【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(以下「組合」という。)は、被申立人Y1(以下「法人」という。)で働く教育職員により昭和60年に結成された組合であり、平成30年6月8日時点での組合員数は71名である。

   被申立人法人は、Y2を運営する学校法人である。法人では、常勤の専任職員のほかに非常勤の職員等が勤務しており、専任職員には教育職員(教員)と事務職員とがいる。30年5月1日時点の専任職員は、教育職員が204名、事務職員が144名である。

   

2 事件の概要

法人は、遅くとも平成元年頃から、法人が運営するY2の専任職員(常勤の教職員)に対して、毎年3月末頃に入試手当を支給していた。入試手当は、全専任職員に対して支給される基本配分と、入学試験の監督や面接、採点などの入学試験業務を行った専任職員に対して支給される担当配分などから構成されていた。

2810月、法人は、職員に対して、29年度の予算編成をする際に入試手当の見直しを検討することを通知した。これを受けて、組合は、法人に団体交渉を申し入れ、組合と法人とは、入試手当等を議題とする団体交渉を実施するなどしたが、30年1月、法人は専任職員に対して、入試手当のうち、担当配分の支給は継続するが、基本配分の支給は同年3月の支給分から廃止すると説明した。

2月7日、組合と法人とは、基本配分の支給廃止等について団体交渉を実施した。3月30日、法人は専任職員に対して、担当配分を支給し、基本配分は支給しなかった。

4月3日、組合と法人とは、基本配分の支給廃止等について団体交渉を実施した。

本件は、入試手当の基本配分の支給廃止に関する30年2月7日及び4月3日の団体交渉における法人の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <全部救済命令>

  法人は、組合が申し入れた入試手当の基本配分の支給廃止を議題とする団体交渉において、平成30年3月支給分から廃止することにした理由等を具体的に説明するなどして、これに誠実に応じなければならない。

 

4 判断の要旨

 ⑴ 2月7日及び4月3日の団体交渉の中では、入試手当に関して、主に、@基本配分の支給廃止を説明した時期が支給日の2か月前になった理由及び30年3月支給分から廃止する理由、A基本配分の法的性質や廃止の手続等について、組合が法人に質問し、協議が行われた。

   そこで、団体交渉における会社の対応が不誠実であったか否かについて、団体交渉で協議された事項に沿って以下検討する。

   基本配分の支給廃止の説明時期及び30年3月支給分から廃止する理由

ア 基本配分の見直しは遅くとも2811月には検討されており、組合は、再三、具体的な内容の説明や決定前の協議を求めていたが、法人は、見直しが廃止に変わった経緯も含め組合への説明や協議を行わないまま、支給日の2か月前に初めて専任職員全体に廃止を説明したのであるから、組合が、基本配分の支給廃止の説明の時期や、協議時間が少ない中で廃止を実施しようとする法人の姿勢などを問題視するのはもっともである。

イ 法人の説明からは、法人が、財政的な理由や他大学の調査の結果、基本配分の性質などから基本配分の支給を廃止するという判断に至ったことについては理解できるが、その説明が既に29年度の入学試験が始まっており支給日が2か月後に迫っている時期になったにもかかわらず、30年3月の支給分から支給を廃止しなければならなかったことの具体的な理由は明らかになっていないといわざるを得ない。

  基本配分の支給は、約30年という長期にわたり問題なく支給されてきた手当であるから、それを説明から2か月後、しかも当該年度の入学試験が始まっている時期に廃止する以上、組合に対して特に丁寧な説明をすることが求められるというべきである。しかし、法人は、団体交渉において、30年3月に基本配分の支給を廃止する判断に至った財政的理由等について、財政的な面で今年度手を付けなければならなかった、悪しき慣習だから今回是正したなどと形式的かつ抽象的な説明で組合に理解を求める対応を繰り返しただけで、法人の財政状況の数値や分析等を示すなどして具体的に説明することなく、十分な時間も取らずに拙速に協議を進めたのであるから、このような対応は、組合からの理解を得るべく十分な説明を行って誠実な交渉に努めたということはできない。

ウ なお、組合は、基本配分の支給廃止の協議のため、法人は少なくとも29年度の決算関係書類を含む過去3年分の財政資料を提示すべきだったと主張するが、組合は、28年度の決算関係書類までは交付を受けていた上、団体交渉の場や質問書等で具体的な資料要求をしていなかったのであるから、組合の上記主張をそのまま認めることはできない。

  しかし、法人は、説明から2か月後に、約30年間続いていた基本配分の支給を廃止したのであるから、組合の納得を得るべく、可能な限り財政状況の数値や分析等を示すなどして、30年3月に廃止すべき理由の具体的な説明に努める必要があったことはいうまでもない。

エ 組合は、他大学の調査結果が今回の突然の基本配分の支給廃止の合理的根拠になる理由を法人が一切説明せず、調査結果の資料を明らかにしなかったとも主張する。

  これに関し、法人は、大学名を公表しない前提で各大学と情報交換しているため具体的な大学名を開示したり資料を提供したりすることはできず、資料提供できない理由も説明していると主張している。確かに、法人は、調査対象の大学名や他大学の情報を開示できない理由を組合に説明しており、その理由は理解できるものであることから、法人が調査結果の資料を組合に明らかにすべきであったとまでいうことはできない。

   基本配分の法的性質や廃止手続等

   基本配分の法的性質や廃止の手続については、組合と法人との間に見解の違いがあるが、法人は、基本配分の支給に明文規定はなく、支給廃止は運用ルールの変更にすぎないので、専任職員の個別合意や就業規則の変更手続は必要なく、現行の規程の中で実施できるとの見解を示した上で、基本配分の支給を廃止すべきと考える理由や賃金不払には当たらないと考える理由等を説明しており、一応の説明を行っているとみることもできる。

しかし、約30年という長期にわたり問題なく支給されてきた、一人当たり約11万円という少なからぬ金額の手当を廃止するのであるから、団体交渉においては、組合に対して特に丁寧な説明をすることが求められるというべきである。ところが、法人は、一人当たり約11万円の減収について受忍可能な水準と述べ、支給廃止の理由について、基本配分は受験者や保護者等に対して入学試験実施経費として説明することが難しいこと、ノーワーク・ノーペイという賃金支給の原則に則さず適切な支給ではないことなどの形式的な説明で組合に理解を求める対応を繰り返しており、担当配分の支給対象となる入学試験業務以外の業務と基本配分との関係など基本配分が約30年間支払われてきた理由や、廃止による専任職員への影響に対する配慮の検討内容などについては何ら説明していない。このような法人の対応は、基本配分の支給廃止について専任職員の個別合意や就業規則の変更手続は必要ないとの見解の下に、組合に対しても、その説明さえすれば足りるとの姿勢で臨んでいたとみざるを得ず、法人が、組合からの理解を得るべく十分な説明を行って誠実な交渉に努めたということはできない。

   結論

   以上のとおり、基本配分の支給廃止という専任職員にとって重要な問題について、法人は、団体交渉や書面において組合の質問や要求に回答し、法人の見解を説明はしているものの、約30年にわたり支給されてきた手当の廃止について、説明の時期が支給日の2か月前であったにもかかわらず30年3月支給分から廃止しなければならない理由等について、組合からの理解を得るべく十分な説明を行って誠実な交渉に努めたということはできないのであるから、2月7日及び4月3日の団体交渉における法人の対応は不誠実であったといわざるを得ない。

 

5 命令交付の経過 

    申立年月日     平成31年1月29

   公益委員会議の合議 令和3年5月25

   命令書交付日(発送)令和3年6月29