【別紙】

1 当事者の概要

⑴ 被申立人会社

被申立人会社は、主として、一般住宅の畳や襖の製作、配送などの工事全般を行っており、主に東京近郊に15店舗を擁している。

会社は、当初は、雇用契約を結んだ職人に畳の製作業務等を行わせていたが、職人の意識改革が必要であるなどとして、遅くともX2が会社と取引を始める12年頃までに、業務のほとんどを下請業者に発注するようになった。

会社は、平成3010月当時、33の下請業者を擁し、その内訳は個人事業主が28名、株式会社が2社、有限会社が2社、合同会社が1社であった。個人事業主のうち10名は一人親方であるが、18名は更に下請業者等(会社から見た場合の孫請業者等)を活用しており、中には26名の下請業者を抱える個人事業主も存在する。下請業者と孫請業者が、会社の畳や襖の製作、配送等の業務のほぼ全てを行っている。

 ⑵ 申立人組合

申立人組合は、業種を問わず東京都三多摩地区を中心とする企業に雇用される労働者で組織されるいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員は約200名である。

⑶ X2とX2の下請業者(以下「X2の孫請業者」という。)

X2は、12年から会社と畳の製作等に関する下請取引を開始し、自らも下請業者を活用するようになり、その員数は、27年時点で15ないし17名、3010月時点で9名となっていた。

なお、X2は、19年、申立外株式会社X2組を設立したが、22年3月31日に解散させ、その後は、個人事業を営むようになった。

22年4月1日、会社とX2とは、下請取引基本契約を締結し、同契約に基づき締結された賃貸借契約により、X2は会社から下請業務に必要な機械等を賃借し、機械等が設置された会社の店舗内の作業スペースで畳、襖等の製作を行っている。

⑷ X3親子とX4

X3は、襖や障子の製作を下請している個人事業主である。X3は、その子を下請業者として抱えている。X3は、27年8月まで会社のC1店からの業務を受注していたが、C1店閉鎖後は、会社の意向によりC2店からの業務を受注し、C2店の作業場で襖等の製作に従事するようになった。

X4は、C3店で、襖製作等の業務を下請し、少なくとも1名の他人労働力を抱えている。

X3、X4のいずれも、会社との間で、X2と同様の下請取引基本契約と賃貸借契約を締結し、両名は、会社から必要な機械等を賃借し、その機械等が設置された店舗内の作業スペースで作業を行っている。

 

2 事件の概要

27年8月、X2やX3は会社からの業務を受注していたC1店が閉鎖され、他店舗で業務を行うこととなった。

28年6月、会社がC1店の配送業務の請負業者募集広告を出し、畳等の製作業務も他の下請業者と契約したことから、X2、X2の孫請業者、X3親子、X4らは、C1店閉鎖がX2、X3らが構成員だった申立外A労働組合の組合員排除のために行われたと考え、1018日、A労働組合は会社に団体交渉を申し入れた。しかし、会社は、組合員は労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者に該当しないなどとして、これに応じなかった。

29年7月8日、A労働組合は、申立人組合の分会となり、9月13日以降、会社との話合いが行われたが、会社は、これを団体交渉ではないと主張するなどした(以下、組合と会社とで持たれた話合いを「労使協議」という。)。

本件は、X2、X2の孫請業者、X3親子及びX4が、会社との関係で、労組法上の労働者といえるか否か(争点1)、労組法上の労働者といえる場合、会社が、@27年8月のC1店閉鎖後、A281018日の団体交渉申入れの後、B29年9月13日の第1回労使協議の後、C30年2月14日の労働基準監督署への申告の後、D30年4月20日及び5月26日のストライキの後、E会社の31年2月26日付「ご連絡」交付の後に、組合員であるX2及びX2の孫請業者並びにX3親子に発注する業務量を減少させたことが、同人らの組合活動を理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たるか否か(争点2)、組合が29年7月13日付け、9月11日付け及び30年2月7日付けで行った団体交渉の申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉拒否ないし不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点3)が争われた事案である。

 

