【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、地域スタッフ等が結成した労働組合であり、本件申立時の組合員数は約60名、そのうち放送受信契約の締結・変更の取次等の業務について協会と委託契約を締結している地域スタッフは約50名である。

⑵ 被申立人協会は、受信者からの受信料を財源として運営されている特殊法人であり、本件申立時の地域スタッフ数は約900名であった。

   

2 事件の概要

協会は、地域スタッフに取次業務の目標数を提示し、実績が基準(目標数の一定割合)に達しない場合に協会職員が帯同して指導するなどの特別指導を実施していたが、平成16年頃、協会職員の不祥事により地域スタッフの業績が悪化したため、16年8月から18年3月までの間、特別指導を原則実施しなかった。18年度以降、協会は、特別指導を再開したが、業績回復の状況に地域差がみられたことから、基準となる地域スタッフの目標数に、所属する放送局等の地域スタッフの取次数の達成率(おおむね40ないし80パーセント程度)を乗じ、基準を下げて運用した。

3012月4日、申立外Z労働組合との団体交渉において、協会は、上記運用に全国平均値を一律の下限値として導入することを提案した。その後、協会が導入の半年間延期などの提案をし、12月7日、Z組合は、下限値の導入を受け入れた。

31年3月20日、協会は、組合に下限値の導入を通知し、4月1日には全地域スタッフに通知した。組合と協会とは、4月18日及び5月21日に団体交渉を実施したが、組合が交渉で導入を中止する可能性があるかと尋ねると、協会が下限値の導入を実施する旨を回答したことから、組合がこれ以上交渉しても無駄だと述べて団体交渉を打ち切った。

本件は、⑴協会が、組合に対して特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉について、他の労働組合と異なる取扱いをしたか否か、取扱いが異なる場合、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)、⑵協会が特別指導の基準ないし運用方法について、組合との団体交渉前に、組合員に対して説明したことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)、⑶特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉における協会の対応は、不誠実な団体交渉及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)が、それぞれ争われた事案である。

 

3 主 文(一部救済)

⑴ 協会は、組合への特別指導の基準ないし運用方法に関する提案の時期及び組合員への通知前に団体交渉の機会を与えることにつき、他の労働組合と異なる取扱いをしないこと。

⑵ 文書交付(要旨:組合との特別指導の基準ないし運用方法に関する団体交渉について、他の労働組合と異なる取扱いをしたこと及び組合との団体交渉前に組合員に対して説明したことは、不当労働行為と認定されたこと。今後繰り返さないよう留意すること。)

⑶ 前項の履行報告

⑷ その余の申立ての棄却

 

4 判断の要旨

⑴ 協会は、下限値の導入について、3012月にZ組合と団体交渉を実施し、半年間延期することなどを提案し、同意を得ている。一方、協会は、組合に対しては、Z組合との団体交渉から3か月以上経過した後、地域スタッフ全員へ説明をする31年4月1日の直前の3月20日に通知した。

組合員の委託契約に関わる重大な事項であるから、協会は、組合に対しても、時間を置かずに同内容の提案を行い、団体交渉を行う機会を与える必要があったというべきであり、協会が3か月以上遅れて組合に通知したのは、Z組合と異なる取扱いをしたものといわざるを得ない。

組合は、Z組合のように決定前の段階で団体交渉を行い、組合の意見を事前に反映させることはできなかったのであるから、適切な時期に団体交渉を申し入れて交渉を行う機会を奪われるなど組合活動に影響を受けたといえる。

したがって、協会が、組合に対して特別指導の基準ないし運用に関する下限値の導入の提案時期についてZ組合と異なる取扱いをしたことは、組合運営に対する支配介入に当たる。

 ⑵ 組合への通知は、組合員への説明の前ではあるが、協会が地域スタッフ全員に対し説明するまでの期間は10日余りしかなく、組合がその通知を受けてから、組合員の意見をまとめ、対応等を検討するなどの十分な時間を持てたといえるかは疑問である。実際に、組合は、組合員への説明前に団体交渉を実施することはできなかった。

協会が、31年3月20日よりも早い時期に通知ないし提案を行うことが困難であったとの事情は認められず、協会がそうした措置を講じなかったことは、組合において、組合員に対して説明する前に下限値の導入という特別指導の基準ないし運用方法の変更に関与する機会を奪ったものであるといわざるを得ない。

したがって、協会が団体交渉前に組合員に対して説明したことは、組合運営に対する支配介入に当たる。

⑶ 協会は、下限値の導入理由などについて、相応の説明を行っていることが認められる。そして、協会は、下限値導入の撤回には応じていないが、今年はまずはやってみて毎年検討していくと述べており、少なくとも導入後に内容を変更することには柔軟な姿勢を示している。また、協会は、何かあれば交渉はいつでも受けるとも述べており、団体交渉を行っても一切内容を変更する余地のない頑なな姿勢であったとまではいえない。

  したがって、協会の対応が、不誠実な団体交渉又は組合運営に対する支配介入に当たるということはできない。

 

5 命令交付の経過 

    申立年月日     令和元年8月21

   公益委員会議の合議 令和3年6月1日

   命令書交付日    令和3年7月15