【別紙】

 

1 当事者の概要

   申立人X1(組合)は、肩書地に事務所を置き、企業の枠を越えて組織されるいわゆる合同労組として、平成22年4月25日に結成された。本件申立時である令和元年10月現在の組合員数は317名である。

   申立人X2(支部)は、肩書地に事務所を置き、法人の運営する大学の非常勤教員(英語を母国語とする外国人)らによって、組合の下部組織として元年7月に結成された。本件申立時の組合員数は17名である。

   被申立人Y1(法人)は、肩書地に本拠地を置き、Y2(幼稚園、中学校・高等学校、大学、大学院等)を運営する学校法人である。2年5月現在のY2の教職員数は、専任と非常勤等を併せて約1,335名である。

⑷ 法人には、組合らのほかに、組合員数約40名の労働組合と、組合員数約70名の労働組合がある。

 

2 事件の概要

令和元年7月8日、法人の運営するY3の非常勤教員らは、法人がZ1の英語プログラムを外部委託すると知り、同月10日、外部委託による雇止めや担当コマ数の減少を危惧して組合に加入するとともに、支部を結成した。

9月25日、組合らは、法人に対し、組合ら側出席人数を20名、使用する言語を英語として、本件外部委託に係る団体交渉を申し入れ、10月2日、法人は、組合ら側出席人数が若干名で、使用する言語が日本語であれば、10月9日に団体交渉を行うと回答した。

10月8日、組合らは、法人に対し、@組合ら側は5名が出席し、A団体交渉開催場所に支部組合員の傍聴席を設ける、B第1回団体交渉は日本語で行うが、以後使用する言語については議題とすることを提案した。しかし、法人は、傍聴席の設置に応ぜず、また、団体交渉ルール(団交ルール)が決まっていないとして、10月9日の団体交渉を中止とした。

その後、組合らは、10月9日付及び23日付文書において、速やかに本件団体交渉申入れに応じて、その交渉の中で団交ルールについても協議するよう求めたが、法人は、同月15日付及び25日付文書により、団交ルールが整えば応ずるなどとして、団体交渉に応じていない。

本件は、法人が、本件団体交渉申入れに対し、団交ルール(出席人数及び使用言語)について合意に至っていないなどとして応じていないことが、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文の要旨<全部救済命令>

⑴ 法人は、令和元年9月25日付けで組合らが申し入れた団体交渉について、出席人数に係る団交ルールについて合意に至っていないことを理由に拒否してはならず、誠実に応じなければならない。

⑵ 法人は、令和元年9月25日付けの組合らの団体交渉申入事項である英語プログラムの外部委託については義務的団体交渉事項には当たらないこと及び非常勤教員の労働条件への具体的影響が決まっていないことを理由に拒否してはならず、誠実に応じなければならない。

⑶ 文書交付

⑷ ⑶の履行報告

 

4 判断の要旨

⑴ 団交ルールについて

ア 本件において、法人は、団交ルールについて合意に至っていないことを理由として、団交ルールを議題とすることも含めて本件団体交渉申入れを拒否していることから、このような法人の対応に正当な理由が認められるかについて、以下判断する。

イ 出席人数について

() 組合らは、全ての組合員が団体交渉に出席する必要があると主張する。

団体交渉は、労働者の集団と使用者とが代表者を通じて交渉や取引を行う手続であるから、この主張をそのまま採用することは困難であるが、組合らは、いわゆる大衆交渉を求めていたわけではないし、組合員全員が団体交渉に交渉員として出席することに固執していたわけでもない。

また、支部組合員が団体交渉に出席することで、交渉内容(日本語から英語への通訳の内容を含む。)について随時疑問点等の確認が可能となり、交渉をより合理的に進められるという事情があることもうかがわれる。

そして、法人が保有する施設の概要からみて、法人には収容人数の多い団体交渉の開催が可能な場所がなかったとは考えられず、本件審査手続を通じて法人からその旨の指摘もなかった。

() 法人は、出席人数を決めずに団体交渉を行った場合には、組合らが騒動を起こし、法人の教職員に危害を及ぼす具体的な危険があったと主張する。

しかし、法人の教職員に危害を及ぼすような事態であったとまでは認められず、組合らが、代表者5名が交渉に直接参加し、代表者以外の残り15名は傍聴のみとする譲歩案を提示している一方で、法人はそのような人数では開催可能な場所がないとの指摘もしていないこと等も考慮すれば、出席人数に係る団交ルールを事前に設定しなければ秩序のある団体交渉を開催できない状況であったとまではいえない。