3 主 文 <棄却命令>

本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

⑴ X2、X3及びX4の労働者性

X2、X3及びX4は、会社との間で下請取引基本契約を締結しているが、労組法上の労働者性が認められるかは、その実態に即して客観的に判断する必要がある。

そして、その該当性の判断は、労組法の趣旨に照らし、下請事業者の業務実態に即して、@事業組織への組入れ、A契約内容の一方的・定型的決定、B報酬の労務対価性、C業務の依頼に応ずべき関係、D広い意味での指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束、E顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。

ア 事業組織への組入れ

会社は、畳、襖等の製作、配送業務を主たる業務としているところ、ごく一部をC1店で自社の従業員により行うこともあるが、ほとんどの業務を、会社と下請取引基本契約書を締結した下請業者に発注している。各店舗の業務がどの下請業者に発注されるかは、おおむね決まっており、1店舗のみから受注する下請業者もいれば、複数店舗から受注する下請業者もいる。そして、会社からの業務を受注した下請業者は、下請業者であることを明記したネームプレートを装着することが下請取引基本契約で定められており、実際に、X2らは、配送業務の際に会社の名前や会社への発注事業者の名前が入ったネームプレートを着用していた。また、張り替えについては、通常中1日又は2日での製作となるから、会社から、常時まとまった量の発注があれば他社の業務を引き受けるのは容易なことではなく、X2やX3は、会社が発注する業務以外の仕事を行っていなかった。X2らが会社に発注した案件についても、X2らは会社から利益を得ておらず、会社に顧客を紹介した関係があるにすぎない。

そうすると、会社は、下請業者を、量的にも質的にも不可欠かつ枢要な役割を果たす労働力として事業組織内に位置付け、下請業者の活用による中核業務の外製化を事業モデルとしていたといえる。

しかし、一方で、会社の下請取引基本契約は、下請業者が孫請業者などの他人労働力を利用することについて会社の承諾を得ることを求めていたが、実態としては、会社はこれにほとんど関与せず、下請業者の事業規模の拡大や縮小は下請事業者のほぼ自由な意思に任されている。X2が受注店舗からの撤退を通告した際も、紛争状態にあったとはいえ、会社はX2に翻意を促すことなく、従業員で対応する措置を執っている。これらは、労働力の管理という点で事業組織への組入れを弱める事情とみることができる。

イ 契約の内容の一方的・定型的決定

各店舗の業務がどの下請業者に発注されるかはおおむね決まっているところ、各下請業者がどの店舗の業務を受注するかについて、会社がこれを一方的に決定していたと認めるに足りる証拠はない。

しかし、下請取引基本契約は会社が作成した定型的な内容となっており、下請業者に支払う報酬の単価表も、また、単価表にない業務の報酬額も、下請業者との間で協議が行われることがあるにせよ、基本的には会社の提示額で決定されているものといえる。その結果、X2は、単価の引下げ等を不服として、訴訟で、会社に対し、単価引下げ分の支払を請求している。

そうすると、会社と下請業者との契約の内容は、おおむね、会社が一方的、定型的に決定しているということができる。

  ウ 報酬の労務対価性

会社が下請業者に対して支払う報酬額は、業務の内容に応じて決められており、会社が下請業者に対して、報酬の最低保障額を定めていたとか、時間外手当や評価に基づく報奨金等に類するものを支払っていたという事情は存在しない。会社が下請業者に発注する業務は、主として、一般住宅の畳や襖等の製作、配送であり、かかる業務の報酬は、単価表において業務の内容ごとに定められた単価に基づいて計算されている。一般住宅の畳や襖の製作、配送は、それに費やされる労働力量は一定量が想定され、単価も定量的に定められると考えられるので、単価表は労務対価的な色彩が濃いものといえる。その他の特殊な畳、襖等の製作や張り替え、クレーム対応といった業務について定量的な単価表がないのは当然のことでもあるが、これについて、十分な交渉により報酬額が決定されていたとまでの事情はうかがえない。

しかしながら、会社は、契約上においても、また実態においても、下請業者に労務の提供を義務付けていない。また、下請業者は、孫請業者などの他人労働力を利用したとき、会社から一括して支払われる報酬をどのように分配するかは自由で、会社はこの点についても全く関知していない。その結果、X2は、自己の報酬、孫請業者に対する分配方法、分配額を自由な裁量で決定していた。

