プロフィット・シェアの支給率に係る団体交渉が行われた以外には、労使間に紛争のあった事情はうかがわれず、組合がY2から差別や攻撃を受けていたということはできない。

  また、メタルアグリーメント(Z2とY1との間の労働協約)の適用により、成田ベースの業務量に影響があった事情は認められるものの、Z2の組合員であるグアムベース所属のFAであっても、旧Y1の航空機材を使用する路線には乗務できなかったのであり、また、Y2は、成田−アジア路線を成田ベース所属のFAに割り当てるなど、業務量の回復を図ったこともあることから、Y2がZ2を優先し、組合を差別していたということはできない。

() Y2が成田ベースの閉鎖を組合に説明したのは28年2月4日であり、本件解雇は4月28日に通知され、5月31日付けで行われたところ、フォーリンナショナル条項(外国籍のFAの就労に係る取決め)を含むY1及びY2とZ2との統一労働協約は、6月に暫定合意し、8月に合意、締結されている統一労働協約の交渉の経過からすると、少なくとも6月の暫定合意までは、フォーリンナショナル条項の内容は確定していなかったといえる。また、フォーリンナショナル(外国人FA)の雇用等につき、暫定合意までの間にZ2とY1らとは対立していた様子もうかがわれ、そのほかに、本件解雇の時点で、フォーリンナショナル条項の内容が既に決まっていたといえる積極的な事情はうかがわれない。よって、Y2が、まだ定まっていないフォーリンナショナル条項を優先して、成田ベースの閉鎖や本件解雇を行ったということはできない。

() Y2は、成田ベース閉鎖に係る5回の団体交渉において、成田ベースを閉鎖する理由について相応の説明を行い、また、閉鎖に伴う組合員の処遇について、グアムベースやY1成田ベースへの配置転換ができない理由やジョブシェアができない理由を説明するとともに、早期退職プログラムと地上職への配転の二つを提案し、交渉の中で早期退職の条件を上乗せしたり、地上職の業務についてY1と調整したりするなどしたことが認められ、また、当委員会は、前件命令(2931)において、5回の団体交渉は、双方がそれぞれ相応の主張や説明を行ったと判断したところであるから、Y2が不誠実な対応を繰り返したとは認められない。

() 以上のとおりであるから、当時の労使関係や団体交渉におけるY2の対応等を考慮しても、Y2が組合を嫌悪し、組合の組合員を排除する目的で成田ベースの閉鎖及び本件解雇を行ったと認めるに足りる事情があったということはできない。

ウ 組合は、成田ベース閉鎖及び本件解雇の理由が不合理であることや、その後のY1の行動等から、組合の組合員を排除する目的で行われたことは明らかであるとも主張する。

しかし、組合の各主張を考慮しても、Y2が組合を嫌悪し、組合の組合員を排除する目的で成田ベースの閉鎖及び本件解雇を行ったということはできない。

エ 以上のとおり、Y2が成田ベース閉鎖を決定したことには、経営上の相応の根拠や理由があったということができ、また、本件解雇については、成田ベースを閉鎖すれば、職種限定である成田ベース所属のFAの雇用維持が容易でない状況において、Y2は、組合の組合員の処遇について、雇用の維持も含めた相応の対応をしたことが認められる。そして、当時の労使関係や団体交渉におけるY2の対応等を考慮しても、また、そのほかの組合の各主張を考慮しても、Y2が組合を嫌悪し、組合の組合員を排除する目的で成田ベース閉鎖及び本件解雇を行ったということはできない。

  したがって、Y2がX3及びX4を28年5月31日付けで解雇したことは、同人らが組合の組合員であるが故の不利益取扱いには該当しないし、組合の運営に対する支配介入にも該当しないといわざるを得ない。

⑵ Y2がX3及びX4に対して29年2月14日付けで支給したプロフィット・シェアについて、支給率を別組合の組合員より低くしたことについて(争点2)

ア 27年2月14日支給のプロフィット・シェアを議題とする2回の団体交渉(27年5月及び6月)において、Y2は、@明確な規定がない場合は、支給率を一律とし、Aグアムベース所属のFAにはY2とZ2との労働協約に基づいて算出した支給率としたと、支給率の算出根拠や支給率が異なる理由を説明し、組合が支給率について何らかの交渉をするのであれば、賞与を含めた報酬全体についての議論となる旨を述べた。

イ Y2にはプロフィット・シェアの支給に係る規定等はなく、Y2と組合との間にはプロフィット・シェアに係る労働協約がない一方、Y2とZ2との間ではプロフィット・シェアに係る労働協約が締結されているのであるから、団体交渉における、Y2の支給率の算出根拠や支給率が異なる理由についての説明は不自然なものではない。また、成田ベース所属の管理職及び非組合員のFAに対しても、組合の組合員と同じ支給率であったことから、組合の組合員が、組合員であることを理由として支給率において差別されていたとはいい難い。加えて、成田ベース所属のFAとグアムベース所属のFAとの間では、賞与の決め方など全体的に賃金体系が異なっており、成田ベース所属のFAだけに支給される手当があることも併せ考えると、両ベース所属のFAに対するプロフィット・シェアの支給率が異なっていたとしても、そのことが直ちに組合間差別であるということはできない。そのほか、組合とZ2との間でプロフィット・シェアに係る労働協約の有無に違いがあることについて、Y2による、いわゆる中立保持義務違反があったことをうかがわせるような事情も特に認められない。

ウ 29年2月14日にY2が支給したプロフィット・シェアの支給率は、成田ベース所属のFAであった者については、グアムベース所属のFAに対する支給率より低いものの、組合の組合員であるか否かにかかわらず一律であったといえる。

  加えて、@賞与の決め方など全体的に賃金体系が異なる成田ベース所属のFAとグアムベース所属のFAとの間では、プロフィット・シェアの支給率の違いが直ちに組合間差別であるということはできないこと、また、組合とZ2とのプロフィット・シェアに係る労働協約の有無の違いについて、いわゆる中立保持義務違反をうかがわせるような事情は認められないこと、A28年2月支給のプロフィット・シェアを議題とする団体交渉において、Y2の説明に問題があったとまではいえず、いわゆる中立保持義務違反に当たるような事情があったとも認められず、その後、組合がプロフィット・シェアの支給率に係る交渉等を求めた事情はうかがわれないことを考慮すると、Y2が、X3及びX4に対して29年2月14日付けで支給したプロフィット・シェアについて、支給率を別組合であるAFAの組合員より低くしたことは、同人らが組合の組合員であるが故の不利益取扱いには該当せず、組合の運営に対する支配介入にも該当しないといわざるを得ない。

    

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      平成29年4月24日(2931

            平成30年2月8日(3010

⑵ 公益委員会議の合議 令和4年3月1日

⑶ 命令書交付日    令和4年4月14