() 法人は、他の労働組合との間では、出席人数を5名程度とし、傍聴を認めていないから、組合らの主張する団交ルールを認めることは、使用者としての中立保持義務違反に当たるとも主張する。

確かに、使用者は、複数組合併存下においては、各労働組合を平等に取り扱うことが求められる。しかし、団交ルールは労使の合意で決定するのが本来であり、組合らと法人との間では、出席人数に係る団交ルールは合意されていないのであるから、中立保持義務があるからといって、他の労働組合との間の団交ルールを、一方的に組合らとの間に適用できるわけではない。法人は、団交ルールを議題とする団体交渉に応じた上で、他の労働組合との間では出席人数を5名程度とし、傍聴を認めていない事情やその理由等を説明し、組合ら側に他の労働組合にはない特有の事情等があればそれにも配慮するなどして、合意に向けた努力をする必要があったというべきである。

ウ 使用言語について

使用言語についても、事前に設定しなければ秩序ある団体交渉を開催できなかったとまではいえない。

法人は、支部組合員は、授業も法人との業務的なやり取りも日本語で行っていることや、母国語が日本語でない組合員のいる他の労働組合とも日本語で団体交渉を行っていることなどから、使用言語を英語とする必要はなく、日本語とすべきであると主張する。

しかし、組合らと法人との間では、使用言語に係る団交ルールは合意されていないのであるから、法人が使用言語を日本語にすべきという主張を持っていたとしても、団交ルールを議題とする団体交渉に応じた上で、組合らとの合意に向けた努力をする必要があったというべきである。

エ 以上のとおり、組合らと法人との間では、出席人数と使用言語に係る団交ルールの合意がなかったところ、団交ルールを事前に設定しなければ秩序のある団体交渉が開催できないような具体的な事情は認められない。

そして、法人は、組合らが譲歩案を提示していたにもかかわらず自らは一切譲歩せず、団交ルールが整えば団体交渉に応じるなどとして、団交ルールを議題とする団体交渉にも応じようとしなかったのであるから、法人が団体交渉を拒否したことに正当な理由があったということはできない。

⑵ 義務的団体交渉事項等について

ア 法人は、組合らの交渉事項のうち、本件外部委託の決定の経緯については、経営事項であって義務的団体交渉事項ではないと主張する。

しかし、組合らが、組合員の労働条件への影響に関連する範囲で本件外部委託の内容と決定の経緯等の開示を求めていたことは明らかであるから、組合らの要求事項は義務的団体交渉事項に当たるというべきである。

イ 法人は、本件団体交渉申入れ時、本件外部委託による本件非常勤教員の労働条件への具体的影響が決まっておらず、法人の方針も定まっていなかったため、具体的な内容について交渉を行うことは困難であったとも主張する。

しかし、仮に、本件外部委託が本格実施前であり、公式には発表していなかったとしても、少なくとも、元年7月の大学の学長室会議において、「導入決定」が承認される段階には至っていた。そして、ニュースレターによって本件外部委託のことを知った本件非常勤教員らが、それによって雇止めや担当コマ数の減少等の問題が起きるのではないかと危惧するのも当然のことである。それゆえ、本件非常勤教員の雇用や賃金に影響が及ぶ可能性が否定できない以上、本件外部委託に係る組合らの上記申入れが義務的団体交渉事項に当たることは明らかである。

こうしたことからすると、本件非常勤教員らを組織する組合らが団体交渉を申し入れた以上、本件外部委託について具体的な方針は定まっておらず、本件非常勤教員の労働条件への具体的な影響(雇止めや担当コマ数の増減等)までは明らかになっていなかったとしても、法人は、団体交渉に応じて、その時点で回答できる範囲内で、本件外部委託の導入スケジュール、組合員の労働条件に与える影響の見通し、具体的に雇止めの有無や担当コマ数の減少が明らかになる時期の見通し、本件外部委託以前の外部委託の状況等を説明するなどして、組合らの雇止めや担当コマ数の減少等に係る不安の解消に努める必要があったというべきである。

したがって、法人が、可能な範囲内での説明をする努力をせずに、具体的な内容について交渉を行うことが困難であるとして団体交渉そのものを拒否することに、正当な理由は認められない。

⑶ 結論

以上のとおり、法人が、本件団体交渉申入れに対し、団交ルール(出席人数及び使用言語)について合意に至っておらず、また、団体交渉申入事項である英語プログラムの外部委託について、決定の経緯は義務的団体交渉事項には当たらない、非常勤教員の労働条件への具体的影響が決まっていないとして応じていないことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。

 

5 命令書交付の経過

⑴ 申立年月日     令和元年1028

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年4月20

⑶ 命令書交付日    令和3年5月26