【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 被申立人財団は、肩書地に本部を置き、法人及び個人事業主を対象とした保険販売(認可特定保険業)を行う一般財団法人であり、本件申立時の職員数は約300名である。

  財団は、令和3年4月1日現在、全国各地に20か所の支局を有している。

⑵ 申立人組合は、平成5年12月に設立された、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約650名である。

2812月1日、財団の職員のうち、X2ら7名(以下「組合員ら7名」という。)が組合に加入し、X3(以下「支部」という。)を結成した。

 

2 事件の概要

平成31年1月11日、財団は、本部において支局長会議を行い、その中で、@「ユニオンとは何か−その実態と対応方法−」(以下「本件資料」という。)と題する資料等を配布して合同労組への対応方法などに関する研修(以下「本件研修」という。)を行った。本件資料には、これまでの財団と組合との紛争の経過とともに、合同労組は、通常の労働組合ではなく、会社に対して解決金として多額の金銭を要求するなどの記載がされていた。

1月15日、財団の千葉支局長は、支局長会議の結果を報告するとして、支局の全職員を集めて業務事項等の周知を行った際、本件資料を配布し、その内容を読み上げた。同月16日、茨城支局長が、同月18日、西東京支局長が、同様に、各支局の全職員を集めて本件資料を配布し、その内容を読み上げるなどした。

本件は、財団が、31年1月15日に千葉支局において、同月16日に茨城支局において、同月18日に西東京支局において、本件資料を職員に配布し説明したことが、組合に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <全部救済>

⑴ 財団は、職員に対し、組合及びその組合員を財団に敵対する好ましくない存在であるなどと印象付ける内容の資料を配布し説明するなどして、組合の運営に支配介入してはならない。

⑵ 文書交付及び掲示

 

4 判断の要旨

   財団本部において本件研修が行われ、各支局において本件資料配布が行われた時期は、組合員ら7名の配転をめぐって、東京地裁判決が出た後、財団及びX2が東京高裁に控

  組合活動が活発化した時期であった。

   そして、支局において、各支局長が職員に配布し説明した本件資料は、「ユニオンは、通常の労働組合ではありません。」、「解決金として多額の金銭を要求する」(2頁)、「社員が悪い場合でも、自分たちユニオンは弱者、会社は悪とのイメージを植え付ける」(3頁)、「ユニオンはいかにして会社を攻撃するか−法律の利用・活用−」(4頁)、「ユニオンは解決金の内一定の額を、味方であるはずの労働者からあらゆる名目で受け取っているといわれている。」(5頁)、「過激ユニオンへの対応策は?」(6頁)などと、「ユニオン」(合同労組)に対する誹謗中傷を含む批判的見解を列挙している。その上で、7頁以下では、「経緯」として、X2ら組合員の実名を挙げて、組合から財団に送付された文書の日付、文書名、備考を一覧にして表示し、12頁には、組合からステークホルダーへの文書を日付順に3通表示し、「日本のあいさつ=こんにちは」、「ハワイのあいさつ=アロハ」、「会社員のあいさつ=いつもお世話になっております。」、「ユニオンのあいさつ=厳重抗議」などと、組合を揶揄するような内容を記載した上、「周囲の企業の反応」として、財団の本部があるビルや隣のビルに入居している企業へ財団が訪問した日時と、これらの企業に対し、組合の街宣活動について財団が説明した内容やこれらの企業の反応を記載(14頁)し、さらに、最後のまとめページと思われる15頁において、「『ブラック社員』対策」を記載している。

このように、本件資料は、本件書籍の引用部分に関する記載(「ユニオン」との表記)と組合に関する記載とを混在させているが、合同労組一般の話というより組合の活動や要求内容を説明していると理解される構成となっている。

したがって、本件資料の内容は、財団と組合との紛争が激しくなる時期において、本件資料を配布された一般の職員に対し、組合は、多額の金銭を要求するなど財団を攻撃し、財団と敵対する存在であり、社会的にも財団にとっても好ましくない存在であるとの印象を与えるものであったといえる。

⑶ そして、本件研修の終了時、専務理事は、各支局長に対し、各支局の職員らに、研修で聴取したことを曲げることなく正確に伝えるよう指導し、本件資料は、「支局長研修で使ったレジュメですので、ご活用ください。」といった記述とともに各支局長に宛ててメールで送付され、各支局長は、財団本部に、説明を行った旨報告していることから、各支局長が行った職員に対する本件資料の配布と説明は、財団の指示に基づいて行った財団の行為であると認められる。

⑷ 以上のことから、各支局長が本件資料を職員に配布し読み上げて説明した行為は、職員に対し、組合は、財団と敵対する存在であり、社会的にも財団にとっても好ましくない存在であるとの印象を与え、組合への敵対意識を醸成するものであり、また、組合員である職員に対しては、組合への不信感を抱かせ、組合活動への萎縮効果を与えるものであるから、組合の組織運営に対する支配介入に該当する。

⑸ 財団は、本件研修は、組合の違法不当な情宣活動に対抗するためにやむを得ないものであったと主張するので、以下、検討する。

    ア 平成3012月、組合は、訪問した各支局入口において、組合の挨拶、名刺交換の要請、宣伝活動及び組合勧誘チラシ配布等を行ったが、特に混乱があったことは認められない。

    イ 支局訪問と同じ頃、組合は、「全支局へ行きます!」など支局訪問を示唆する記事をブログへ投稿したが、これ自体は、組合が活動の予定を述べたものであり、問題があるとはいえない。

    ウ 1023日、組合は、財団本部の最寄り駅付近で組合の主張を記載したビラを配布し、拡声器を使用した演説を行うなどの情宣活動を開始した。

1215日、組合は、理事長の自宅最寄り駅付近で、理事長の似顔絵が描かれたビラを配布するなどの情宣活動を行った。

これら一連の行動が行われた時期は、組合員ら7名の配転をめぐって、東京地裁判決が出た後、財団及びX2が東京高裁に控訴した時期であり、組合が情宣活動の回数を増やすなど、組合活動が、これまで以上に活発になったとみられる。

確かに、1215日、組合が、理事長の自宅最寄り駅付近で行った、理事長の似顔絵が描かれたビラを配布するなどの情宣活動については、やや行き過ぎの感がある。

しかし、組合の情宣活動に必ずしも適当とはいえない面があったとしても、それは、組合との交渉や組合への抗議、あるいは訴訟による法的手段等により解決を図るべきものであり、組合の情宣活動への対抗手段として支配介入行為が許されるものではないので、財団の主張は採用することができない。

また、財団の行為は、正当防衛又は正当防衛に類似する行為として違法性を阻却され、結果的に財団による支配介入の成立は否定されるとの財団の主張は独自の見解であり、採用することはできない。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成31年1月18

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和3年6月15

 ⑶ 命令書交付日    令和3年8月18