【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人X1(以下「組合」という。)は、平成9年11月に結成された、会社の従業員が組織する労働組合で、本件申立時の組合員数は808名である。

⑵ 被申立人Y1(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、総菜、弁当、ハム、寿司などの製造販売を行っている株式会社である。本件申立時の従業員数は1,543名である。

 

2 事件の概要

会社の従業員で組織する組合と会社とは、いわゆるユニオンショップ協定や休職扱いで組合専従者を置くことを認める規定等を含む平成27年6月30日付労働協約(以下「本件労働協約」という。)を締結した。

 令和元年6月3日、会社は、当時の組合中央執行委員長で、組合専従者であったX2に対し、専従期間中に組合財産を私的に流用していたことを理由として、休職を解いた上で懲戒解雇とした。

組合は、会社に対し、6月24日付「団体交渉の申し入れ書」(以下「6月24日付申入書」という。)により未払残業代等に係る団体交渉を申し入れた(以下「本件団体交渉申入れ」という。)。これに対し、会社は、6月24日付申入書は中央執行委員長X2の名義で作成されているが、同人は解雇に伴い、従業員としての身分並びに組合の組合員及び中央執行委員長としての身分を失っているため、同申入書が組合の意思を反映した文書であると認められず、内容への回答は不可能である旨を記した6月26日付「『団体交渉の申し入れ書』に対する回答書」(以下「6月26日付回答書」という。)を、組合とX2に宛てて送付し、結局、団体交渉に応じなかった。

本件は、@本件申立てが労働組合法(以下「労組法」という。)に適合する労働組合の意思に基づいて行われた、同法の趣旨に沿う申立てであるといえるか否か、A本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主 文 <全部救済>

⑴ 会社は、組合が令和元年6月24日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。

⑵ 文書の掲示

要旨:会社が団体交渉に応じなかったことが、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されたこと、今後このような行為を繰り返さないよう留意すること。

 ⑶ ⑵の履行報告

 

4 判断の要旨

 ⑴ 本件申立てが労組法に適合する労働組合の意思に基づいて行われた、同法の趣旨に沿う申立てであるといえるか否かについて

ア 組合が労組法第5条第2項第7号に適合していないとの主張について

    当委員会による組合の資格審査の結果、組合は、労組法第2条の要件を満たし、また、組合規約は、同法第5条第2項各号に適合していると認められる。

     本件申立時には、組合規約に不備があったものの、その後、組合は規約を改正し、改正後の規約は労組法第5条第2項各号の規定を含み、組合は同条同項の要件を全て満たすこととなった。

なお、会社は、規約改正を行った組合の大会が無効である旨主張するが、大会の運営は組合自治の問題であり、本件では、組合内で大会決議や決定事項が問題とされておらず、これらの法適合性が疑われるような事情はうかがわれないことから、上記会社の主張は採用することができない。

イ 本件が代表権を有する者による申立てではないとの主張について

組合員の資格の有無は組合自身が決めることであり、会社から解雇された組合員が当該解雇の効力を争っている場合に、組合が当該組合員の資格を認めることは不自然ではない。

本件労働協約第64条では「組合員が就業規則の解雇事由に抵触した時は、会社は組合の同意を得て解雇する。」と規定されているところ、会社がX2の懲戒解雇に当たり、組合の同意を得たという事情はうかがわれず、組合は、X2の懲戒解雇を無効と考え、解雇された後も同人の組合員資格を認めることを会社に通知していた。そして、本件申立ての前後で、X2が組合の中央執行委員長であることは、組合内において問題となっていなかったのであるから、本件が代表権を有する者による申立てではないとの会社の主張は採用することができない。

会社は、本件申立後に行われた大会においてX3(現中央執行委員長)が組合の代表者に選出されたことが無効であるとも主張するが、役員の選出が組合規約に従ったものであるか否かは組合自治の問題であり、本件では、組合内において問題とされている事情は特に認められないのであるから、会社の主張は採用することができない。

なお、不当労働行為救済申立事件係属中に申立人の代表者が変更されても、そのことは、申立人の申立適格に影響するものではない。

ウ 本件申立て自体が権利濫用であるとの主張について

会社が本件団体交渉申入れに応じていないのは争いのない事実であり、組合が本件申立てを行い、会社による団体交渉応諾等の救済を求めることは、労組法の趣旨に沿ったものである。また、組合が本件団体交渉申入れで求めた事項や本件で組合が救済を求める内容は、一部の組合員の恣意的な目的によるものとはいえないから、X3を中核とする恣意的な目的に基づく組合運営の一環としてなされた申立てであるとの会社の主張は採用することができず、本件申立ては権利濫用には該当しない。

エ まとめ

以上のとおり、組合は労組法に適合する労働組合であり、本件申立ては、その意思に基づいて行われた同法の趣旨に沿うものであり、権利濫用には該当しない。よって、本件の却下を求める会社の主張は、いずれも採用することができない。

⑵ 本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて

ア 会社は、懲戒解雇によりX2は会社従業員の身分を喪失し、組合員及び中央執行委員の身分も喪失したとして、組合の中央執行委員長X2名義による本件団体交渉申入れを拒否している。

しかし、前記⑴イのとおり、組合員の資格の有無は組合自身が決めることであり、組合は、X2の懲戒解雇を無効と考え、同人の解雇後も組合員資格を認め、そのことを会社に通知していた上、本件団体交渉申入れの時点では組合の中央執行委員長は変更されていなかったし、本件労働協約第18条の規定に基づく組合役員変更の会社への通知もなされていなかった。

そうすると、組合内において懲戒解雇後のX2の組合員資格や同人が中央執行委員長であることが特段問題視されていなかった本件団体交渉申入れの時点で、そのほかに、組合がX2を代表者として団体交渉を行う立場にあることを疑うに足りる具体的な事情はないから、本件団体交渉申入れが中央執行委員長X1名義でなされたことは、会社が団体交渉を拒否する正当な理由にはならない。

イ 会社は、組合の代表者ではない者との間で労使交渉、労働協約や協定の締結を行った場合にその法的な効力に疑義が生ずるとも主張するが、上記アと同様、組合内においてX2の組合員資格が問題とされていなかった状況で、それ以外に同人が組合の代表者としての立場にあったことを疑うに足りる具体的な事情があったということはできず、会社の主張は採用することができない。

ウ 会社は、X3らによって行われた本件団体交渉申入れは、X3を中核とする恣意的な目的に基づく組合運営の一環としてなされたものであり、それ自体、権利濫用であるとも主張する。

しかし、本件団体交渉申入れで組合が求めたのは「組合に対する不当労働行為の件」と「未払い残業代に関する件」であり、その理由として「組合に対する度重なる不当労働行為に対しての抗議の為」、「未払い残業代について確認する為」としており、これらの要求事項は、組合と会社との集団的労使関係に関わることや組合員の労働条件に関わることであって、会社が処分可能なことであるから、義務的団体交渉事項に該当し、本件労働協約第36条で規定された団体交渉事項にも該当する。

そして、本件団体交渉申入れの時点で、X3は、訴訟で会社と争っていたという事情があったとしても、組合が団体交渉をX2の訴訟に利用しようとしている、すなわち、組合の上記要求事項が「恣意的な目的」を具現化していると認めるに足りる具体的な事実の疎明はないから、会社の上記主張を採用することができない。

エ 以上のとおり、会社が、本件団体交渉申入れに応じなかったことに正当な理由は認められないのであるから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

    

5 命令書交付の経過 

⑴ 申立年月日      令和元年7月4日

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年11月2日

⑶ 命令書交付日    令和3年12月9日