これらの点を総合すると、本件下請契約に基づき下請業者に支払われる報酬の労務対価性は、かなり希薄であるといわざるを得ない。

  エ 業務の依頼に応ずべき関係

会社からの下請業者に対する業務発注量は、景気の動向や時期等により増減があるところ、X2は、緊急要員を確保するなどして、発注量をこなす体制を整えていた。緊急要員の確保は、会社から求められていたものではなく、むしろ、下請としての業務拡大の一要素となるから、そのような備えをするか否かは、正に経営判断である。

他方でX2は、本件紛争発生後、新規の製作は高額なクレーム対処費のリスクが大きすぎるとして、業務の受注を取りやめ、さらに、発注量が減少したとしてC4店等から撤退した。これに対して、会社は、新規製作の業務の拒否に対し、それ以外の業務の発注をその時点で打ち切ることはしていないし、C4店等からの撤退についても滞りなく業務が遂行できるよう対応を講じている。

このような事情に鑑みると、X2は、会社との交渉において、自己の労働力とX2の孫請業者の労働力をどこまで会社に提供するかという選択がある程度可能であったと考えられ、会社からの業務の依頼に応ずるか否かの裁量を一定程度、有していたと認められる。

オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

 () 組合は、現在も各マニュアルが使用されていると主張するところ、各マニュアルが撤廃されたことを明確に裏付ける証拠はないが、本件手続において証拠提出されたマニュアルの作成日付は17年のものであり、28年開催の下請事業者安全大会の資料はこのマニュアルに言及していない。そうすると、会社としては既に撤廃したマニュアルを、下請業者が孫請業者等の指導のために事実上使用していたという可能性も考えられないではない。

加えて、各マニュアルは、各業務の個別具体的な作業手順を定めたというよりも、業務ごとの基本的な注意点、心構え、接客態度といった顧客に対するマナーや一般的な留意事項が中心で、各マニュアルが下請業者に裁量的な業務遂行を許さない強固な指示、指導等を加えているとまではいい難い。また、各店舗の事務員が、X2が受注した業務の進行管理を超えて、業務内容についての指示、指導等をしていたといった事実も認められない。

 () 会社から下請業者への業務発注は、夕方以降、各店舗において下請業者ごとに伝票がまとめられ、少なくとも、受注件数の多かったX2は、X2の孫請業者の一日の予定業務が終了した後も、翌日の業務の確認とX2の孫請業者間の業務の割り振りのため、X2の孫請業者を各店舗に待機させ、又は時には自らが待機していたのが実態であり、こうしなくては、業務を円滑に遂行できなかったといえる。

しかし、X2は、X2の孫請業者が業務を行う店舗を、自らの裁量で指定し、そのX2の孫請業者間でも融通を利かせ業務の割り振りをしていたのであるから、業務の中核部分での時間的拘束性は、緩やかだったといえる。

また、下請業者は、店舗内の作業スペースで業務を行うが、これは下請業者が、会社が作業スペースに備え付けた機械等を賃借して下請業務を遂行すること、事務所と作業所が隣接していることによる作業効率の向上が考慮されての結果によるものであり、会社の管理監督という観点からの場所的拘束とはその趣は異なる。

 () そうすると、時間的場所的な拘束は一定程度認められるとしても、X2やX2の孫請業者が会社の指揮監督下で労務を提供しているとみるのは困難である。

カ 顕著な事業者性

前記イのとおり、各下請業者がどの店舗の業務を受注するかについては、会社がこれを一方的に決定していたとまでは認められない。また、下請業者自らが労務を提供する必要はなく、良質な孫請業者等の活用により受注額を増大させることが可能で、また、受注店舗から撤退してもペナルティーを科せられることはなかった。他人労働力の利用については下請業者の自由な裁量に委ねられていたから、下請としての事業の拡張・縮小は下請業者の経営判断に広く委ねられていた。実際に、会社の下請業者は、一人親方から、20名以上の孫請業者を抱える個人事業主、法人(株式会社、有限会社、合同会社)と多種多彩なものとなっており、こうした下請システムの中で、X2は20名以上、X3は1名、X4は少なくとも1名の孫請業者等を利用して会社からの業務を受注していた。そして、会社かX2に支払われた報酬についてみると、とりわけ26年から28年にかけては1億円を超える規模であった。

