【別紙】

 

1 当事者の概要

    申立人X2(以下「組合」という。)は、平成5年4月17日にZ1(以下「Z1」という。)の教職員を中心に結成された。本件申立時の組合員数は8名、そのうちZ1に教員として在職していた者は、X3、X4、X5、X6、X7、X8及びX9の7名であった。

   申立人X1(以下「X1」といい、組合と併せて「組合ら」という。)は、都内における私立学校の教職員組合の連合体である。本件申立時における加盟組合数は約100で、組合も加盟している。

    被申立人Y1(以下「法人」という。)は、肩書地においてZ1のほか短期大学や幼稚園等を運営する学校法人である。

Z1は、法人を創立したY2が昭和36年4月に開設した女子高等学校である。Y2の子であるY3(以下「Y3校長」という。)が平成3年1月から法人の理事長を務め、17年4月からはZ1の校長も兼務している。なお、令和3年8月からは、Y3校長の子であるY4が理事長となっている。

   

2 事件の概要

法人は、法人が運営するZ1で有期雇用の常勤講師として勤務するX3に対し、同人に非違行為があったとして平成291129日及び30年2月26日の2回にわたり訓告書を交付した(以下、前者を「291129日付訓告書の措置」、後者を「30年2月26日付訓告書の措置」という。)。そして、2月27日、法人は、X3に対し、3月31日をもって雇用契約期間満了により雇用契約が終了する旨を通告し、3月31日、X3は雇止めとなった。

Z1で無期雇用の専任教諭として勤務するX4は、満60歳の誕生日を迎える31年2月19日に定年退職となることから、3011月9日、法人に対して継続雇用希望申出書を提出した。これに対し、法人は、1112日及び30日に、X4の継続雇用を拒否する旨を回答した。31年2月19日、X4は定年退職となった。

31年4月、法人は、Z1で無期雇用の専任教諭として勤務するX5、X6、X7、X8及びX9の5名の担当教科の授業時間数を前年度よりも減らし、不登校などにより教室で授業を受けることが困難な生徒のために設けられた特別教室である支援室の担当時間数を増加させた。

本件は、法人が、@X3に対して30年2月26日付訓告書の措置を行ったこと(争点1)、A30年3月31日にX3を雇止めにしたこと(争点2)、BX4を定年退職後に継続雇用しなかったこと(争点3)、CX5、X6、X7、X8及びX9の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したこと(争点4)が、それぞれ組合員であるが故の不利益取扱い及び支配介入に当たるかが争われた事案である。

 

3 主文の要旨 <全部救済命令>

 ⑴ 30年2月26日付訓告書の措置をなかったものとして取り扱うこと。

 ⑵ X3との雇用契約を30年4月1日以降更新したものとして取り扱い、同人を原職又は原職相当職へ復帰させるとともに、30年4月1日から原職又は原職相当職に復帰させるまでの間の賃金相当額を支払うこと。

 ⑶ X4を、31年2月20日付けで再雇用し、令和2年2月20日付け及び3年2月20日付けで雇用契約を更新したものとして取り扱い、同人を復帰させるとともに、平成31年2月20日から同人が復帰するまでの間の賃金相当額を支払うこと。

 ⑷ X5、X6、X7、X8及びX9の各担当教科の授業時間の割当てについて、非組合員と差別的な取扱いをすることにより、同人らを不利益に取り扱い、組合の運営に支配介入しないこと。

 ⑸ 文書の交付及び掲示

 

4 判断の要旨

 ⑴ X3に対する30年2月26日付訓告書の措置(争点1)

  ア 30年2月26日付訓告書の措置の各事由について

法人は、30年2月26日付訓告書の措置の対象事由として六つの事由を挙げている。しかし、六つの措置事由のうち五つについては、訓告書に記載されたX3の行為(対応)があったとは認められず、契約職員就業規則(29年度版)が定める「訓告書の措置」の事由があるとはいえない。また、残り一つの措置事由も、「訓告書の措置」とすることが相当であるとはいえない。

イ 30年2月26日付訓告書の措置に至るまでの経緯

法人は、30年2月26日付訓告書の措置の六つの措置事由について、2月23日の弁明の機会よりも前に、X3に対して事実を確認したり、指導や注意をしたりしていない。教員に問題行為があったと疑われる場合、学校としては、まずは当該教員に事情を聴き、事実関係の調査確認を行い、その結果、問題があったと認められるときには、当該教員に直接注意や指導をするのが通常であろうが、法人は、そのような過程を経ずに突然X3を「訓告書の措置」としており、法人の対応は不自然である。

