【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(組合)は、肩書地に事務所を置き、申立外Z1(Z1)の運営するY1(本件大学)の教員組合として平成8年5月に結成され、31年2月14日の規約改正により、教職員組合となった。本件申立時の組合員数は27名である。

   申立人X2(X2)は、組合の上部団体であり、肩書地に事務所を置き、主に首都圏を中心とする私立大学等の教職員の労働組合を組織する連合体として昭和54年4月に結成された。本件申立時において、66組合約1万名を組織している。

   被申立人Y1(法人)は、肩書地に本拠地を置き、本件大学を運営するために設立された学校法人であり、本件申立時の教職員数は95名(教員32名、非常勤教員32名、職員31名)である。本件大学は、平成31年4月1日、設置者変更により、法人の設置運営する大学となった(本件設置者変更)が、この設置者変更前から、宮城県で専門学校及び幼稚園を運営している申立外Z2と連携関係にある。法人の理事長は、Z2の理事長でもあり、本件設置者変更前は、Z1の非常勤理事を兼務していた。

 

2 事件の概要

Z1が設置運営していた本件大学は、平成31年4月1日、設置者変更により、法人の設置運営する大学となった。この本件設置者変更に伴う本件大学の教職員の労働条件について、Z1、法人、組合及び申立外Z3は、3月31日付けの「労働条件の承継に関する協定書」(四者合意)を締結して、Z1の就業規則、諸規程、労使協定等に基づく教職員の労働条件を法人が引き継ぐことなどについて合意した。

令和元年7月18日、組合が春闘要求に係る団体交渉を申し入れたところ、同月22日、法人は、団体交渉における録音は認めない旨の回答をした。組合らとZ1との団体交渉では録音が行われていたことから、組合は、法人に対し、8月22日、同月29日及び1010日に行われた団体交渉において、録音を認めるよう求めた。しかし、法人は、録音についてはZ1から引き継いでいないなどとして、これに応ぜず、上記3回の団体交渉は、録音を巡るやり取りに終始して、春闘要求事項に関する交渉には入れなかった。

12月6日、組合とX2とは、連名で改めて法人に団体交渉を申し入れた(本件団体交渉申入れ)。この申入れにおいて、組合らは、これまでの団体交渉で法人から録音を認めない合理的な理由の説明がないため、次の団体交渉では録音を行うとした。これに対し、1212日、法人は、冒頭で録音について改めて話し合うことは可能であるが、組合が一方的に録音するのであれば、団体交渉は中止すると回答した。2年1月20日、組合は、法人の上記回答に対し、「この回答では、団体交渉は開催できません。」と通知し、団体交渉は開催されなかった。

本件は、本件団体交渉申入れに対する法人の対応が、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨<全部救済命令>

法人は、組合らが団体交渉を申し入れたときは、録音を認めないという条件に固執することなく、誠実に応じなければならない。

 

4 判断の要旨

⑴ 団体交渉における録音のZ1から新法人への承継について

本件設置者変更に伴う四者合意の文言からは、教職員の労働条件について法人が承継することを合意したことは読み取ることができるが、労使間のルールや労使慣行の承継についても合意していたと解することは困難であり、四者合意別紙により、団体交渉における録音がZ1から法人に承継されたと解することはできず、さらに、四者合意に至る交渉等において録音について合意が成立していたと認めるに足りる疎明もない。そうすると、団体交渉における録音が労使慣行であり、その労使慣行が法人に承継されていると認めることはできない。

⑵ 本件設置者変更における事情について

本件設置者変更において、@法人への移籍に係る承諾書で集団的労使関係の協定に言及されていること、A本件大学は本件設置者変更の前後を通じてZ2と連携関係にあり、法人の理事長は、Z2の理事長でもあり、本件設置者変更前は旧設置者であるZ1の理事を兼務していたことなどの事情からすると、組合らと法人とは、組合らとZ1とが構築してきた従来の労使関係を踏まえて対応することが求められる関係にあるとみるのが相当である。そうすると、組合が団体交渉の録音を求めたことには相応の理由があり、法人が録音を認めない場合には、団体交渉において一般論を超えた録音を拒否する具体的な必要性を説明するなどの誠実な対応が求められる。

⑶ 本件団体交渉申入れ以前の3回の団体交渉について

上記⑵の判断を踏まえて3回の団体交渉における法人の対応をみると、組合は、録音を必要とする相応の根拠を説明し、録音データ流出について具体的な方策を提案して法人の懸念の払しょくに努めていたが、法人は、データ流出に係る一般的抽象的な不安を繰り返し述べるだけで、録音を拒否し続けていたのであるから、合意に達しなかった主な原因は法人側にあったといわざるを得ない。

⑷ 本件団体交渉申入れに対する法人の対応について

上記⑶の判断のとおり、録音に係る合意ができなかった原因は法人側にあるというべきところ、本件団体交渉申入れに対して、法人が、一方当事者である法人が認めない限り録音することはできないとの立場を示した上で、録音について改めて話し合うことは可能であると述べたことは、録音について今後も協議はするけれども、これまでの団体交渉と同様の対応を繰り返すとの意向を示して実質的に団体交渉を拒否したものといわざるを得ない。

また、組合らにとって、録音をしないという条件で他の議題に係る団体交渉に応ずることは録音に係る要求を事実上撤回するに等しいものであり、合理的根拠を示されずに録音を拒否されているとする組合らが、本件団体交渉申入れにおいて、次の団体交渉では録音を行うと通知したことや、法人が認めない限り録音することはできないとの回答に対し、「この回答では、団体交渉は開催できません。」と通知したことは、本件の事情からすると、やむを得なかったものと解される。

そうすると、本件団体交渉申入れに係る団体交渉が開催できなかったのは、3回の団体交渉において一般論を超えた具体的な理由を示さずに録音を拒否していた法人が、同様の対応を繰り返す意向を示すことにより、実質的に団体交渉の開催を拒否したためであるということができ、このような法人の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。

⑸ 義務的団交事項について

本件団体交渉申入れについては、上記⑷の判断のとおり、団体交渉が実施できない状態となっており、法人が義務的団交事項に当たらないと組合に通知した春闘要求事項の一部について、労使間において組合らの春闘要求事項の具体的な内容が明らかにされるには至っていないのであるから、現時点では、法人が春闘要求事項の一部について義務的団交事項に当たらないため交渉事項にはしないとしたことが、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるということはできない。

⑹ 結論

以上のとおり、春闘要求事項の一部について義務的団交事項に当たらないため交渉事項にはしないとした法人の対応が正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるという組合らの主張は認められないものの、本件団体交渉申入れ以前の団体交渉における録音を巡る法人の説明は不充分で誠実に対応したとはいえず、本件団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。

 

5 命令書交付の経過

   申立年月日     令和2年6月9日

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年1116日及び令和4年1月11

⑶ 命令書交付日    令和4年2月28