さらに、会社は、下請業者に会社との専属契約を締結することも義務付けてはいない。会社に専属して事業を拡大するか、また、複数の元請と契約するかも自由な経営判断によることとなる。

加えて、孫請業者を抱えた場合の報酬分配方法にも裁量権があることは既述のとおりである。その結果、X2にあっては、会社から支払われた報酬をX2の孫請業者に分配するに際し、多い場合は報酬の21%もの額を拠出金として差し引いており、会社からの報酬の17%以上の拠出金を、X2の倉庫代、工具代、通信費の支払に充てていたほか、X2の孫請業者が計算した自分が得られるとする報酬額と会社が計算した当該孫請業者が行った業務に対応する報酬額とが合わない場合の差額の調整に用いていた。また、この拠出金の一部を自らの収入としたり、業務量が少なく生活に困る孫請業者に貸付けを行うなどしていたし、会社の担当部長と業務の受注の有無、条件について一定の交渉力も有していた。

このような会社の下請システムの実態に照らすと、会社の下請業者は高度に事業者性を発揮することが保障され、また、実際に発揮することが可能な状況の中で下請業務を行っていた。したがって、X2、X3及びX4の事業者性は顕著であると評価することができる。

  キ 小 括

以上のとおり、本件での主張及び提出された証拠からすると、X2、X3、X4ら下請業者は、会社の事業モデルに組み込まれていたが、報酬の労務対価性は希薄なもので、孫請業者等を活用することにより自ら受注量を調整することが可能で、受注内容に従った納期等の時間的な拘束はあったにせよ、受注した業務を孫請業者等との間で自由に割り振りして時間を調整する自由もあり、受注しない自由もあった。また、会社からの報酬がこの種の業種の労働者の賃金と比較して低額といった事情もなく、自己の経営判断で活用した孫請業者等に対する報酬の分配方法について、会社から何の干渉を受けていなかった。

以上のような諸事情を総合的に考慮すると、X2、X3及びX4が、会社との関係で、労組法上の労働者に当たるとするのは困難である。

⑵ 会社のX2の孫請業者及びX3の子に対する使用者性

ア 組合は、X2の孫請業者やX3の子と会社との間に契約関係はないが、同人らは、X2やX3と同様の条件で会社からの業務を行っているのであるから、同人らの使用者は会社であり、下請業者と同様に労組法上の労働者性が認められると主張している。

確かに、配送伝票の中には特定のX2の孫請業者を指名しているとみられるものもあるが、このような伝票は、数としては少数かつ例外的であることがうかがわれる。孫請業者は、会社店舗の作業場で作業するものであるが、前記判断のとおり、会社からの業務に関する指示、時間的、場所的拘束性は顕著なものではない。X2の孫請業者は、孫請業者間で業務を自由に割り振りし、時にその割り振りもX2の指示に従って行われており、X3の子はX3との協議により決定していることが認められる。

また、報酬も、会社から下請業者に支払われ、会社は、その金額が下請業者と孫請業者、あるいは孫請業者間でどのように分配されるか全く関知していない。

したがって、X2の孫請業者とX3の子の業務を支配、管理しているのはX2やX3であり、会社は孫請業者等の業務内容やその条件について部分的にも支配、管理を及ぼしているとはいえない。

したがって、会社は、X2の孫請業者やX3の子との関係において、労組法上の使用者とは認め難いのであるから、本件において、X2の孫請業者やX3の子の労組法上の労働者性を論ずるまでもない。

 ⑶ その余の争点

以上のとおり、X2、X3及びX4は、会社との関係で労組法上の労働者であるとは認め難く、また、会社は、X2の孫請業者及びX3の子の使用者ともいい難いのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件で不当労働行為が成立する余地はない。

 

5 命令書交付の経過 

 ⑴ 申立年月日     平成291128

 ⑵ 公益委員会議の合議 令和3年10月5日

 ⑶ 命令書交付日(発送)令和3年1110日(8日発送)