また、法人は、訓告書を交付する3日前の2月23日に、何について聴くかも明らかにせずに突然弁明の機会を設けるとX3に通知し、その直後に弁明の機会を設け、さらにそこではY3校長が文書を読み上げただけで、X3の行為を記載した書面を同人に交付しなかった。これでは、X3が、自身のどの行為が問題とされているのかを十分に理解した上で意見を述べることは困難であり、弁明の機会は形式的なものでしかなかったといわざるを得ない。

以上のような法人の対応をみると、法人は、X3の対応に問題があると考えたためにその改善を求め「訓告書の措置」を出したのではなく、「訓告書の措置」を出すためにX3の過去の対応を持ち出して処分したと疑わざるを得ない。

ウ 労使関係

X3は、5年の組合結成当時から組合に加入し、長期間執行委員として活動していた。組合は、法人を相手方として複数の不当労働行為救済申立てを行い、X3個人も、法人を相手方として訴訟を提起しており、X3及び組合と法人とは、長期間にわたり係争関係にあり対立していたといえる。また、同じ当事者間で争われた不当労働行為救済申立手続や訴訟において、法人はX3などの組合員及び組合に対して不当労働行為を行ったと認定され、確定したものもあり、法人が組合に対し、長年にわたって不当労働行為を繰り返していたことは否定できない。

エ 小括

以上のとおり、30年2月26日付訓告書記載の六つの措置事由のうち五つについては、対象となるX3の行為(対応)があったとは認められず、残り一つについても、「訓告書の措置」とすることが相当とはいえないものであった。また、法人は、六つの措置事由についてX3に事実関係を聴取したり、指導、注意をしたりすることもなく、X3に与えた弁明の機会も形式的なものにすぎなかった。このように、「訓告書の措置」を出すまでの法人の対応は不自然であり、「訓告書の措置」を出すために、それまでは問題にしてこなかったX3の過去の言動を持ち出して処分したと疑わざるを得ない。加えて、組合が結成されてから法人が30年2月26日付訓告書の措置を出すまでの20年以上の長期に渡り、X3ら組合員及び組合と法人とが常に対立関係にあり、法人が組合及びX3を含めた組合員に対して不当労働行為を繰り返してきたことを考慮すれば、30年2月26日付訓告書の措置は、法人が、組合を嫌悪し、X3が組合員であることを理由に不利益に取り扱い、同時に組合の弱体化を企図して行ったものであったといわざるを得ない。

よって、法人が、X3に対して30年2月26日付訓告書の措置を行ったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

 ⑵ X3の雇止め(争点2)

ア 雇止め理由について

法人は、X3が@291129日付訓告書の措置及び30年2月26日付訓告書の措置の対象となった行為を行ったこと、A両「訓告書の措置」を受けたこと並びにB271022日から28年2月23日までの間の計15日間、午前8時30分から8時50分まで、管理職の指示に反してあじさい門近くで生徒に挨拶するなどの行為をしたことを理由に28年9月2日付訓告書の措置を受けたことが、本件雇用契約に規定している「契約を更新しない場合」に当たるため、X3を雇止めにしたと主張していることから、この点について検討する。

   () 「訓告書の措置」の対象となった行為を行ったこと    

291129日付訓告書の措置及び30年2月26日付訓告書の措置の対象となったX3の14の行為のうち11の行為については、法人の主張する事実があったとは認められず、残りの三つの行為についても、本件雇用契約の「契約を更新しない場合」に形式的に該当し得るとしても同人を雇止めにすることは相当とはいえない。

   () 291129日付訓告書の措置及び30年2月26日付訓告書の措置を受けたこと

     30年2月26日付訓告書の措置が不当労働行為に当たることは、前記⑴で述べたとおりである。また、X3に対する291129日付訓告書の措置は相当であったとはいえない。

したがって、X3が291129日付訓告書の措置及び30年2月26日付訓告書の措置を受けたことは、両「訓告書の措置」が相当なものとは認められないことから、本件雇用契約第1条「契約を更新しない場合」の「(26) 過去において懲戒処分・訓告書・注意書の処分を受けた者」に実質的には当たらない。

