【別紙】

 

1 当事者の概要

⑴ 申立人組合は、中小零細企業で働く労働者を中心に組織された労働組合であり、業種に関わりなく一人でも加入できるいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員数は約250名である。

⑵ 被申立人会社は、郵便事業、銀行窓口業務、保険窓口業務等を主な事業とする株式会社であり、平成30年3月末時点の従業員数は約20万名(臨時従業員を除く。)である。

郵便事業については申立外Z1が実施していたところ、1910月の郵政民営化によりZ2が発足し、同事業を実施することとなった。そして、2410月にZ3がZ2を吸収合併し、商号をY1に変更した。

   

2 事件の概要

23年9月30日、65歳を雇用上限年齢とする就業規則に基づき、Z2(後に被申立人会社が事業を承継)は、]2を雇止めとした。

2312月、]2は地位確認等を求める訴訟を提起したが、30年9月14日、最高裁判所判決において、雇止めは適法であることが確定した。

1031日、]2は、組合に加入した。組合は、会社に対し、]2の復職・再雇用を議題とする団体交渉を申し入れ、1212日に組合と会社との間で、話合いが行われた。

31年2月1日、組合は、会社に対し、上記議題等について団体交渉を申し入れたが、会社は、最高裁判決で]2の雇止めが適法である旨が確定していることなどを理由に、この申入れを拒否した。

本件は、会社が、組合の31年2月1日付団体交渉申入れに応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

 

3 主文 <棄却命令>

  本件申立てを棄却する。

 

4 判断の要旨

組合の申し入れた団体交渉の議題は、@]2の復職・再雇用、A雇止めの際の説明、B人手不足、Cビラ回収及びD団体交渉ルールについての5項目である。これらの議題について、組合が、労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」であるといえるか、以下判断する。

⑴ ]2の復職・再雇用について(@)

   23年9月30日、会社は]2を雇止めとした。そして、]2は雇用契約上の権利を有する地位確認等を求めて会社を提訴したが、裁判所は同人の請求を棄却し、30年9月14日付最高裁判決において同人に対する雇止めは適法であることが確定した。
 したがって、]2に対する雇止めによる契約の終了に関しては最高裁判決によって適法であると確定しており、組合の申入れは、終局的な紛争解決が図られた事項についての蒸し返しといわざるを得ない。

⑵ 雇止めの際の説明について(A)

雇止めの際の]2に対する説明については、東京地裁判決において、65歳上限規則を含む就業規則の周知の状況、65歳上限規則の適用を最初に受けることになる期間雇用社員への説明内容、同人に対する雇止めの際のやり取りが詳細に認定されるなど、一連の判決によって明らかになっている。このように、]2に対する雇止めは、会社が相応の説明をした上でなされたものであり、最高裁判決において、会社による説明内容も踏まえた上で同人に対する雇止めは適法であることが確定している。
 したがって、雇止めの際の]2に対する会社の説明の経緯は、未解決な事項であるものとは認められない。

⑶ 組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」といえるか

上記⑴⑵のとおり、訴訟を通じて雇止めの際の]2に対する会社の説明の経緯が明らかにされ、その説明内容も踏まえた上で同人に対する雇止めが適法であることは最高裁判決によって確定し、終局的な紛争解決が図られている。このほかに、]2と会社との間に未精算の労働問題等は存在していない。
 そうすると、本件団体交渉申入れ時において、]2は、会社の「雇用する労働者」であるとはいえない。そして、組合は、]2以外に、会社の雇用する労働者を組合員として組織していないのであるから、組合が、会社の「雇用する労働者の代表者」であるということはできない。

⑷ 組合のほかの団体交渉申入れ事項について(BからD)

組合は、前記⑴及び⑵のほか、B人手不足、Cビラ回収及びD団体交渉ルールの3項目についても団体交渉を申し入れている。
 しかしながら、これらは、いずれも、組合が会社の「雇用する労働者の代表者」であることを前提に、会社の職場の問題(B人手不足)や会社と組合との労使関係の問題(Cビラ回収及びD団体交渉ルール)に係る交渉を求めたものである。上記⑶のとおり、組合が会社の「雇用する労働者の代表者」であるということができない以上、会社が、これらの事項について団体交渉に応じなかったのも無理からぬことであるといわざるを得ない。

⑸ 以上のとおり、訴訟を通じて雇止めの際の]2に対する会社の説明の経緯が明らかにされ、その説明内容も踏まえた上で同人に対する雇止めが適法であることは最高裁判決によって確定している。そして、本件団体交渉申入れ時に、]2と会社との間において未精算の労働問題等は存在しておらず、また、同人以外に会社で就労する組合員はいなかった。
 したがって、組合は、31年2月1日付けで申し入れた団体交渉事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」であるとはいえず、会社がこの申入れに応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。

 

5 命令交付の経過 

⑴ 申立年月日     令和元年6月20

⑵ 公益委員会議の合議 令和3年8月17

⑶ 命令書交付日    令和3年9月29