   () 28年9月2日付訓告書の措置を受けたこと

     28年9月2日、X3は、朝の挨拶活動をしたことを理由に「訓告書の措置」を受けている。朝の挨拶活動については、当時の契約職員就業規則(25年度版)第32条において禁止事項が定められ、8時30分から8時50分までの間に朝の挨拶活動をすることは禁止されていた。そうすると、X3が朝の挨拶活動を行ったことは、同契約職員就業規則に違反しており、「訓告書の措置」事由に該当し得る。

しかし、法人が契約職員就業規則(25年度版)に朝の挨拶活動を禁止する事項を規定したことは、就業規則改定の経緯も踏まえると、組合員が朝の挨拶活動を始めたことを嫌悪し、組合員を狙い撃ちして組合員の行為を制限するために行ったものと強く疑われる。このような就業規則の規定に基づく28年9月2日付訓告書の措置に合理的理由はなく、朝の挨拶活動を理由にX3を「訓告書の措置」とすることは相当ではない。

したがって、X3が28年9月2日付訓告書の措置を受けたことは、同措置が相当なものとは認められないことから、本件雇用契約第1条「契約を更新しない場合」の「(26) 過去において懲戒処分・訓告書・注意書の措置を受けた者」に実質的には当たらない。

イ 雇止めに至る経緯

    X3は、3年に採用されて以降、雇用期間を4月1日から3月31日までの1年とする雇用契約を毎年更新しており、30年4月1日に雇用契約が更新されていれば同年4月1日以降に無期転換申込権を行使することが可能であった。しかし、その前日である3月31日をもって雇止めになった。

法人は、雇止めの理由として、291129日付訓告書の措置及び30年2月26日付訓告書の措置の対象となった29年6月から11月にかけての14の事由と両「訓告書の措置」を受けたことを主張している。しかし、法人は14の事由について弁明の機会よりも前にX3から事実関係を確認したり、指導や注意をしたりするなどの対応を執っていなかった。それにもかかわらず、突然、11月と2月に「訓告書の措置」を続けて発出し、3月にはX3を雇止めにした。このような法人の対応は不自然であるといわざるを得ない。また、法人は28年9月2日付訓告書の措置を出したことも雇止めの理由として主張するが、29年3月の雇用契約更新の際にこの点を問題にしていた事実もうかがえないところ、30年3月になって、28年の「訓告書の措置」の発出を理由にして雇止めにするのは不合理かつ不自然である。

これらの経緯をみれば、法人は、組合員であるX3が無期転換申込権を行使する前に同人を雇止めとするために、必ずしも重大な問題とはいえないX3の行為をあえて取り上げて、同人を「訓告書の措置」とし、その上で同人を雇止めにしたと考えざるを得ない。

ウ 労使関係

X3及び組合と法人とは長期間にわたり対立関係にあり、法人がX3ら組合員及び組合に対して不当労働行為を繰り返していた。

エ 小括

   以上のとおり、X3は、法人と長年対立関係にある組合の組合員であり、個人としてもZ1における待遇改善等を求めて法人を相手に訴訟を提起していた。そのX3に、雇用契約が更新されれば無期転換申込権が発生することになる契約更新の直前のタイミングで、法人は、「訓告書の措置」を出すべき事情が認められないにもかかわらず、それまでX3に事実確認や指導等をしてこなかった同人の必ずしも重大な過誤とはいえない行為を取り上げて同人を「訓告書の措置」に付し、その上で、同人が「訓告書の措置」を受けたこと等を理由に雇止めとした。かかる経緯からすれば、法人は、組合員であるX3を嫌悪し、同人が無期転換申込権を行使して無期雇用の教員となる前にZ1から排除し、同人や組合の影響力を弱体化させるために同人を雇止めにしたとみざるを得ない。

したがって、法人が30年3月31日をもってX2を雇止めとしたことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

 ⑶ X4の継続雇用拒否(争点3)

ア 継続雇用拒否の理由について

法人は、X4に解雇事由に相当する五つの事由があることを理由に同人の継続雇用を拒否したと主張している。しかし、各事由を継続雇用拒否の事由とすることに合理的理由は認められない。          

イ 継続雇用拒否に至る経緯

    法人が、他の教員の場合とは異なり、X4については継続雇用を拒否し、その拒否の理由も変遷し、解雇事由を明らかにするように組合から要求されても回答しない、という不自然な対応をしている経緯をみると、法人は、X4に解雇事由があるから継続雇用を拒否すると判断したのではなく、同人の継続雇用を拒否するために解雇事由があると組合に回答したものと疑わざるを得ない。

ウ 労使関係

X4は、5年の組合結成と同時に組合に加入し、以後、組合の執行委員を務めるなどして組合活動を行ってきた。組合は、法人を相手方として複数の不当労働行為救済申立てを行い、X4個人も他の組合員と共に、法人を相手方として複数の訴訟を提起しており、X4及び組合と法人とは、長期間にわたり係争関係にあり対立していたといえる。そして、法人は長年にわたって不当労働行為を継続しているといえる。

エ 小括

    以上のとおり、法人は、組合員であるX4から継続雇用の申出がなされると、従前は専任教諭から継続雇用の申出があれば拒否したことがなかったにもかかわらず、過去の「訓告書の措置」発出の事実等を持ち出して継続雇用を拒否した。拒否する過程では、法人の説明が変遷したり継続雇用拒否の事由を明らかにしなかったりするなど不自然な対応をし、本件手続で法人が主張した継続雇用拒否の事由で「訓告書の措置」又は戒告の懲戒処分の対象となった行為も、継続雇用拒否の事由としては合理的理由が認められないものであった。加えて、X4を含む組合員及び組合と法人が長年対立関係にあり、法人が不当労働行為を繰り返していることも考慮すると、法人がX4の継続雇用の申入れを拒否したのは、組合員である同人を嫌悪し、同人をZ1から排除し、同人や組合の影響力を排除するためであったといえる。

したがって、法人がX4を継続雇用としなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

 ⑷ 31年度の担当教科の授業時間数の削減(争点4)

ア 30年度及び31年度に教科を担当していた教員31名について、担当教科の授業時間数の増減を見てみると、組合員5名全員が31年度の授業時間数が前年度に比べて減少しているが、組合の組合員でない教員も14名は授業時間数が減少している。しかし、総じて組合員は他の教員に比べて担当教科の授業時間の減少数が多いといえる。

イ さらに、支援室2の割当てを見てみると、支援室2の時間数は、30年度は15単位であったにもかかわらず、31年度は34単位まで増加しており、そのうち26単位はX5、X7、X6、X9の組合員4名に、残りの8単位は非組合員の再雇用教員1名に担当させている。この点について、法人は、生徒へより手厚い支援をするために支援室2の設置時間を増やし、特に経験豊かな教員を支援室2に充てたと主張する。しかし、実態として支援室2はほとんど稼働していなかったといえる。そうだとすれば、ほとんど稼働する可能性のない支援室2の34単位もの時間を、経験豊かな教員であると法人が主張する組合員4名及び再雇用教員1名だけに担当させる必要性があったとも認められない。

そして、支援室2の担当となった教員は、対象の生徒がいないときには特段業務はなく、支援室2を担当する時間は自身の職員室で待機することになっていた。このような実態からすれば、教員に支援室2を割り当てるということは、その時間は生徒指導を行わず職員室に待機しているように命じるのとほぼ同じであるといえ、法人が支援室2の時間数を増やしその多くを組合員4名に割り当てたのは、生徒により手厚い支援をするためではなく、組合員が生徒と接する機会を減らすために行ったものであったと考えざるを得ない。

ウ そして、X5、X6、X7、X8及びX9は法人を相手方として複数の訴訟を提起しており、組合も法人を相手方として複数の不当労働行為救済申立てを行っており、X5、X6、X7、X8、X9及び組合と法人とは、長期間にわたり係争関係にあり対立していたといえる。また、法人は長年にわたって不当労働行為を繰り返していたといえる。

エ 以上からすると、法人が、組合員の担当教科の授業時間数を前年度から減らしたことは、組合員を嫌悪し、組合員が生徒と接する機会を減らすために行ったものと認められる。教員にとって、生徒と接し、授業を行い、生徒指導をすることは、重要な教育活動であり、組合員からこの教育活動の場を奪うことは、組合員を不利益に取り扱い、組合の弱体化を図るものであるといえる。

よって、法人が、X5、X6、X7、X8及びX9の31年度の担当教科の授業時間数を前年度のそれから削減したことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たる。

 ⑸ 救済方法

   本件における一切の事情を総合的に考慮すれば、X3が雇止め後に就労したことにより得た賃金及びX4が退職後に就労したことにより得た賃金については、法人が支払うべき賃金相当額からこれを控除しないのが相当である。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     平成301218

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年11月2日

⑶ 命令書交付日    令和3年12月9日